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デジタルトランスフォーメーション(DX)は、業務変革による生産性向上・効率化と、ビジネス変革による売上拡大・顧客価値創出の大きく2つの目的を目指す取り組みです。
2018年9月7日に経済産業省が発表した「DXレポート」がきっかけで、日本で「DX」が急激に注目にされてきました。今、政府機関もDXへの取り組みを始めています。
DXというワードを見かける日が増えた今、DXの市場規模は一体どれほどなのでしょうか。この記事では日本だけではなく、世界中の国々のDX市場規模を紹介し、5年後の市場動向も解説していきたいと思います。
目次
注目を集めるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは
まず簡単にDX(デジタルトランスフォーメーション)とは何かを解説します。
日本経済産業省は2018年にDXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義しました。
現在話題になっているDXの多くは、経済産業省が定義したようにビジネス視点でのDXが主で、企業がいち早く外部環境・内部環境の変化を捉え、デジタルの力を使って最適な経営戦略に導くことによって、新しい価値創出することが重要になっています。
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市場規模の算出が難しいDX(デジタルトランスフォーメーション)
この記事をご覧になっている多くの方が、DXに関する現在の市場規模、これからの市場規模の推移について気になっていることでしょう。
しかし、実際に、「DX 市場規模」とGoogleで検索をしても、めぼしいデータはほとんど出てきません。
これは前述のように、DXは製品やサービスだけでなく、ビジネスモデル、業務、組織、プロセス、企業文化・風土など企業に関わるさまざまな部分に関連する概念であり、それをまとめて市場規模を定義することが難しいからです。
DXの市場規模を考える上で重要なのは、DXという概念を因数分解し、市場として定義されているレベルにまで噛み砕いて考察することです。
DXは、アナログデータをデジタルデータに変換するデジタイゼーションと、組織や事業などをデジタル技術で変革していくデジタライゼーションに細分化されます。DXの市場規模がどちらにあたるのか、その中でもどんな技術なのかに着目することで、市場規模を考えやすくなります。

現在、多くの企業がマーケティングで「DX」という言葉を使っています。しかし、その多くは、単純な業務をデジタル化するRPAや、データ分析ツール、クラウドを介してサービスを提供するSaaSなど、多種多様なものと指しています。
日本のDXの市場規模
拡大していくDXの市場規模
Cisco Systemsが実施したアジア太平洋地域の企業を対象とした調査「2020 Asia Pacific SMB Digital Maturity Study(中小企業デジタル成熟度調査)」の結果によると、中小企業のデジタル化が進めば日本のGDPは2024年までに44兆6260億円から52兆2580億円に拡大すると予測されています。
まず、日本では少子高齢化が著しく進み、労働人口が急激に減少し続けていくと予想されています。国立社会保障・人口問題研究所による「日本の将来推計人口(平成29年推計)」によれば、2050年に日本の人口は約1億人まで減少する見込みです。
これからの時代は働き方改革や人手不足/育成/マッチングなど、人的リソースへの対応だけでなく、売上拡大、コスト削減などのビジネスプロセス上のイノベーション(プロセス・イノベーション)が必要となってきます。
今後は日本の労働人口不足の事業・経営課題の解決策としてもDXのニーズがより一層増加していくと予想されます。
DX市場規模は2030年に2兆3,687億円に(富士キメラ総研)
国内で実施されたDXに関する市場規模レポートとして代表的なのは、マーケティング&コンサルテーションの株式会社富士キメラ総研が実施した調査結果「2018 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望」です。
先述のように細分化が必要なDXの概念を、製造、流通、金融、情報通信、医療・介護、交通・運輸、その他業種の業界別市場の投資金額として調査し、結果を報告しています。また、DXに関わる15の基盤技術を定義し、その将来を予想しています。
この調査によると、2030年度のDX市場は、投資金額ベースで2兆3,687億円にのぼると予想されています。特に製造業、金融業におけるDX関連の投資が増加すると見込まれています。

投資金額ベースのDXの業界別の国内市場(引用:富士経済グループ ニュースリリースより)
世界のDXの市場規模
IT専門の調査会社IDC Japan株式会社は、2020年6月23日に世界のDXへの支出額に関する予測を発表しています。
同社によると、企業のDX関連のビジネス推進、製品、組織運営上の支出は継続され、2020年、DXに向けたテクノロジー、サービスに対する全世界の支出額は前年比で10.4%増加し、1兆3,000億円を超えると予測しています。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響もあり、2019年の前年比17.9%の成長率に比べると遅いペースではあるものの、継続してDXへの投資が行われています。
2020年に特に支出額が多いケースとして「自律型オペレーション」「ロボティクス製造」「製造上の根本原因の把握」が挙げられています。その他、教育におけるデジタル技術を活用した視覚化や、保険業におけるRPAを活用した請求処理の自動化、専門サービスの設計監理の拡張など、さまざまな分野でDX関連の支出が増加しています。
参考:新型コロナウイルスの試練にも関わらず2020年もデジタルトランスフォーメーションの成長は続く見通し
また、富士通は2020年6月29日、デジタルトランスフォーメーション(DX)の世界的な動向・実態把握を目的として、世界9か国(オーストラリア、中国、フランス、ドイツ、日本、シンガポール、スペイン、イギリス、アメリカ)の経営層や意思決定者900人を対象とした調査を実施しました。調査結果によると、DXを実践し結果を出した回答者の89%は、DXはビジネスの価値向上に加えて社会への価値提供にも寄与したと回答しています。

出典:富士通株式会社「グローバル・デジタルトランスフォーメーション調査レポート 2020」
また、社会への価値提供に対する意識に関しては、回答者の92%が、持続可能な企業であるためには社会への価値提供が不可欠であると回答し、その主な理由として、社会への価値提供は、商品・ブランド価値の向上や社会課題への意識が高く、今後の政策や企業活動に大きな影響をおよぼす若い世代への訴求につながることを挙げられています。
「DXへの取り組み」と「社会への価値提供」の両軸で、世界的に動きを出す企業がこれからどんどん増えるでしょう。
国別 DXの市場規模
アメリカ
国別に見るとアメリカはDX関連の支出額が最大の市場で、IDC Japanは全世界の総支出額の約3分の1をアメリカが支出していると見通しています。
アメリカではGAFA(「Google」「Amazon」「Facebook」「Apple」)が筆頭となって、DXの市場を牽引しています。特にAmazonやGoogle, Microsoftは開発社向けのプラットフォーム「Amazon Web Service」「Google Cloud Platform」「Microsoft Azure 」を提供し、世界的に活用されています。
新しい分野や市場を開拓してきたGAFAですが、その影響力は年々増しています。大きな影響力や将来性を反映し、GAFAは世界の時価総額ランキングの上位に占めています。
2020年10月末時点での世界時価総額ランキングではアップルが1位、アマゾンが3位、アルファベット(グーグルの親会社)が4位、フェイスブックが9位となっていました。
1位 | アップル | アメリカ |
2位 | サウジアラムコ | サウジアラビア |
3位 | マイクロソフト | アメリカ |
4位 | アマゾン・ドット・コム | アメリカ |
5位 | アルファベット | アメリカ |
6位 | アリババ・グループ・ホールディング | 中国 |
7位 | フェイスブック | アメリカ |
8位 | テンセント・ホールディングス | 中国 |
9位 | バークシャー・ハサウェイ | アメリカ |
10位 | ウォルマート | アメリカ |
また、IDCによると、DXの市場規模に関して、米国ではディスクリート製造(630億ドル)や運輸(400億ドル)、専門サービス(370億ドル)といった業種のDX支出が多く、技術カテゴリー別では、ITサービスやアプリケーション、接続サービスの割合が高いことが特徴です。
中国
アメリカに劣らず注目を集めるのが中国のDXです。中国では、DX関連の2020年支出が2019年比で13.6%も増加すると見込まれており、さまざまな産業分野でデジタル技術を活用したディスラプションが起きています。
特に中国では、Eコマースが注目されています。経済産業省が2020年7月に公開した報告によると、2019年度のBtoCのEC市場規模は、中国が1兆9,348億USドル(約204兆円)であり、第2位のアメリカの3倍以上と圧倒的に世界1位の市場を有しています。
前年度比から見ても、1.2倍と驚きの成長率を誇っています。また、今後は中国の農村部のEC利用が本格化すると考えられているため、さらに市場規模が拡大するとみられています。
また、IDCによると、中国ではディスクリート製造(600億ドル)やプロセス製造(350億ドル)、公共サービス(270億ドル)といった業種の支出が多く、技術カテゴリー別では、接続サービスとエンタープライズハードウェアの割合が高いです。
▼中国のDXについて詳しくはこちら
ヨーロッパ諸国
IT先進国というイメージの強いアメリカや中国と比べて、実は北欧の諸国もIT大国です。SkypeやSpotifyなど普段から多く使われているアプリも北欧生まれのものになります。
北欧は、バイオや IT など先端産業分野において、また分野を問わず、EU 拡大に伴い企業の欧州事業体制の見直しが進む中で、外国企業の投資先・提携先として新たな役割を担うようになっています。スウェーデンではキャッシュレス化、フィンランドではMaaS(Mobility as a Service)の動向、そしてエストニアでは電子政府、新たなさまざまな動きを出しています。
ヨーロッパでは、詳しいDX市場規模のデータがありませんが、DX分野の成長は確実です。
東南アジア諸国
ロイター誌によると、2020年に東南アジアのデジタル経済の市場規模が2025年に3000億ドル(約32兆円)に大きく拡大するとの予測を公表しました。19年の市場規模予測の1000億ドルの3倍に当たる。特にインドネシアやベトナムの電子商取引(EC)の拡大が寄与するとしました。
東南アジアで予想されるデジタル経済の市場規模3000億ドルのうち、4割強の1330億ドルを占めるのが、東南アジアで最も経済規模が大きいインドネシアです。1330億ドルのうち、EC市場が820億ドル(19年見込み比約4倍)、配車市場が180億ドル(同約3倍)、旅行サイト予約が250億ドル(同約2.5倍)などとなっており、いずれも急拡大していきます。
また、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の経済担当相が今年、テレビ会議を開き、デジタル技術で既存制度を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を柱とする行動計画をまとめましたので、これから東南アジアの成長見込みも大きいでしょう。
DXの市場規模を細分化して考える
DXの今後を考察するために必要な考え方が「バーティカル(Vartical)」と「ホライゾンタル(Horizontal)」です。
Horizontalは「水平」を意味する単語で、業界や業種に関係なく、財務や人事、マーケティングなど特定の職種を指します。Varticalは「垂直」を意味する単語で、製造や交通などそれぞれの業界のことを指します。

近年急激に数を伸ばしているSaaSは、人事向けソリューションや営業向けソリューションなど、特にHorizontalに各職種の課題を解決するものが多くなっている傾向にあります。
DXの動向を市場規模の動向を予測するためにも、業界だけでなく職種ごとに、データとデジタル技術によってどのようなトランスフォーメーションが起こっていくのかを考察する必要があります。
5年後の市場動向
IDCは2019年に世界デジタルトランスフォーメーション(DX)市場における今後5年間の10つの動向予測を発表しました。
①未来型の企業文化ではリーダーシップが変わる
2024年までにForbes Global 2000(フォーブス誌が毎年発表する、世界の上位2000社のランキングリスト)企業の50%のリーダーが、大きなリーダーシップの発揮を目指し、DXを進める上で必要な未来型の企業文化の特徴的な要素、つまり共感やエンパワーメント(権限移譲)、イノベーション、顧客、データ本位などをマスターする傾向が強いです。
②デジタル共同イノベーションが進む
2022年までにブランドや顧客への共感が、エコシステムのコラボレーションやパートナー間または競合他社との共同イノベーションを促進し、これらによって顧客生涯価値(Customer Lifetime Value:顧客が長期的に企業にもたらす価値)が全体的に20%向上できると予測されます。
③AIの効果はスピードに現れる
人工知能(AI)を活用する企業が2024年までに、プロアクティブでハイパースピード(proactive and high speed)な業務変革や市場への対処を進め、同業他社より50%迅速に顧客や競合他社、規制当局、パートナーへ反応するようになります。
④デジタル対応しない企業が脱落する
2023年までに、企業の50%が市場密着型業務への投資を怠ることにより、投資を行った既存の競合他社や、市場に新規参入したデジタル企業にシェアを奪われ、市場価値が下がります。
⑤デジタル装備したワーカーが生産性を向上させる
2021年までに、新しい未来型の仕事(FoW:Future of Work)手法により、デジタルワーカーが果たす機能や発揮する効果が35%向上し、この手法を採用する企業の生産性向上やイノベーションが加速します。
⑥情報活用に役立つデジタル投資が伸びる
ITC支出全体にDX支出が占める割合は、現在の36%から2023年まで50%以上に上昇すします。支出の伸びが最も大きい分野は、データインテリジェンス(Data intelligence)とアナリティクスです。それは企業が情報活用による競争力強化を目指すからです。
「インテリジェンスとは、知性や知能、あるいは情報といった意味のこと。」
⑦エコシステムの効果測定が始まる
2025年までにデジタルリーダーの80%が、プラットフォームエコシステムへの参加がどのように最終顧客へ価値をもたらすのか、測定指標を考案し、差別化するようになります。こうした指標の一例として、エコシステムの乗数効果が始まります。
⑧デジタルKPIが収益測定と直結する
2020年までに企業の60%がデジタルKPI(重要業績指標)を、売上高や収益性を直接表すビジネス価値指標と連動させるようになります。デジタル推進するレベルはKPIと連動します。
⑨プラットフォームのモダナイゼーションが進む
サイバー脅威の増大や新機能の必要性を背景に、2023年まで企業の65%が幅広い新技術プラットフォーム投資を行う。これにより、レガシーシステムのモダナイズ(modernization) を推進していきます。
⑩DXとAIへの巨額の投資が続く
新しいインテリジェンス技術のメリットを収益化しようとする企業が2023年までに、全世界で2650億ドル以上を投資すると予測されます。これにより、DXのためのビジネス意思決定分析とAIが、デジタルイノベーションの中核を担うようになります。
まとめ
DXにおける経済の規模の指標をいくつかまとめて記事にしました。DXの幅広い概念では、厳密な市場規模の定義が難しい現状があります。
記事内で紹介したように、DXの概念を自分なりに細分化し、その領域の市場規模を捉える姿勢が求められるでしょう。
これから企業は、社会のトレンドに合わせ、市場動向を洞察し、いち早く変革しないといけません。
DXの市場規模は今後の5年間ではきっとスピーディーに拡大していくでしょう。

①大学で行動経済学を学んでいます
②趣味はカフェ巡り
③AIを活用して価値創出する未来をワクワク期待しています。AIに関わる事例収集、また新しいサービスに紐つけることを勉強していきたいです!