HOME/ AINOW編集部 /AI研究は深層学習だけではない ーこれからのAI研究を広げるツール「AIマップβ」
2021.05.19

AI研究は深層学習だけではない ーこれからのAI研究を広げるツール「AIマップβ」

最終更新日:

AIへの興味が社会全体に広がり、3度目のブームを迎えた2010年代が終わり、AIブームが落ち着きを見せ始めています。合わせて社会ではDXに注目が集まり、データやデジタル技術を活用した、さらに規模の大きな変革が起き始めています。

AI分野への注目が落ち着いた今、AIの幅広い研究分野の中でもディープラーニング(深層学習)以外の領域に目を向け、研究をさらに活発化させていく必要があります。

以上を背景に、人工知能学会はAI分野のさまざまな研究テーマをマッピングした「AIマップβ」をまとめ、公開しています。

今回は、「AIマップβ」に携わった人工知能学会の森川氏と堤氏にインタビューを行いました。

人物紹介

堤 富士雄氏(左):1990年3月九州大学大学院 工学研究科 情報工学専攻 修士課程修了。同年4月(財)電力中央研究所入所。現在(一財)電力中央研究所 研究参事.2020年7月より同研究所 エネルギーイノベーション創発センター 副所長(現職)。2018年6月から2年間、人工知能学会理事として、AIマップタスクフォース主査を務めた。博士(工学)。人工知能、画像処理、ユーザインタフェースの研究に従事。

森川 幸治氏(右):1996年9月名古屋大学大学院 工学研究科 博士後期課程修了。日本学術振興会 特別研究員を経て、1997年4月松下電器産業株式会社(現パナソニック)入社。人工知能、脳信号処理などの先端技術の研究開発に従事。2020年4月よりConnect株式会社 取締役CTO。現在、Brain-Machine Interfaceを活かしたリハビリテーション機器の開発を推進。人工知能学会 副会長。博士(工学)。

AI研究の拡がりを俯瞰できるAIマップ

ーー『AIマップ β』はいつ着手したのですか。

森川氏:約3年前から着手しています。そして、2019年6月に『AIマップ β』、2020年6月に『AIマップ β 2.0』を公開しました。

最初はメンバーを集めることも大変でした。10人弱のタスクフォースをつくり、定期的に集まって制作を進めていきましたね。

ーー「AIマップβ」を制作することになったきっかけを教えてください。

堤氏:「AI研究の拡がり」のために制作を開始しました。継続的にバージョンアップしていくために森川さんが「βをつけるべきだよね」とおっしゃったことをきっかけに、βを名前につけています。

もともと人工知能学会の津本元副会長(島根大)と山田元会長(NII)の間で、「AIを俯瞰できる図がないため、AIが理解されづらい」と話されていました。人工知能学会も、この問題解決に何度もトライしたのですが、なかなかうまくいきませんでした。マップを作成する際に、多くの研究者の方々に協力していただいたのですが、議論を進めるに連れ、どうしても複雑怪奇な内容になってしまいました。

内容がまとまらず苦戦していましたが、深層学習の潮流を受けてAIマップの必要性をより一層感じるようになりました。私たちが「AIマップβ」の制作に着手した時は、深層学習が特に注目を集めていたので、それ以外の技術に目線がいかない状況でした。

もちろんAI分野は深層学習がすべてではないので、人工知能学会としてAI研究の拡がりや、研究内容について俯瞰できる図を作るべきだと思ったことが「AIマップβ」の作成がスタートしたきっかけです。

ーー実際にAIマップを作成してみて、分野の多さや複雑さはいかがでしたか。

堤氏:AI分野の研究を見ていくと、研究論文の書類も膨大なため、収拾がつかないくらいの量になりました。また、言葉の粒度もさまざまであるため、その点も苦労しました。

『AIマップ β 』は、1つの図だけではなく4つの図に分かれています。最初に私が1枚のマップを作ってメンバーに共有し、それを元にそれぞれがマップを作成しました。その結果、4人ともまったく違う視点で作成したため、AIの全体像を表すことができました。

それを見た森川副会長は「色々な切り口があるなら、あえてどれかに絞らずに4枚とも公開しよう」とおっしゃったので、AIの全体像を伝えるために4枚のマップを作成することにしました。

深層学習の技術は素晴らしいことは人工知能学会の全員が認識していると思います。しかし、深層学習一辺倒になってしまうとAIへの理解は進みません。

AI活用の第一歩はAIの技術を知ることから

ーー今後は、深層学習以外の研究も社会応用を視野に入れて取り組むべきとお考えですか?

堤氏:そうですね。AIの使い道は利用者が考えることですので、まずは研究内容や社会活用を知ることが第一歩だと思います。

研究者の中には、なかなか予算が降りない方もいると思います。ですが、そのような場合でも「この分野は人間の可能性を広げる技術で、このような活用法がある」と信じ、その研究分野を切り開いていただければ素晴らしいことですよね。

森川氏:AIの専門家が力説すると、どうしても素人には理解しきれないところがあるので、機会損失になっていることがあります。せっかく素晴らしい研究内容なのに、予算が付けられないこともあるので、このままではAIの研究が発展していきません。

そのため、「AIマップβ」もAIの初学者などにターゲットを設定して作成することになりました。AIの研究に取り組んでいる人ではなく、「AIってすごい、面白い」と思ってくださる方々に対して「このように役立ちます、効果があります」と話すことで、AI業界に興味を持った人が理解を深めたり、自分と絡めて活用法を考えることができます。

人工知能学会は、2019年に「AIマップタスクフォースの活動―AI初学者・異分野研究者のためのAI研究の俯瞰―」というイベントを開催しています。

このイベントでは、AIについて関心を抱いている人たち向けてAIマップ β版やAIの研究内容を公開し、意見交換の機会を儲けることでAIの研究を俯瞰できる仕組みになっています。

▼参考記事

ーー活用するAI技術の選定は、相当難しいと感じますがどう考えておられますか?

堤氏:その通りです。

そこで、『AIマップ β 2.0』では「課題カード」を公開しました。「課題カード」ではAIに紐づく課題がたくさん記載されています。

特定の領域を研究している研究者や、担当しているエンジニアは、他の領域に関する課題や知識まで理解できていないケースがあります。研究者やエンジニアが自分の領域の技術を活用して課題を解決したい気持ちもわかりますが、他の技術で最適なものがあれば、それをユーザーに推薦することでAI活用はさらに前進すると思います。

視野を変えること、俯瞰して課題を見つめ直すきっかけになればと思います。

引用:AIマップ – 人工知能学会 (The Japanese Society for Artificial Intelligence)

森川氏:AI活用が前進すると、当たり前すぎて「AIかどうか」の違いが分からなくなっていくと思います。しかし、学会では新しい研究が進んでいくわけですから、そのタイミングを逃さずにマップを見ながら切り口を変えることで、ブルーオーシャンの領域を見つけて、さらに新しい活用法が発見できるといいですね。

ユーザーの間でAIの理解や技術応用が進んでいくと、「ここはAIを活用しなくてもいいのではないか」という話になると思います。AIを現場に適用する際に、さまざまな改善点が出るケースがほとんどです。その都度、現場の人たちは知恵を出して改善していきます。

これからは、それを活かして、さらに次のレイヤーのAIを研究するというステップに入っていくでしょう。AIは人間の知的活動を包含して進化していくので、そのようなサイクルを回すことができればAIの研究は第5次、第6次ブームで大きく発展していくと思います。

ーー実際に、AIマップを公開した時はどのような反響がありましたか。

堤氏:マップの転載を許可したので、多くのメディアや書籍に引用していただきました。公開した当時は、各方面で影響があったと思うのですが、公開から1年後にAI初学者の方や異分野の研究者の中で「この次、どうしよう」という迷いがあるとお聞きしています。

その方々は、課題も明確になっていて、やりたいこともあるけれどAIマップとどのようにつながるかが分からないという状態です。残念ながら、AIマップを見て終わりになってしまっています。

ーーAIの冬時の時代の到来についてはどうお考えですか?

森川氏:次こそは、AIの技術が社会に定着してほしいと思います。AI技術への注目がなくなるのではなく、当たり前の存在になってほしいと考えています。

その上で、人工知能学会などが中心となり、ブルーオーシャンの分野を盛り上げて行ければと思います。

今、ディープラーニングなどの帰納系のアプローチと、ルールベースの演繹系のアプローチの融合が進み始めており、技術応用がうまくいっているんです。それを現場に適応しながらさらに改善していく。次のレイヤーのAIをみんなで研究していきたいと考えています。

特に、現場ではさまざまな技術の課題が発見されます。それがAI研究者に返され、次のAIの研究が発展するような形になれば嬉しいです。

ーー今後はどのように改善していくのですか。

堤氏:これからは、AIマップが研究者やAIベンチャーの経営者、学生をつなぐツールになればと考えています。

そうなれば、AIマップを作成した甲斐がありますよね。単なるマップに変わりはないですが、もしプラットフォームのような役割を果たせば、大きなインパクトを生み出せると思っています。

さいごに

さまざまな分野を根底から変革する可能性があるAI技術だからこそ、その裏には多様な分野の研究領域が折り混ざっています。

深層学習が火付け役となったAIブームが、終わることなく、さらに幅広い研究分野に広がっていくことで、さらなる研究発展に繋がっていくでしょう。

お知らせ

人工知能学会全国大会(第35回)が2021年6月8日(火)~ 6月11日(金)の4日間、オンライン形式で開催されます。

開催3日目の6月10日(木)11:00〜 B会場にて、企画セッション「AIマップβ3.0に向けて」が開催されます。

オーガナイザ:谷口 恭弘(本田技術研究所)、松尾 豊(東京大学)、森川 幸冶(Connect)、市瀬 龍太郎(国立情報学研究所)、戸上 真人(LINE)、植野 研(東芝)

無料メールマガジン登録

週1回、注目のAIニュースやイベント情報を
編集部がピックアップしてお届けしています。

こちらの規約にご同意のうえチェックしてください。

規約に同意する

あなたにおすすめの記事

日本DXのアイキャッチ

日本のDX推進状況はいかに|世界のDXと日本を比較

業界別DX推進状況|成功事例、メリット、これから伸びる企業とは

先週のAI関連人気ツイートTOP20!【2021/12/06更新】

DX ロードマップのアイキャッチ画像

DX推進時のロードマップ作成法|実用的なフレームワークも紹介

JASAIが第2回インダストリアルAIシンポジウムを開催|製造業で活用されるAIの最新事例やDXの取り組みを発表

フォークリフトの操作を定量評価|危険操作を検知する「安全荷役AI フォークバディ」

あなたにおすすめの記事

日本DXのアイキャッチ

日本のDX推進状況はいかに|世界のDXと日本を比較

業界別DX推進状況|成功事例、メリット、これから伸びる企業とは

先週のAI関連人気ツイートTOP20!【2021/12/06更新】

DX ロードマップのアイキャッチ画像

DX推進時のロードマップ作成法|実用的なフレームワークも紹介

JASAIが第2回インダストリアルAIシンポジウムを開催|製造業で活用されるAIの最新事例やDXの取り組みを発表

フォークリフトの操作を定量評価|危険操作を検知する「安全荷役AI フォークバディ」