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2021.04.30

リーダーがAIプロジェクトを失敗させてしまう3つの方法

最終更新日:

著者のGanes Kesari氏はMediumに多数のデータサイエンスに関する記事を投稿しているデータサイエンティストであり、それらのいくつかはAINOWの翻訳記事で紹介してきました(同氏の詳しい業績はこちらを参照)。同氏がIT企業経営者向けメディア『The Enterprisers Project』に投稿した記事『リーダーがAIプロジェクトを失敗させてしまう3つの方法』では、企業経営者がAI導入に際して陥りがちな間違いが解説されています。
大手調査会社マッキンゼーが行った調査によると、AI先進国のアメリカであってもAIを導入して収益にプラスの大きな影響が現れた企業は22%に過ぎず、多くの企業がAI導入に失敗しています。こうしたなか、Keari氏はAI導入に際する失敗原因として以下のような3項目を挙げています。
  1. 企業ビジョンに沿わないAIプロジェクトを立ち上げてしまう。
  2. AIプロジェクトの評価方法を曖昧にしたまま、そのプロジェクトを進行させてしまう。
  3. 企業文化を変革せずに、AIを導入しようとする。

以上のような理由から、AIプロジェクトはその成果が全社に普及する前に頓挫してしまうのです。Kesari氏はこうしたプロジェクト頓挫のメカニズムをキャズム理論を引用して分析したうえで、プロジェクトを成功に導いてその成果を普及させるためには、企業トップが積極的に介入する必要がある、と説いています。
AI導入に際するリーダーシップの重要性は以前から知られており、例えば日本マイクロソフトは2019年9月よりAI導入におけるリーダーシップを学べるサイト「AI ビジネススクール日本語版」を公開しています。

なお、以下の記事本文はGanes Kesari氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならび組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。

画像出典:UnsplashHannah Tasker

なぜ多くのAIプロジェクトが失敗するのか、リーダーはどうすれば失敗を避けられるのか

ほとんどの組織はどのようにして人工知能(AI)の旅を始めるのだろうか。

いくつかの大企業のリーダーたちが、どのようにしてAIへの進出を計画したかを見てみよう。ここでは、マッキンゼーからの最近の事例をいくつか紹介しよう。

  • ある大企業のリーダーは、全社的なデータクレンジングに取り組んだ2年間に数億ドルを費やした。その意図は、あらゆるAIイニシアティブを開始する前に、1つのデータ・メタモデルを保有することにあった。
  • 大手金融サービス会社のCEOは、AIの力を解き放つために、1,000人のデータサイエンティストを平均25万ドルで雇った。

そして、私が直接目撃した例を紹介しよう。

  • 大手メーカーのCEOは、テキストや画像、動画データを使ったAI技術が非常に有効であることから、構造化されていないデータを使った意欲的なプロジェクトを次々と並べた。

これらの取り組みに共通していることは何か。そのどれもが失敗したことだ。

マッキンゼーが行ったAIの現状に関する調査では、AIを利用している企業のうち、ボトムラインに大きな影響を与えていると答えたのはわずか22%だった。

こうしたプロジェクトによって生じた巨額のサンクコスト(※訳註1)に加えて、プロジェクトの失敗は、組織が高度なアナリティクスに幻滅することにつながった。

以上の失敗は決して珍しいことではない。マッキンゼーが行ったAIの現状に関する調査では、AIを利用している企業のうち、ボトムラインに大きな影響を与えていると答えたのはわずか22%だった。なぜこれほど多くのプロジェクトが失敗するのか、そしてリーダーはどうすればこれを回避できるのだろうか。

AIを追求しているリーダーの多くは、企業のオーナーシップに関わる3つの領域を見落としている。これらの領域に対する責任は、AIプロジェクトを計画するかなり前から始まり、プロジェクトが稼働してからも長く続く。

この記事では、AIの取り組みを失敗させてしまう3つの方法を紹介する。

(※訳註1)サンクコスト(sunk cost:「埋没費用」とも訳される)とは、事業や行為に投じた資金あるいは労力のうち、事業や行為の撤退・縮小・中止をしても戻って来ない資金や労力のこと。サンクコストを意識するあまりに意思決定を間違う現象は、超音速旅客機コンコルドの失敗にちなんで「コンコルド効果」と呼ばれる。

間違い1:企業ビジョンに沿わないAIプロジェクトの立ち上げ

画像出典:Unsplash青 晨

マッキンゼーの調査によると、AI戦略を企業戦略に沿ったものにしている組織はたった30%に過ぎない(※訳註2)。大多数のリーダーがAIの名の下に資金を燃やしているのは、衝撃的ではないだろうか。組織は多くの場合、面白そうだったり緊急性が高そうに見えたりするAIイニシアティブを追求してしまう。

プロジェクトとは、確固としてビジネス上の問題点を解決しなければならない。しかし、それ以上に重要なのは、これらの成果が企業戦略に沿ったものでなければならないのだ。まずはビジネス・ビジョンから始め、データがどのようにそれを可能にするのかを明らかにする。ターゲットとなる利害関係者が誰であるかを明確にし、彼らにとって成功がどのようなものであるかを定義する。

組織は多くの場合、面白そうだったり緊急性が高そうに見えたりするAIイニシアティブを追求してしまう。

それから、利害関係者に力を与えてビジネスの目標に近づけるようにする戦略的な取り組みを特定する。そうすれば、評価に値するAIプロジェクトの長いリストを思いつくためにブレインストーミングをする準備ができるだろう。

MIT Sloan Management Reviewレポートにおいて、(スイスに本拠地を置くヘルスケア企業の)Roche PharmaceuticalsのCIOでスティーブ・ガイズ氏は、AIが同社のビジネスモデルの変革にどのように貢献しているかを説明している。同社は、パーソナライズ化されたヘルスケアの実現に向けて取り組んでいる。同氏は、現在の医薬品配送のビジネスモデルでは、このビジョンの達成に役立たないと指摘する。同社は、創薬のペースを年3本から30本に加速する必要があると考えている。同氏によれば、AIがこうした指数関数的な改善を達成するのに役立つのだ。

Rocheは、検診、診断、治療を横断する機能を構築することで、組織内でのAIのメインストリーム化を推進している。同社は、AI主導の創薬を追求するスタートアップと提携することで、AIのメインストリーム化を強化してもいる。こうした取り組みにより、同社はB型肝炎やパーキンソン病などの疾患の治療に大きなブレークスルーをもたらした(※訳註3)。企業ビジョンからスタートし、すべてのAIイニシアティブを以上のような包括的な目標に合わせることで、同社の努力は実を結びつつあるのだ。

(※訳註2)マッキンゼーが2020年5月に発表したレポート『COVID-19とネクスト・ノーマルをナビゲートするために分析を加速する』によると、企業に対してAI戦略に関するアンケートを実施したところ、AI戦略によって利益を上げている企業の58%が「AI戦略をビジネスの目標に適合させている」という質問に対してYESと答えたのに対して、AI戦略から利益を上げていない企業でこの設問にYESと答えたのは15%に過ぎなかった。
Rocheが2019年5月末に公開したブログ記事には、B型肝炎とパーキンソン病の治療に機械学習を応用したことが解説されている。
肝臓癌の原因になり得るB型肝炎の治療が難しいのは、B型肝炎ウイルスが多様に変異するからである。Rocheはオランダと中国の医療センターと協力して400名の患者からB型肝炎ウイルスのサンプルを収集後、機械学習モデルを使ってそれらのウイルスの特徴を抽出することに成功した。
運動機能に障がいが現れる病気であるパーキンソン病はゆっくりと進行するため、症状のモニタリングが不可欠である。しかし、モニタリング手段が主治医による問診に限られていたため、症状の詳細な把握は困難であった。こうしたなか、Rocheはモバイルセンサーを使って患者の症状に関するデータを収集するようにした。収集されたデータは、機械学習によって特徴ごとに分類され、分類された特徴が症状の進行に及ぼす影響を調査できるようになった。

間違い2:プロジェクトが始動した後になってもROIの立案を待っている

画像出典:UnsplashKS KYUNG

AIプロジェクトのROI(Return On Investment:投資収益率)はいつ考えるべきか。ほとんどの組織では、プロジェクトが始動した時点でROIを追跡するという間違いを犯している。リーダーは、「効率性の向上」、「ブランド価値」、「顧客の幸せ」といった曖昧な成果で良しとしてしまい、その結果、問題を悪化させている。

確かに、成果の価値をドルとして数値化するのは簡単ではない。しかし、不可能ではない。プロジェクトに青信号(つまりGOサイン)を出す前にも、ビジネス上の利益の定量化を要求しなければならない。AIは、収益を増やすか、経費を削減するかのどちらかで価値を提供できる。収益の増加と経費削減の両方に価値がある。プロジェクトがどちらの成果を実現するのかを明確にしよう。

リーダーは、曖昧な成果で良しとするという過ちを犯す。

AIプロジェクトの成果の測定に役立つ先行指標と遅行指標の組み合わせを特定しよう。プロセスを更新したり新しくしたりして、指標の計算に必要なデータを収集しよう。最後に、ハードウェア、ソフトウェア、技術チームに要したコストを差し引いて生じる投資額を追跡する。採用および変更管理プログラムへの支出も計算に含めよう。こうした ROI 指標は、プロジェクトの承認を決定する際に重要な要素となる。

ドイツ銀行は、ドイツでAIを活用した消費者金融商品をリリースした。このソリューションは、顧客が融資申込書に必要事項を記入した後でも、リアルタイムで融資の決定を行った。消費者は、融資の否決が信用度に影響することを心配していた。この商品は、顧客が「申し込む」を押す前であっても融資が承認されるかどうかを伝えることで、消費者が懸念していたリスクを取り除いたのだ。

ドイツ銀行は、AIを活用したサービスを開始してから8ヶ月で融資の発行が10~15倍に急増したことを明らかにした。この利益は、そもそも融資を申し込まなかったであろう顧客を取り込むことで達成された。この事例は、AIが収益の拡大に貢献していることを明確に示している。

間違い3:企業文化を直さずにAI主導の変革を期待する

画像出典:UnsplashTengyart

ガートナーは、2019年の年次調査で各企業の最高データ責任者(Chief Data Officer)に分析から価値を得るための最大の阻害要因について尋ねた。一番の課題は、データやテクノロジーとは関係なかった。それは企業文化だったのだ。

ピーター・ドラッカーの名言に「企業文化は企業戦略を朝食のようにたいらげてしまう」というものがある。慎重に企業文化を形成しなければ、最高に練り上げられたAI戦略であっても何の意味もない。文化の変革はトップから始めなければならない。リーダーはストーリーテリングを使って、AIが組織のビジョン達成にどのように役立つのかについてインスピレーションを与え、実証しなければならない。

リーダーはAIをめぐる不安に対処し、全従業員のデータリテラシーを向上させなければならない。

リーダーは、AIをめぐる不安に対処し、全従業員のデータリテラシーを向上させなければならない。また手本を示してリードし、あらゆる業務レベルにデータ活用の模範者を導入することで変化を持続させなければならない。企業文化の変革には何年もかかるため、リーダーはプロジェクトが始動した後も影響を与え続けなければならない。

ドミノ・ピザの主成分は何なんだろう?それはデータだ。ドミノ・ピザはテクノロジー変革の申し子である。組織はデータ駆動型の意思決定文化を生かしており、販売顧客体験配達の各分野でAIを使用している(※訳註4)。10年前はそうではなかった。

50年の歴史を持つピザメーカーのCEOに就任したパトリック・ドイル氏は、ドミノ・ピザが顧客や投資家から嫌われていた2010年にその座を引き継いだ。同氏は、実り多いレビューを公開するという大胆なステップを踏み出した(※訳註5)。その後、彼は全面的な組織のリブートを行い、組織をデジタルトランスフォーメーションの道へと導いた。同氏はリスクの高いプロジェクトを引き受け、人々に力を与え、いくつかのAIイノベーションを社内に構築することで、テクノロジーによる変革に大胆に賭けたのだ。

ドイル氏が2018年に退任したとき、ドミノ・ピザの売上高は28四半期連続で増加し、Googleを上回る株式リターンをもたらした。退任したCEOは、「我々はたまたまピザを売っているテクノロジー企業である」と言って同社の本質をうまく要約した。同氏が同社内の文化的変革を主導することで、データ主導型の意思決定へのシフトを確実なものにし、その仕事は新CEOに移行した後も継続した。

(※訳註4)ドミノ・ピザが実践しているAI戦略に関しては、AINOW翻訳記事『AI業界のフロントランナーになったピザチェーン「ドミノ・ピザ」』で詳しく論じられている。
(※訳註5)ドミノ・ピザは、2009年12月、消費者が同社のピザに対して手厳しくレビューする様子を撮影した動画を公開して、真摯にピザ作りに取り組んでいることをアピールした。

企業においてAIがイノベーションのキャズム(溝)を乗り越えるにはどうすればいいのか?

画像出典:Wikimedia CommonsのCraig Cheliusより

以上のキャズム理論を説明する概要図を日本語で作成したものがBOXIL SaaSのブログ記事『キャズム理論とは | イノベーター理論とキャズムを超える戦略を解説』に掲載されている(以下の画像を参照)

キャズム理論の概要図

イノベーションの採用は決して簡単ではない。AIなどの新技術を市場に投入するようなものであっても、あるいは組織内でそれを採用するようなものでも、イノベーションの課題は似たようなものである。

イノベーターは、組織内にイノベーションにいたる旅の種を蒔く。イノベーションは、初期の熱意と変化への寛容さのおかげで、アーリーアダプターに受け入れられる。しかし、その後、ペースが遅くなり、キャズム(chasm:溝)に入る(※訳註7)。キャズムにおいては多くの場合、可視性の欠如、結果の不確実性が生じ、変化へのより広範な抵抗が起こる。

キャズムこそ、ほとんどの取り組みが失敗するところなのだ。

AIのようなイノベーションがこの溝を越えてメインストリームになるためには、リーダーシップの介入が必要となる。リーダーは、イニシアティブを企業のビジョンに合わせることでAIを成功させなければならない。また、AIのROIに関する会話を制度化することで、経済的価値を実証しなければならない。最後に、変革を促進し、AI主導の意思決定の普及を可能にするために、企業文化を形成しなければならないのだ。

(※訳註7)キャズム理論は、アメリカの経営コンサルタントであるジェフリー・ムーアの著作『キャズム』よって提唱された。2014年には同書の続編『キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論』も出版された。

原文
『3 Ways Leaders Fail Their AI Projects』

著者
Ganes Kesari

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん 

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