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AIの活用シーンが増加するに伴い、AIを開発するベンダー企業の数が2010年代後半に急増しました。しかし、ベンダー企業の数が増加したからといって、世の中でAI活用が進むとは限りません。
それは開発プロジェクトの“単価”が高かったからです。ベンダー企業にAIの開発を委託すると、コンサルティング・開発・効果検証などさまざまな費用が加算され、エンジニアの数によっては1,000万円を超えるケースもあります。
顧客の課題に応じて、機械学習などの技術を取り入れたアプリケーションやシステム開発のサービスを提供する株式会社KICONIA WORKS(以下、KICONIA WORKS)は、需要予測AIを150万円で構築するサービスを2021年5月18日にリリースしました。
今回は、KICONIA WORKSの代表取締役である書上拓郎氏に、なぜ150万円という低価格で構築できるのか、その社内体制についてインタビューしました。
目次
数百万から数千万が相場のAI開発市場
ーーAIプロジェクトの単価はどのように変化していると感じますか?書上さんの肌感覚で構わないので教えてください。
書上氏
需要予測AIの構築を150万円で提供できる社内体制
ーーなぜ150万円程度でAIを提供できるのでしょうか?
書上氏
プロジェクト終了後にはお客様にアンケートを取り、社内でもっとスピーディーにより良いプロジェクト進行ができたのではないか、世の中のより良いアルゴリズムがあったのではないかと常に改善を繰り返してきました。
そして、年間で30を超えるAI関連のプロジェクトを対応し、メンバー個人のキャリアの経験も含めれば150を超えるプロジェクトを対応してきた結果、最新のアルゴリズムを取り込むオペレーション、最適な特徴ベクトルでの実装のノウハウなどが蓄積し、短期間に最高の機械学習モデルの構築を可能にしました。
特に今回対応させていただいている需要予測に関してはニーズもあり、多くのプロジェクトを実施してきましたので、低価格とはいえ、他のベンダーさんを超える素晴らしい結果を出せる仕組みとなっています。
今まで一緒にプロジェクトをやりながら成長させてくれたお客様、そしてKICONIA WORKSの改善の努力によって、150万円という価格を実現しています。
スペシャリストによるコストカット
ーーKICONIA WORKSの中で、個別案件にかかる人的コスト、計算コストなどはどのように変化してきましたか?また、その理由を教えてください。
書上氏
フルコミットではないものの、こうしたメンバーが2〜3ヶ月対応するので、KICONIA WORKSの中での人的コストがプロジェクトのコストの大部分を占めていました。また、クラウド上で巨大なデータを計算するため、計算コストもそれなりに発生していました。
しかしながら、事業経営の中で得られた収益を社内サーバー費用に投資し、クラウドを使わずにある程度自社の中で計算することができるため、計算コストを圧縮できるようになりました。
さらに、改善と自動化を繰り返すことで、プロジェクトマネージャーと機械学習エンジニアの2名で2ヶ月程度の対応で対応できるようになってきており、今回のリリースに合わせてその工数をより圧縮する仕組みを準備できました。
社内の実績からの発見
ーー社内の実績の蓄積により、どのようにプロジェクトが効率化していますか?
書上氏
さらに、社内の実績だけでなく、Kaggleや世の中のさまざまなデータやアルゴリズムを社内に取り入れ、常に最高の水準の学習モデル構築ができるうようになってきました。
ーー社内の実績の蓄積により、どのような傾向が見えてきましたか?またSaaSでツールを提供するケースも増加していますが、クライアントごとに開発を行う重要性を教えてください。
書上氏
そのため、SaaS型にして、どんな企業でもそれなりの精度ですよというものではなく、あくまで個々のお客様にカスタマイズした最良のAIを作るというところを変えないために、低価格でのPoCを実現することを意識しました。
ーーなぜ利益を抑えてまで低価格にこだわるのでしょうか?
書上氏
ですが、元々私たちは「本当に困っているのはAIの導入の価値も非常に大きい中堅・中小企業だ」と考えて、この会社を立ち上げました。
そうした企業にサービス提供するには価格を下げるしかないと考え、業界最安値基準で3年間実施してきました。
そのおかげで大企業の方にも中堅・中小企業の方からも非常に喜んでいただけましたが、その価値創出に更に加速をかけるために、今回低価格のプロジェクトに拘り、自社の利益度外視でリリースいたしました。
今後は最新のアルゴリズムを取り入れ対応範囲を広げていく
ーー今後の展望を教えて下さい。
書上氏
NLPを激変させたTransformerが時系列や表形式アルゴリズムに最近適応され始めました。需要予測AIは常にそれらの最新アルゴリズムを取り入れるようになっていますので、日々進化していきますし、需要予測以外についても対応範囲を広げていきたいと考えています。
また、機械学習を用いない最適化系のプロジェクトが最近多くなってきているので、こちらに関しても効率化を進めてまいります。さらに、KICONIA WORKSとしては受託開発のプロジェクト以外に、AIを取り入れた新しいサービスをエンタメ、スポーツなどの分野でリリースしてまいります。
さいごに
AI導入の一つのネックとして、開発費・導入費が高価格帯であることが挙げられます。そのため、AIによる価値創出の機会を逃している企業も多いのではないでしょうか。
KICONIA WORKSはそんな課題を解消すべく、製造業や小売業と相性がいい需要予測AIを150万円で構築できるようになりました。同社は今後、運用するシステムを安価で提供することや、AIを取り入れた新サービスの開発にも注力していくとしています。
少数精鋭にスペシャリスト集団が、他社のベンダー企業にどのような影響を与えるのか注目です。
駒澤大学仏教学部に所属。YouTubeとK-POPにハマっています。
AIがこれから宗教とどのように関わり、仏教徒の生活に影響するのかについて興味があります。
実際、KICONIA WORKSに依頼いただいたお客様の話を聞くと5000万円以上を投資して、失敗してしまったという話も聞きます。それが2018年の終わりくらいから500〜800万円くらいで対応してくれる開発ベンダーが増えてきたように思います。
KICONIA WORKSも2018年に立ち上げた会社ですが、300〜600万円くらいで実施することが多いです。その中でいまだに数千万円の単価のところもあるため、受注できず苦しんでいる開発ベンダーも多いのではないでしょうか。
こうした背景には、機械学習のプロジェクトを楽にするさまざまなツールやオープンソースが出てきたことや、AI開発を学び内製化する動きが出てきたこと、そして大企業だけでなく中堅・中小企業もAI開発を始めたという背景があるのではないでしょうか。