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Anthropic社は、2021年に米国で設立され、高い技術力や設立の背景、目指す姿などから全世界に注目される新進気鋭のAIスタートアップ企業です。
大規模言語モデル「Claude」を使用した“Claude ai”は、Open AIのChatGPTやGoogleのGeminiをも上回る性能を持ちます。例えば、プレゼンテーション資料の作成、Webコンテンツの制作、アプリの開発なども行えることに加え、特に文章生成においては非常に高い性能を持つことで知られています。
今回はAnthropicの概要や事業内容を紹介しつつ、同社の特徴や動向について解説していきます。
目次
Anthropic社とは
企業概要
社名 | Anthropic |
設立 | 2021年 |
所在地 | サンフランシス、カリフォルニア州(本社) |
代表 | ダリオ・アモデイ(CEO) |
従業員数 | 630人 |
資金調達額 | 約80.5億ドル(2024年3月時点) |
沿革
2021年1月 | OpenAIの元従業員7名によって設立 |
2022年4月 | シリーズBラウンドとして5億8000万ドルの 資金調達を実施 |
2023年3月 | Claude 1をリリース |
2023年5月 | シリーズCラウンドとして4億5000万ドルの 資金調達を実施 |
2023年7月 | Claude 2をリリース |
2023年9月 | AmazonがAnthropicとの提携を発表し、 12.5億ドルを出資して少数株主に |
2023年10月 | GoogleがAnthropicに5億ドルを出資し、 さらに15億ドルの追加出資を約束 |
2024年3月 | Claude 3シリーズ(Opus、Sonnet、Haiku)をリリース Amazonがさらに27.5億ドルを追加出資し、累計40億ドル出資 |
2024年6月 | Claude 3.5 Sonnetをリリース |
Anthropic社の特徴
元OpenAIのメンバーが設立
Anthropicは、OpenAIの元社員によって立ち上げられたAIスタートアップ企業です。OpenAI社の幹部であったダリオ・アモデイ氏らが、同社のやり方や方針に異議を唱え、退社後に別の法人を設立した経緯がありますが、その詳細は明らかにされていません。
アモデイ氏がOpenAI時代にAIの安全性に関する研究に注力していたことと、Anthropicとして開発したAIの特徴を鑑みると、アモデイ氏とOpenAIの間には、AIの安全性に関して意見の相違があったと推測されています。
現在AnthropicはOpenAIのライバル企業とされていますが、そこには提供するサービスの性能面だけでなく、このような設立背景が関係しているのです。
異例のスピードでの資金調達
Anthropic社は、AI業界でも異例と言えるスピードと規模で資金調達を成功させています。2023年5月には、GoogleやSalesforceなどから約4億5千万ドルの投資を受けました。その後もアジアの通信会社2社から1億ドル、Amazonから40億ドル、さらにGoogleから20億ドルを追加で調達しました。
驚くべきことに、わずか1年の間に5回の資金調達を通じて、総額約73億ドル(約1兆768億円)という巨額の資金を調達することに成功しています。さらに、2024年3月にはMenlo Ventures社からも7億5千万ドルの投資がなされ、Anthropic社への投資の勢いは衰えを知りません。
このような短期間での大規模な資金調達の背景には、ユニークな契約内容も関係しています。一部の契約では、Anthropic社が投資企業の提供するチップやクラウドサービスを利用することで、調達資金が投資家に還元される仕組みが盛り込まれています。
Anthropic社の資金調達の規模は、2023年のOpenAIに次ぐものと言われており、多くの有力企業がAnthropic社に大きな期待を寄せていることがうかがえます。AI技術の急速な発展と競争の激化を背景に、Anthropic社の異例とも言える資金調達は、AI業界における同社の重要性と将来性を示す指標となっています。
倫理と安全性を重視したAI開発
Anthropicは、AIの倫理と安全性を重要視して開発を行っています。多くのAI企業が性能や機能の向上に主眼を置く中、Anthropicは「どのようなAIを作るべきか」という根本的な問いに真摯に向き合っており、特に以下の点が特徴となっています。
1,明確な倫理的目標
- 人の役に立つこと
- 無害であること
- 誠実であること
これらの目標を掲げ、文脈理解力が高く倫理的な応答を生成するAIの開発に注力しています。
2,Constitutional AI(憲法AI)の導入
- AIモデルに倫理原則を「憲法」として学習させ、それを遵守するよう強化学習を実施
- 自己監査機能を持ち、出力が倫理原則に違反していないかをチェック
- 敵対的な質問に対しても適切(無害)な応答を返すよう設計
3,包括的な倫理基準
- Anthropic独自の原則に加え、国連世界人権宣言やアップルの利用規約など、外部情報源も参考に倫理原則を構築
4,悪用防止メカニズム
- 虐待的、欺瞞的、または誤解を招くコンテンツの生成要求にはフラグを付け、回答を拒否する仕組みを実装
5,画像生成機能の意図的な除外
- ディープフェイク、著作権侵害、プライバシー侵害などの倫理的リスクを回避するため、画像生成機能を提供していない
これらのアプローチは、急速に進化するAI技術に対する社会的懸念に応える責任ある開発姿勢として評価されています。
Anthropic社の事業内容
Anthropicの主な事業は、大規模言語モデル(LLM)の研究開発と、それを活用したAIアシスタントの提供です。同社の代表的なプロダクトとしては、大規模言語モデル「Claude」が挙げられます。
Claude
Claudeは、Anthropicが開発した大規模言語モデルです。Claudeはモデル規模に応じて、“Opus(大規模な高性能型)”、“Sonnet(処理速度と性能のバランス型)”、“Haiku(処理速度の早いコンパクト型)”の3つがあり、ChatGPTやGeminiなどの他の生成AIチャットモデルと同様に、テキスト生成やユーザーとの会話が可能です。
Anthropicの「Constitutional AI」アプローチにより、より安全で倫理的な対話が可能となっています。
Claudeの代表的な特徴
Claudeの特徴として、以下の3点があげられます。
- 日本語で人間らしい自然な文章が生成できる
- 画像認識能力が高い
- 多くの文字数(トークン)を処理できる
日本語で人間らしい自然な文章が生成できる
Claudeは日本語での文章生成において他の生成AIモデルに比べ、「自然な文章が生成できる」と言われています。
人間が書いたものと区別がつかないほど自然で流暢な日本語文章を生成することができ、今まで生成AIを活用して日本語力に課題を感じていた場合は、Claudeを試してみる価値があるでしょう。
人間らしい自然な日本語の生成は、Claudeの大きな特徴の一つとして評価されています。特に、メディアやSNSなど、文章をそのまま使いたいケースで大きな長所となります。
画像認識能力が高い
Claude 3.5 Sonnetは、最先端の画像認識技術を駆使して、画像の細部まで高精度に解析する能力を持っています。複雑な視覚情報を正確に理解し、例えば不完全な画像からのテキスト認識、グラフデータの分析などで優れたパフォーマンスを発揮します。また、科学的図表の解釈テストでは94.7%という高い正答率を記録しており、図表から情報を読み取る能力が高くなっています。
このAIモデルは、前モデルと比較して約2倍の処理速度を実現しており、複雑な視覚情報を含む大規模なデータセットでも高速な分析が可能です。例えば、小売業では商品画像から自動的に特徴を抽出してカタログ作成を効率化したり、物流業では荷物のラベルや伝票を瞬時に読み取って仕分け作業を自動化したりすることが可能となり、企業の生産性向上に貢献します。
また、ビジネスレポートの分析、学術論文のレビュー、医療画像の初期スクリーニングなど、高度な視覚情報処理が求められる場面での活用が期待されています。
多くの文字数(トークン)を処理できる
Claudeは、膨大なテキストデータを全体的に正確に理解し、その内容をもとに回答を生成することが得意です。Claudeは最大20万トークン(日本語で約15万文字)ものテキストを読み込むことができます。これにより、小説やレポート、研究論文など、文章量が多く内容が複雑なテキストであっても、内容を理解し重要なポイントを抽出できます。
また、Claudeは要約しつつも抽出したトピックに関して、より深みのある情報を関連づけて言及する傾向があります。情報を省略して短いレポートにする傾向も少なめで、多めの文字数を指定してもきっちりと言及してくれます。
Anthropic社の最新の動向
Claude 3.5 Sonnetのリリース
2024年6月21日、AnthropicはClaudeの生成AIモデル最新バージョンとなる「Claude 3.5 Sonnet」をリリースしました。このモデルは前モデルのClaude 3 Opusに比べて処理速度が2倍に向上し、多くの分野でGPT-4oやGemini 1.5 Proを上回る性能を発揮します。特に、日本語対応が改善され、より自然な会話が可能です。
この新モデルの最も注目すべき特徴は、「Artifacts(アーティファクト)」と呼ばれる革新的な機能です。
Artifacts機能は、AIとの対話中に視覚的なコンテンツをリアルタイムで生成し、即座に表示・編集できるユーザーエクスペリエンスを最大化する新たな機能です。この機能により、ユーザーはClaude 3.5 Sonnetとのやり取りを通じて、様々な種類のコンテンツを効率的に作成し管理することが可能になりました。
Claude 3.5 Sonnetのartifacts機能を活用することで、以下のようなコンテンツの生成が可能になります
- コードスニペット
- テキストドキュメント
- ウェブサイトデザイン
- マーメイド図(フローチャートやシーケンス図)
- ベクターグラフィック(SVG形式の画像)
- 簡単なゲーム(JavaScriptベースのミニゲームなど)
- Webサイトのプロトタイプ(HTML/CSSベースのUI)
- フローチャート(業務プロセスや意思決定フローなど)
- アニメーション動画
これにより、プレゼンテーション資料の作成、Webコンテンツの制作、アプリの開発などが驚くほど簡単に行えるようになりました。従来、Claudeとのやり取りは主にテキストベースで行われてきましたが、Artifactsによって、より視覚的でインタラクティブな共同作業環境が実現します。Claude 3.5 Sonnetは、仕事を共に行う頼もしい相棒へと進化を遂げつつあるのです。
プロンプトキャッシング機能を公開
2024年8月14日、AnthropicはClaudeにおいて「プロンプトキャッシング」を公開しました。この機能は、AIが過去の会話や指示を記憶し、次回からより速く効率的に対応できるようにする技術です。
プロンプトキャッシングの主な特徴は以下の通りです
- 長い会話の記憶
AIが会話の文脈を覚えていて、スムーズなやり取りを続けられます。 - 大量の情報の即座の活用
長い文章や多くの画像を一度に覚え、必要な情報をすぐに引き出せます。 - 複雑な指示の簡単な実行
一度詳しく説明した作業手順を覚えておき、次回からは簡単な指示で実行できます。
この機能の導入により、コスト削減と応答速度向上という大きなメリットがもたらされます。Anthropicによると、コストは最大90%削減され、応答速度は最大85%向上するとのことです。
具体的な効果例として、長い文章の内容を即座に理解し質問に答える時間が11.5秒から2.4秒に短縮されたり、複数のターンにわたる会話の文脈を理解する時間が10秒から2.5秒に短縮されたりしています。
プロンプトキャッシングの適用分野は多岐にわたり、対話型AI、コーディング支援、文書処理、カスタマーサポートなどで活用が期待されています。
現在Claude 3.5 SonnetとClaude 3 Haikuで利用可能であり、Claude 3 Opusも近日対応予定となっています。
さいごに
Anthropic社は、AI技術の発展と倫理的な利用の両立を目指す独自のアプローチで、急速に成長を遂げています。同社のConstitutional AIや高度なAIアシスタント「Claude」は、業界に新たな基準を示すものとなっています。
特に、安全性と倫理性を重視する姿勢は、AI技術に対する社会的信頼の構築に大きく貢献しています。また、長期的な視点での研究開発や、オープンな知見の共有は、AI業界全体の健全な発展を促進する役割を果たしています。
今後、AI技術がさらに社会に浸透していく中で、Anthropicのような倫理的なアプローチを取る企業の重要性は一層高まっていくでしょう。同社の動向は、AI業界の未来を占う上で重要な指標となることは間違いありません。
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