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「DX Criteria」とは、企業のDX推進度合いを診断できる評価システムであり、最近注目を集めています。
そこで、「DX Criteriaの活用法・活用例を知りたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では企業のDX推進に役立つ「DX Criteria」の概要や活用方法を詳しく解説します。
目次
DX Criteriaとは
「DX Criteria」は「DX基準」とも呼ばれ、日本CTO協会が企業のデジタル技術活用のために必要な要素を記したガイドラインを指します。
DX Criteria アセスメントシートは320項目(+8項目)の質問があります。こちらに回答することで、自社のDX進捗度を多角的かつ定量的に把握でき、自社の現状や強み・弱みを分析できます。
またDX Criteria アセスメントシートは無料で利用可能なため、余計なコストをかけたくない企業にもおすすめのツールです。
DX Criteriaの活用により、明確な基準に沿って自社のDX推進における強みや弱み、今後の課題を無料で発見できます。
▶DXの進め方についてはこちらの記事でより詳しく解説しています。>>
DX Criteriaにおける「2つのDX」とは
日本CTO協会は、「DX」という言葉を2つの意味で捉えています。1つは上述の通り、企業のデジタル変革を意味する「Digital Transformation」であり、もう1つは開発者体験「Developer eXperience」です。
「Developer eXperience」とはソフトウェア開発者にとって働きやすい環境と組織体系が形成されているかどうかを指すとしています。「Digital Transformation」と「Developer eXperience」はそれぞれ密接な関係にあり、欠かすことのできないものです。
従来「Developer eXperience」は外部委託されており、それにより開発におけるノウハウや、良い文化、育成評価方法などの文化的な資本の共有が困難になりました。これは企業のデジタル変革を妨げる最大の要因の一つです。
DX Criteriaはこの2つのDXを一体と捉え、DX推進において役立つ320個の習慣をリストアップしたものを指します。
日本CTO協会とは
そもそも日本CTO協会とは何でしょうか。
日本CTO協会とは2019年に設立された一般社団法人です。「テクノロジーによる自己変革を、日本社会のあたりまえに」という目標を掲げ、主に「DX企業の基準作成」「調査・レポート」「コミュニティ運営」「政策提言」などの活動をしています。
理事会メンバーには株式会社ミクシィ取締役や株式会社BuySell Technologies取締役CTOなど、ITの最先端に立つ人物で構成されています。
日本CTO協会は日本を世界最高水準の技術力国家にすることを目標として、デジタル化実現の為に活動する団体です。
参照:日本CTO協会、デジタルの日に自社のDX偏差値を10分で分析できる「DX Criteria簡易診断」リリース!デジタル化率と成長率を徹底分析「DX動向調査レポート」も一般公開
DX Criteriaの5つのテーマ
DX Criteriaは5つのテーマに分けられており、各テーマは8つのカテゴリーに細分化されています。さらに各カテゴリーには8つの項目が存在するため、5×8×8で全320項目のチェック構造となっています。
5つのテーマとは、チーム・システム・データ駆動・デザイン思考とそれらを支えるコーポレートを指します。
こちらの章では、5つのテーマとそれらが重要な理由、カテゴリーについて詳しく解説します。
チーム
DX Criteriaは、チームにおいて重要なポイントとして
- 十分に権限移譲された小さなチームであること
- 不確実なものと向き合う文化を持つこと
- 問題や課題を気軽に言い合え、解決していけるという確信が持てる人間関係
- 事実に基づいた観察と振り返り
の4つを挙げています。上記のポイントを達成するために必要な8つのカテゴリーは以下の通りです。
<チームのカテゴリー>
- チーム構成と権限委譲
- チームビルディング
- 心理的安全性
- タスクマネジメント
- 透明性ある目標管理
- 経験主義的な見積りと計画
- ふりかえり習慣
- バリューストリーム最適化
システム
DX Criteriaはソフトウェアをシンプルに保ち、ビジネス上の様々な要求に応えやすくするためには、開発者の活動を支援するための投資が必須だとしています。しかしそのような投資の必要性は往々にしてエンジニアや経営者以外には分かりづらいものです。
目に見えない投資の「見える化」をしながら改善していくことはとても重要だと述べられています。そのために必要なカテゴリーは以下の通りです。
<システムのカテゴリー>
- バージョン管理
- ソースコードの明確さ
- 継続的インテグレーション
- 継続的デプロイ
- API駆動開発
- 疎結合アーキテクチャ
- システムモニタリング
- セキュリティシフトレフト
データ駆動
DX Criteriaは企業経営においてデータの利活用は必須としています。しかし、「そもそもデータ取得ができない」「データのリテラシーが低くビジネスに活用できない」などの問題があります。
そうした問題を解決するために必要なカテゴリーは以下の通りです。
<データ駆動のカテゴリー>
- 顧客接点のデジタル化
- 事業活動データの収集
- データ蓄積・分析基盤
- データ処理パイプライン
- データ可視化とリテラシー
- 機械学習プロジェクト管理
- マーケティング自動化
- 自動的な意思決定
デザイン思考
デザイン思考は、新規事業を創造するのに必要なものです。自社都合でなく、利用者のニーズや価値観を正確に捉える必要があります。
DX Criteriaは、このようなプロセスにおいて、新規の事業創出をリードしていくプロダクトマネージャーやUI/UXデザイナーは、エンジニアやデータサイエンティストと並んで重要な職能人材としています。
そうしたデザイン思考において必要なカテゴリーは以下の通りです。
<デザイン思考のカテゴリー>
- ペルソナの設定
- 顧客体験
- ユーザーインタビュー
- デザインシステムの管理
- デザイン組織
- プロトタイピング
- ユーザビリティテスト
- プロダクトマネジメント
コーポレート
企業のデジタル化のためには、デジタル人材にとって働きやすく、既存の事業人材との競争や新規事業を実行しやすい環境の整備が必要不可欠です。
DX Criteriaはそれらを実現するためには、「風通しの良い組織」「開発者にとっての生産性が高い労働環境」「キャリアや自己実現を促進する仕組みや制度」が必要だとしています。
また、これらを推進していくためには経営陣のデジタル理解への努力と人材を巻き込んでいくためのコミットメントが何よりの原動力だと述べています。
コーポレートにおける必要なカテゴリーは以下の通りです。
<コーポレートのカテゴリー>
- スパン・オブ・コントロール
- 開発者環境投資
- コミュニケーションツール
- 人事制度・育成戦略
- デジタル人材採用戦略
- モダンなITサービスの活用
- 経営のデジタルファースト
- 攻めのセキュリティ
- リモートワーク
DX Criteriaの使い方
ここまで、DX Criteriaについて解説しました。しかし「具体的にDX Criteriaをどう使えばいいか分からない」という方もいらっしゃると思います。
こちらの章では、DX Criteriaの使い方や活用方法、使用時の注意事項などをご紹介します。
①アセスメントシートを記入
まずはアセスメントシートを記入する必要があります。1つのカテゴリにつき8問あり、「Yes」「But」「No」の3つから選択します。
それぞれ、「Yes」は1点、「No」が0点、「But」が0.5点として換算されます。ただし、アンチパターンの設問の場合評価が逆転します。
▶アセスメントシートをダウンロードする場合はこちらから。>>
参照:DX Criteriaの使い方_
② 可視化シートで結果分析
入力を終えてアセスメントシートの「可視化」シートを選択すると、各テーマごとに
・得点
・偏差値
・レイティング
・分類グラフ
が表示されます。実際の可視化シートは以下の通りです。
可視化シートの活用により、自社の強みや弱みが一目で把握できます。
その他の使い方
DX CriteriaはGoogle SpreadSheetをベースに作られています。しかしNotionやExcel版も用意されているので、「Google Spreadsheetへのアクセスが難しい」という方でも利用できます。
ただし、Google Spreadsheetのアセスメントシートに搭載されている全機能を利用できるわけではありません。
▶Excel版のダウンロードはこちら>>
▶Notion版のダウンロードはこちら>>
使用時の注意事項
日本CTO協会は、DX Criteriaを使用する際注意すべきことを4つ挙げています。内容は以下の通りです。
- 理解をせずに導入する/しない。
DX Criteriaの目的は、不確実な時代に必要な事業活動の競争力を得ることです。
一つ一つ実践しながら、体感的な理解を積み重ねていくことが重要です。
そのうえで、自社にあった適切な形を模索していくためのきっかけとしてご利用ください。
- 過度に数字を気にしてしまう
DX Criteriaでは、適切なメトリクスを測ることでより議論が明確化し、活発な改善と対話を促進していきたいと考えています。
しかし、これらを経営が一方的に数値目標としてしまうと、本来の価値を喪失してしまいます。
- 内容より結果に注目する
DX Criteriaは、高速な仮説検証をする組織が持つ習慣や文化・ケイパビリティに注目するものです。
そのため、すべての項目を満たせばよいというのではなく、自社の事業環境において
どこがボトルネックになっているかを判断した上でお使いください。
- 誰かを攻撃するのに使う
DX Criteriaは、基準を満たさない誰かを攻撃するためにつくられたものではありません。
これらの基準を通じて、ソフトウェア開発の見えない性質に対する理解が促進され、より発展した議論に導くためのものです。
DX Criteriaを活用した企業事例
上述の通り、DX Criteriaは自社のDX進捗度を客観的に測れるツールです。利便性が高いため、中小企業のみならず、大企業も利用しています。
こちらの章では、実際にDX Criteriaを活用した企業を3社ご紹介します。
①GMOペパボ株式会社
GMOペパボ株式会社は、ハンドメイドマーケット「minne」やレンタルサーバー「ロリポップ!」などのサービスを提供している企業です。
GMOペパボ株式会社は、各事業部と技術部においてDX Criteriaを実施しました。結果は、アンチパターンに対する対策やセキュリティ対策などは実施できている一方で、、メトリクスの計測やデータ活用の点数が低く、課題が浮き彫りになりました。
得られた結果を基に、今後特に注力する取り組みとしてメトリクス計測とデータ活用を挙げています。半年後や一年後にDX Criteriaを再実施して変化を追っていきたいと述べており、DX Criteriaを積極的に活用していこうという意思が見られました。
参照:Pepabo Tech Portal DX Criteriaの実践とその活用について
②株式会社富士通研究所
株式会社富士通研究所は、富士通グループの技術開発の中心組織です。
2つの開発チームで実施され、DX Criteriaの利用を通じて何が実施できていたのか、反対に何ができていなかったのかが明らかになりました。
例えば富士通研究所はセキュリティ規定の拡張や1on1などは実施できていましたが、振り返り習慣がない、掛け持ちが多いなどの課題も多く発見されました。
結果を基に、どのツールを用いて、どう実施すべきかまで落とし込んで、チームで改善策を議論しました。これは数値に捉われず現状把握のために使うべきというDX Criteriaの趣旨に合った行動です。
また、参加者の大半が「DXを実現していくために自分たちで何をやらないといけないか共通意識を持てた」と、述べています。
DX Criteriaは有名大企業の研究チームからも、高評価を受けたツールなのです。
③株式会社Finatextホールディングス
株式会社Finatextホールディングスはコミュニティ型株取引アプリ「STREAM(ストリーム)」などを開発・提供する会社です。
こちらの企業はDX Criteriaを2019年と2020年の2回実施しています。2019年の結果を基に具体的な改善策として、「非エンジニアに対しても解析環境を解放し、使い方をレクチャーする」「チームごとのオンボーディング体制の確立」などを実施しています。
結果的に2020年には青字の高評価部分が大幅に増え、自社の開発体制は大きく改善しました。
このようにDX Criteriaは長期的に活用することで、具体的な改善策の立案のみならず、過去の結果との比較が可能になります。
参照:Finatext DX Criteriaを使って開発体制の改善状況を振り返る
DX Criteria簡易診断もリリース
日本CTO協会は、DX Criteriaの簡易版として、DX Criteria簡易診断をリリースしました。DX Criteriaでは、分析のための入力事項は320にまで及び、回答に1時間ほどかかる場合もあります。
しかし簡易診断では、30項目に回答するだけで各テーマの偏差値を推定できます。回答時間も10分程度のため、忙しいチームや社員でも気軽に診断可能です。
開発担当者の広木氏は、「具体的なアクションにつなげていくには正規のDX Criteriaをご活用いただいた方が効果的ですが、まずは入り口として簡易版にチャレンジしていただけたらと考えています」と述べています。
▶DX Criteria簡易診断のダウンロードはこちらから。>>
参照:PR TIMES 日本CTO協会、デジタルの日に自社のDX偏差値を10分で分析できる「DX Criteria簡易診断」リリース!デジタル化率と成長率を徹底分析「DX動向調査レポート」も一般公開
DX Criteria以外のDX推進ツール
ここまで、DX Criteriaについて詳しく解説しました。しかしDXを推進するにあたり、役立つツールは他にもあります。
こちらの章では、DX推進に役立つ「プロダクトマネジメントクライテリア」について解説します。
プロダクトマネジメントクライテリアとは
プロダクトマネジメントクライテリアとは、企業のプロダクトを成功に導くために必要な要素が記載されたクライテリアを指します。こちらの基準は『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社刊)を基に、及川卓也氏、曽根原春樹氏、小城久美子氏によって作成されました。
プロダクトの成功には「ユーザー価値と事業収益がバランスを取りながら最大化している状態」「ビジョンが実現できている状態」が必要とし、この2つの要素を満たしたプロダクトの成功を実現するプロダクトマネジメントについて定義しています。
▶プロダクトマネジメントクライテリアはこちらからダウンロードできます。>>
プロダクトマネジメントクライテリアの使い方
プロダクトマネジメントクライテリアは、2つのテーマ、5つのカテゴリに分類されており、各カテゴリ5個、合計25個のチェックリストに回答する形式になっています。
ちなみに2つのテーマを「プロダクトをつくる仕事」「プロダクトチームをつくる仕事」と定義しており、5つのカテゴリを「明確なゴール設定」「豊かな仮説構築」「素早い仮説検証」「市場への提供」「プロダクト志向な組織」としています。
実際にプロダクトマネジメントクライテリアを利用した企業も多く、いずれの企業も高く評価しているため、プロダクトの現状把握にはおすすめのツールです。
参照:プロダクトマネジメントクライテリア – プロダクトをつくるチームのチェックリスト
DX基準を活用してDXを推進しよう
今回の記事では、DX Criteriaの特徴や活用方法、活用事例などを紹介しました。
DX Criteriaは自社のDX進捗度合いを測るのに最適なツールです。しかし、DX Criteriaを利用するだけでは、自社課題の解決には繋がりません。
DX CriteriaのようなDX基準を活用し、DXにおける方向性を明確にしたうえで、DXを推進するようにしましょう。
ぜひ今回の記事を参考に自社のDXを進めてみてください。