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2021.07.30

Amazon Goの(諸)問題

著者のAdrien Book氏はフランス・パリ在住のコンサルタントであり、テック系ビジネスに関する考察をMediumに投稿しています(同氏の詳細は同氏の公式サイトを参照)。そうした考察記事のひとつ『Amazon Goの(諸)問題』(初出は同氏公式サイト公開の記事)では、レジレス店舗Amazon Goが容易には普及しない理由が解説されています。
Book氏によれば、Amazon Goは確かに新しいスタイルの小売業を提案しているかも知れませんが、以下のような5つの理由により小売業界全体には普及しないと考えられます。
  • スケールアップが困難:商品数が1,000点程度のAmazon Goでは画像認識の精度が98%程度でも問題ないが、商品数が8万を超える大規模小売店舗では誤認識の件数が無視できなくなる。
  • 商品包装の変化による影響:現在、環境問題への取り組みから包装しない商品陳列が広がっている。Amazon Goは包装から商品を認識するので、包装が簡略化すると商品認識が難しくなる。
  • 店舗改修にコストがかかる:Amazon Goのシステムを既存店舗に導入する場合、画像認識カメラの設置に加えて空調設備への投資も必要となり、高額なコストを要する。
  • 現金支払いへの対応:世界的には現金支払いが主流な国がまだ多く存在する(日本もそのひとつ)。クレジットカードによる決済を基本とするAmazon Goを展開するにあたっては、現金支払いへの対応も不可欠。
  • 減らない人件費:Amazon Goの導入によって、レジ係に対する人件費を削減できる。しかし、レジレスシステム全体を構築するにはデータサイエンティストの雇用が不可欠であり、結果として人件費は劇的に減るわけではない。

以上のように述べたうえで、AmazonがAmazon Goを推進する真の目的はレジレス店舗から収益を得ることではなく、リアル店舗を利用する顧客の各種データを収集することにある、とBook氏は指摘します。
Amazon Goをはじめとしたレジレス店舗が今後普及するかは定かではありませんが、普及した場合、ますます多くの顧客データが収集されるのは間違いでしょう。

なお、以下の記事本文はAdrien Book氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならび組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。

基本的にAmazon Goは称えられるべきものだが、恐ろしく高価な自動販売機でもある

小売業の未来を垣間見たいなら、Amazon Goの店舗をチェックしてみてください

ハハハハハ

(一回息継ぎをしてから)

HAHAHAHAHA

CNNさんよ、そんなことを言ってはいけない(※訳註1)。

(※訳註1)上に引用されたAmazon Goを称える発言は、CNNが2018年10月3日に公開した記事を出典としている。

・・・

Amazon Goの背後にあるアイデアは、理論的にはシンプルだ。顧客はアプリをダウンロードし(アプリは常時存在している)、それをクレジットカードとリンクさせ固有のコードを生成して、店舗の入り口で提示する。入り口の柵が開くと、店員の顧客対応に煩わされることなく、自由に買い物ができる。買い物する顧客をカメラが追いかけ、コンピュータビジョンのアルゴリズムを使って何を手に取ったかを追跡し、さまざまなセンサーを搭載したスマートシェルフがカメラの「見たもの」を確認する。商品はバーチャルなバスケットに追加され、顧客が店を出るときに自動的に課金される。

ここまでの説明でも十分に理解できるはずだが、より視覚的に理解したい場合は、以下の動画から(誇張されているが)より基本的な情報が収集できる。

レジレスというアイデアは、過去5年間で小売業界に大きな波を起こした。ところで、なぜ店舗はレジレスになるべきなのか。スタッフの負担が大きい店舗運営を自動化することは、一見すると壮大なアイデアのように見える。レジが自動化されれば、従業員はアップセル(※訳註2)やオンライン注文の受け取り、顧客からの問い合わせに対応する時間を増やせる。さらに賃金が上昇しているうえに、オンラインショッピングの影響もあって、店舗は利益率の低下に対処しなければならない。そのため、運に見放されつつある小売業者にとっては、何人かのスタッフを手放すことは素晴らしいアイデアのように聞こえる。このような状況は、COVID-19が流行しているあいだ、さらに加速した。

(※訳註2)アップセル(upsell)とは、、顧客が購入した商品と同種で「より上位のもの」を提案し購入してもらう販売促進手法のひとつ。

コンピュータビジョンは、自動棚卸し(※訳註3)(「コスト」/人の削減を目指す場合にも大きなプラスとなる)、盗難の減少2017年に世界において盗難で失われた売上は340億ドル)、1平方メートルあたりの収益を増加させるために利用できるスペースの増加と等価なものだ。

ついにはコンピュータビジョンによって、より詳細なデータへのアクセスが可能となる。顧客が名前とアカウントにリンクして何を買ったかを追跡するだけでなく、視覚的に追いかけて何を買わなかったか(何を見つめて、手に取って戻したか…)を追跡できる。そうすれば、これまでブラックボックス化していた購買プロセスの80%に光を当てられる(鉛筆を持って買い物客の後を追いかけ、目撃したことを書き留める人がいなければの話だが。実のところ、人力による追跡は今でも行われている)。

以上の話は、あなたが小売業者であれば、Amazon Goスタイルの店舗を支持するかなり説得力のある議論を惹起する。しかし、私はこの特別な技術がAmazonしか使えず、ほかの企業は使えないことを説明したいと思う。

(※訳註3)この記事の著者であるAdrien Book氏がテックコミュニティメディア『HACKERNOON』に2018年12月に投稿した記事『小売業におけるコンピュータビジョンに関する初心者向けガイド』において、コンピュータビジョンを活用したAmazon Goの在庫管理はロボットによる商品補充を可能とする前提事項であると指摘されている。

サイズの問題

Amazon Goのアイデアは小さなコンセプトストアではうまくいっても、人通りの多い大きな店舗ではうまくいかないだろう。うまくいかない第一の理由は大勢の人が集まると、カメラが誤作動を起こすことが知られているからだ(棚のセンサーも、物を取ってランダムな場所に戻すことで誤作動を起こす ― 人間ならばそんな動物的なことをよくする)。第二の理由は大規模店舗の品揃えが幅広いからだ。Amazon Goの在庫数は約1,000点に対して、一般的な食料品店の在庫数は約80,000点である。

まともなコンピュータビジョンのソフトは、数千点の商品に対して98%の精度を発揮する。このことは、ある日、Amazon Goで顧客が商品の20%を手に取った場合、1店舗あたり1日4回程度のミスが発生することを意味する。同じ理屈でスーパーマーケットがこのソリューションをそのまま導入した場合、1日に1店舗あたり320件のミスが発生することになる。この想定は他の店に乗り換える可能性の高い顧客が1日あたり320人いることで意味しており(小売業界は流動的な業界だ)、規模の大小を問わず、どの店にとっても良いことではない。そして、以上のミスの想定では、コンピュータビジョンのアルゴリズムにおけるミスは指数関数的に増加する事実を考慮に入れていない。

大規模な店舗ではあまりにも似通った商品が多すぎて、私でさえ80gと120gのチップスの違いがわからない。Amazonは商品を識別しやすいように工夫しているが、ウォルマートのような大規模な店舗では絶対にできないだろう。

環境問題

コンピュータビジョンでは、製品の識別にパッケージを利用している。具体的には、認識を容易にするために印刷面が混在している製品の形状を利用しているのだ。しかし、現在小売業者はパッケージを減らすために必死になっていると見られ、実際そうしている(小売業界はカメを救おうとしているのだ)。イノベーションは素晴らしいものだが、それは真空中に存在するようなものではない。

さらには、果物や惣菜などのような包装ができない商品も多く、食料品店にとっては商品の包装はますます複雑な問題となっている。

しまいにはソフトな素材はすべてコンピュータビジョンの対象から除外しなければならない(専門用語では「ふわふわしすぎて」認識できないと言う)。これでは、ファッションストアはAmazon Goで使われている特殊な技術の組み合わせを使用できない。

店舗改修の問題

ほとんどの小売業者は、店舗を一から作り直すだけの資金を持っていない。つまり、今あるスペースがどんなものであれ、それを新しいプロセスに合わせて改修するしかないのだ。コンピュータビジョンのカメラやスマートシェルフを導入する場合、以下のような改修が発生する。

  • 店舗全体を覆うほどのカメラを購入し、既存の天井を破壊して、それだけのハードウェアの重量に耐えられるように作り直す。
  • カメラがすべてを見るためには、視界を遮るものがあってはならない。それゆえ、ショッピングカートは不都合なものになり、メーカーが商品を宣伝するために使うマーケティング用の備品も邪魔になる。さようなら、麗しのプロモーション活動。
  • カメラが「見る」ことを容易にするために、より明るくなる照明に投資する。
  • 新しい空調設備への投資:多くのカメラは多くの熱を生み出す。
  • 新しく、よりスマートな棚への投資。

アルゴリズムが魔法のように無料であると仮定しても、シアトルの商業地区にあるAmazon Go 1号店はハードウェアだけで100万ドル以上の投資が必要だった。この投資は利益率を高めるために努力している小売業界にとって、あまりにも高額だ。

現金の問題

多くの国ではさまざまな理由から、いまだに現金を多用している(例えばドイツを見てみよう(※訳註4))。それゆえ、差別が横行しないように、すべての店で現金を使えるようにするための法律が、近い将来に制定される可能性さえある。スマートフォンを持っていない人はたくさんいて、そうした人たちが簡素な食料品店を最も必要としているかも知れない。現金を使えるように義務づけるのは「技術革新の阻害」(ラッダイト主義と言われることもある)ではなく、政府が自分の仕事をしているに他ならない。

顧客が現金を使い続ける多くの理由のひとつは、単純にプライバシーが守られるからだ。Amazonが主張するには、購買データや画像認識のために撮影した動画データは正確なレシートを提供するのに十分な期間だけ保持し、アルゴリズムをさらに訓練するためにそうした情報のごく一部を保持するだけである。しかし、ベゾスのやり方を知っているならば、Amazonの主張は悪魔との取引を意味することもわかる。このような性質のアルゴリズムを学習・改良するには、指数関数的な量のデータが必要なのだ。

私たちは、Amazonプライムの割引のためなら、迷わずプライバシーを交換してしまう(Amazon Go導入店舗であれば、割引を受けて人間に「ありがとう」と言わなくても店を出られるようになった)。しかし、昔ながらの小売業者は、プライバシーの大部分を放棄してもらう代償として顧客に提供できるものは少ない。

(※訳註4)ドイツは、日本以上に現金支払い率が高いことで知られている。ドイツの現金主義を特集したスタートアップメディア『BRIDGE』が公開した2020年1月13日付の記事によると、2015年におけるドイツのキャッシュレス決済比率は14.9%であり、日本の18.4%より少ない。また、ドイツ銀行が公開したデータによると、2017年におけるドイツ人の支払い方法の内訳は現金が74.3%、デビットカードが18.9%、クレジットカードが1.6%であった。
ドイツでキャッシュレス決済が普及しないのは、東西ドイツが存在した冷戦時代における(とくに東ドイツで行われた)政府による監視がトラウマとなっているため、利用者の匿名性が保たれる現金が好まれているからである。

人件費の問題

業務自動化によって人間の労働力を減らせるので、より多くの利益が生み出されることに異論はないだろう。それでは、次のような場合では利益が増えるだろうか。給料の安いレジ係を解雇して、その代わりに(業務自動化を担当する)高給なデータサイエンティストを雇う。データサイエンティストの給料はかなりの高額だ。また、企業がアルゴリズムを開発する代わりに購入したとしても、それが実装された製品の維持管理には大きなコストがかかり、さらに訓練や「確率的な調整」も必要となる。

以上の逆説こそが、コスト削減に躍起になると起こることだ。コストカットに切り刻まれるようになる。

新技術によって創出される仕事と破壊されるそれは同程度だと論じて、Amazon Goを使うこともやめた方がよい。アメリカには340万人のレジ係がいるが、そんなに多くのデータサイエンティストは育成されていない。目を覚まして、Amazon Goのせいで暴徒となるかも知れない人たちに気づこう。

・・・

以上のように食料品やファッション、大規模店舗では使えない小売技術について話してきた。しかし、Amazonが気づいたように、スナック販売には適している(水やクマのグミが最も売れている)。そして、間もなく現金支払いを受け取らなければならなくなるだろう(※訳註5)。

(※訳註5)アメリカ大手メディアCNBCが2019年4月10日に報じたところによると、Amazonの実店舗業務を統括するSteve Kessel上級副社長はAmazon Goでクレジットカード以外の支払い方法を追加する計画があると発言した。追加される支払い方法のなかには、現金をチャージできるサービスAmazon Cashが含まれていた。
CNBCの記事は、2017年の時点でアメリカ世帯の6.5%(約840万世帯)が銀行口座を持っていないこと、またニューヨーク、サンフランシスコなどのアメリカの主要都市でキャッシュレス店舗の禁止が検討されていることも報じている。

なるほどなるほど。

現金でスナックを買うっていうのは…

おい、これは知ってるぞ!

基本的にAmazon Goは称えられるべきものだが、恐ろしく高価な自動販売機に過ぎないのだ。

大まかに言えば、イノベーションはコストを削減するか、顧客に劇的な利益をもたらすものでなければならない(RFIDの誇大広告を覚えているだろうか(※訳註6)。生存者バイアスはとんでもない薬になる(※訳註7))。Amazon Goはそのどちらでもない。確かに、この技術は素晴らしいので生き続けるだろう。しかし、Amazonだけがアクセスできるような莫大な資金の裏付けがあるうえで「大規模に」スケールアップでもしない限り、Amazon以外のブランドがレジレス店舗チェーンを実現することは決してないだろう。

(※訳註6)RFID(radio frequency identifier)とは電磁波や電波によって近距離通信(数センチメートル~数メートル)する技術であり、ICタグに応用されている。マーケティングに関するメディア『DIGIDAY』は2020年1月、RFIDの流行と衰退を論じた記事を公開した。2010年代前半、RFIDは小売業界に革新をもたらす技術として注目され、例えばファッションブランドのレベッカミンコフは、2014年にオープンしたニューヨーク・ソーホー地区にある旗艦店の商品管理にICタグを導入した。しかし、2020年時点では、もはやICタグを活用していない。ICタグが衰退した原因として指摘されているのが、コストの問題である。ICタグは1個10セント(約11円)で購入できるが、バーコードは0.5セント(約0.55円)である。
(※訳註7)生存者バイアスとは、特定の選択過程で選抜された人や物事を基準として、選抜されなかった人や物事を無視してしまうこと。生存者バイアスの典型例は、スティーブ・ジョブズは大学中退者でも成功したから、大学中退を成功の条件と考えてしまうこと。この場合、成功しない大学中退者が無視されている。
新規ビジネスへの参入時にも、生存者バイアスが見られる。具体的には、新規ビジネスにおける成功事例ばかりを見て、そのビジネスが必ず成功すると思い込むことが該当する。この場合では、新規ビジネスで失敗した事例が無視されている。

以上は、単純な経済学的な帰結だ。

さらには、ジェフ・ベゾスは経済的な理由で好機を見過ごすことなどしない人物だ。とりわけ新しい挑戦が、税金の支払いを少なくするためにほかのビジネス分野から得た利益を投入するのにうってつけの場所であるならば、惜しみなく資金を投入するだろう。

Amazonはストアで儲けたいわけではない。獣(のようなアルゴリズム)を養うためのデータが欲しいのだ。

Amazon Goこそ「小売の未来」だって?そんなのは笑止千万だ。Amazonがモバイルコードやアプリの代わりに生体認証を使い、そのデータを顧客が加入している保険会社に売り始めたら、それこそ笑えない冗談だ。

・・・

この記事は、今日の技術的課題についての詳細な分析を提供するブログ「The Pourquoi Pas」に掲載されたものです。ここをクリックしてアクセスしてください。


原文
『The Problem(s) With Amazon GO』(Medium)
『Amazon Go is not the Future of Retail』(Adrien Book氏公式サイト)

著者
Adrien Book

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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