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2022.03.23

【三宅陽一郎氏も登壇】仮想と現実を融合したスマートシティ実現へのカギ「ゲームAI」の可能性|オンラインカンファレンス「SUSTAINABLE CONNECT 2022」

2022年2月1日(火)、株式会社ワントゥーテンの主催による無料オンラインカンファレンス『SUSTAINABLE CONNECT 2022~AI × XRによる「現実と仮想の融合」が、アフターコロナを切り拓く~』が開催されました。

ワントゥーテンは、最先端のAI技術を駆使したサービス開発やプロジェクションマッピング・XRを活用した数々のプロジェクトを日本国内及び世界各国で展開している企業で、先端テクノロジーによる社会課題解決に向けて取り組んでいます。

今回のカンファレンスのテーマは「アフターコロナ時代のDX」です。現実空間だけでも仮想空間だけでもない、融合した空間でのコミュニケーションによるビジネスや生活のあり方を考えるプログラムになっています。

立教大学大学院 人工知能科学研究科 特任教授の三宅陽一郎氏やKDDI 事業創造本部 ビジネスインキュベーション推進部長の中馬和彦氏、AINOW編集長の小澤健祐も登壇し、未来のビジネスやAI、XRの可能性について語りました。

今回の記事では、AIセッション「ゲーム空間、商業施設、スマートシティ。仮想と現実を越境した場に宿るAIの可能性。」をレポートします。

※講演内容は記事の構成上、一部割愛・編集しております。

登壇者:

立教大学大学院 人工知能科学研究科 特任教授 三宅 陽一郎氏

株式会社ワントゥーテン 取締役副社長 最高技術責任者 長井 健一氏

モデレーター:

AI専門メディア AINOW編集長 小澤 健祐

ワントゥーテンの取り組みと三宅氏によるゲームAIの説明

AI/XRを活用してユーザーに新しい体験を提供しているワントゥーテン

セッション冒頭、長井氏がワントゥーテンのデジタルとリアルを融合した取り組みに関して説明しました。

「ワントゥーテン 二条城夜会」の様子(会期は昨年12月で終了)※画像はイベントHPより引用

ワントゥーテンはAIやXRの研究開発に「キャラクターを持ったAIとの体験の創造」と「場にAIをインストールする」という2軸で取り組んでいます。

長井氏は、後者の事例としてシンガポール初のビーチを舞台とした巨大インタラクティブランドアート「Magical Shores」や元離宮・二条城での「ワントゥーテン 二条城夜会」を挙げた上で、

長井氏:我々はAIとXRで体験を創造することがメインの仕事です。場に参加しているユーザーへ今までにないような体験を通して驚きを与えたいと考えています。AIで体験を制御することを模索する中で、ゲームの領域、つまりゲームAIの技術や研究が先行していると感じていて、三宅さんの研究や書籍をとても参考にしています。

とし、デジタルとリアルを融合させる技術や考え方として「ゲームAI」が重要であることを語りました。

ゲームAIについて|「存在」としての人工知能はエンタメを面白くする

次に、三宅氏が「ゲームAI」について説明しました。三宅氏は「ゲームAI」の研究領域を牽引してきた人物です。また、『人工知能のための哲学塾』という書籍を出版しており、哲学の観点からもAIの探求を行なっています。

まず三宅氏は、西洋と東洋の人工知能の考え方の違いについて解説しました。

三宅氏:西洋的な人工知能は、極端にいうと、論理的で機能的です。一方、東洋的な人工知能は“存在していること”、“その場にいること”が重要で、これはエンターテイメントにおいても必要な要素です。その場にいる、つまり我々と同じ時間を生きている、空間を共有している、人と人工知能が共有する場が変わっていく、ということを東洋的な人工知能は目指しています。

東洋と西洋の人工知能の考え方の違い(左:東洋的考え方 右:西洋的考え方)

三宅氏:「存在」としての人工知能(東洋的)と「機能」としての人工知能(西洋的)というのはアカデミックと産業の違いでもあります。アカデミックとしての人工知能というのは、知識を積み上げていって最後に本物の知能を作るというものです。一方、エンターテイメント(産業)におけるAIは、まずユーザーにどう思ってもらえるかが大事で、中身が本当のAIであるかどうかは次、という考え方です。

両者は非常に対称的でしたが、エンターテイメントにおけるAI技術が成長してきたときに、この2つが繋がりつつあるということは今の人工知能の面白いところです。

そして次に三宅氏は、「知能には階層がある」ことを説明し、人工知能がどのように作られ社会で実装されていくのかについて説明しました。

知能の階層

三宅氏:存在としてのAIは世界に根を張らなくてはいけません。それが何によって根を張っているかと言うと、身体によって世界に根を張っているんです。ちょうど植物が根によって世界に根を張るように。そして最後に知能があります。

一番(変化の)速度が速いのは世界です。力を与えられれば反作用が起きる物理の世界です。

身体がその次です。身体の変化はゆっくりしたものです。細胞の連鎖によって、ゆっくりとしたシステムになっています。たとえば身体の受けた傷のことを、人はずっと覚えていて、たとえば長い年月が経つまで、その影響を持続的に受け続けます。

そして、その上に位置する知能というシステムは一番遅いシステムです。記憶を持ち、1つの刺激に対して、ゆっくりと反応します。言語のやり取りなど、自然界から見ればゆっくりとした反応です。たとえば、幼い頃に見た映画の影響が持続的に自己の形成に影響を及ぼすなど、長期的なシステムでもあります。

この「遅い」ということが非常に重要なことです。なぜなら、刺激から行動までの時間は判断を留保できるからです。その間に思考することができます。刺激から行動までが短時間でしかできない生物は思考が発展する余地がありません。この刺激から反応へ至る過程の遅延を、ベルクソンの哲学では「迂回」とも言います。こういった知能の階層に沿って人工知能は作られていきます。

欧米では、とても大雑把に言いますと、神→人間→人工知能というように縦の序列で考えられています。なので、初めから人工知能というものが社会のどの位置に置かれるかが決まっています。人工知能はサーバントとして位置付けられます。だからこそ欧米では人工知能の導入が早いと言えますが、少し面白みが欠けるというようにも私は思います。

一方、先ほど説明したように、東洋的な人工知能というのは「存在的」です。エンタメの世界では存在としての人工知能が求められています。

なので、動物とか人工物、AI全て横並びで、同じ「存在」として作っていこうという発想にあります。つまり人工知能は「いろんな形でどこにでもいる存在」として考えられるのが面白いところです。簡単言うと、人工知能という生き物、を実現する、ということです。

エージェントアーキテクチャの仕組み

三宅氏:そうした(ゲームキャラクターの)人工知能を作る技術に、エージェントアーキテクチャというものがあります。「世界を(センサー・身体で)感じて、考えて、(エフェクター・身体を通して)行動する」という考え方をして、世界と知能の間を情報が循環することで作られます。ここでいう身体とは場そのものです。センサーとエフェクターを持っているものならなんでもいいのです。池でも空気でも。

仮想空間×スマートシティ

次に、長井氏によるデジタルとリアルの融合を目指したワントゥーテンの取り組み事例と、三宅氏によるゲーム空間とAIの説明を踏まえて、スマートシティをテーマにディスカッションが行われました。

長井氏はスマートシティの説明を、三宅氏はゲームAIがスマートシティにどう応用されるかを話しました。

長井氏「これからは端末だけでなく、場や空間にAIが入り込む」

長井氏:AIというのは現在多くの人が使用しているスマートフォンなどみなさんの持っている個々の端末に使用されていますが、これからは「場・空間」にもAIが入り込んでいくと思っています。

スマートシティや都市OSというのが個々の端末とつながり、その中のエージェントが自律的に連携を取り合って、私たちの暮らしを豊かにすると考えています。これがマルチエージェントの時代と言われているものです。

「劇場版ソードアートオンライン」というアニメーション映画が少し前に公開されていましたが、そこに登場する人々がMRグラスをかけて街に出ると、現実空間に仮装のレイヤーが重なり、モンスターを倒したり、その得られた経験値でモノを買えたりするという世界が描かれています。こうしたこともスマートシティが進むとできるようになってくると私たちは考えています。

ワントゥーテンではこうした未来予想に基づいて技術を磨いているところです。

小澤:「劇場版ソードアートオンライン」の映像を観ていると、ゲームAIがリアル空間に染み出してくるようなニュアンスが強いと感じました。三宅さんいかがでしたでしょうか。

三宅氏: まさに今、これがデジタルゲームで起こっていることです。これまではスクリーンの前でゲームをやることが普通でしたが、今ではデジタルゲーム空間というのが現実の方にどんどん溶け出していこうとしている、と言えます。つまり、仮想空間が現実とつながってきているということです。

三宅氏「スマートシティ構想というのは街そのものの自動化・インテリジェント化をしようということ」

三宅氏:ロボットやキャラクターのAIというのは、身の回りをセンシングして自分の身体を動かしているものです。それが都市まで拡大すると、都市そのものがボディとなります。つまり、都市を監視して、情報を集めて、考えて、都市に影響を及ぼす知能を持つ都市がスマートシティです。スマートシティ構想というのは、街そのものを自動化して、インテリジェント化しようということです。

スマートシティには2種類あります。都市の情報を集めて提供しようという情報的なスマートシティと、先ほどから議論している存在的な話、つまり「都市を人工知能にする」という存在としてのスマートシティです。

後者の観点でAIを考えると、手はロボットやドローン、デジタルサイネージなどの端末で、目は都市のいたるところにあるセンサーと言えるでしょう。こうした全体の仕組みをスマートシティやメタAIと表現しています。

ゲームAIは、登場人物を動かすための「キャラクターAI」、ゲーム全体の流れを動的に制御するための「メタAI」、そして空間認識をサポートするための「スパーシャルAI」という3種類に大きく分類されます。

この3つのAIの仕組みを都市に応用すると、都市全体を監視・制御するAIがメタAI、そこからどんどん階層的になって最後にそれを実行するのがキャラクター AI、人間と協調する場合も多いです。そして、都市の位置情報や動的な変化を認知するのがスパーシャル AIです。

小澤:近年メタバースやデジタルツインが話題になりますが、つまるところ、今までゲームの中で作り上げた世界をどのように転用していくのかという考え方が重要になるということでしょうか。

三宅氏:そうですね。そこにゲームみたいなドラマがあってもなくてもいいし、世界を救わなくてもいいんです。ただ雑然とした世界があるという形がメタバースだと考えています。

今後の技術・ワントゥーテンの展望

小澤:今後のスマートシティは、さまざまなデータがどんどん蓄積され、いろんなAIが実装できるフェーズになっていくということでしょうか。

三宅氏:そのようになっていくと思います。ただ、「データサイエンスとしてのスマートシティ」と「存在としての人工知能」、この2つにはかなり違いがあると思っています。

アプローチとしては前者の方が多いです。ただ、自律的なシステムとして人間社会にアクティブに作用することを考えた時に、「人間とは何か」という観点が重要になり、後者についても深く考える必要があります。

スマートシティの中の人間とはなにかと考えると、それはエージェントです。いろんな人工知能やメタバースから見たときに、エージェントというのは人間のある側面を切り取ったものです。1人の人間がたくさんのエージェント=使い魔を携える時代が来ます。つまり1人に複数のエージェントが付いているというマルチエージェント・システムです。

そして、それぞれのエージェントは、そのエージェントが属する世界=場へのインターフェースになります。都市機能にアクセスしたい場合は都市エージェント、ゲーム空間にアクセスしたい場合はゲームエージェント、SNSに入りたい場合はSNSエージェントとなります。いわば、それらはその人の「人工知能付き分身」と言っていいでしょう。それぞれの世界で、人はエージェントとなってその世界で活動します。そして、人工知能が常にサポートします。人工知能は人間の知能の拡大装置として機能します。

長井氏:三宅さんがおっしゃるように、場の人工知能と、そこに参加するユーザーが持ってるスマートフォンとをどう融合するのかを考えなくてはいけませんし、このことを追求することでエンターテイメントは深みを持つと思います。

一方でまだまだ課題は多くありますので、これからも技術を深めて行っていかなくてはいけないと思っています。

おわりに

今回は「仮想と現実を越境した場に宿るAIの可能性」をテーマとしたセッションをレポートしました。

今後AIの発展や法の整備などが進めば、メタバースなど仮想空間でのビジネスや生活が現実となり私たち人間の体験は大きく変化するでしょう。

三宅氏がセッションの中で、「今のインターネット社会は生身の人間で傷つけあってる」と表現した一幕がありました。現代においてコミュニケーションの取り方は多様に存在し、人々の繋がり方も複雑なものになっています。互いにとって心地よいコミュニケーションがとれる社会の実現にもAIやXRの技術は大きく貢献すると考えられます。

空間と融合し、私たちに新たな体験をもたらす技術の進展に今後も注目です。

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