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2020.04.10

自前主義からオープンイノベーションへ!AI研究における産学連携の必要性

最終更新日:

AIの分野で企業と研究機関が協力して研究を進める共同研究の重要性が増しています。

例えば、Googleは2018年に中国の清華大学とAIの共同研究を進める研究所を設立しました。そして、このような動きは世界でも積極的に進んでおり、日本でも今後のAI戦略を考えるにあたっては産学連携が大きなポイントとなります。

今回は、AIにおける企業と研究機関の産学連携について説明していきます。

日本のAI活用は他国よりも遅れている

企業幹部の75%以上がAI活用の必要性を認識

アクセンチュアが2019年に発表した調査結果「AI: Built to Scale」によると、日本企業の経営幹部のうち77%が自社のビジネスにAIを活用する必要性を感じているそうです。

それほどAIは業務効率化といった現場のニーズ以外に会社全体の経営としてもAIは重要性を増していると言えます。

日本において職場でAIを活用しているという人は3割以下

一方で、ボストンコンサルティンググループが2018年に調査した結果によると、日本で積極的にAIを活用している企業は39%しかありませんでした。これは、中国の85%やアメリカの51%と比べると最も低い数値です。

つまり、日本企業は多くの企業でAIの必要性が認識されているのにも関わらず、他国に比べてAIの活用では遅れていることがわかります。

その原因としては予算や活用ノウハウの不足など複数挙げられますが、ビジネスと技術のマッチングに課題があるのも事実です。ビジネスのノウハウを持つ企業とAIの技術を持つ研究機関をうまくマッチングできれば、新しい価値の創出に繋がります。

AIにおける産学連携によるオープンイノベーションの必要性

そんな中で注目されているのが、産学連携(Industry-academia collaboration)によるAIのオープンイノベーションの創出です。

企業と大学がそれぞれ共同で出資し研究拠点を立ち上げたり、協定を結んだりしてお互いが持つノウハウや強みを生かして技術の発展と技術を生かした社会貢献に取り組みます。

オープンイノベーションとは

オープンイノベーションとはカリフォルニア大学バークレイ校のヘンリー・チェスブロウ博士が提唱した概念です。

企業の社内だけでなく社内外で技術や人材といった資源の流出入を促進し活用することで社内のイノベーションを起こし市場の創出につなげる取り組みをいいます。
企業の研究開発活動は常に他社との競争に勝つために求められる水準と自社で達成できる水準のギャップを埋める努力が必要です。近年は、求められる水準が高くなっただけでなく、多様化、割り当てられる時間の短縮化などから自社だけでなく既存の資源やネットワークを活用する重要性が増してきました。

例えば自動車産業では、以前はガソリンエンジンとディーゼルエンジンしか世の中にはありませんでいた。しかし、時代が進むにつれてハイブリッド車や電気自動車、水素自動車などが次々と登場するようになりました。企業にとって求められる水準が多様化・高度化したことで、社内だけで新しく取り組むやり方だけでなく、社外の既存の資源を社内に取り組み求められる水準の達成が不可欠になります。

そして、近年重要になりつつあるのがAIです。自動車産業ではAIを取り入れた自動運転車、警備産業ではAIによる自動警備ロボットなど、社会から求められる製品の水準はAIの発展に伴ってさらに高度化し多様化しています。

そのような社会の環境に適応するために、企業は社内だけでなく社外も含めて資源を効率的に再配置する力(経営学的に言えばダイナミック・ケイパビリティ )が求められます。

日本企業に根ざした自前主義の限界

日本の研究開発は自前主義がメインでした。社内に中央研究所などをもち、自社内だけで人材確保や基礎研究から製品化まで一貫して行うやり方です。英語では”Not Invented Here Syndrome”、つまり”自社が作ったものではない症候群”と呼ばれます。自社の製品や技術だけがすごくて他社の製品や技術は理由に関わらずだめだという過度に固執した姿勢です。

日本企業にそのような自前主義が根ざした理由としては、終身雇用による人材の低い流動性や技術者の心理的な要因などさまざまありますが、オープンイノベーションが求められる時代においては大きな足かせになります。

そのため、今後は日本企業はいかに自前主義から脱却し、社内外でオープンな技術や人材などの資源の流出入を作れるかが課題となります。

海外では大企業とスタートアップ、大学間で連携が活発

一方で、海外ではアメリカなどを中心に大企業と大学やスタートアップとの連携が活発化しています。例えば、アメリカでは2017年からIBMとマサチューセッツ工科大学が共同研究を開始し、AIの基礎研究やAIヘルスケアの研究に取り組んでいます。

また、イギリスは2017年に政府によってAI産業に産官学合同で9億5,000万ポンドの支援が取り決められました。

このように、AIにおける産学連携の共同研究というのは大きなトレンドとなっており、今後のAIによる価値創造のメインになるのではないでしょうか。

情報漏洩には注意を

産学連携をすれば必ず成功するわけではありません。

社内外の資源の流出入が活発すれば、情報漏洩のリスクも高まります。情報管理を軽視した結果、後からお互いの間で大きなトラブルにもなりかねません。

そのため、企業と大学で共同研究を始めるにあたっては、前もって機密情報の利活用に関する契約や共有するシステムのセキュリティなどを重点的にチェックする必要があります。

日本でも企業との共同研究を進める大学が

東京大学の松尾研究室はさまざまな企業と共同研究を進める

引用:https://weblab.t.u-tokyo.ac.jp/

日本では東京大学の松尾研究室が企業との共同研究に積極的に取り組んでいます。

例えば、2017年6月にみずほ銀行と共同で外国為替取引を高度化を実現しました。外国為替取引データを学習したAIにより、為替取引の高速化とリスクの最小化、収益の最大化を目指します。

また、2017年1月には日本経済新聞と共同で企業の決算短信から速報記事を自動生成するアルゴリズムの開発も行なっています。

2020年2月には株式会社ティアフォーおよび株式会社IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンスと自動運転の実現に向けた共同研究の開始を発表しました。

松尾研の共同研究についてはこちら▼

そのように、日本でも大学と企業の共同研究が活発化しはじめています。

日本でも進む産学連携の共同研究事例5選

【ソフトバンク×東京大学】Beyond AI 研究所

引用:https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2019/20191206_02/

ソフトバンクと東京大学は共同で出資し、AIの共同研究拠点「Beyond AI 研究所」を設立しました。

AIの基礎研究を行う「Super AI」と他分野との融合を目指す「Hybrid AI」から構成されます。また、ベンチャー企業の発射台となる「JV-Platform」も設置し、研究成果の短期での事業化を目指します。

【DMM×早稲田大】早稲田・DMM AIラボ

引用:https://www.waseda.jp/top/news/57820

早稲田大学理工学術院とDMM.comラボによって設立された共同研究室です。

最先端AI基盤の開発と実践的応用により、従来は人の勘と経験に頼っていた業務の自動化を目指します。

【NEC×東京大学】NEC・東京大学フューチャーAI研究・教育戦略パートナーシップ協定

引用:https://ps.nikkei.co.jp/leaders/interview/nec_u-tokyo160930/index.html?kxlink=ptlmdl-u-tokyo160930

日本の競争力強化を目的に、NECが東京大学と共に進める産学連携プロジェクトです。世界規模な人口増加や労働力人口の減少といった問題を踏まえて、公益性の高い課題を中心に解決を目指します。

AIの基礎研究から社会実装、人材育成まで総合的に産学協創を推進するのが特徴です。

【Yahoo! JAPAN×慶應義塾大】AIを活用した最適なプッシュ通知の実用化

引用:https://www.sfc.keio.ac.jp/

慶應義塾大学(SFC)とYahoo! JAPAN研究所は共同で、AIによるプッシュ通知に最適化の技術を開発しました。プッシュ通知を送る最適なタイミングをAIで検知し、実際にアプリでもその有効性が確認されました。

最適なタイミングのプッシュ通知により、ユーザーはストレスを感じることなく開封しやすくなることでサービスへのエンゲージメント向上を実現できます。

【富士通×九州大】AIを活用した農業生産の共同研究

引用:https://pr.fujitsu.com/jp/news/2018/04/12.html

農業生産の高度化と安定性向上を目的に富士通と九州大は共同研究を進めています。

作物の育成状況をAIで分析し、成長速度や収穫時期をリアルタイムで予測します。予測に基づき、需要に合わせた効率的な生産を目指します。

まとめ

企業と大学が協力してAIの研究を進める産学連携の取り組みは、今後のAIの発展にとって重要になりつつあります。近年より深刻で複雑になりつつある社会課題を解決するにあたっては、企業のビジネスの知見と大学の技術を適切に組み合わせることが大切です。

海外は日本以上にAIの分野での産学連携が活発ですが、今後は日本も産学連携によるAIの発展が進んでいくのではないでしょうか。

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