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2021.09.01

2021年のコンピュータビジョンにおける5つのトレンド

最終更新日:

著者のBenedict Neo氏はアメリカ・アイオワ州立大学の統計学科に在籍しており、学業の傍らでMediumに記事を投稿しています(同氏の経歴はLinkedInを参照)。同氏が最近Mediumに投稿した記事『2021年のコンピュータビジョンにおける5つのトレンド』では、コンピュータビジョンにおける5つのトレンドを解説しています。
機械学習エンジニアのSayak Paul氏が行ったコンピュータビジョンに関する講演に感銘を受けたNeo氏は、この講演で語られたコンピュータビジョンにおける5つのトレンドをまとめた記事を公開しました。そうしたトレンドとは、以下の通りです。
  1. 高効率なAIモデル:AIモデルのサイズを抑制しながら、性能を劣化させない画像認識モデル開発。
  2. クリエイティブな生成系ディープラーニング:顔写真からアニメキャラを生成するようなクリエイティブな現場での応用が期待されるディープラーニングモデル開発。
  3. 自己教師あり学習:ラベルのない学習データで訓練する画像認識モデル開発。
  4. Transformerを活用した画像認識:CNNの代わりにTransformerを活用する画像認識モデル開発。
  5. 堅牢な画像認識:さまざまな脆弱性に対処した画像認識モデル開発。

以上の5つのトレンドは、AI技術全般における今後の課題をまとめたAINOW翻訳記事『人工知能を次のステージに導く5つのディープラーニングのトレンド』およびAINOW記事『NEDOが「人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン」を公表』と一部内容が重複しています。これらの記事も閲覧することで、AI技術が克服すべき課題がより幅広く理解できることでしょう。

なお、以下の記事本文はBenedict Neo氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならびに組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。

機械学習エンジニアのSayak Paul氏によるコンピュータビジョンのキートレンドの紹介

コンピュータビジョンは、現実世界で膨大な価値のある人工知能の魅力的な分野だ。この分野では10億ドル規模のスタートアップ企業が続々と登場しており、Forbes誌は同市場が2022年までに490億ドル(約5兆4,000億円)規模に達すると予想している。

コンピュータビジョンの目標

コンピュータビジョンの主な目標は、コンピュータに視覚を通して世界を理解する能力を与え、その理解に基づいて判断を下すことにある。

この技術を応用することで、人間の視覚を自動化したり、拡張したりすることができ、その結果として無数のユースケースが生まれる。

AIがコンピュータの思考を可能にするならば、コンピュータビジョンはコンピュータの視覚、観察、理解を可能とする。- IBM

使用例

コンピュータビジョンの使用例は、運輸から小売店まで多岐にわたる。

運輸での典型的な使用例は、Tesla社で見られる。同社は、コンピュータビジョンモデルで駆動するカメラだけを頼りに電気駆動の自動運転車を製造している。

また、スマートセンサーとコンピュータビジョンシステムを使ってレジなしで買い物ができる「Amazon Go」プログラムのようなものが現れたことで、コンピュータビジョンが小売業界に革命をもたらし、利便性をさらに高めている。

コンピュータビジョンは実用的なアプリケーションに貢献するという点で、明らかに多くの可能性を秘めている。実務者として、あるいはディープラーニングの愛好者として、この分野の最新の進歩に目を向け、最新のトレンドを把握することは重要だ。

コンピュータビジョンのトレンド

この記事では、Cartedの機械学習エンジニアであり、最近Bitgritで講演を行ったSayak Paul氏の考えを共有する(※訳註1)。彼については、LinkedInTwitterでも見つけられる。

(※訳註1)Sayak Paulは、ショッピングAPIを開発・提供するCartedに勤務する機械学習エンジニア。オープンソースプロジェクトに積極的に参加しており、2020年と2021年にGoogleオープンソースピアボーナス賞受賞している。

この記事は、講演のすべてを網羅しているわけではなく、あくまで講演の要約あるいは要点を提供するものだ。講演のスライドはこちらで閲覧できる。スライドには内容が類似しているトピックに関連する有用なリンクが付いている。また、この講演はYouTubeでも公開されており、それからより詳細な情報が得られる。

この記事の目的は、彼の講演と同様に、以下のようにして読者諸氏の役に立つことにある。

  • これから取り組むべき、よりエキサイティングなことを発見する。
  • あなたの次のプロジェクトのアイデアをインスパイアする。
  • 現場で起こっている最先端のことをキャッチアップする。

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では、コンピュータビジョンのトレンドを見ていこう。

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トレンドI:リソース効率化モデル

トレンドになる理由

  • 最新のモデルは、携帯電話やRaspberry Piなどマイクロプロセッサーが搭載された小さなデバイスを使ってオフラインで実行することが非常に難しい場合がある。
  • 重いモデルはレイテンシー(ここでいうレイテンシーとは、1つのモデルがフォワードパスを実行するのにかかる時間のこと)が大きくなる傾向があり、インフラコストに大きく影響する(※訳註2)。
  • (コスト、ネットワーク接続性、プライバシーへの懸念などにより)クラウドベースのモデルのホスティングが選択肢にない場合、使えるモデルはどのようなものか。
(※訳註2)AIモデルサイズとレイテンシーの関係については、AINOW翻訳記事『研究から製品化まで:最先端の機械学習システムをスケーリングする』を参照。一般にAIモデルサイズとレイテンシーは、トレードオフの関係にある。

構築プロセス

1.スパース・トレーニング

  • スパース・トレーニングとは、ニューラルネットワークの学習に使用する行列にゼロを導入することである。これができるのは、すべての次元が他の次元と相互作用しているわけではなく、言い換えれば(ある特定の次元が特に)重要だからだ。
  • パフォーマンスは落ちるかも知れないが、結果的には乗算回数が大幅に減り、ネットワークの学習時間が短縮される。
  • 非常に関連性の高い技術として、ある閾値を下回ったネットワークパラメータを破棄するプルーニングがある(閾値のほかにも破棄する基準がある)。

2.トレーニング後の推論

  • Deep Learningで量子化を使い、モデルの精度を(FP16からINT8に)下げてサイズを小さくする(※訳註3)。
  • 量子化認識トレーニング(Quantization-Aware Training:QAT)では、精度を下げることによる情報の損失を補える(※訳註4)。
  • プルーニング+量子化は、多くのユースケースで最高の効果を発揮する。
(※訳註3)量子化とは、機械学習において演算に用いる数値の表現を浮動小数点数から整数に変換すること。量子化すると、モデルサイズの縮小と推論時間の短縮ができる。
量子化認識トレーニングは、GoogleがTensorFlowの機能として提供している。

3.知識蒸留

  • パフォーマンスの高い教師モデルを訓練し、その「知識」を抽出して、教師から得られたラベルと一致するように別の小さな生徒モデルを訓練する。

モデル実装までの行動計画

  1. より大きく、高パフォーマンスの教師モデルを育成する。
  2. 知識蒸留を行い、できればQATを使用する。
  3. 知識蒸留したモデルをプルーニングし、量子化する。
  4. 実装する

・・・

トレンドII:クリエイティブなアプリケーションのための生成系ディープラーニング

トレンドとなる理由

  • 生成系ディープラーニングは、本当に進歩している。
  • thisxdoesnotexist.comには、生成系ディープラーニングで実現できる事例が掲載されている(※訳註5)。
(※訳註5)thisxdoesnotexist.comとはさまざまなGANモデルによって生成された実在しないオブジェクト(人間、猫、部屋、etc.)を集めたサイト。

アプリケーション

1.画像の超解像

  • 監視カメラなどの用途に合わせて画像(の解像度)をアップスケールできる。

2.ドメイン転移

  • 画像を別のドメインに転移する
  • 例:人間が写った画像を漫画化する、あるいはアニメ化する

3.外挿

  • 画像中のマスクされた領域に対して新規のコンテクストを生成する。
  • 画像編集などのドメインで使用され、Photoshopアプリに見られる機能をシミュレートする。

4.暗黙的なニューラル表現とCLIP

  • キャプションから画像を生成する機能(例:「ニューヨークの街で自転車に乗る人間」というテキストからその内容の画像を生成する)
  • GitHubレポジトリ
(※訳註6)キャプションから画像を生成するモデルで代表的なものは、OpenAIが発表したDALL·Eである(DALL·Eについては、AINOW翻訳記事『DALL·E を5分以内で説明してみた』を参照)。GitHubレポジトリで示されているモデルは、OpenAIが発表した画像認識モデルCLIPとSiren(Sinusoidal representation networksの略称)を使って開発された画像生成モデルdeep-dazeのこと。同モデルを使うと、「緑の丘にかかる霧(mist over green hills)」というキャプションに対して以下のような画像が出力される。DALL·Eがリアルな画像なのに対して、deep-dazeは幻想的な画像を生成する。

画像出典:deep-dazeのGitHubレポジトリ

モデル実装までの行動計画

  • 以上のような製品を研究し、実行してみる。このステップは省略しても構わない。
  • エンド・ツー・エンドのプロジェクトを開発する。
  • 生成系ディープラーニングで使われている要素を改良してみると、もしかしたら何か新しい発見があるかも知れない。

・・・

トレンドIII:自己教師あり学習

自己教師あり学習では、グランドトゥルースのラベルを一切使用せず、代わりにプリテキストタスクを使用する。そして、ラベルのない大量のデータセットを使って、モデルにデータセットを学習させる(※訳註7)。

(※訳註7)自己教師あり学習については、AINOW翻訳記事『人工知能を次のステージに導く5つのディープラーニングのトレンド』の「自己教師ありディープラーニング」を参照。

自己教師あり学習を教師あり学習と比較すると、どうなるだろうか。

教師あり学習の限界

  • パフォーマンスを上げるためには、膨大な量のラベル付きデータが必要。
  • ラベル付きのデータは準備にコストがかかるうえに、偏りが生じる可能性もある。
  • このような大規模なデータの場合、トレーニングの時間は非常に長くなる。

ラベルなしデータでの学習

  • 同じ画像の異なるビュー(見え方)に対してモデルが不変であることを求める。
  • 直感的に言えば、このモデルは2つの画像(例えば猫と山)を視覚的に異なるものにするための内容を学習する。
  • ラベルのないデータセットを用意した方が、はるかに安上がりだ!
  • コンピュータビジョンの分野では、SEER (self-supervised model ) は、オブジェクト検出やセマンティックセグメンテーションにおいて、教師あり学習のモデルよりも優れた性能を発揮する(※訳註8)。
(※訳註8)Facebookは2021年3月4日、自己教師あり学習モデルSEERを発表した。同モデルの学習データには、10億枚のラベルのないInstagram画像が使われた。同モデルはImageNetの分類で84.2%を達成し、発表当時には自己教師あり学習モデルでトップの性能を実現した。

自己教師あり学習の難点

  • 自己教師あり学習は、画像分類のような実世界のタスクでうまく機能するためには、非常に大きなデータ領域が必要。
  • 対照的な自己教師あり学習は、やはり計算量が多い。

参考文献

・・・

トレンドIV:TransformerとSelf-Attentionの活用

トレンドとなる理由

  • Attentionは、対となるエンティティの相互作用を定量化することで、ネットワークがデータ内の重要なコンテクストを揃えることを学習する。
  • Attetionというアイデアは、コンピュータビジョンでは様々な形で存在する。GCブロックSEネットワークなど。しかし、その成果はわずかなものであった。
  • Self-Attentionブロックは、Transformerの土台となる。
(※訳註9)AttentionとTransformerの仕組みと重要性については、AINOW翻訳記事『Transformer解説:GPT-3、BERT、T5の背後にあるモデルを理解する』を参照。

Transformerを活用する長所と短所

長所

  • 事前的帰納性(※訳註10)が低いため、さまざまな学習タスクのための一般的な計算プリミティブと捉えられる。
  • パラメータの効率化により、CNNと同等の性能を得られる。
(※訳註10)この記事における事前的帰納性(inductive priors)とは、AIモデルが学習に先立って有しているネットワーク構造を意味している。例えば、CNNは画像認識に特化するために事前に2次元的構造を有している。対してVision TransformerのようなTransformerを活用する画像認識モデルは、事前に2次元的構造を有していない。

短所

  • TransformerはCNNのように明確な事前的帰納性を持たないため、大規模データの組成が事前学習の際に最も重要となる。

もう1つのトレンドは、self-attentionをCNNと組み合わせると、強いベースラインを確立することである(BoTNet)。

Vision Transformerの探求

(※訳註11)vision transformerについては、AINOW翻訳記事『【GoogleAIリサーチブログ記事】大規模画像認識のためのTransformers』を参照。

・・・

トレンドV:堅牢なビジョンモデル

ビジョンモデルは、その性能に影響を与える多くの脆弱性に晒されている。

ビジョンモデルが直面する問題

1.摂動

  • ディープモデルは、入力データのわずかな変化にも脆い。
  • (摂動に起因する誤認のせいで)歩行者が誰もいない道路と予測された場合を想像してみよう!
(※訳註12)摂動による画像認識の失敗については、AINOW翻訳記事『人工知能を次のステージに導く5つのディープラーニングのトレンド』の「畳み込みニューラルネットワークの撤廃」を参照。

2.破損

  • ディープモデルは、高周波領域(※訳註13)に容易に固定されてしまうため、ブラー、コントラスト、ズームなどの一般的な破損に対して脆い。
(※訳註13)画像における高周波領域とは、明暗の対比が激しいハイコントラストな領域を指す。コントラストは、画像の明るさの推移を周波数に変換して計測される。

3.分布外(Out of Distribution)データ

分布外データには、以下のような2種類がある。

  1. ドメインシフトしてもラベルはそのまま – モデルには、学習内容に応じて一貫した性能を発揮することが望まれる。
  2. 例外的なデータポイント – 例外的データポイントに直面した時には、モデルには(例外的なデータに応じて)低信頼度な予測が望まれる。

堅牢にするには

堅牢なビジョンモデルを構築するために、以上のような特定の問題を扱う多くの技術がある。

1.摂動

  • 敵対的訓練:ビザンチンフォールトトレランス性に類似しており、基本的には絶対的な最悪の条件に直面したときに、システムが自分自身を処理できるように準備する。
  • 論文
(※訳註14)ビザンチンフォールトトレランス性(Byzantine Fault Tolerance:略して「BFT」
)とは、分散コンピューティングにおいて生じる故障を許容するアルゴリズムのこと。代表的なBFTの実用例として、ブロックチェーンがある。
引用された論文「敵対的な事例が画像認識を改善する」では、学習データにあえて敵対的なデータを加えることで画像認識モデルの性能を向上できることが論じられている。この論文がBFTに似ていると言われるのは、BFTでは故障という敵対的な現象を許容するからである。

2.破損

(※訳註15)正則化とは、オーバーフィッティングを防ぐためにパラメータの取りうる範囲を制限する技法。事例に挙げられたモデルでは、以下のように正則化やノイズの追加を活用してモデルの性能向上を実現している。
  • RandAugment:モデルやデータセットのサイズに合わせて正則化の強度を調整
  • Noisy Student Training:知識蒸留実行時にノイズを加えることで、生徒モデルの汎化を向上させる。
  • FixMatch:一貫性のある正則化(consistency regularization)と疑似ラベル付けを活用して半教師あり学習(Semi-supervised learning)を実行。

3.分布外データ

  • 例外的なデータポイントをすぐに検出。
  • 論文(※訳註16)
(※訳註16)以上に引用された論文「ODINの一般化:分布外データからの学習なしで分布外画像を検出する」では分布外データを検出する新手法として、信頼性スコアの分解入力時の前処理方法の変更を提案したうえで、これらの新手法を使うと分布外データの検出能力が向上することを報告している。

堅牢なモデルに関する原理について、George Box(※訳註17)の有名な名言をもじって作った気の利いた名言を引用したい。

「すべてのモデルは間違っているが、間違っていることを知っている一部のモデルは有用である」- Balaji Lakshminarayanan(※訳註18)(NeurIPS 2020)

(※訳註17)George Boxはイギリス出身の統計学者で、アメリカに渡って活躍した。「20世紀における偉大な統計学者の一人」と呼ばれている。彼の残した名言で「すべてのモデルは間違っているが、いくつかは役に立つ」というものがある。
(※訳註18)Balaji Lakshminarayananは、Google Brain所属のスタッフリサーチサイエンティスト。近年では堅牢なディープラーニング、GAN等を研究対象としている。

・・・

以上で今回の記事を終える。お読み頂きありがとうございました!この記事をお読みになって、何か新しいことを学んで頂ければ幸いです。このような記事がお好きな方は、ぜひBitgrit Data Science Publicationをフォローしてください。

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原文
『5 Computer Vision Trends for 2021』

著者
Benedict Neo

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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