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2020.09.15

DXにおける「設計図」の重要性 -データ蓄積から始めた英会話イーオンのDX

最終更新日:

DX(デジタルトランスフォーメーション)に注目が集まっています。

ディープラーニングなどのAI技術が注目され、現在までに多くの事例が生まれています。同時にデータの重要性が再認識され、データを社内で幅広く活用しようという流れが生まれています。

今までのAI活用は、特定の課題を解決するための「点」で終わりがちでした。これからは、点と点をつなげ、スムーズな体験を提供する「線」や「面」のサービス設計が必要です。

そのために、ユーザや従業員に対する体験(UX:User Experience, EX:Employee Experience)を根幹から見直し、構築していく必要があります。

1973年に創業されたイーオン(AEON)は現在、直営254校を運営する国内大手の英会話スクールです。同社は、AEON DXと銘打ち、従業員からユーザまで一貫した体験を提供することで、大きく事業価値を増大させています。

この記事では、イーオンのDXを進めている以下の6名に、DX推進の心得を伺いました。

  • デジタル推進本部 本部長 大島崇 氏
  • 経営戦略本部 運営戦略部 運営企画課 部長 向井崇浩 氏
  • 経営戦略本部 運営戦略部 教務企画課 部長 箱田勝良 氏
  • 経営戦略本部 運営戦略部 教務企画課 部長 薬袋(みない)佐恵子 氏
  • デジタル推進本部 DX推進課 課長 太田駿 氏
  • デジタル推進本部 ネットキャンパス課 係長代理 柏木悠介 氏

 

後列左から箱田氏、向井氏、大島氏、太田氏、前列左から薬袋氏、柏木氏

キーワードは「全社一丸」AEON DXの取り組み

AEON DXの検討が始まったのは2018年4月です。今までの英会話学習では、英会話力の上達の可視化は難しく、その中で学習者は効率的な学習方法を求めてきました。

そんな課題を背景に、日本で一番学習効率の良い英会話スクールにする、学習者がくじけない仕組みを作るという目的のもと、「ICTと人の絶妙なブレンド」で価値を創出するべくプロジェクトが始まりました。

2018年1月、同社はKDDIグループとなり、ICT技術も積極的に取り入れ、DXを進めてきました。キーワードとなるのは「全社一丸」です。各部署の担当者が参加することで、各部署の視点を反映させたDXを実現してきました。

向井氏:今までもデータなどは収集してきました。しかし、DXは点ではなくデータを複合して線で見る取り組みなので、設計図作りが特に大変でした。現場は、データで出てきたものが信頼できるのか、信憑性を納得してもらうことが大変でした。モチベーションをAIで推定する仕組みを作っているが、現場の反応は懐疑的な部分がありデータに対する信用度が追いつくようにコミュニケーションが欠かせませんでした。

AEON DXでは、生徒向けに「イーオン・ネット・キャンパスアプリ」というサービスを提供、スタッフ向けに「AEON NOTE」というシステムを構築。その裏で学習のナレッジを蓄積するナレッジデータベースが用意され、データをもとにした効率的な英会話学習が実現されています。

まずは、英語学習体験のUX改善、それからデータの蓄積

AEON DXの取り組みの中で一番最初に取り組まれたのが、イーオン・ネット・キャンパスアプリという自己学習アプリの導入です。DXを行い、機械学習などのAI技術を活用していくには、データを蓄積する必要があります。

一方で、データを蓄積することばかりを念頭に置き、ユーザの使いやすさを考慮できていなければ、そもそもサービスが使われず、データが蓄積しないという状況に陥ってしまいます。

そこでイーオンは、イーオン・ネット・キャンパスアプリを通して、従来の英会話学習の課題を解決し、ユーザ体験(UX)を向上させる取り組みを行いました。

大島氏:通学型のサービスを提供しているので、週に1回しか生徒に会うことができません。ただ単に紙媒体の問題だけでなく、生徒が自宅にいる時間などをどのように活用し、どこまで予習してくれているかもわかりませんでした。週1回だけのレッスンだけでは生徒を上達に導くことは困難だと思いから、まずイーオン・ネット・キャンパスアプリの提供を開始しました。

イーオン・ネット・キャンパスアプリでは、自習コンテンツが搭載され、構文の練習や宿題、発音の診断などが可能です。このUXを通して、多くのデータも蓄積され、さらに英会話教育に生かすことができました。

薬袋氏:今までは、生徒から直接自習内容などを伺ったり、ある程度推測をしながら学習アドバイスを行ってきました。しかし、具体的にどのように学習を進めているのか、強化しているポイントや弱点も把握できるようになり、さらによいユーザ体験を提供できるようになったと感じています。

イーオンにとっては初となるアプリの導入。ユーザ視点に立ち、どのようなメリットを提供できるかを考えたからこそ、よりよいユーザ体験を提供できるようになりました。

一方で、イーオン・ネット・キャンパスアプリの提供で重要なのは、データを連携する基盤を作りDXのスタートラインにすることです。AEON DXでは、そもそもどのような学習効果が生み出せるのか、デジタルならではの学習とはなにかを考えつつも、しっかりデータ連携についての構想もまとめられていました。

向井氏:イーオン・ネット・キャンパスアプリを出す際には、紙媒体で予習復習していた従来の学習が、アプリでどのように変化するのかについて検討を重ねました。

また、それだけではなく、タブレットを全スタッフに配布し集めたデータを活用できる仕組みづくりも並行して行いました。スタッフにもDXの一環として、デジタルデバイスを活かして働き方を変えるように設計を行ったことも特徴です。

イーオン・ネット・キャンパスアプリでは、ユーザの学習記録が詳細に記録され、指導に活かすことができるようになっています。

大田氏:まず、データはなるべく詳細に取ることを意識しました。例えば学習の開始時間や押したボタンなどが詳細にログとして記録されています。ログの設計の時点では、「先生が細かく指導に生かせる」に焦点を絞りました。基本的にログはデイリーでまとめています。

データに基づくオペレーションを軸に 「AEON NOTE」

イーオン・ネット・キャンパスアプリの導入が終わり、その後に手を加えられたのが教師向けのツール「AEON NOTE」です。すべてのスタッフや教師がタブレットを持ち、AEON NOTEを活用しています。

教師はレッスン時だけでなく自宅学習時のデータなどを参考にすることで、細かなサポートが可能になってます。

「AEON NOTE」の導入の鍵になるのが、属人的なオペレーションからの脱却です。データに基づくオペレーションを行っていくことで、確実に成果の出る英会話教育を実現できます。

向井氏:属人的なオペレーションではなく、データに基づくオペレーションにしていくことを柱にしました。レッスンアンケートの結果なども集計し、さまざまなデータを英会話学習体験の向上に生かしています。今までは、それぞれのコンピュータで学習カルテを属人的に管理していましたが、今となっては共有もしやすくなり、オペレーションも大幅に削減されたと思います。

一方で、AEON NOTEの導入によって工数が増えてしまった部分もあります。DXの視点では、工数の減少だけを追い求めるのではなく、増えた工数から生み出せる価値をいかに最大化していくのかを考えることも必要です。

箱田氏:紙が廃止されたのは効率的でしたが、一方でAEON NOTEを入れてから工数が増えた部分もあり、設計当初には気づけなかったことは学びでもありました。また、「AEON NOTEでよくなるよ!」とスタッフや先生に信じてもらうための作業も増えました。

しかし、全体を通し、生徒の学習管理ができるようになっただけでなく、先生の知見を体系化し、新人の先生でもアドバイスがしやすい環境を作れたのではないかと考えています。

データに基づくオペレーションでは、ベテランの知見や経験が視覚化され、特に新人教育において効果的です。一方でイーオンでは、新人教育だけではなく、ベテランの教育の見直しにも「AEON NOTE」が一役買っています。

薬袋氏:今までは、生徒におすすめすべき講座などの知見や経験が一人ひとりの先生の中に閉じていました。AEON NOTEでは、生徒の弱点に沿って、選択していくとおすすめの講座が自動的にレコメンドされるので、新人でもベテラン教師同様の指導が可能です。

一方、ベテランは、個人の経験によって好みの学習法ができてしまうのですが、アドバイスツールを見ることで自分と違うタイプの生徒にも案内ができます。ベテランにも他の視点を得るきっかけになったと思います。

また、教務としては「どんな学習でどんなコースを取ったら、こんな効果があった」など最短で上達する道が分析でき人間の勘に頼らない指導法を確立できたと思っています。

生徒ごとの学習ロードマップを提示

ユーザの体験を向上し、データを蓄積。その上でスタッフや教師もそのデータを活用して、全体を通してICT技術の恩恵を享受するイーオンの取り組みは、まさにDXの先進的な事例と言えます。

同社の向井氏に今後の展望を伺いました。

向井氏:将来的には、学習者ごとの学習ロードマップを提示していこうと考えています。そのためにデータを可視化、分類し、それを予測していく位置づけで、現在DXを推進しています。スキルを標準化する上で「昨日のトップラインは今日のボトムライン」だとよく言っています。また、今後はレッスン連動型のコーチングサービスも展開していきます。生徒一人ひとりに合わせた学習を提案し、そして個人の学習データを拾い集めることで、目的別に溜まっているデータから、性格などをもとに、学習期間や学習法をお示しできます。

2020年7月には、イーオンは日本で1番上達効率の良い英会話スクールを目指し、同社初のコーチングサービス「AEON UP!」の提供を開始しています。

「AEON UP!」では、通常のレッスンに加えて、データに基づいた個別のコーチングを行うことで、生徒の英会話力向上を加速させるサポートプログラムです。事前に生徒の英会話力や学習スタイル診断を実施した上で診断結果やライフスタイルに基づき、特別研修を受けたパーソナルトレーナーがそれぞれの生徒に合わせたオリジナルのトレーニングメニューを設定します。

「AEON UP!」は、イーオン・ネット・キャンパスアプリと連携して、コーチングレポートが確認できる他、「AEON NOTE」で学習状況を確認し、進捗に応じたきめ細かな対応が可能です。

まとめ:点で終わらないDX

イーオンの取材を通して感じられたDX推進の肝、それは「設計図」を描くことです。一般的なAI活用ではコスト削減など、視点が部分的で、点と点が相互作用を生み出す仕組みがないケースが多いことが現状です。

生徒(ユーザ)や従業員(教師やスタッフ)の体験の向上をしっかりと見据えつつ、全体を通してDXの設計図を描き、ステップを実践していく。そんなDXのあるべき姿をイーオンに見た気がします。

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