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2022.10.17

AI企業ニューラルポケットのCTOが語るスマートシティの今と未来

最終更新日:

近年、よく耳にするようになった「スマートシティ」という言葉。

内閣府も令和3年4月に「スマートシティガイドブック」を発表し、全国各地で実証実験を行うなど、今後ますます私たちの生活と切り離せない存在になることが予想されます。

しかしながら、スマートシティという言葉は知っていながら、実際にどのような取り組みが行われていて、私たちにどんな影響を与えるかについて知っている人は少ないのが現状です。

そこで今回は、スマートシティの具体的な施策やサービスを提供するニューラルポケット株式会社のCTO佐々木雄一氏に、スマートシティという言葉の定義やニューラルポケットの実際の取り組みなどを伺いました。

佐々木雄一氏: ニューラルポケット株式会社取締役CTO、理学博士。東京大学大学院理学系研究科で、素粒子物理学実験を専攻。CERNにて研究を行う。2014年、同大学院博士後期課程を卒業し、McKinsey&Companyへ入社。2017年に深層学習の受託研究を手掛けるスタートアップへ参画し、数多くのAI開発・導入を手掛ける。深層学習を用いたプロダクトを通して大きな社会インパクトを創出すべく2018年より現職。専門は高い汎化能力を持つ深層学習モデル開発とエッジ組み込み技術、それらを用いたスケーラブルなAIプロダクト開発。

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そもそもスマートシティとは何なのか

曖昧に捉えられがちな言葉

-佐々木さんはスマートシティという言葉をどのように捉えていますか。

スマートシティという言葉を訊く機会が非常に多くなってきました。ただ中身の議論が抜けていることが多く、一種バズワードのように使われるケースも多い印象は持っています。もちろん、中身の議論をしっかりしている方もいらっしゃいますが、社会実装に向けたアクションとは少し距離感が出てしまっているのではないかと感じます。

例えば、コンセプトレベルでの議論に注力してしまっているパターン。「街」というのは、土地・通信網・生活インフラ・交通網・生活者・コミュニティ・自治体など、数え切れないほどのレイヤーから構成されています。多くの切り口があるので、生活者を抜きにした議論が往々にして発生します。そうなってくると、市民生活がどのように豊かになるかということが想像しづらくなります。

IT企業がスマートシティを描くと、都市OSを完成像として描きがちです。もちろんスマートシティの欠かせない概念ではあるものの、そのシステムが作り上げられた後に、『私』の生活がどうなるんだろうという議論が後回しになったりすると、コンセプトが先行してしまったなと感じます。

その反省も踏まえて、一部の組織は実証実験を積極的に実施し、生活者への利便性を具体的に検証しています。ただ、実験で終わってしまいがちなところが少し残念です。

報告書は出るのですが、「その先に何をやるかということは、また次議論しましょう。」となる。大規模に拡大されないと、多くの生活者はその効果を実感できずに終わってしまいます。

なので生活者と事業者、両者の中間くらいの粒度感が大事だと思います。つまり事業を行う人自身も「『私』の生活はどう便利になるのだろう?」と自問することが大切だということです。自分の日常生活で、その効果が実感できると本気で思えたら、適切な粒度として合格だと思っています。

スマートシティという言葉の二つの定義

-その考えを踏まえた上で、ニューラルポケットが定めるスマートシティという言葉の定義を教えてください。

今述べたように、スマートシティのあるべき姿というのは定義が難しい問題です。私達も、創業以来スマートシティに携わっていたにも関わらず、腹落ちする言葉に落とせたのは実はごく最近です。多くのプロジェクト経験が溜まってきたので、そこからの学びを整理して、当社におけるスマートシティを2つの概念に集約しました。

それが「待ちのない街」「情報に出逢える街」というものです。

まず「待ちのない街」。これは、私たちの生活を便利で効率的なものにして、ストレス無く過ごせるようにするということです。スマートシティでは様々なデータを収集します。そのデータは集めて終わりでは意味がなくて、きちんと有効活用され、私達の生活を便利にするために使われるべきだと考えています。

例えば、大きな駐車場が混雑しているときに、ぐるぐる探して回るのは時間の無駄ですし、ストレスになります。係員が空いているところへ誘導してくれるところもありますが、それを防犯カメラの映像分析で自動化できたら、生活者の生活を効率化する本当の意味でのスマートな街づくりに繋がると思います。

次に「情報に出逢える街」なのですが、これには二つの意味が含まれています。

最近はスマホを使えば、生活を便利にする情報を手に入れることが可能です。Google Mapなどを使えば、出かける前に目的地の混雑度などが分かることもあります。ただ、情報が古かったり、精度が不確かだったりする上に、わざわざ検索するのも一手間かかるので、結局調べずに行くみたいなこともよくあります。

せっかく情報が世の中のどこかに存在していてもその恩恵を受けられず、便利さを享受できずに終わることも多いです。自分から調べないと便利にならないという構造ではなく、正確で信用できる情報がタイムリーに私たちの方へ飛び込んできてくれるようにすることが、本当の意味でスマートな街づくりになると思います。

「情報に出逢える街」に込めたもう一つの意味として、生活に楽しさを与えるエンターテインメント性のある情報を提供したいということがあります。

我々は「データ」と「情報」という言葉を区別して使っています。簡単に言うとデータはセンサによって取得された無機質なもの、情報は人間に見せるためのエンターテインメント性のあるものや有益なコンテンツとして捉えていて、その情報を提供することがスマートな街づくりに繋がると考えています。生活が楽しくなる街、それもスマートシティの大切な側面だと思います。

ニューラルポケットが取り組むスマートシティ

ユーザーの行動変容を直接促す

-定義を定めたうえで、実際にニューラルポケットが取り組んでいるサービスやプロジェクトを教えてください。

様々なサービスをやっていて、一つ例を挙げると「デジパーク」というサービスがあります。このサービスは、カメラに搭載したAIで駐車場の空きスペースを解析します。解析結果はリアルタイムでLEDディスプレイに表示されるので、車を運転している人はスムーズに駐車することが可能です。「待ちのない街」と「情報に出会える街」を分かりやすく体現しているプロダクトです。大規模商業施設のSMARK伊勢崎さんなどに導入いただき、活用いただいています。

認識対象を人間に変えたもので、「デジフロー」というサービスもあります。いわゆる人流計測ですが、多くの導入実績を踏まえてAI性能を改善していて、高い信頼性を誇ります。丸ビル・新丸ビルさんをはじめとした多くのお客様に導入をいただき、施設内を一層便利に楽しくするための施策検討に利用いただいています。これも一種、「待ちのない街」と「情報に出会える街」の実現を間接的に支援するものですね。

加えて、最近、液晶サイネージとLEDサイネージの2社をM&Aしました。なぜAI企業がサイネージ?とよく聞かれますが、それは「情報に出逢える街」の重要なピースであって、生活者の行動変容を促すための重要な接点だからです。そのような接点を持たないとAI企業が取得した情報は蓄積されるだけで終わってしまい、人々の生活を便利にすることに繋がりません。我々が描くスマートシティの実現に向けて、着々と事業を広げています。

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ニューラルポケットが誇る唯一無二のAI技術とサービス展開に迫る

スマートシティとエッジAIの親和性

ニューラルポケットの強みの一つとして、独自のエッジAI技術が挙げられます。

従来のクラウドAIは大規模サーバーでAI解析を行う必要がありましたが、エッジAIは端末に搭載されたチップでAI解析を行い、クラウド側は小規模サーバーで済むという特徴があります。

-スマートシティに取り組むにあたって、ニューラルポケット独自のエッジAIが欠かせないと思うのですが、スマートシティとエッジAIの親和性について教えてください。

スマートシティは私達の生活に密着したものになるため、プライバシーをどのように守っていくかということを皆さん気にされます。

そこで最適なのがエッジAIの技術です。カメラの横にエッジAI端末が付いていて、映像の分析はそこで行われます。分析された結果だけがテキストデータとしてクラウドにアップロードされ、映像データはその場で削除されます。顔画像などがアップロード・保存されないため、プライバシー的に安心です。

テキストデータも、例えばこの時間帯に人が5人通りましたというような抽象的なデータなので、個人を特定することができない仕組みになっています。これがエッジAIがスマートシティに最適である最大の理由です。

環境負荷軽減の観点もあります。実は、CO2排出でもエコなのがこのエッジAIです。映像をクラウドに送信する必要が無いため、通信機器で発生する電力の軽減に貢献します。

また、エッジデバイスが小さく、体積に比して表面積が大きいため、簡単なファンなどで冷却することができます。大規模サーバーなどが強力な冷房装置を必要とするのに比べて、電力削減に貢献します。

合計すると、クラウドと比較して消費電力を90%削減可能という試算もあり、大規模展開に適した画期的技術です。スマートシティは環境負荷軽減の文脈でも触れられることが多いですが、エッジAIはまさにその方針に沿ったものと言えます。

(注: “90%削減”の試算前提については、ニューラルポケット株式会社2021年第2四半期決算説明資料を参照)

エッジAI自体のセキュリティ面

-エッジAIがプライバシー保護に最適という話がありましたが、エッジAI自体のハッキングなどに対するセキュリティにも注力しているのでしょうか。

スマートシティにおけるエッジAIは、一種の社会インフラですので、セキュリティにも注力しています。セキュリティコンテストの世界大会で優勝した経験を持つメンバーが実際に検査を行っていたりですとか、海外のチームと共同でエッジAI向けのセキュリティソフトを開発したりしています。

これまでは、エッジAIに対する攻撃というのはあまりありませんでした。ハッカーもシェアの大きいものから順に攻めますので、オンプレ・クラウドなどがまず標的になってきた経緯があります。

今後は、全体的なシェアとして、エッジAIが急速に普及・拡大していくと見られています。そのため、エッジAI向けのセキュリティ対策も急務になってきます。比較的新しいセキュリティ分野ですし、攻撃の事例が出てしまうとスマートシティ全体のつまずきになりかねませんので、他の企業とも連携しつつオープンな議論を行なって、業界の知見を高めていこうと考えています。

今後の展望

海外でスマートシティの成長が見込まれる地域とは

-今後のスマートシティの展望を教えてください。

国内においては、スマートシティ自体が大きな波に乗りはじめたという実感があります。スーパーシティ、デジタル田園都市などと表現は変遷を辿りつつも、国として継続して後押しした効果が出てきたのかもしれません。弊社へのプロダクト導入、特に先程の駐車場ソリューションへの問い合わせも今年は非常に多くなり、明らかにフェーズが変わったことを肌で感じます。

海外については、一つ面白いデータがあります。今後スマートシティの成長マーケットは東南アジアになるだろうというデータです。

東南アジアでは、今何兆円というお金をかけて新しい街を作り上げる試みがいくつも進んでいます。スマートシティは、完成された街に導入するより、そういった街を作り上げていく中で同時に取り組んでいった方がスムーズに導入できますので、今後は東南アジアが一番活発な地域になってきます。

-ちなみにニューラルポケットはどのように海外に展開していますか

東南アジアへの足がかりとしてシンガポールに支店を持っています。ただ、コロナ禍で一時計画を停止していましたので、今あらためて展開の戦略を練っているところです。

ちなみに日本は、東南アジア展開において他国より有利な立場にあります。

米国においては、顔認証技術をGAFAが相次いで自主規制したことからも分かるように、市民の声が非常に大きいため、スマートシティのような試みをしづらい土壌があります。自国で実績を積めないので、当然海外にも出て来づらい。

欧州も一般データ規則(GDPR)などによって規制が厳しいため、スマートシティ化の実績が作りづらい。

中国はスマートシティにおいては先駆者ですが、地政学的な立ち位置がネックとなり、必ずしも全ての国で受け入れられない。

そのようなことを考えると、日本は相対的に有利な立ち位置にいることが分かると思います。日本で培ったスマートシティの実績を海外展開していくというのは、大変大きなポテンシャルを秘めているため、ニューラルポケットでも戦略の大きな軸として活動を進めています。

行動変容に繋げるための三つの要素とは

-最後に今後のニューラルポケットの展望を教えてください。

冒頭で述べたように、「待ちの無い街」「情報に出会える街」というキーワードを据えて、様々なAIプロダクトを送り出していきます。あくまで生活者主体で、「『私』の生活をどう便利にするか」という考えに軸足を置いて、スマートシティを形作っていきたいと思います。

それを実現するために欠かせないのは3つの要素です。

一つは、高い性能を持ったAI開発。これまでコンピューターでは取り扱うことが難しかった画像・音声・文章などの「非構造化データ」をAIによって、分析可能な「構造化データ」に変換することができるようになりました。このデータこそが、私達の生活を便利にするための分析に新しい切り口を与えてくれます。

二つ目は、データサイエンスを通した、役立つ情報の抽出。センサから取られた無機質なデータそのものを見ても価値はありませんが、「◯◯のお店はこのあと混むからすぐに行くべき」などと、行動を示唆するような形まで意味合いが抽出されていれば、それは大きな価値を持ちます。

三つ目は、生活者へ情報を届ける接点の拡大。データ分析によって明らかになった情報を、生活者のもとに届けることで、はじめて生活者の利便性へと繋がります。LEDサイネージなどを広く展開することでその接点を広げ、生活者に有用な情報が自然と目に飛び込んでくる状態を実現することが目標です。

ニューラルポケットは、これら3つの要素を足並みを揃えて構築していきます。生活者の行動変容までつながるスマートシティを実現し、「『私』が便利になる街」を実現することが我々のこれからの展望です。

まとめ

ニューラルポケットは、人流解析ソリューション「デジフロー」を2022年9月から新丸ビル・丸ビルに導入するなど、スマートシティを構成する様々な要素に取り組んでいます。

そしてそのニューラルポケットのCTOである佐々木氏は、あくまで私たちの生活がどのように変わるか、すなわち生活者目線のスマートシティづくりの重要性を強調しています。

私たちも自分の生活がどのように変わるのかという視点で、スマートシティやニューラルポケットの動向に注目していくことが今後ますます重要となってくるでしょう。

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