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著者のGanes Kesari氏はMediumに多数のデータサイエンスに関する記事を投稿しているデータサイエンティストであり、それらのいくつかはAINOWの翻訳記事で紹介してきました(同氏の詳しい業績はこちらを参照)。同氏がMediumに投稿した記事『あなたのスタートアップが(破産しないで)今すぐAIを利用できるようになる4つの方法』では、おカネをかけずにAIを導入する方法が解説されています。
AI導入を決定した後、一般に問題になるのが「AI導入にどのくらいの費用がかかるのか」という疑問です。数年前までは大手企業が高給取りのAI人材を集めてAIを導入していたものですが、AI技術が社会に浸透した現在ではあまり費用をかけずにAIを導入する方法が多数存在します。そうした方法として、Kesari氏は以下のような4項目を提案しています。
おカネをかけずにAIを導入する4つの方法
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以上のような方法を提示したうえで、AI導入はゴールではなく業務効率化を実現する旅の出発点に過ぎない、とKesari氏は述べます。AI導入後は定期的に固定費用を見直して、状況に合わせて解決策を変えていくべき、とも語っています。
AI導入のコストが低下している昨今、Kesari氏が提案する身の丈にあったAI導入はとくに中小企業にとって重要ではないでしょうか。
なお、以下の記事本文はGanes Kesari氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならびに組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。
目次
大きな予算も、データサイエンティストも、数ヶ月の努力も必要ない – あなたのスタートアップが今すぐAIドリブンになるための4つの方法
人工知能(AI)は、コンピュータ科学者のアンドリュー・ングが「新しい電気」と呼ぶものだ。しかし、その能力と魅力にもかかわらず、AIはすべての状況に適しているわけではない。以前の記事では、AIへの投資を避けるべき5つのシナリオを紹介した(※訳註1)。自分のスタートアップにAIが必要かどうかを調べるには、まずビジネス上の問題に優先順位をつけることから始めよう。これらの課題を解決するための最適なアプローチをフレーム化し、テクノロジーがどのように役立つかを評価しよう。ほとんどの場合、基本的な分析、統計、または単純な機械学習で効果的に仕事ができるになる。
いくつかの状況では、AIの馬力が必要となる。そのようなシナリオでは、追加のインテリジェンスと自動化があなたのスタートアップに変革をもたらす。この記事は、そのようなケースのためのものだ。
AIの必要性を感じたとき、次によくあるのが 「AIを使うのに大きな予算が本当に必要なのか」という質問だ。この質問の答えはNoである。あなたのビジネスがAIドリブンになるために、何ヶ月もの労力やエリートデータサイエンティスト、あるいは高額な予算は必要ない。
以下では、あなたのスタートアップや中小企業が今日からAIを使い始められる4つの方法を紹介する。これらの提案は、簡単なものから難しいものへと順を追って説明されているので、一番上から始めて、どのオプションが自分のニーズに最も合っているかを調べよう。
同氏が挙げているAIに投資すべきではない状況とは、以下のような5項目である。
AIに投資すべきではない5つの状況
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1.すでに使用しているツールのAI機能の有効化
AIは私たちの周りにあふれている。あなたのスマートフォンには、AIを使ったアプリが少なくとも1ダースは入っているだろう。このテクノロジーは、カメラでより良い写真を撮ることを可能にし、写真を整理し、ソーシャルフィードをキュレートするための力となっている。
ほとんどのエンタープライズツールは、AIを活用した機能を自社製品に追加している。Microsoftは、ExcelにいくつかのAI機能を搭載した。スクリーンショットからデータを挿入したり(※訳註2)、Excelの「アイデア」パネルが提案する洞察を活用したりする場合、AIを利用していることになる。Salesforceは、同社のAIエンジンであるEinsteinを、人気のCRM(顧客関係管理)プラットフォーム全体のインテリジェントアシスタントとして統合した。AI機能を自社のコア製品にバンドルしている企業もあれば、(AI機能を使うのに製品の)アップグレードが必要な企業もあるだろう。
購入したソフトウェアにAI機能が搭載されているかどうか、ベンダーに聞いてみよう。既存のツールセットがすでにAI駆動になっていたり、簡単なアップグレードで対応できたりする可能性もある。
このオプションにおける5つの人気ツール:MS Office、Google for Business、Dropbox、Github、Mixmax
2.AIを搭載した既製品のSaaSツールの購入
今日、SaaS(Software as a Service)ツールが豊富にあり、手頃な月額料金で利用できるようになっている。マーケティングコピーに磨きをかけたいと思わないだろうか。Grammarlyの便利なコピー編集機能を使えば、良いところをカバーできる。顧客の声を収録したビデオを書き起こしたり、プロ級のメディア編集をしたりしたいだろうか。DescriptのAI機能を使えば、簡単にできる。
満たされていないビジネスニーズがある場合、インテリジェントな機能を備えた機能的なSaaSツールを探してみよう。ほとんどのSaaSツールには統合機能が搭載されており、既存のITエコシステムに簡単に組み込める。たとえ完璧にフィットしなくても、重要なのは問題の大部分を解決できるかどうかだ。そうであれば、同様のAI機能のために高価なエンタープライズライセンスに投資することを避けられる。
主要な要件に照らし合わせて、利用可能なツールを評価してみよう。一致する範囲と統合のしやすさを確認しよう。調べた結果が許容範囲を超えていれば、採用を見送り先を急ごう。
このオプションにおける5つの人気ツール:Zoho Zia、Trello、Grammarly、Descript、WaveApps
3.既製AIモデルのツールへの組み込み
知能を内蔵したツールが見つからない場合、次善の策として、ツールに接続可能なAIモデルをクラウドで探すことがある。例えば、製品の製造上の欠陥を見つけようとしている場合、AIを使って目視検査を自動化できる。Amazon Lookout for Visionは、ワークフローに直接差し込めるクラウド上の機械学習(ML)サービスだ。
先ほどのステップとは異なり、このステップでは(ソフトウェア開発とIT運用を含む)DevOps能力が求められる。また、データサイエンティストは必要ないが、ソフトウェアアプリケーションをオンラインのAIモデルにリンクさせるためのプログラミングの専門知識がチームに必要となる。使用量に応じて決まるサブスクリプション・コストにも注意が必要だ。
このオプションを検討するには、あなたのドメインの問題を解決するためのAIモデルがあらかじめ構築されているオンラインMLプラットフォームを特定しよう。この分野にはClarifai、Dialogflow、SightHoundなどの有望なスタートアップや、Microsoft、Google、Amazonなどの大企業が参入している。
このオプションにおける5つの人気ツール:ML on AWS、Azure ML、Google Cloud ML、Clarifai、Sighthound
4.公開されて利用可能なAIモデルの再訓練
上記のオプションを使い切ってしまったら、データサイエンティストを使って社内でAIモデルを訓練しよう。ゼロから始めるのではなく、一般に公開されているAIアルゴリズムや簡単にキュレートできるデータセットを再利用することで、労力を節約できる。これらのリソースは、あなたの問題の解決に適用できるのだ。
例えばあなたのスタートアップが、顧客アンケートのテキストフィードバックを分析して、顧客満足度を把握する必要があるとしよう。そのためには、自然言語処理(NLP)機能を備えたアルゴリズムが必要だ。新しいAIモデルを苦労してトレーニングするのではなく、Kaggle、DrivenData、AICrowd(※訳註3)などの公開コンテストで受賞したモデルをベースにして、チームはAIモデルを構築できる。
インターネットにあるもっとも優れたものは無料であることが多いのだが、それを見つけるには時間がかかる。訓練済みの重みといっしょにモデルを公開しているHuggingFaceのようなオープンリポジトリや、PapersWithCodeのようなMLモデルを公開しているコミュニティを探してみよう。これらのサイトの多くは、モデル構築のプロセスを加速させられる豊富で精選されたデータを共有している。公開されているモデルを(解決したい問題に)適応させるために必要な労力をチームで評価し、それらを製品として維持するためのコストを決定しよう。
このオプションにおける5つの人気ツール:HuggingFace、AllenAI、RasaHQ、Kaggle、DrivenData
AIcrowdとは、企業や研究機関が抱えるAIやデータサイエンスに関わる問題をコンペとして企画化して、ソリューションを提供する企業や団体を紹介するプラットフォームを運営する組織。企画化されたコンペには旧Facebookが主催したローグライクゲーム『NetHack』を攻略するAIの開発(賞金2万ドル)や、Amazonが主催したドローンの障害物回避能力を競うもの(賞金5万ドル)などがある。
AIドリブンであることは目的地ではなく旅である
この記事ではAIを使い始めて、リソースを最大限に活用するための4つの方法を見てきた。AIの旅を始めるのは簡単なことが多い一方で、一貫したビジネス価値を得るには継続的な注意と投資が必要だ。
企業内のユーザをトレーニングし、組織のワークフローを再構築し、AI導入に伴う文化的変化を管理する必要がある。また、AIへの投資の総所有コスト(TCO)を定期的に見直すことも重要だ。今の時点で有効なオプションが、1年後には高額になっているかも知れない。
例えば、(2つめのオプションとして紹介した)AIを搭載したSaaSツールのサブスクリプションは、初期の顧客をベースにしてサービスを提供する小規模なチームには適しているかも知れない。チームの規模が大きくなり利用量が増えてくると、サブスクリプション・コストが法外な額になってしまうことがある。そのような段階では、データサイエンティストの小規模なチームを雇用し、一般に公開されているAIモデルを再訓練する方が経済的だと気づくかも知れない(4つめのオプション)。
以上、AI導入に関する意思決定を効率化するために、どのような選択肢があるのかをまとめてきた。
おカネのかけずにAIを導入する4つの方法
オプション1 |
オプション2 |
オプション3 |
オプション4 |
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アプローチ概要 | すでに使用しているツールのAI機能の有効化 | AIを搭載した既製品のSaaSツールの購入 | 既製AIモデルのツールへの組み込み | 公開されて利用可能なAIモデルの再訓練 |
実行の所要時間 | 即座 | 数日 | 数週間 | 数ヶ月 |
コスト | 最安 | 安い | 高い | もっとも高い |
求められるスキル | ユーザのトレーニング | ユーザのトレーニング +技術の統合技術 |
ユーザのトレーニング +技術の統合技術 +ソフトウェア開発技術 |
ユーザのトレーニング +技術の統合技術 +ソフトウェア開発技術 +機械学習モデル |
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この記事の初出はEntrepreneurに掲載されたものである。初出の記事にイラストを追加した。
原文
『4 Ways Your Startup Can Use AI Right Now (Without Breaking The Bank)』
著者
Ganes Kesari
翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)
編集
おざけん