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2020.01.16

2020年にForecast Techは普及する―予測の活用事例と課題感を、注目企業が語る(前編)

最終更新日:

2019年12月5日、テクノロジーを用いて予測分析を行う「Forecast Tech」(フォーキャストテック)の最前線を担う企業を集めた初めてのカンファレンス「Forecast Tech Conference 2019」が開催されました。

このイベントは、経済の未来を予測するAIを開発するスタートアップ企業、株式会社xenodata lab.(ゼノデータ・ラボ)が、同社の立ち上げた「Forecast Tech研究所」の最初の取り組みとして、Forecast Techの認知度を高め、業界を盛り上げていくことを目的に開催されました。

この記事では、イベントの模様を前後編の2回にわけてお届けします。

オープニングスピーチ「Forecast Techとは何か?経営意思決定の在り方を根底から変える予測技術の最新動向と、ゼノデータ・ラボの最新予測サービス発表」

カンファレンスを主催したゼノデータ・ラボ代表の関のオープニングスピーチでは、Forecast Techが日本における2020年の企業デジタル化の最重要トレンドになるとし、現在予測サービスが中々普及しない事には2つの壁があると語りました。

また、当日新発表となった、当社の経済予測AIサービス「xenoBrain(ゼノブレイン)」の大幅刷新の内容と2020年の戦略について説明しました。

関 洋二郎
株式会社 xenodata lab.
代表取締役社長 / 公認会計士

あらた監査法人(現PwCあらた監査法人)にて、上場/未上場企業の財務諸表監査、内部統制監査に加え、システム監査、データ監査業務などのIT統制に従事。その後株式会社ユーザベースにて、ビジネスプラットフォーム「SPEEDA」の事業開発部責任者として、国内外の市場環境調査から、プロダクト戦略の立案、仕様設計、本番運用など一連のプロセス執行を担当。2016年に株式会社xenodata lab.を設立し、自然言語処理技術をもとに、企業業績や経済の動向などの将来を予測するSaaS型AIサービス「xenoBrain」(ゼノブレイン)を提供する。

Forecast Techは2020年の最重要トレンドへ

関:なぜ今Forecast Techカンファレンスを開催するのか?それは、2020年、Forecast Techが日本企業のデジタル化の最重要トレンドの一つになるからです。本カンファレンスは、最先端のテクノロジーを持っているForecast Tech企業様最前線のリアルな現場の状況を皆様にお届けする、実用的な内容です。

ではForecast Techとは何なのか。これは「Forecast」と「Technology」を掛け合わせた言葉で、「Fintech」や「InsureTech」のようなクロステックの一つです。海外では「Predictive Analysis」と言われていますが、我々がより日本人に馴染みの深い言葉にしたものです。

予測の分野にはざっくり言うと金融、経営、公共の3つがあり、金融分野は株価や業績の予測など、経営分野は需要予測や消費者動向など、公共分野は犯罪の予測や排泄予測などです。特徴としては海外企業が多く、投資金額の規模は概算で100倍の開きがあります。


また、海外ではすでに社会に大きなインパクトを及ぼしています。

〇海外で先行するForecast Techの事例

  • dataminr社:SNS解析で商品価格予測、ヘッジファンドに巨額の利益をもたらした実績
  • C3社:製品需給予測で、年間50%の在庫コスト削減
  • PREDPOL社:犯罪予測で、ロサンゼルスの犯罪発生件数を最大で半減

日本企業が「意思決定の後進国」に陥る、予測サービスが普及しない2つの「壁」

一方で日本の状況はというと、まだ社会実装されているというフェーズには至っていないと考えています。その理由は2つあります。

〇予測サービスが普及しない2つの「壁」

サービス提供側の壁

研究開発期間が長くなりがちで、不確実性が高い性質を持つ。そのため投資家が投資しにくい⇔サービス提供企業が少ないというスパイラルが発生

利用者側の意識の壁

  • 自分たちの勘と経験が一番だという過信
    ⇒AIが強い部分と、勘と経験が活かせる部分で総合的に活用すべき
  • 100%当たる事を求める
    ⇒本来は現状の業務での予測精度との対決のはずだが、AIには100%を求めがち

経済の未来を「予測」から「スコア化」へ。 xenoBrain(ゼノブレイン)の進化

関:2020年、xenoBrainは将来の未来をスコア化するサービスに生まれ変わります。ダウ・ジョーンズや時事通信社から提供を受けている約5,000メディアのニュースデータに加え、米系リサーチファームと提携し、専門家のリサーチに基づき統計データをシステムに入れ込みます。また、先月帝国データバンクとの提携を発表しており、40万社の未上場企業データを解析対象に加えます。この3つのデータを用いて経済の未来をスコア化していきます。 さらに、企業情報の開示や調査結果がないような未上場企業の影響については、機械学習の推計値も用いることで補完していきます。

〇スコア化に利用するデータ

  • 5,000メディアのニュースデータ
  • 専門家のリサーチに基づく統計データ
  • 40万社の未上場企業信用調査報告書データ

〇予測(スコア化)対象

  • 企業業績:国内40万社超
  • 業界需要:国内主要業界
  • 素材価格:国内主要業界

関:今後、幅広く使えるサービスになっていきますが、まずは事業戦略、法人営業、投資/融資の3つの業務を変えていきます。企業の意思決定を支えるリサーチを、デジタル化します。

xenoBrainについて詳細はこちら

ゲストスピーチ「Forecast Techが身近になる時代へ ~非専門家向け予測ソフトウェアPrediction Oneと導入事例の紹介~」

ゲストスピーカーとしてご登壇いただいた、ソニーネットワークコミュニケーションズの高松氏は、同社が現在無料公開する予測サービス「Prediction One」について、特徴や導入企業の活用方法について紹介し、実際に壇上で数値を読み込ませた予測を実行して簡単に操作できる様子を実演されました。


高松 慎吾氏
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
AI事業室 Prediction One プロジェクトリーダー

機械学習のエンジニア。Forecast Tech、大規模データ解析、自然言語処理などの分野が専門。ソニーグループを中心に、製造、金融、サービス、不動産を含む数多くの業界・業種で予測アルゴリズム開発とビジネスへの導入を手掛ける。非専門家でもForecast Techを使いやすくするソフトウェア「Prediction One」を開発し、その新規ビジネスのリーダを務める。

非専門家でも簡単に使える予測分析ソフトを開発

高松:Forecast Techは応用範囲が広く、また導入効果が出やすい点が特徴です。

例えば、見込み顧客を大量に抱えている営業の方であれば、一人ひとりの成約確率を予測できれば成約件数の増加が見込めます。コールセンターの管理者なら、入電件数を予測できれば、オペレーターの人員計画が立案しやすくなる。予測分析すると意思決定の精度が上がり、コストも抑えられます。同じことが、研究開発、企画、設計、マーケティング…全領域で実現可能です。

しかし、予測サービスの普及はまだ進んでいません。これは予測分析で使う機械学習の専門家不足が原因だと、我々は認識しています。内閣府の定義する先端AI人材の中でも、予測分析の専門家はわずか。ほとんどの企業は専門家無しで予測分析を行うことになってしまいます。

こうした課題を解決するため、非専門家でも使いやすいように設計した予測分析ソフトウェアが「Prediction One」です。今年6月にリリースし、現在はユーザー拡大のために無料で提供させていただいています。

 

想定ユーザーは、「予測分析技術を初めて使う」人。利用ハードルの低さ

高松:まずは予測分析技術を初めて使う方や、予測分析技術の導入に一度挫折した方。次に、日々の業務で経験や勘による予測を立てている方。たとえば、営業の需要予測ですね。Prediction One を使えば、業務プロセスはそのまま、予測精度を高められる可能性があります。最後に、予測分析を導入したけれど、期待通りの成果が出ない方。Prediction Oneなら、高精度の予測を出せます。

高松:Prediction One の特徴ですが、ひとつ目はシンプルで簡単に使えるところです。他社の予測分析ツールと比較すると、クリック数や学習処理時間が短く済み、予測精度も高精度。バランスの良いツールに仕上がっています。

2つ目はワンクリックで予測モデルを自動生成できること。データの前処理から予測モデルの生成を自力で行うのは大変です。Prediction Oneならこのプロセスを、データに合わせて自動処理できます。

3つ目は予測の理由が分かること。ビジネス現場では「予測精度が90%です!」と言うだけでは誰も使ってくれません。「この予測は、データのここを参照して出している」と説明すれば、周囲に納得してもらえます。 4つ目は標準的なPCでも動作することです。Prediction Oneはクラウドではなく、ノートPCやデスクトップPCで動作するソフトウェアです。予測サービスの場合、顧客データをクラウドに上げられないこともあるので、こうした仕様にしています。

最後に、ソニーグループ内での導入事例をご紹介します。不動産営業を行うSREホールディングスは、有望顧客リストを作る目的でPrediction Oneを導入しました。従来は営業推進担当者が 数時間以上かけてリストを作っていましたが、導入後は数分で作成出来るようになりました。文系の方が使っているのですが、それでも問題なく回っている点がポイントです。この他、ソニー損保でのコールセンターの入電件数予測や、半導体製造現場での半導体特性を予測し製造効率を高める目的でPrediction Oneを導入しました。

Prediction Oneについて詳細はこちら

ゲストスピーチ「Amazon Forecast : Amazon.com と同様のテクノロジーに基づき将来のビジネス状況を予測」

2人目のゲストスピーカーとして登壇いただいた、アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社の針原氏は、Amazon.comが自社ECサイトで顧客への価値提供を最適化するために開発・利用していた予測テクノロジーを用いてAmazon Web Services (AWS)がサービス化した「Amazon Forecast」について、仕組みやユースケースを紹介されました。


針原 佳貴氏
アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社
Startup Solutions Architect

2018年 東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。
量子光学を応用した計算機による組合せ最適化問題の近似アルゴリズム研究で研究科長賞受賞。
在学中にスタートアップのアイディアを模索し、2017年度東京大学アントレプレナー道場アントレプレナーシップ・チャレンジ最優秀賞。
2018年4月アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社入社。
現在はソリューションアーキテクトとして、スタートアップにおける機械学習基盤設計などの技術支援に従事。

Amazon.comの深層学習技術を誰でも利用できるサービス

針原:今日皆さんにご紹介するのは、高精度予測を行うための機械学習サービス、「Amazon Forecast」です。

Amazon.comは世界185カ国で年間10億ものパッケージをお届けするECサイトを展開しています。この中で、時系列予測は非常に大事なタスクとなります。それは、Amazon.comが抱える巨大な品揃えを、お客様にできるだけ低価格で、いち早くお届けするためです。そのためには、商品需要を正確に予想しなければなりません。元々、Amazon.comでは統計手法を用いて、洗剤や日用品、クッキー、日焼け止めなどの季節商品の需要予測を行っていました。これらは需要に周期性があるので比較的予想しやすいのですが、高い価格変動性のある商品や、特定の国でのみよく売れる商品、新商品などは予測が難しい状況でした。

そこで2015年から、深層学習の技術を取り入れました。これにより、4億点の需要予測が可能になり、在庫数とフルフィルメントコストを削減、無料の当日配達サービスを実現しました。

こうしたAmazon.comの培ってきた予測テクノロジーを、皆様にも簡単にお使いいただけるようにしたサービスが、Amazon Forecastです。深層学習の経験は不要で、お客様にカスタマイズされた学習モデルをセキュアな環境で提供します。 たとえば、売上を予測したい場合には、過去の売上データなど時系列データをインポートすれば、Amazon Forecastが将来の需要予測を行います。販売都市やチャネルをメタデータとして含めることも可能です。また、ターゲットの時系列ではないけれど関連するデータ、たとえば商品の価格変動や、プロモーション情報なども入れられます。

具体的なユースケースを紹介します。まずはCJ Logisticsさん。アジアの290地点で営業されており、小包の処理をしている企業です。各拠点の倉庫への人員配置や、輸送時間の予想のためAmazon Forecastをご導入いただきました。過去312日間での出荷量を履歴データとして入力し、またAmazon Forecastが予め用意した休日データセットを用いることで、より正確な予想が可能となりました。独自システムを構築することなく機械学習ベースの予測手法が使用でき、運用効率を向上できたと仰っていただけました。

次に紹介するのは日本のスタートアップ、Aidemyさんです。ブラウザでPythonなどのコードを書いて学べる、オンラインのプログラミング学習サービスを提供されています。ユーザーが演習で書いたコードを受け付けるのですが、サーバーコスト最適化のために必要なサーバー量を正確に予測したいという目的でご導入いただきました

予測分析以外にも、Amazon.comではいろいろな分野の機械学習のインフラなどいろいろなサービスを提供しています。ご興味ある方は、是非、PoCをご検討ください。

Amazon Forecastについて詳細はこちら

登壇3社によるスペシャルセッション

スペシャルセッションでは、ゲストスピーカーのお二人に、業種に応じた将来予測の使い方に関する質問にお答えいただきました。

どんな商品でも将来の需要予測が分析可能

関:お二方とも、ありがとうございました。お話を聞いて思ったのは、両社とも爆発的な普及を予感させるサービスを展開されているなと。来年の今頃は、知らない人はいないくらい使われているんじゃないか、と思いました。

さて、今回のイベント参加者ですが、属性分布で見るとメーカーが22%と最大の割合を占めています。とはいえ、メーカーと言っても扱う商品は、自動車のように大きなものから、アイスクリームなど小型のものまで様々です。予測分析を行う上で、商品に向き不向きはありますか?

針原:過去の売上に関する時系列データがあれば、どんな商品でも使えます。Amazon Forecastなら、複数時系列分析が可能ですから小ロットで多品種の商品も分析可能です。商品ごとに正確な生産量を予測できますし、予測間隔も、1日、1時間ごとなど、用意したデータによって適切な時間で分析できます。

高松:製造にとって需要予測は重要です。けれども、経験と勘で在庫予測を行う方が多く、機械学習の導入はこれからです。Prediction Oneを使えば移行もスムーズですし、出てきた予測データに自身の経験と勘をプラスして、新しいPDCAを回せるようになります。

関:銀行・証券・保険の参加者も多くいらっしゃいますが、こういう分野ではどうでしょう?

針原:銀行窓口の人員計画や、企業のキャッシュフローなど財務予測に時系列予測が使えると思います。それと、結構わかりやすい例としては、ATMの現金。お客様がお金を引き出したい時にATMに現金がないと困るので、それぞれの場所で必要な金額を予測する必要があります。

高松:ユースケースは沢山あります。コールセンターの入電数予測やコールマーケティングとか。ただ課題としては、データ分析する部署しか分析に関わっておらず、現場で使われていないことも多い。Prediction OneもAmazon Forecastも、現場運用できるとすごく普及するんじゃないかなと思いますね。

後編では、新進気鋭のスタートアップの方々に、各社の技術的な強みや将来のビジョンについてお話しいただいた、パネルディスカッションの様子をお届けします。

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