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2024.07.29

AIを活用したCM制作の最前線|伊藤園が挑んだ日本初の取り組みとその成果

生成AIの発展により、多くの業界でAIの活用が進んでいます。中でも、注目を集めているトピックの1つが生成AIを活用したCM制作です。

今回は、日本で初めてAIタレントを起用してCMを制作した伊藤園の広告宣伝部の飯尾氏に、その背景や制作過程、成果などについて詳しくお話を伺いました。

飯尾 海(いいお うみ):マーケティング本部 広告宣伝部

AIタレントを起用した背景とCM制作の過程

伊藤園は2023年、業界に先駆けてAIタレントを起用したCMを制作しました。この革新的な取り組みの背景には、商品のコンセプトとAI技術の親和性がありました。

ーーなぜAIをCMのキャラクター制作に用いようと考えたのでしょうか?

飯尾氏:そもそも「お~いお茶 カテキン緑茶」を明るい未来のために「今」から飲んでほしいという思いがありました。

その思いを皆様にお伝えする際に、「現在の自分」と「約30年後の未来の自分」を表現する必要がありました。そして、両者が別人に見えないようにかつ素敵な歳の重ね方を表現するという課題があったため、生成AIタレントが最適な手段であると考えました。

ーーCM制作の過程で特に気を付けたことはありますか?

飯尾氏:特に気を付けたことは、人工的なイメージではなく、より人らしさや親近感のある方向性を目指したことです。

ーーキャラクターの制作過程はどのようなものだったのでしょうか?

飯尾氏:商品コンセプトをどう伝えるかを最優先に考えました。健康的、活動的、進歩的などの前向きなワードを人物像にしました。具体的には、初めに多くのAIタレントを生成し、そこから顔を選定して方向性を決めていきました。

その中で、パーツごとにそれぞれのワードを入れて、それぞれのパーツを組み合わせて作っていきました。髪の長さは長い方がいいのか、短い方がいいのか。雰囲気は綺麗めがいいのか、可愛めがいいのかなど、最終的には社員の意見を参考によりコンセプトに近しい顔を選定していきました。

AIタレントの制作からリリースまでは約5ヶ月かかりました。期間的には通常のCM制作にかかる長さとあまり変わりはありませんでした。

AIタレント起用のメリットとデメリット

AIタレントの起用には従来の人間のタレントを起用する場合と比べて、いくつかの特徴的なメリットとデメリットがあることがわかりました。

ーーAIタレントを起用することのメリットは何でしょうか?

飯尾氏:最大のメリットは、我々の目的に合わせたタレント像をピンポイントで描くことができるということです。実際のタレントさんをメイクして表現することもできますが、0ベースから顔を作ることで、制作側の理想的なイメージを作れるというのはメリットだと思います。

また、日程調整なども必要ないため、制作がスムーズに進行しやすいというのもメリットの1つだと思います。

ーーデメリットはありますか?

飯尾氏:実在のタレントさんとどちらを使うかを比較した時に、AIタレントは知名度が0からのスタートなので、そこはデメリットかもしれません。知らない方にとっては「誰だろう」という話にはなってしまいます。

ーーAIタレントの制作にかかるコストはどうでしたか?

飯尾氏:弊社もAIタレントを起用するのが初めてということもあり、制作会社に微修正などもお願いしておりましたので、今までとあまり変わっていないですね。

ーー制作する中で従来のCMと比べて特徴的だった点はありますか?

飯尾氏:細かい調整が多かったですね。例えば、「眉毛をもう1ミリ上げたい」とか「ファンデーションのトーンをちょっと上げたい」といったような、非常に細かいコミュニケーションが多くありました。これは、AIならではの特徴だと思います。

実際のタレントさんであればメイクや表情の微調整である程度対応できることも、AIの場合は全て細かく指示する必要があります。そのため、制作過程では非常に多くの調整を重ねました。

CM制作における代理店との連携と課題

AIタレントを起用したCM制作では、従来のCM制作とは異なる課題も浮かび上がりました。特に、代理店や制作会社とのコミュニケーションにおいて新たな工夫が必要でした。

ーー代理店さんとの認識合わせで難しかった点はありましたか?

飯尾氏:代理店さんとの認識合わせという点では、実はあまり難しい点はありませんでした。代理店さんは本当に弊社の味方で、常に弊社の立場に立って考えてくださいました。

むしろ難しかったのは、弊社が思っていることを制作会社さんの方にどう伝えるかというところでした。代理店さんには、その橋渡し役として尽力いただきました。

ーーAIタレントの制作において、特に苦労した点はありますか?

飯尾氏:どのようなAIタレントにすれば、商品のイメージに合っているのかという判断材料がキーワードのみであったため、具体的なイメージをお伝えするというところが難しかったです。

また、我々メーカー側にもう少しAIに関する知識があれば、どういう指示の仕方をしたらもう少し理想に近づくのかがわかったかもしれません。そういった意味で、AIに関する知識や経験が必要だなと感じました。

ーーAIタレントの活用にあたって、社内での反応はいかがでしたか?

飯尾氏:社内でもこのような取り組みは初めてだったので、多くの人が興味を持って関わってくれました。特に、AIタレントの顔を選ぶ過程では、会社中の人に意見を聞いて回りました。これは、従来のCM制作ではあまりない経験だったと思います。

また、AIを活用したCMを制作することで、社内でもAIへの関心が高まったように感じます。

CMの効果と今後の展望

AIタレントを起用したCMは、従来のCMとは異なる効果をもたらしました。特に、企業イメージの向上という点で大きな成果がありました。

ーーCMの効果はいかがでしたか?

飯尾氏:日経のブランドジャパンさんが今年3月に出したビジネスパーソン編の企業ブランドランキングで、今回29位にランクインしました。前の期は175位だったので、大きく順位が上がりました。

特に先進性の部分の偏差値が上がったことが評価されての順位上昇だったようです。

これは今回のCMの効果の一つではないかと考えています。企業としてのイメージ、特に先進性のイメージ向上につながったと思っています。

ーー売上への直接的な効果はありましたか?

飯尾氏:正直、飲料という商材の性質上、CMと売上の相関性を数字でしっかり示すのは普段から難しいところがあります。

今回も話題にしていただいた時期が、商品リニューアルやCM放映の時期とズレていたこともあり、売り場からなくなるなどの大きな売上の変化は見られませんでした。

ただ、メディアに多く露出いただいたことで、小売店などで商品を並べていただきやすくなったという営業の声もありました。

ーーAIタレントを起用したCMへの反響はいかがでしたか?

飯尾氏:予想以上の反響がありました。特に、様々な媒体のメディア様からの取材依頼を非常に多くいただきました。日本初のAIタレントを使ったCMということで、業界内外から大きな注目を集めました。

また、一般の消費者の方々からも多くの反応をいただきました。特に印象的だったのは、「伊藤園らしくないね」という声です。これは、私たちにとってはとても嬉しい言葉でした。新しいことに挑戦する企業というイメージを持っていただけたのではないかと思います。

ーー今後、AIタレントをどのように活用していく予定でしょうか?

飯尾氏:現時点で具体的な計画はありませんが、今回の経験を活かして、必要に応じて活用していきたいと考えています。

例えば、商品のコンセプトを表現する上でAIタレントが適している場合や、未来的なイメージを伝えたい場合などに、目的に合う場合は起用する可能性もあると思います。

ただし、AIタレントの活用は手段であって目的ではありません。あくまでも、商品やブランドのメッセージを効果的に伝えることが重要だと考えています。そのために、AIタレントが最適な選択肢である場合に活用していく方針です。

ーー最後に、今回のプロジェクトを通じて感じたことをお聞かせください。

飯尾氏:このプロジェクトを通じて、AIを使って創造的な作業を行う際の難しさと可能性を実感しました。例えば、AIに「健康的で活動的な顔」を作ってもらうときにどのようなプロンプト(指示)を与えれば良いのか、試行錯誤を重ねました。

また、新しい技術を取り入れることで企業イメージを大きく変えられる可能性も実感しました。今回のCMをきっかけに、伊藤園の印象が「新しいことに挑戦する企業」に変わったという声を多く聞きました。これは、ブランディングの観点からも非常に価値のある成果だと考えています。

今後も、技術の進歩に注目しつつ、それをどのように活用すれば消費者の皆様により良い価値を提供できるか、常に考えていきたいと思います。AIはあくまでツールの1つであり、それを使いこなす人間の創造性とビジョンが重要だということを、改めて認識しました。

さいごに

伊藤園のAIタレントを起用したCM制作は、広告のあり方に新たな可能性を示しました。AIの活用により、企業のイメージや商品コンセプトをより自由に、かつ効果的に表現できる可能性が広がったと言えるでしょう。

一方で、AIタレントの活用にはまだ課題も多く、特に消費者との関係性構築や売上への直接的な効果という点ではさらなる工夫が必要そうです。

今後、AIタレントがどのように進化し、広告業界にどのような変革をもたらすのか。伊藤園の挑戦は、その可能性と課題を明らかにした先駆的な事例として、大きな意義があったと言えるでしょう。

AIと人間の創造性が融合した新たな広告表現の時代は、まだ始まったばかりです。

執筆:上原大

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