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現在、日本ではデジタル化により企業間同士の競争力を高める「DX」が活発になっています。
教育現場でもDXは例外ではありません。
コロナ禍における教育の形の変化は凄まじく、教育現場の今を把握しないと変化に対応できない可能性があります。
変化に対応するためには、表面上だけでない「教育DX」の真の目的を把握し、今後の教育現場における変遷を見極める必要があります。
今回、教育現場におけるDXの現状や、教育DXを実現する真の目的、実現への課題、実際に教育DX化を進めている事例を紹介します。
目次
そもそもDXとは何か
DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略で日本語に直すと「デジタル改革」という意味になります。
DXはデジタイゼーションとデジタライゼーションの積み重ねによって実現し、紙の資料をPDFに統一しただけではDXと言えません。
DXは企業全体に関わる概念で、アナログデータをデジタル化して仕組み自体を新しくすることで業務の効率化を図ることができます。
▼DXについて詳しく知りたい方はこちら
教育DXとは
教育DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、教育者がデジタル技術を活用し、学習のあり方やカリキュラムを革新させると同時に、教職員の業務や組織、プロセス、学校文化を革新し、時代に対応した教育を確立することです。
教室で行っていた授業をオンライン授業に移行するなどの「教育のデジタル化」と混同されがちですが、「教育DX」と「教育のデジタル化」には大きな違いがあります。
教育DXの真の目的
教育DXの本来の目的は、「これまでの時代に実現できなかった真に個別最適な学びの実現」です。
20世紀の教育観は、生徒全員に同じアプローチ方法を取り、平均主義・減点主義を採用していました。
しかし21世紀に入り、教育観は「生徒一人ひとりの能力を最大限活かす・能力の偏りが大きくても自分の得意なことで活躍できる」という教育観になりました。
この変化から分かるように、生徒に対する教育方針が「全員に同じ教育」から「個々が持つ能力を最大限活かす教育」に変化しています。
また、デジタルツールを学びに活用することで、さらなるクリエイティブな学びの実現も教育DXの目的とされています。
知識習得を目的とした一斉授業型の教育をオンライン化することもDX化と言えますが、それでは単にいままでの教育の作り直しに過ぎません。
このように「教育DX」の真の目的は、これまで実現できなかった真に個別最適な学びの実現と、デジタルツール活用によるクリエイティブな学びの実現を通じ、「この時代を生きる子どもたちの可能性をテクノロジーにより最大限伸ばすこと」をゴールとしています。
教育DXのメリット
教育の分野ではDXすることによってどんなメリットがあるのでしょうか。3つ紹介していきます。
以下でそれぞれ具体的に解説していきます。
教育のハイブリッド化の実現
新型コロナウイルスの影響もあり全国の教育現場で、ハイブリッド化が普及していきました。教育におけるハイブリッド化とは、従来通りの対面教育とオンライン教育を両立して行い効果的にすることです。
DXすることによって、場所を問わず学校に行かなくても授業が受けられるようになりました。通学時間が不要になるほか、外に出向く必要がないので生徒の安全性も高まると考えられます。
また、保護者にとっても子供の欠席などの連絡もデジタルで行えたり、お便りや提出物もスマホで確認できるので子供に紙の資料を受け取っていないということもなくなります。
デジタル教材による学習の効率化
オンデマンド式にすると、授業を繰り返し見られたり自分の学習したい分野を好きな時間に勉強できます。デジタル教材は授業の進捗具合を自動で記録し可視化することもできます。
また、小テストの結果などから生徒一人一人の得意不得意を分析でき、その生徒に必要な知識が学べる授業をおすすめしてくれたりするので効率的に学習できます。
CBTシステムによる作業負担の軽減
CBTとは「Computer Based Testing」の略で、コンピュータで行うテストという意味になります。構内のテストを一人一人が端末で実施することにより、紙を印刷する必要がなかったりページが足りないといった不備も対策できます。教師が採点する手間も省けます。
また、CBTシステムは学習状況の管理を自動で行ってくれます。教育の分野でDXする際に、CBTシステムは欠かせない技術になっています。
教育分野のDX推進における課題
教育分野でDXが普及してきたのも最近の話なので課題もあります。主な3つは次の通りです。
以下でそれぞれ説明していきます。
インフラ整備の遅れ
インフラ整備とは一人一台パソコンを持ちインターネット環境なども整備されている環境のことです。しかし、パソコンを一人一人持つには金銭面での負担が大きいです。学校側もインターネットやクラウドの環境を設置してから定期的なメンテナンスをする必要があります。
技術はすでにありますが、実際に教育現場でDXを推進するには、導入の壁が高くインフラ整備が遅れており、最大の課題とされています。
サイバー犯罪のリスク
DXが進み多くの情報がデータ化することで、サイバー犯罪の件数が世界的にも増えています。現在は企業が狙われていますが、教育DXを推進すると生徒の個人情報を管理することになるので、学校が狙われるリスクが高くなることが予想されます。
パソコンやインターネットなどの設備を設置したあとの運営でも、生徒たちの重要な情報を守るために徹底したセキュリティ対策が必要です。
教育者側のITリテラシー不足
教育者側も自分が子供の頃にDXされた教育を受けてきたわけでもなく、アナログな設備で指導している人がほとんどです。そのため、教育DXの実現には教育者側のITリテラシーを新たに身に着ける必要があります。
インフラ設備を使いこなせないと、高い費用とリスクを負う意味がなくなってしまいます。しかし、その環境に慣れない教師もでてくるので、ITに詳しい方が扱い方を説明したり、質問に対応をして教師のITリテラシーを高めることが必要です。
導入をしたい場合、実際に教育業界へ向けたセミナーだったり、学校に訪問して指導してくれる業者がいるので、検討してみると良いでしょう。
日本の教育現場における教育のデジタル化
世界の中での日本のデジタル化の動き
OECD(経済協力開発機構)が実施した「生徒の学習到達度調査」の中で、日本の学校・学校外でのデジタル機器の利用状況が明らかになりました。
日本は他国と比較して、ネット上でのチャットやゲーム(1人用ゲーム・多人数オンラインゲーム)を利用する頻度の高い生徒の割合が高くあります。
一方、コンピュータを使って宿題をする頻度がOECD加盟国中最下位という結果が出ています。世界から見ると、日本では学びのためにICTを積極的に活用できていません。
GIGAスクール構想
OECDが調査したPISAの結果のように、日本の教育のデジタル化は世界の中で迅速とは言えません。
これを背景に文部科学省は、時代の変化に対応できる人材育成を目的とした「GIGAスクール構想」を提唱しました。
文部科学省が公開している「GIGAスクール構想の実現へ」の中で、GIGAスクール構想は以下のように定義されています。
1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され資質・能力を一層確実に育成できる教育ICT環境の実現を目指す。
これまでの我が国の教育実践と最先端のICTのベストミックスを図ることにより、教師、子供の力を最大限に引き出す。
また、文部科学省はこれからの子どもたちを育てるGIGAスクール構想の方針として、「多様な子どもたちを『誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び』の実現」を掲げています。
GIGAスクール構想の結果、2021年4月段階で全国の小中学校の9割で一人一台情報端末の体制が整備されたと言います。
真の教育DXを図る「未来の教室」実証事業
上記の「GIGAスクール構想」の結果、多くの生徒が情報端末体制を整備できました。ですが、この構想だけでは真の教育DXの実現は難しいとされています。
なぜならば、「GIGAスクール構想」によって実現された教育のデジタル化は、アナログをデジタルに置き換えた業務改善や効率化にとどまっており、生徒や教員たちの教育の抜本的な改革には至っていないためです。
ここで教育DXに向けてもう一歩進めたものが「未来の教室」実証事業です。
「未来の教室」実証事業とは?
経済産業省が新しい学習指導要領のもとで、1人1台端末とさまざまなEdTech(エドテック)を活用した新しい学び方を実証するための事業です。2018年度から全国の学校などと進めてきました。
具体的には、1人1台端末とEdTechを徹底活用し、数理や言語などの基礎を効率的に習得する「個別最適化学習」の実現により、それにより生み出された時間を「STEAM教育」にあてます。
STEAM教育とは、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・アート(Art)・数学(Mathematics)の頭文字を組み合わせた造語で、理数教育に創造性教育を加えた教育理念を指します。
この事業の目的は、知識はEdTechで学んで効率的に獲得し、探究・プロジェクト型学習(PBL)に没頭する時間を捻出し、自分の得意なことで突き抜け、社会で活躍するロールモデルを作ることです。
「個別最適化学習」により、自分に適した勉強を個々のペースで自ら主体的にできるとされています。
教育DXに関する書籍
教育DXをもっと深く学びたいという方は、次の書籍を読むことがオススメです。
- よく分かる教育DX:1人1台のPCとクラウド活用で何が変わる?
- 教育DXで「未来の教室」をつくろう:GIGAスクール構想で「学校」は生まれ変われるか
- OECD教育DX白書スマート教育テクノロジーが拓く学びの未来/経済協力開発機構
それぞれの特徴を紹介していきます。
よく分かる教育DX:1人1台のPCとクラウド活用で何が変わる?
教育DXの学び始めの人でも理解できる基本的なところから説明してくれる内容になっており、国が推進している整備やICTを活用した授業の事例なども図を用いながら解説してくれます。
「基本的な内容から具体的な事例も知りたい」という方にオススメです。
教育DXで「未来の教室」をつくろう:GIGAスクール構想で「学校」は生まれ変われるか
そもそもなぜ日本の教育を変えていかなければいけないのかというところから、多くの事例を紹介し教育DXが整備されたら未来の教室は今と変わってどのようになっているのか解説してくれます。
「教育のDXが実現できたら、どんな教育体制になるか知りたい」という方にオススメです。
OECD教育DX白書スマート教育テクノロジーが拓く学びの未来/経済協力開発機構
この書籍では、デジタルテクノロジーが教育でどのように利用されるのかを重視しており、人工知能やロボット、ブロックチェーン技術などの視点から教育のDXのメリットから課題まで解説しています。
「最新技術が教育のDXを推進するためにどのように利用されるのか知りたい」という方にオススメです。
真の教育DXを実現して生徒の可能性を最大限に活かそう
今回は教育DXについて紹介しました。
未来の教育へシフトするためには、学習観を21世紀型にアップデートする必要があります。
生徒一人ひとりの能力を見逃さず、最大限に活かすために教育DXを実現し、学習観のアップデートを図りましょう。
AINOW編集部
CS専攻大学2年生・42Tokyo所属
情報発信を通して自分自身の知見も深めていきたいと思います