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2022.05.31

(DALL-E 2が登場した)昨今、産業としてのアートの死が記録された

最終更新日:

著者のNick Saraev氏はカナダ在住のアーティストでAI生成系アート作品を制作すると同時に、AI生成画像の制作と取引に関するサービス1SecondPaintingを運営しています(同氏の詳細は同氏公式サイトを参照)。同氏がMediumに投稿した記事『(DALL-E 2が登場した)昨今、産業としてのアートの死が記録された』では、DALL-E 2登場のアートビジネスへの影響が論じられています。

2022年3月16日、OpenAIはテキストから画像を生成する最新AIモデルDALL-E 2を発表しました。同モデルは、例えば「馬に乗った宇宙飛行士をフォトリアリスティックなスタイルで」と生成したい画像を説明するテキストを入力すると、テキストの意味に合致した画像を出力します。特筆すべきは出力される画像は1枚ではなく、さまざまな構図や画風の画像を複数枚出力することです。
DALL-E 2の性能に驚愕したSaraev氏は、顧客からの依頼によってアート作品を制作する商業アーティストは、近い将来、苦境に立たされるだろうと予想しています。そして、今までに自動化の波に襲われた労働者と同じように、商業アーティストは新たな収入源を確保しなければならなくなるだろう、とも述べています。
また、Saraev氏はAIによる仕事の代替は商業アートに限らずあらゆる業界で生じると考えており、今後は人間の労働を再考する必要があるだろう、と書いて記事を結んでいます。

なお、以下の記事本文はNick Saraev氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならびに組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。
以下の翻訳記事を作成するにあたっては、日本語の文章として読み易くするために、意訳やコンテクストを明確にするための補足を行っています。

最近になって、AIはほとんどすべての意味で人間のアーティストを決定的に凌駕するようになった。人間によるアート&デザインが崩れ去ろうとしている理由は以下に記す。

2022年3月6日、OpenAIは「自然言語による記述からリアルな画像やアートを作成できる新しいAIシステム」であるDALL-E 2を発表した。

この新しいAIシステムは、人間のアーティストと肩を並べるだけではない。ほとんどすべての意味で、人間よりも決定的に優れているのだ。このことを、私は軽々しく書いていない。

このモデルは何十万もの異なるアートスタイルにアクセスでき、文脈を鋭く理解し、人間なら数日あるいは何週間を要するような素晴らしい作品を15秒以内に作れるのだ。

動物とヘリコプターのキメラ:Aditya Ramesh制作

人間のアーティストを置き去りにする

以上は決して大げさな話ではない。私は誇張などしていない。アート&デザイン業界で働く私たちは、大きな圧迫を感じつつあるのだ。

DALL-E 2の登場は、現在の大多数のアーティストにとって、新しい仕事を探し始めるのをうながす警鐘となるに違いない。もしあなたがアート作品のコミッション(※訳註1)、ビジネスデザイン、イラストレーション、さらにはアニメーションなどを手がけているならば、市場におけるあなたの価値は急落するだろう。

(※訳註1)アート作品のコミッションとは、委託を受けてアート作品を制作すること。代表的なコミッションアート作品の事例は、自治体がランドマークとして設置するパブリックアート(公共空間に設置されたアート作品)がある。

DALL-E 2の論文から引用したロゴデザインのサンプル

(アート作品制作の)自動化が一気に人間を駆逐することはないため、「大きな瞬間」は訪れないだろう。自動化はゆっくりと、さまざまな要因を伴って進行する。今後数年間は、賃金の低下、期待生産量の増加、労働条件の悪化に着実に直面するだろう。産業革命の時代における工場労働者や、産業革命以降に自動化されたすべての産業の労働者にも同様のことが起こった(※訳註2)

(※訳註2)世界経済フォーラムが2020年9月に公開した記事『仕事と自動化の短い歴史』では、自動化された仕事に関する短いエピソードが紹介されている。紹介されているエピソードは以下の通り。

さまざまな時代における労働自動化に関するエピソード
  • 16世紀、イギリスの聖職者William Leeはストッキング生地を織る織機を発明した。彼はこの織機の特許を申請したが、エリザベス1世はストッキング生地職人が失業することを理由に織機の特許を却下した。しかし、この織機は後の織機開発の基礎を作った。
  • 産業革命が進行していた19世紀のイギリスでは、労働の機械化によって失業の恐れを感じた労働者たちが機械を破壊する「ラッダイト運動」を起こした。
  • 20世紀後半になると、自動車製造にも自動化の波が押し寄せた。イタリアの自動車メーカーFIATは、ロボットが同社の自動車ストラーダを製造する様子を収めた動画をテレビ広告として放送した。

ロボットハンドが絵を描くデジタルアートに関する画像

しかし、あなたがどのようなアート業界の流派に属していようと、最終的な結果は同じだろう。収入を得るために何か新しいことを準備しなければ、(良くも悪くも)人工知能がその決断をあなたに迫るだろう。確かに、私たちの経済システムはすぐには変わらない。その変化はアーティストがその変化を感じ取れない程度であり、すぐではない。

桁違いの大きさ

人工知能の進歩は直線的ではない。5年前、AIは64×64の線画に描くのに苦労していた。今やAIは、99%の人間が一生かかっても達成できないようなアート&デザインのクオリティを生み出せるようになった。

次のことを理解すべきだ。1年前と1年後の進歩の差は、2年分の科学的成長として考えるべきではない。むしろ10年分である。未来を予測するときには、複利の計算を処理する時と同じように、大きな指数関数的な要素を含めるべきなのだ。

しかし、この指数関数的な要素は、資産に対する利息ではなく、技術成長全体に対する高いそれを意味する。そして、より良い技術の成長はより速い資産の利息につながり、純粋な金銭的価値の話であれば、二重の複利効果をもたらす。

それではアートに関する技術的進歩の結果、何がもたらされるか。今日の骨董品と同じように扱われる「職人」市場を除けば、人間のアーティストの居場所はなくなるだろう。

技術的な品質

先代モデルと比較すると、DALL-E 2はライティング、構図、陰影、フォルム、スタイル表現を理解している。思いつく限りのあらゆるスタイルが可能で、異なるスタイルをユニークかつ魅力的な方法で組み合わせられる。フォトリアリズムなど、このモデルには児戯に等しい。

もしクリエイターが望めば、DALL-E 2はほぼ無限に近い種類の人間の顔や形をほぼすべての構成で作り出せるだろう。しかしOpenAIは、今日のロシアとウクライナの紛争で起こっている情報戦のようにDALL-Eが使われるのを最小限に抑えるため(※訳註3)、訓練セットから人間の顔を明確に削除した。むしろこのことが、DALL-E 2の威力を示す指標となっているに違いない。

(※訳註3)2022年に勃発したロシアのウクライナ侵攻では、AIを利用した情報戦の事例が多数報告されている。例えば、ウクライナ政府の戦略的コミュニケーションセンターは3月3日、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアへの降伏を発表するディープフェイク動画の存在について警告した。デジタルメディア会社The Daily Dot所属のライターMikael Thalen氏は、このディープフェイク動画を添付してツイートした。

またアメリカ大手メディアNBCは2月28日、FacebookとTwitterが反ウクライナ的な情報を発信するアカウントを削除したと報じた。NBCの記事を書いたBen Collins記者がツイートしたところによると、このアカウントのユーザはキエフ出身ブロガーVladimir Bondarenkoだったのだが、その顔画像はGANによって捏造されたものと考えられている。

未来の…すべて

今後、大きな転換期を迎えるのは、アートだけではない。すべての知識集約型産業はすでに大転換に向かうプレッシャーを感じているか、間もなくそうなるだろう。直感に反して、AIの進化はプログラミング、ライティング、メディア、デザインが真っ先に完全に人間が代替される産業であることを示している(※訳註4)。

(※訳註4)OpenAIのCEOであるSam Altmanは2021年6月14日、AIによる仕事の代替について以下のようにツイートした。

以上のツイートを和訳すると、以下のようになる。

予測:AIによる仕事の価格の下落は、物理的な世界で起こる仕事よりコンピュータの前で起こせる仕事のほうがはるかに速いだろう。

以上は(私を含む)ほとんどの人が予想していたこととは逆で、奇妙な効果をもたらすだろう。

AIによるライティングとプログラミングの代替に関しては、以下のAINOW翻訳記事も参照のこと。

AIがライターの脅威となる5つの理由
AIはプログラマーを代替するのか?
AIに馬鹿げたフェイクニュースを書いてもらってみた

Aditya Rameshによるエッシャーの螺旋階段の再創造

一般にロボット工学は、知識ベースのAIモデル開発に対して大きく遅れをとっている。人類のプログラミングプロジェクトの総体で人工知能を訓練することは、ロボットにドアの取っ手を直させるよりもはるかに簡単だ。コードはダウンロードして並べ替えられる単一モダリティのテキスト(単純)である一方で、ドアの取っ手を直すには、位置や物理学、時間の経過などを扱う必要がある(複雑)。

人間の意味

人工知能が私たちよりも何でもうまくこなす世界で、私たちはどのように生きる意味を見出すのだろうか。とりわけクリエイティビティ、アート、ストーリーテリングといった伝統的に人間の領域と思われてきたところでAIが人間を凌駕した時、人間に残された意味を見出せるだろうか。

人間の経済的生産性があらゆる面でAIにより矮小化された未来では、私たちの仕事はどのような位置を占めるのだろうか。現在認識されている意味での経済がなおも存在しているだろうか。

現在であれ今後数年であれ、私たちは皆、上記のような問いに答えを出そうとする必要があるだろう。アートはそうした問いかけが生じる縮図であり、社会が壁に書いたものの価値に気づくことを期待したい(※訳註5)。

(※訳註5)「社会が壁に書いたものの価値に気づくことを期待したい」という結びの一文は、正体不明のアーティストであるバンクシーを念頭に置いた文かも知れない。バンクシーが描く風刺画は、AIを使えば簡単にその作風を再現できる。しかし、バンクシーの風刺画の価値は、絵画を描くのに使われた技法や描いた内容にあるのではない。その価値は、「正体を明かしていないアーティストが何ら特別ではない街の壁に風刺画を描いた」という作品をめぐるコンテクストにある。こうしたコンテクストは、当分のあいだはAIによって生み出されないだろう。

原文
『Yesterday Marked the Death of Art as an Industry』

著者
Nick Saraev

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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