ほとんどのデータサイエンスプロジェクトが採用にいたらない5つの理由

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著者のGanes Kesari氏はMediumに多数のデータサイエンス記事を投稿しているデータサイエンティストであり、それらのいくつかはAINOWの翻訳記事で紹介してきました(同氏の詳しい業績はこちらを参照)。最近同氏がMediumに投稿した記事『ほとんどのデータサイエンスプロジェクトが採用にいたらない5つの理由』では、データサイエンスプロジェクトが採用されない理由とその対策が解説されています。
同氏によると、データサイエンスプロジェクトが採用されない代表的な原因は5つあり、それぞれの原因に対する対処方法と合わせてまとめると以下の表のようになります。

データサイエンスプロジェクトが採用されない5つの原因とその対策
採用されない原因 対処方法
高度な分析技術を駆使することに固執して、顧客が抱えている問題を解決していない 顧客が抱える問題を洗い出し優先順位をつけたうえで、優先順位の高い問題を解決するソリューションを構築する。
プロジェクトが顧客のワークフローにフィットせず、使いづらい。 顧客のペルソナと使用シナリオを確認したうえで、顧客が理解しやすく使いやすいソリューションを構築する。
プロジェクトのマーケティングが不足している。 ソリューションの構築とともにマーケティング計画も策定する。プロのマーケターに助言を求める。
プロジェクトがアップデートされない 最初のソリューションを構築する時に、バージョンアップ計画を策定しておく。最初のバージョンに固執しないようにする。
経営陣の協力が得られていない。 顧客の経営陣に、ソリューションの普及に関して協力をあおぐ。変革を象徴するリーダーを立てる。

以上のような考察からわかるのは、データサイエンスプロジェクトを成功させるには技術的な要求を満たすだけではなく、顧客に対して長期的なメリットをもたらす必要がある、ということです。こうした顧客に価値をもたらすノウハウとしての「データサイエンスのプロジェクトマネジメント論」は、以下のようなAINOW翻訳記事でも紹介してきました。

データサイエンスのプロジェクトマネジメント論は、AIの社会実装が本格化する日本においても急速に体系化されることでしょう。

なお、以下の記事本文はGanes Kesari氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。

プロジェクトの製品化に失敗するのを回避するには、以下の手順を実行しよう

数年前、わたしが勤めるGramenerで世界最大の通信事業者のために顧客の解約をモデル化したソリューションを構築した。この機械学習ソリューションは、顧客が利用を停止する1ヶ月前に解約を予測するというものだった。テストパイロットでは、このソリューションは顧客の解約を以前のプロセスと比較して56%以上削減するのに役立つことがわかった。

わたしたちは、印象的な結果と優れた精度に驚いた。しかし、祝杯は少し時期尚早だった。というのも、このソリューションは決して使用されなかったからだ。ソリューションは健全でありパイロットバージョンも成功したにも関わらず、数か月にわたる努力が骨折り損となった。

そんな失敗談はよく聞くこと?残念ながら、こうした話は技術革新やデータサイエンスイニシアチブではあまりにも一般的だ。これらの採用の失敗の原因は何なのか?変革に不可欠なマネジメントをどのようにしてうまく操ることができるのか?

以下では読者諸氏の分析的プロジェクトが直面する上位5つの課題と、それらに取り組む方法を示す。

1.分析プロジェクトがビジネス上の問題を解決しない

画像出典:UnsplashのBence Balla-Schottner

Gartnerのレポート(※訳註1)によると、データサイエンスプロジェクトの80%は失敗するという。ほとんどのデータサイエンスイニシアチブは間違った問題を解決しているため、ビジネス上のメリットをもたらさない。こうしたパイロットバージョンで起こる問題はそうしたバージョンのほとんどが、ちょうどサイエンスフェアにおけるプロジェクトのように、技術に焦点を絞り過ぎていることにある。そんなプロジェクトは組織が直面している課題に主導されていないので、ビジネス的には役立たずで終わるのだ。

データ分析イニシアチブを、データや分析について話すことから始めないようにしよう。

対処方法:

データ分析イニシアチブを、データや分析について話すことから始めないようにしよう。ブレインストーミングを行って、ビジネス上の目標に関する障害をすべて特定しよう。特定された障害に対してビジネスへの影響、緊急性、実現可能性という3つの要因に基づいて優先順位を付けよう。このリストから上位のビジネス的問題を選択し、データサイエンスを使用してソリューションを作ろう。

データサイエンスの旅は、30時間のマラソンハイキングのようなものだ。間違ったターゲットをマップ上から選択してしまうと、すべてのヒロイックな行いが無駄となる。

(※訳註1)Gartnerが2019年1月に公開した公式ブログ記事『2019年におけるデータと分析に関わるわたしたちのトップ予測』では、2020年まではAIプロジェクトの80%は錬金術にとどまり、そうしたプロジェクトを率いるのは企業内でスケールしない魔術師のような人材である、と述べられている。
同ブログでは、ほかにも以下のような予測が報告されている。
  • 2023年までに20人以上のデータサイエンティストを抱える組織の60%は、データとAIの倫理的使用を取り入れた専門的な行動規範を必要とする。
  • 2022年までに成熟市場の消費者の30%食べ物、衣服、居住地に関してAIの決定に依存する。
  • 2022年までに組織の30%が説明可能なAIモデルを使用して、現在ほとんど関係のないビジネス関係者との信頼関係を構築する。
  • 2023年までにデータ管理におけるAI対応の自動化により、ITスペシャリストの必要性が20%削減される。
  • 2023年までにAIで使用される計算リソースは2018年の5倍に増加し、AIがインフラストラクチャの構成を左右する計算量を有するトップカテゴリーになる。
  • 2022年までにAI技術を活用したエッジおよびIoT環境の整備が進むが、ユースケースの15%だけが成功する。

2.分析プロジェクトがユーザのワークフローと一致しない

画像出典:UnsplashJeff Frenette

データサイエンスチームはしばしば野心的になり過ぎるあまり、すべてのヒトのためにソリューションを構築しようとする。すべてのヒトの要求を満たすことを望んでいるなら、誰のニーズも満たさないだろう。もうひとつのよくある間違いは、エンドユーザと話をせずに彼らのためにソリューションを構築することだ。もしユーザが持っているコンテキストや元々のワークフローを理解していなかったら、ソリューションは場違いなものとなるだろう。

対処方法:

ユーザが誰で、誰がそうでないかを定義することから始めよう。インタビューを実施し、ペルソナを作成し、使用シナリオを理解しよう。顧客に絞り込んだ質問をして、ソリューションに対して冷徹に優先順位をつけよう。ソリューションが元々のワークフローにフィットするように設計しよう。モデルの結果が説明可能であり、ユーザのニーズに対応していることを確認しよう。読者諸氏はこうした注意事項を以前にも聞いたことがあるだろうが、実際にはあまりにもしばしば見逃されるのだ。

人気のある文法チェックツールであるGrammarlyの例を見てみよう。モデルの提案は正確だが、最大の長所はユーザとの摩擦を減らすようにソリューションが設計されていることだ。スペルチェックはユーザが使用しているアプリ全体に対してインラインで機能し、ユーザのフィードバックから継続的に学習する。さてここで、もしGrammarlyでスペルチェックを行うためにテキストをコピーして別のインターフェイスに貼り付ける必要があると想像してみよう。果たして使うだろうか?

3.分析プロジェクトのマーケティングが不足している

画像出典:UnsplashAmanda Lins

プロジェクトが定義済みのユーザが求めている重要なニーズに対処している場合、ユーザはそのプロジェクトについて知る必要がある。最高のソリューションでさえ、セールスプッシュが必要なのだ。データサイエンスソリューションが構築されれば、ユーザは来るものだとしばしば考えられている。しかし、プロジェクトは慎重に計画されたマーケティング的な努力なしにはゆっくりと死を迎える。組織は、ソリューションを構築するチームに内部マーケティングの努力を任せるという間違いを犯してしまう。

対処方法:

すべての内部プロジェクトに対して市場投入アプローチを定義しよう。経営陣による立ち上げを計画し、ロードショーを組織化し、社内キャンペーンを実施しよう。ゲーミフィケーションを通じてユーザを引き付け、クールなプレゼントを配ってメッセージを広めよう。プロのマーケティング担当者の助けを受け入れよう。採用指標を追跡し、小さな勝利を祝おう。投資収益率を定量化してプロジェクトの価値を示して、将来の予算を確保する助けとしよう。

以上のようなマーケティングの好例が、世界最大のメディア企業のひとつでわたしたちのクライアントでもある企業によるTVオーディエンス分析ソリューションの立ち上げだ。上級職への製品投入から始まり、全国ロードショーが開催され、各地のロードショーでは地域ごとのチームを統括する指導者が参加した。こうしたマーケティングにより上記ソリューションは継続的に使用されるようになって、素晴らしい採用状況となった。

4.分析プロジェクトがスケールしない

画像出典:UnsplashEvie S

組織はしばしば最初のバージョンに固執しすぎており、スケーリングするのに十分な計画を立てていない。最も成功した製品でさえ、ソリューションを正しくするために複数の反復と一定の調整が必要なのだ。ほとんどのプロジェクトは、ソリューションを離陸させるために必要な滑走プランを計画していない。また、継続的なユーザフィードバックにもとづいて改善するための予算を確保してない。こうしたプロジェクトでは、ユーザが抱いている改善への期待が見逃されている。

対処方法:

最初のバージョンを構築するときに、より広いビジョンとロードマップを計画しよう。迅速なリヴィジョンのために予算、リソース、そして期待を明示的に取っておこう。チームが最初のソリューションに夢中になり過ぎないようにし、チームが進んで大きな変更を行うようにしよう。定期的なアップグレードを計画してユーザの関心レベルを高く保ち、ソリューションの勢いが失われないようにしよう。

Pixarスタジオの共同設立者であるEd Catmull氏の有名な発言として、最も大胆なアイデアはやんちゃな赤ん坊である、というものがある。同氏曰く、「大胆なアイデアは本当にやんちゃだ:ぎこちなく、整っておらず、脆弱で不完全だ。そんなアイデアは育てなければならない。そして、成長させるためには時間と忍耐と必要だ」。大胆なアイデアを育てるには、最初に強いビジョンを持つことも役立つ。

(※訳註2)AI製品納品後のメンテナンス計画の重要性については、AINOW翻訳記事『なぜ機械学習モデルは製品化すると劣化するのか』において、予測モデルの精度が劣化する原因である「コンセプトドリフト」に言及しながら論じられている。

5.分析プロジェクトに経営者のサポートが欠けている

上記のすべての事項に注意を払ったとしても、イニシアチブに経営者の権限が欠けていれば、取り組みは横ばいになってしまう。変化は容易ではなく、それに抵抗することが自然なヒトの傾向だ。加えて、組織はしばしば矛盾する優先順位を抱えている。こうした事情により、新しいイニシアチブは初期段階で非常に脆弱になる。慎重に育てなければ、変革的プロジェクトが成功する可能性はほとんどない。

対処方法:

真の利益を得るためには、イノベーションはトップが主導する必要がある。経営陣は将来のビジョンを提示し、ヒトビトをそのビジョンに向かって結集させなければならない。古い習慣が復活することを避けるために、折に触れてまだ支持されていない新しい試みの魅力に訴えながら、古い習慣を積極的に棄てるようにしなければならない。イニシアチブを擁護し、変革の象徴として行動できる次世代のリーダーを必ず確保しよう。

Deloitteの調査(※訳註3)によると、組織の変革には経営陣のスポンサーシップが不可欠である。CEOが変革をリードするトップとなった企業の77%が、ビジネス目標を大幅に上回るようになる。

(※訳註3)Deloitteは2019年7月25日、『分析とAIによって駆動する企業が時代とともに繁栄する』という記事を公開した。その記事では、企業内のすべての業務と職種がデータに裏付けられた洞察によってビジネス的選択を実行する「洞察駆動型組織(Insight-Driven Organization)」こそが、AI時代にふさわしい企業だと解説されている。こうした企業になるためには、CEOが分析を主導する必要があることが説かれている。
また、洞察駆動型組織になるために推奨されるほかの施策として、「分析に強い人材をリーダーに昇格させる」「分析の実行を評価指標に取り入れる」「分析を促すナッジを設ける」等が挙げられている。

分析プロジェクト:学んだ教訓

画像出典:UnsplashのJungwoo-hong

Gramenerは、本記事はじめに解説した採用にいたらなかった通信会社の解約モデルに関するプロジェクトから教訓を得た。失敗して次のプロジェクトに取り組む機会が訪れたとき、その時の顧客は世界的なコングロマリットだったのだが、わたしたちは以前とは異なる方法でデータサイエンスイニシアチブを開始した。

彼らの最大のビジネス上の課題は、コモディティ商品の購入と販売においてより良い決定を下すことであることがわかった。そうした商品のターゲットユーザと協力して、商品に与えるインパクト、緊急性、そして実行可能性に基づいて実現すべき機能に優先順位を付けた。優先順位をつけた結果、コモディティ商品の価格を予測することを決定し、予測について説明可能な時系列モデルを使用して実行するのに最小限のサイズのプロトタイプを構築したのだった。

初期のフィードバックにおいて、顧客が本当に望んでいたのは正確な価格予測ではなく、価格変動の方向であることが示された。そこで別の種類のシンプルな予測モデルを選んで、ソリューションを変更した。こうした結果、すべてのユーザセグメントに対して積極的に販売され、繰り返し改善もされた。

イニシアチブの推進力を高め、使用を促進するために、経営陣のちからも活用した。実際に製品化したら、このソリューションにより、最大のコモディティ商品のひとつにおいて2,200万ドルの節約が可能となった。今回は努力が無駄になるのを見る必要はなく、チームのみんなで祝杯を挙げた。

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この記事は最初にThe Enterprisers Projectで公開されました。Mediumに転載時にはイラストが追加されました。


原文
『5 Reasons Why Most Data Science Projects Fail To Get Adopted』

著者
Ganes Kesari

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

2020年2月19日

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