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2024.02.07

生成AIの業務利用が進まないのはナゼ?鍵を握るのは「生成AI リテラシー」

最終更新日:

OpenAI社が2022年11月にChatGPTを発表してから1年以上が経ちました。

このChatGPTをはじめとする生成AIは、ビジネスにも大きな影響を与えると連日ニュースでも大きく取り上げられました。しかしながら2023年、生成AIをビジネスに利用する動きは一部の企業で見られましたが、社会全体では大きく進んだとはいえません。

そこにはさまざまな要因が考えられますが、大きく二つが挙げられるでしょう。一つは企業側が生成AIの導入に消極的であること。そしてもう一つは従業員側が生成AI利用に消極的であることです。前者の解決方法はさまざまなところで論じられていますが、後者に関してはあまり議論が行われてきたとはいえません。

そこで本記事では、後者の従業員の生成AI利用が進まないことの要因や、企業・従業員目線それぞれから課題に対して行うべき施策をSHIFT AI代表の木内翔大氏へのインタビュー内容も交えながら論じていきます。

木内翔大:株式会社SHIFT AI代表、生成AI活用普及協会理事などを務める。1990年東京都多摩市生まれ。 小学5年生のときに担任の先生の一言でゲームプログラミングを始める。大学1年生でフリーランスエンジニアになり、複数のスタートアップで3年ほどWEBエンジニアを経験。「プログラミングで人生を変える」をコンセプトに2013年「SAMURAI ENGINEER」 という日本初のマンツーマン専門のオンラインプログラミングスクールで累計4万人の指導、多数のエンジニアを輩出。現在、日本のAIシフトを加速するため国内外のAI最新情報を発信しているXは約7万人のフォロワーを獲得している。

従業員の生成AI活用が普及していないのはなぜか

GMOリサーチが2023年10月に公開した調査結果によると、日本で生成AIを認知している人のうち、既に利用経験のある人は18.7%ということが明らかになりました。さらに、業務利用経験がある人については、わずか10.7%という結果が明らかになりました。

また、同調査結果では日本において生成AIを業務利用していない4割弱の人が、利用していない理由として「生成AIの利用方法がわからないから」と挙げています。

さらに、勤務する会社に対する生成AIの影響について「大きな脅威である」「脅威である」と考えるうちの約3割の人が、その理由として「安全性の問題」を挙げました。

したがって、これらの結果から2つのことが明らかとなりました。

まず1つ目は、日本において生成AIを業務に活用した人はおよそ10人に1人ほどであり、生成AIの業務活用が広まっているとはいえないこと。そして2つ目に、その理由として「生成AIの利用方法がわからないこと」や「生成AIの安全性に対する不安感」といった点が課題になっていることです。

木内氏は次のように語ります。

木内:これらの課題の解決には、従業員の『生成AIに関する最低限の知識』と『生成AIを活用しようとするマインドセット』、そして『標準的な生成AIスキル』から成る『生成AIリテラシー』が欠かせません。

これまであまり生成AI活用が進まなかったのは、従業員の生成AIリテラシーの不足が大きな要因としてあったため、2024年以降は必須の要素となるでしょう。

それでは、その「生成AIリテラシー」はどのようにして高めることができるのでしょうか。

生成AIのリテラシーとは

生成AIリテラシーの向上について考える前に、まずは「生成AIリテラシーとは何か」ということを理解しなければなりません。

生成AIリテラシーの定義

前提として「生成AIリテラシー」という語の明確な定義はまだありません。

しかし、「AIリテラシー」という語には「人工知能に関する知識・理解や人工知能に関する思考・判断力」や「AI に関する正しい情報や知識を入手し、情報・知識や AI 自体を適正かつ有用に使いこなす能力」といったいくつかの学術的な定義が存在します。

そしてそれぞれの「AIリテラシー」の定義を見ると、「AIに関する基本的な知識の理解」と「AIを適切に使いこなせるスキル」の2つの要素に分解できます。

そこで本記事における「生成AIリテラシー」も「生成AIにおける基本知識の理解」と「実務スキルの習得」から構成される概念のことと定義します。

生成AIのリテラシーの重要性;これからは生成リテラシーが重要になる

そしてこれからの社会では、その生成AIリテラシーの重要性がさらに高まります。

なぜなら、「生成AIの安全性に対する不安感」や「生成AIの利用方法がわからない」といった業務への生成AI活用における課題を解決するためには、「生成AIにおける基本知識の理解」や「実務スキルの習得」から構成される生成AIリテラシーを高めることが最適解なためです。

また、開発などの高度な生成AIスキルは生成AIリテラシーを高め、生成AIを業務で活用した後のフェーズで登場します。

PwCが発表した『生成AIに関する実態調査2023 秋』の中でも、「生成AI活用に求められているのは『高度なテクニカルスキル』ではなく『基本的なAIリテラシー』」と述べられています。このことからも、現段階の生成AI活用においては「生成AIリテラシー」を高めることが最優先事項といえるでしょう。

企業が従業員の生成AIリテラシーを高めるには

では一体、企業が従業員の生成AIリテラシーを高めるためにはどのような施策が必要なのでしょうか。

基礎知識と実務スキルのそれぞれを別の方法で高める

まず、アプローチの一つとして考えられるのは「基礎知識と実務スキルのそれぞれを別の方法で高める」という方法です。

基礎知識に関しては、外部のセミナーやワークショップを活用しながら、全従業員のレベルを底上げすることが有効的であるといえます。

実務スキルに関しては、文字通り「実務の中でプロンプトエンジニアリング力やAIツール活用力を高めてもらう」ことが有効的であるといえます。現在、さまざまな企業で作業効率化を実現するツールとしてChatGPTやChatGPTを利用した社内生成AIが導入され始めています。そしてその利用の際に、従業員に必要となるのが個々のプロンプトエンジニアリング力やAIツール活用力です。

特にプロンプトエンジニア力に関しては、生成AIを使う際に最適なプロンプトを入力することが最適な出力を得るために必要となるため、必須のスキルといえます。

このスキルに関しては、実際の業務に応じて試行錯誤しながら高めることが求められます。ただし、このプロンプト作成に関しては業務利用のハードルを高めてしまうとも考えられるため、最初はプロンプトのテンプレートを全社的に共有することも効果的でしょう。

ディップ株式会社では、200以上からなるプロンプトデータベースを全従業員に提供し、用途にあったプロンプトを検索できるような仕組みを導入することによって、生成AI利用のハードルを下げる取り組みを行っています。

組織づくりから入る

別のアプローチとして挙げられるのは「組織づくりから入る」という方法です。これは先ほどのような従業員の基礎知識と実務スキルの習得を社内の生成AIのリーダー人材が主導で進めていく方法です。

このリーダー人材の導入に関して、木内氏は次のように述べています。

木内:業務における生成AI活用を普及させるためには、社内のリーダー人材が欠かせません。この社内のリーダー人材には、単なる生成AIの活用方法を一般社員に教えることだけでなく、「どのようなプロセスで業務を自動化・効率化できるか」まで理解していることが求められます。

さらに、リーダー人材としてのマインドセットも教育する必要があるため、うまく外部の研修企業などを活用しながら、社内のリーダー人材を育成することが必要となるでしょう。

そして、それと並行して報酬を含めた評価制度の確立も必須となると考えています。コンテストや社内表彰を通じて、生成AI普及に貢献したリーダーや従業員に対しては、しっかりと査定に反映させていく土壌作りが欠かせないでしょう。

そしてこの「リーダー人材を組織に入れる」といった施策の成功事例としては、先ほど挙げたディップの「dip AI Force」というプロジェクトが挙げられます。

このプロジェクトは、ディップの営業・企画・開発等全ての部署にAI活用の教育を受けたアンバサダーを250名配置し、生成AIを含むAIの迅速な活用を進め、生産性の向上を目指す取り組みです。

AINOW編集長小澤は、ディップ社内における「生成AIの活用率は一時、8割を超える結果」となったと述べています。冒頭で述べた日本における生成AIを活用した人の割合が10.7%であったことを鑑みると、脅威的な数字であると言えるでしょう。

したがって、全社横断的に生成AI導入のリーダー人材を育成し、組織に配置することは現時点での業務における生成AI活用拡大の成功事例といえるでしょう。

また、このような組織づくりのプロジェクトには経営戦略や組織戦略が欠かせません。

木内氏も次のように述べています。

木内:まずは、経営陣が「生成AIが今後のゲームチェンジャーになること」を理解し、説得力を持ったメッセージによってプロジェクトを進めることが欠かせません。

その上で、最上段である経営戦略に生成AI導入の要素を組み込み、その下の組織戦略へ繋げる必要があると考えます。AIは今までの”Want”から”Must”に変わったため、必然的に経営戦略に入れ込んでいくことが求められているといえます。

組織戦略では、リーダー人材の育成や社内データとの繋ぎ込みといった現場に近い要素を組み込み、実際の業務への落とし込みを図るべきでしょう。

個人で生成AIリテラシーを高めるには

では一体、個人が自身の生成AIリテラシーを高めるためにはどのようなことをすればよいのでしょうか。

実際の活用事例を知り、業務へ落とし込んでみる

冒頭で生成AIを活用したことがない人のうち、およそ4割の人が「利用方法がわからないから」という理由を挙げたと紹介しました。したがって、まずは実際の活用事例を知ることが利用方法がわからないという最も大きな課題の解決につながるでしょう。

また、実際に業務で生成AIを使うためには、これまでの生成AIの活用事例を基に自身の業務のニーズに合った事例を知る必要があります。なぜなら、自身で1から生成AIの活用方法を考えるより、これまでの活用事例を基に業務へ落とし込む方が時間や労力を大幅に削減できるためです。

しかしながら、現状生成AIの活用事例がなかなか広まらないという課題が存在します。生成AIトピックのインフルエンサーでもある木内氏は次のように述べています。

木内:新しい生成AIツールや技術情報はSNSを通じて瞬時に広まる一方、具体的な生成AIの導入方法や成功事例は広まりにくいという実情があります。

そこで、生成AIの活用事例を広めるためのコミュニティやメディアを作りたいという思いからSHIFT AIを立ち上げました。SHIFT AIが運営するコミュニティでは法人レベルはもちろん、個人レベルで生成AIツールを活用して業務効率を上げられた方をお招きし、活用方法を共有する取り組みなども行っています。

SHIFT AI公式HP

生成AIパスポート試験を通じ、リテラシーを高める

生成AIパスポート試験とは、生成AI活用普及協会(GUGA)が運営する「AI初心者のために誕生した、生成AIリスクを予防する資格試験」です。資格を取得することで、AIに関する基礎知識、生成AIの簡易的な活用スキルを可視化することができます。

この生成AIパスポート試験では、AIを活用したコンテンツ生成の具体的な方法や事例に加え、企業のコンプライアンスに関わる個人情報保護、著作権侵害、商用利用可否といった注意点などが問われます。

したがって、この試験の学習を通じて、生成AIの基礎知識と実務スキルの両方を学ぶことができるため、生成AIリテラシーの向上に繋げられるでしょう。

また、企業の中で自身の生成AIリテラシーを示すための手段としても有効であるといえます。

生成AIパスポート公式HP

さまざまな生成AIツールを知り、実際に使ってみる

冒頭でも述べた通り、生成AIをすでに利用したことがある人の割合はわずか18.7%となっています。さらに、この数値は生成AIをすでに認知している人に聞いた割合であるため、認知しながらも使ったことのない人が8割以上もいるということになります。

リテラシーは、人から聞いたり学ぶだけなく、実際に使ってみることが習得にとって重要となります。

さらに、生成AIが登場する以前のAIは比較的利用する難易度が高いものでしたが、生成AIはインターネットに接続できれば誰でも利用することができます。

一番馴染み深いものであれば対話型AIの「ChatGPT」。話題の画像生成AIでは、「Stable Diffusion」や日本語で指示を出せるLINEの「AIイラストくん」などが挙げられます。

こうした誰でも使える生成AIの中から、自分の興味のあるツールを気軽に使うことが生成AIリテラシーを習得する第一歩となるでしょう。

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