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人類はその歴史の中で、さまざまな細菌との戦いを繰り広げてきました。例えば14世紀には「黒死病」と呼ばれるペストがヨーロッパで大流行し、ヨーロッパだけで全人口の4分の1~3分の1にあたる2500万人が死亡したといわれています。
その他にも、スペイン風邪やコレラをはじめとした多くの感染症によって、多くの人間の命が危険にさらされてきました。そんな細菌に打ち勝つべく、多くの抗菌薬が開発されていますが、特定の種類の抗菌薬が効きにくくなったり、効かなくなる「薬剤耐性」が大きな課題になっています。
今回は、AIを活用して薬剤耐性問題の解決を目指すカーブジェン株式会社の代表取締役 中島 正和氏に、薬剤耐性の問題だけでなく、診断において菌種の判定をサポートする「BiTTE」について取材しました。
細菌感染症の脅威から人間を守る|カーブジェン
ーーカーブジェンの事業内容を教えてください。
カーブジェンは、細菌感染症の脅威から人類を守り、より安全な世界の実現を目指すことを目的とした会社です。
私はカーブジェンの他、ネクスジェンという会社も経営しています。ネクスジェンは再生医療を扱っているバイオベンチャーで、バイオ技術とデジタル技術の融合による、研究開発活動の効率化・加速化を進めています。
そこでさまざまな技術開発を行う中で、臨床現場や研究現場の医師や研究者の方から「現場で求められている、診断の早期化を実現できないか」と相談を受けたので、我々が開発しているAI技術を用いて診断の早期化、高精度化による、疾病の早期発見よる治療成績の向上を実現し、問題解決しようという想いからカーブジェンを設立しました。
2050年には1000万人が死亡?今解決するべき薬剤耐性とは
ーー薬剤耐性とはなんでしょうか?
薬剤耐性とは、抗菌薬が効かない”耐性菌”ができてしまう問題です。
感染症の歴史は、14世紀のペストから始まり、1940年代に世界初の抗菌薬「ペニシリン」が開発されるまで長く抗菌薬がない時代を過ごしました。その後、感染症が蔓延する度に抗菌薬は開発されるのですが、感染症が収束する裏で、抗菌薬の不適正使用が行われてしまったんです。
必要以上の投与や誤使用などが行われた結果、約10年後には抗菌薬が効かなくなった耐性菌が生まれ、いたちごっこの状態になってしまいました。これが長年問題視されている薬剤耐性問題です。
ーー現状、具体的にはどのような問題があるのでしょうか?
薬剤耐性が進んでしまうと、感染症になってしまった際に抗菌薬が効かなくなってしまいます。
米国疾病管理予防センター(CDC)の2050年予想では、予測死亡者数が世界で1,000万人を超えるとしており、世界的に対策が求められている問題です。
その他にも、内視鏡などの医療器具を使い回す際に殺菌を行うのですが、耐性菌が付いていると殺菌が行えずに手術に使えなくなるなどの問題も起きています。
ーーどのように解決したら良いのでしょうか?
薬剤耐性は、薬剤の不適正使用をせずに、菌種に応じて適した抗菌薬を処方することが重要と言われています。
そのため、菌種判別が正確・迅速・安価になることが求められており、その解決に向けてカーブジェンが開発したサービスが、「PoCGS」と「BiTTE」です。
ーーPoCGSの概要を教えてください
PoCGSは、「染色」を自動化するハードウェアです。
染色とは、診療を行う際に、尿や喀痰などの検体を顕微鏡で観察するために色をつける工程です。
現状、染色は手間、時間がかかり中々やる時間がない、検者によって結果が異なるといった問題や、自動機械は大型かつ高額なので、小規模な病院やクリニックなどでは導入が難しいという問題があります。
そこで、PoCGSは、自動・安価・標準的な染色を実現するために開発しました。PoCGSでは、小型かつ簡便な染色を実現していますので、染色に関する課題の解決に貢献できたらと思います。
ーーBiTTEの概要を教えてください。
BiTTEは、診断における菌種推定を支援するソフトウェアです。
従来の手法では、検体の染色を行なった後、顕微鏡で人が観察を行うのですが、菌種の判別には熟練の技術が必要なことや、結果まで数日かかってしまうといった課題があります。
また、菌種を確定する確定検査には高額の機械が必要だったり、培養検査等に時間がかかることも問題視されています。
そこで、BiTTEは染色画像の機械学習を行うことで、スマートフォンによる菌種推定支援を実現しました。
BiTTEは顕微鏡にスマートフォンを接続し、取得した画像をサーバーに転送、画像解析を行うことで、推定される菌種をパーセンテージ毎に表示します。
こちらもPoCGS同様、安価かつ瞬時に行えることがポイントで、あらゆる現場で菌種判別の支援を行えたらと思います。
将来的には、染色画像で、菌種の確定検査と同等程度の判別精度を目指しています。
世界の医療をグレードアップ|カーブジェンが目指す未来
ーーカーブジェンの今後の展望を教えてください。
カーブジェンでは、診断領域における「精度アップ」、「スピードアップ」、「コストダウン」を提供価値としており、今後もこれらについて尽力していくのですが、AIなどの技術だけでは対応しきれない部分もあります。ですので、引き続きソフトウェアだけでなく、PoCGSなどのハードウェアも開発していきます。
また、より汎用性を広げるという面では、菌種検査における対象検体の拡大や、汎用菌だけでなく、希少菌、耐性菌に対応した開発も行なっていきます。
ソフトウェアに関しては、SaaS形式での提供を考えており、国内だけなく、国外での広い普及を目指し、世界的に薬剤耐性問題の解決に向かっていけたらと思います。
さいごに
今回は、薬剤耐性問題を扱っているカーブジェン株式会社の代表取締役 中島 正和氏にお話を伺いました。
細菌の分野は一般的に知られていない部分が多い反面、新型コロナウイルス(COVID-19)のように決して遠い問題ではなく、正しい知識を持っておかないといけないと再認識する内容でした。
感染症問題がより深刻なアフリカや新興国などでは、このような取り組みが問題解決の糸口になると思うので、カーブジェン株式会社の今後に注目です!