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2022.11.11

水インフラの魅力と厳しさ|Fracta Leapが目指す水不足の解決法に迫る

Fracta Leapは、2020年5月にFracta(米国・水道インフラ診断向けAI企業)の子会社として設立され、「水インフラの課題解決」と「個々のメンバーの挑戦と成長」に取り組んでいる会社です。2022年1月には「日本オープンイノベーション大賞※1」で環境大臣賞を受賞しており、注目の高さが伺えます。

世界の水ビジネスの市場規模は、Global Water Market 2017によると年々増加しており、2013年では約82兆円でしたが、2020年には100兆円を超えていて今後も増加が予測されています。しかし、日本は水ビジネスに取り組んでいる企業が少なく、ベンチャーやスタートアップも増えていないのが現状です。

今回は、Fracta LeapのCEOである北林 康弘氏とCTOである羽鳥 修平氏に、水インフラの魅力と、革新を生み出す大変さについてインタビューをしました。

※1 日本オープンイノベーション大賞:内閣府主催の取り組みで、日本のオープンイノベーションを推進するために、今後のロールモデルとして期待される先進性や独創性の高い取り組みが表彰されるものです。

北林康弘氏

戦略コンサル、企業再生、スタートアップ企業CFOなどを経て、Fracta(シリコンバレー発・水道劣化診断AI)に参画。Fracta米国オフィスでCFO、日本事業責任者を務めた後、2020年から日本でFracta Leapを設立し、同社の代表取締役に就任。

羽鳥修平氏

リクルートでデータ活用の新規開発案件(営業支援ツール、求人原稿自動生成など)に従事した後、Fractaに参画。Fracta日本オフィスの初期メンバーとして、日本オフィスの成長を牽引し、Fracta Leapの創設に貢献。

投資が進んでいないからこそ魅力がある|水インフラに挑む理由とは

ーー水のインフラ事業の魅力について教えてください。

羽鳥氏:水インフラの仕事は「だれかに求められた水を、安全に、安く届けたい」という声にコミットすることだと考えています。

ひとの暮らしを支えてきたシステムの歴史を学びながら、新たなアプローチを模索しつづけていますが、提案の白地があるので面白いです。

私たちはソフトウェア技術を併せて世界規模のインパクトがだせる領域を探しました。
水インフラは日本企業の技術力が認められていて、ソフトウェア投資が進んでいない領域です。海外でソフトウェア投資が進んでいる領域では、日本企業は海外企業に劣っています。しかし、ドメイン特有のノウハウが武器になる水インフラでは、海外でも勝機があると考えました。

また、地球規模では急激に人口が増えているため、水を安価に提供できる技術はこれまで以上に求められると思います。そのなかで、水処理プラントの次世代システムを考えることはとても興味深いことです。技術者の目線では、化学、生物、流体、電気、制御、機械などの幅広い科学技術が使われている世界なので、まさに科学の総合格闘技という感じがたまりません。

ーー水のインフラ事業のスタートアップが少ない理由はなぜでしょうか。

羽鳥氏:投資が進まない背景と同様で、3つのポイントがあると考えています。

1つ目は、水インフラの技術はすでに確立されていることです。そのため、新たな技術には従来の手法よりもコストメリットが要求されることになりますが、約20年間の間、要素技術に大きな変化が生まれていません。

2つ目に、なにかの検証には場所・費用・期間が必要になります。新しいアプローチを気軽に試せないことが、スタートアップの生存確率を下げる要因になります。

3つ目に、ドメイン外からのアプローチも簡単ではありません。例えば、データ解析からの発見を目指しても、欲しいデータがなければデータを集めることから始めることになります。

また、業界経験者が立ち上げたスタートアップが多い印象を持っています。ぼくらは業界未経験者の集まりですが、栗田工業とのパートナーシップがあり、最初からやり切る覚悟をもって取り組めたことは大きかったと思います。

北林氏:水に限らずインフラ領域は、「万が一があってはいけない領域」であることから、これまでと違うやり方、新しい技術に対して、他の業界と比べて、かなりのハードルや抵抗感があるように思います。

その意味で、スタートアップや中小企業が単体でやれることは自ずと限られてしまいます。その点、我々は、業界トップである栗田工業から全面的な協力が得られ、水処理の知見、データ、パイロットプラントなどが揃えられたことは非常に恵まれていると思います。

 

水インフラ×AIで水不足を解決!Fracta Leapの革新的なAIソリューション

ーー水インフラをどのように解決しようと考えていますか。

羽鳥氏:水不足の課題はすべての地域で一括りにできないものですが、例えば、オーストラリアのような先進国でも水不足が叫ばれています。当初は、水をつくる技術があるのになぜ水が足りなくなるのかと不思議に思いました。

これらに共通するのは、水処理技術を採用したシステムの費用対効果が合わないことにあります。Fracta Leapでは抜本的なコスト改善を目指して、2つのソリューション軸をもっています。

1つ目の軸が、プラント設計の自動化・最適化です。水処理プラントが設計されて工事が完了するまでのプロセスについて標準化や自動化を実現するためのソフトウェアを開発しています。設計業務に求められる専門性の水準を下げることや、作業計画を安全に立てることはプロセスの短縮につながり、初期費用を削減できます。

2つ目の軸が、プラント運転の最適化です。水処理プラントの生産能力を向上する運転アルゴリズムを開発しています。現代の水処理技術では、小さな不純物を除去するときに高価な装置を使用しています。水処理装置の処理性能を上げることができれば、点検や交換の費用を削減できます。

この事例として、RO膜装置※2を対象とした運転最適化ソリューションがあります。

 

※2 RO膜装置:ろ過膜の一種であり、水は透過して水以外の不純物は透過しないという性質を利用して、多くの水処理プラントで使用される。具体的には、海水の淡水化(飲料水化)、排水の再生、超純水(きわめて純度が高い精製水)の製造などで使用される。

北林氏:水処理業界の変革に向けて、プラントの設計や運転を対象としたAIアルゴリズムやソフトウェアだけでなく、例えば、そのデータ源としてのIoTセンサーの開発なども手掛けています。

普通のデータサイエンス企業であれば、データが足りなければその段階で諦めてしまうと思います。しかし、私たちはあえてそこで一歩踏み込んで、何故データ不足になっているのか、データを取得できる代替策はないのか、と模索を続けてきました。。大きな目的のためには、泥臭く手段を選ばず、ですね。

羽鳥氏:水処理プラントのデータ活用を進めるにあたって、欲しいデータを安価に取得する手段をつくることは重要です。原子力や石油化学などの工場と比較すると水処理の工場は事故発生時のリスクが小さいので、常時監視用のセンサーを設置せずに運転員さんが巡回点検で対応することが増えます。

他の工場で利用されているセンサーを設置しても費用対効果が出せないときは、安価なセンサーを自社開発しています。有効なデータを見極めることが、今後の取り組みでは重要になります。

RO膜のAI最適運転のソリューションは、アルゴリズムの結果を制御装置に指示することで処理性能が低下することを抑制します。従来の運転方法よりも平均的に処理性能が向上する場合には、膜本数の削減を実現できると考えています。

北林氏:現時点で実装されているAI運転最適化ソリューションは、主にRO膜が対象ですが、他の装置も含めて最適化した方が相乗効果が出るため、現在はその他装置向けのソリューションの開発を進めています。

ーー現在RO膜の最適化をしていますが、どのような課題がありましたか。

羽鳥氏:他の水処理装置に比べて消費電力が高いことです。

RO膜の消費電力が高い理由は、小さい孔を持つフィルターだからです。小さな孔を通った水はかなり不純物が除去されています。水を小さな孔に通すためには高い圧力をかける必要があり、高圧用ポンプを使用するので消費電力が高くなります。

また、除去された不純物はフィルターに残り、除去した量に応じてRO膜の処理性能が落ちていきます。一般的な運転管理方法では処理性能が閾値を下回ったときに薬品洗浄をしています。不純物が多い水を受け続けるRO膜では洗浄頻度が多いことが課題になります。

ーーRO膜の課題をどのように解決したんですか。

羽鳥氏:データ解析からある運転方法によって処理性能が回復する規則をみつけました。これにより、消費電力と洗浄回数を削減することができます。

ーー課題解決までに苦労したことはありますか。

北林氏:水処理でのAI開発は、純粋なデータサイエンスという側面だけではなく、水処理の現場理解や現象理解なども必要で、なかなかすぐに成果を上げることができませんでした。

発足から1年が経ち、ようやくRO膜向けの画期的なソリューションが生まれ、現在では、設計最適化・自動化ソリューションも順調に実用化が進んでいますが、正直、ここまでの道のりは平坦なものではありませんでした。

羽鳥氏:RO膜ソリューションを生み出すまでは、過去のデータ解析案件でもっとも苦戦して、データ解析者としての学びがありました。

ぼくは、未経験のインフラ分野でドメイン知識を学びながらデータ活用の提案をする仕事を経験しています。それまでは機械の設計図をみてから3ヶ月以内にソリューションの提案ができていました。しかし、今回のデータ解析では100個以上の検証事項が外れ続けて、半年間も示唆が得られない事態が起きました。

原因の一例ですが、装置の性能指標を解析するときは補正式が必要でした。現場の運転管理の方法や制御ロジックを理解して、データの挙動が詳細に想像できたときに、性能指標の計算式だけでは時系列で相対比較できる条件を満たさないことに気付いたのです。これが過去の検証結果を狂わせていた原因でした。

意図通りに解析を進めるために数値の扱いかたを把握しなければなりません。そして、成果を出すためには、自分自身で正しさを判断する自覚を持つことが重要なことでした。

おそらく優秀なエンジニアが集まれば同じプロセスを短期間で終えられたので、ドメイン知識を学ぶ/理解する姿勢を改めさせられた出来事です。これを経験して乗り越えられたことは、今後の会社の強みとして活かしていきます。

今後の展望

ーー今後の展望を教えてください。

北林氏:今年は、このRO膜向けのAI最適運転ソリューションの拡販を進めています。具体的な展開先としては、半導体・液晶などの超純水(きわめて純度が高い精製水)を必要とするプラント、海水を飲料水に浄化するプラントといったあたりが対象となりますが、いずれも水処理産業の中では特に成長市場と目される領域です。また、その中で、国内だけでなく、海外市場への展開も進めているところです。

並行して、水処理プラント設計の最適化・自動化ソリューションの実案件運用も進めています。こちらもまた、業界では前例がない画期的な仕上がりとなっていますので、是非今後のリリース等にご期待頂ければと思います。

羽鳥氏:水の課題を解決するために、何ができるのかを常に悩み続けて、何が必要なのかを考え続けていきます。
他の水処理装置に挑戦して、どんどん事例を作っていきたいと思います。

さいごに

水インフラは、世界の水不足問題を解決するのに重要な産業です。2017年のユニセフとWHOの報告書によると、自宅で安全な水を飲めない人々は21億人いるとされています。

水問題を扱う事業は、私たちの生活に不可欠な存在であり、人口が増えるにつれてますます重要になっていくでしょう。

今回は、水インフラを取り扱っているFractaLeapを取材しました。今後どのような技術を開発し、水インフラを支えていくのか注目です。

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