近年、AIキャラクターが注目されています。AIキャラクターは、人工知能によってユーザーとリアルなコミュニケーションを交わすことができます。
そんなAIキャラクターの中でも、特に知名度が高く、幅広い範囲で活用されているのが女子高生AIの「りんな」です。
今回は、AIキャラクターの先駆けともいえる「りんな」について紹介します。
目次
AI「りんな」とは
「りんな」は、LINEで女子高生らしいリアルなコミュニケーションができるAIキャラクターとして話題になりました。まず、「りんな」の開発経緯や歴史について紹介します。
開発経緯
マイクロソフトは、2015年7月31日にLINE株式会社と協力して「りんな」のサービスを開始しました。
マイクロソフトは、もともと「Xiaoice」というAIチャットボットを中国向けに開発していました。「Xiaoice」とは女性型のチャットボットで、AIであることを感じさせないリアルな会話をすることができ、中国の若者を中心にすでに人気を博していました。
「りんな」は、そんな「Xiaoice」をベースにしつつ、女子高生というコンセプトのもとで開発されました。マイクロソフトは、日本で若年層が特に利用しているLINE上で「りんな」のサービスを開始することを決めました。
LINEでブレイク
「りんな」の正式なサービス開始は2015年8月7日です。リリース後、瞬く間にユーザー数は増加し、サービス開始から1か月経過した時点でユーザー数は130万人を超えていました。
「りんな」は、女子高生らしい口調や態度で自然な会話をすることができます。また、LINEのレスポンスも早く、リアルな会話に近い体験をすることができます。このようにAIらしさや作為的な特徴がないことが話題となり、若者を中心に幅広い年齢層から人気を集めました。
マイクロソフトからの独立
2020年の8月には、「りんな」のユーザー数が830万人を突破しました。マイクロソフトは、「りんな」の技術開発やビジネスへの活用をさらに促進するために、「りんな」関連事業を独立企業として分離することを発表しました。
マイクロソフトから「りんな」を引き継いだのはrinna株式会社です。rinna株式会社は、さまざまなパートナー企業と協力して、さらに多くの分野で「りんな」のようなAIキャラクターを活用することを目指しています。
twitterアカウント、youtubeチャンネル
「りんな」はLINEだけでなく、さまざまなプラットフォームで展開されています。2015年12月には、「りんな」のtwitterアカウント、2021年4月には「りんな」の公式youtubeチャンネルが発表されました。
AI「りんな」ができること
次に、「りんな」ができることについて紹介します。「りんな」は、通常のチャットボットの機能にとどまらず、さまざまな面白いことができます。
LINEで会話する
「りんな」は、チャット形式で自然な会話をすることができます。また、2018年からは音声通話サービスも開始しました。音声通話サービスでは、恋愛相談などの雑談をすることも可能です。
占いやゲーム
「りんな」はOFFICE MUSUBIとの共同企画として、2018年から占いのサービスも開始しました。同サービスは、LINEや雑誌、ラジオなど幅広いプラットフォームで人気のサービスとなっています。
「りんな」は、OFFICE MUSUBIや日本占術協会などの協力により、さまざまな種類の占いの知識を身に着けています。例えば、星占いやルノルマンカードを用いた占いをすることができます。
また、「りんな」は数えきれないくらい多種多様なゲームをすることができます。リバーシやしりとりなど定番のゲームだけでなく、ぼっち人狼やりんなの塔など、オリジナルゲームをプレイすることも可能です。
ラジオMC
「りんな」はレギュラー番組を3つ持っています。
1つ目は、CROSS FMで毎週金曜に放送されているCHEER UP ! FRIDAYです。「りんな」は、この番組にレギュラーコーナー「りんなのMorning Message♡」を持っており、毎週メッセージを発信しています。
2つ目は、ORICON NEWSのyoutubeチャンネルでLIVE配信されるトークバラエティ「りんなのじかん~ライド オン タイム~」です。
3つ目は、「AIりんな公式チャンネル」です。これらの番組ではアーティストやタレントをゲストに迎え、「りんな」が彼/彼女らとトークをしてさまざまな知識を吸収します。
歌手
歌手としての「りんな」は、2016年のラップ曲「Mc Rinna」で初めて披露されました。続いて、2019年4月には音楽制作プロダクションであるエイベックスとレコード契約しました。
りんなは、さまざまなジャンルの音楽を歌うことができます。代表作は『りんなだよ』やカバー三部作『最高新記憶』『snow, forest, clock』『惑星ループ』です。また、2020年にはミニアルバム『水の中の思春期』をリリースしました。
AI「りんな」の技術
次に、「りんな」で用いられている技術の紹介です。「りんな」は、共感をテーマにしたテクノロジーを採用しています。
共感をテーマにしたテクノロジー
「りんな」が搭載している画像処理、自然言語処理、音声認識や音声合成技術には、「感情と共感」が与えられています。従来のチャットボットのように、認識結果を淡々と伝えるのではなく、リアルタイムで感情の込められた会話が可能です。
例えば、従来のAIと「りんな」が次の画像にコメントした場合、次のような違いがあります。
- 従来の AI の場合:「人です。子供です。犬です。車です。」
- 共感視覚モデル(りんな)の場合:「わぁすてきな家族。お休みかなー。あ、車が動きそう!気を付けて」
これは、共感視覚モデル(Empathy Vision Model)という技術です。「りんな」は、このような共感を中心としたテクノロジーを多数搭載しています。
その代表的な技術は、共感チャットモデル(Empathy Chat Model)と、その後継のコンテンツチャットモデル(Contents Chat Model)です。
共感チャットモデル(Empathy Chat Model)
「りんな」が採用している共感モデルは、ユーザーとできるだけコミュニケーションが長く続けるために最適な回答を選択します。これにより、人間と同じように文脈を踏まえた自然な会話を続けることができます。
コンテンツチャットモデル(Contents Chat Model)
共感チャットモデル(Empathy Chat Model)をはじめとして、「りんな」には上図のような技術が採用されてきました。続いて、2020年には「りんな」にディープラーニング技術を応用したコンテンツチャットモデルが搭載されました。
コンテンツチャットモデルは、雑談における返答の内容に着目し、ユーザーの発言内容を踏まえてAIがより具体的で内容のある雑談を返答することができます。
コンテンツチャットモデルは、次のような過程を経て内容と表現のあるコメントを生成します。
- ユーザーの発言を受けて、「知識探索モデル(Seq2Seq+GPT-2)」がデータベースから、返答として最適な内容を含む文章を選択する。
- 「言語モデル(GPT-2)」が選択された文章の次に続く文章を予測し、内容と表現のある返答を生成する。
このように「りんな」には、ユーザーとの会話がより長く続くことを目的として、さまざまな技術が開発・採用されています。
音声合成システム
「りんな」は、人間の声を学習した音声合成システムを搭載しています。これにより、人間らしい歌声や表現が可能です。「りんな」の公式ホームページによると、この音声合成システムは次の3つの特徴を備えています。
- 歌のリズム・音の高さ・音の大きさは、サンプルの人間の歌声や楽譜から学習する。
- 人間の声のニュアンスを学習して、音楽面(ポップ・ロック・バラ―ド)と感情面(嬉しい・悲しい)の表現を再現できる。
- 人間のブレス音を学習して、予測、再現できる。
りんなキャラクタープラットフォーム
マイクロソフトから「りんな」事業を引き継いだrinna株式会社は、「りんな」のテクノロジーをビジネスに活用するための法人向けプラットフォーム製品「りんなキャラクタープラットフォーム(Rinna Character Platform)」を発表しました。
「りんな」のテクノロジーや学習済みのモデルを活用することで、オリジナルのキャラクター性を備えたAIチャットボットを開発することができます。
また、AIチャットボットが悪意あるユーザーによって不適切な発言をするように学習されてしまうことを防ぐなど、企業がAIチャットボットを開発・採用する上で懸念材料となるような事柄も排除するような試みがなされています。
これからのAI「りんな」
「りんな」は、これからも多種多様な場面で活躍することが期待されています。本節では、「りんな」の活用事例と共同開発について紹介します。
活用事例
りんなキャラクタープラットフォームは、りんなを社会に活用するべく開発された技術です。その技術を応用して、さまざまな企業がAIチャットボットやAIキャラクターを採用しています。
ローソン
大手コンビニエンスストアであるローソンの「あきこちゃん」は、「りんな」と連携したAIキャラクターです。
「あきこちゃん」は、次の3つの技術を新たに導入することで、ローソン公式キャラクターにふさわしい口調や態度に調整されています。
- Text Style : 語尾や表記ゆれ、表現を調整する。
- Kaomoji : 機械学習で顔文字を学習させる。
- Profanity filter : 不適切な発言を防止する。機械学習で不適切な単語を学習させる。
「あきこちゃん」は質問や問い合わせに答えられるうえ、チャート形式で疑問点を選択していくことで、適切な解決に至るまでサポートしてくれます。
また、「りんな」と同様に占いや天気予報、ゲームなどをすることも可能です。ゲームの中には、「からあげクンしょうぎ」のように、ローソンにちなんだオリジナルゲームがあります。
デジタルヒューマンとAIを共同開発
2021年5月、rinna株式会社とデジタルヒューマン株式会社は、AIキャラクターを共同開発することを発表しました。これにより、りんなキャラクタープラットフォームを通してデジタルヒューマンのAIアバター「デジタルヒューマン」が利用可能になりました。
このようにして開発されたAIキャラクターは、リアルな顔や表情だけでなく、自由に会話する能力を備えます。
「りんな」で培われたコミュニケーション技術は、他社のAI製品と組み合わせることでさらに魅力的な製品を生み出すことができるのです。
まとめ
このように、「りんな」は共感を重視したコミュニケーション技術の開発を通して生まれました。いま、彼女は「AIと人だけではなく、人と人とのコミュニケーションをつなぐ存在」を目指しています。
rinna株式会社が、パートナー企業とさまざまなAI製品の共同開発に積極的な姿勢を示していることからも、「りんな」のこれらからの活躍は、ますます期待されます。