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2019.10.03

シンギュラリティとは? – 肯定的な意見から否定的な意見まで紹介

最終更新日:

AI技術が発展し、画像認識や音声認識、テキストの分析などが可能になり、技術的なブレークスルーが起きました。同時に、AIが人類の知能を超えてしまうシンギュラリティ(技術的特異点)に注目が集まっています。

AI技術が、さらに進化を遂げた未来では、AIが人類の知能を超え、指数関数的に進化し、その進化の速度が予測できなくなると言われています。そのAIが人類を超えるポイントが「シンギュラリティ(技術的特異点)」です。

今回は、シンギュラリティが具体的にどんな理論なのかを紹介し、私たちにどんな影響を与えるのか考察していきます。

シンギュラリティとは

シンギュラリティの概要

シンギュラリティは、「AIが人間の知能を超える転換点」のことを指し、日本語では「技術的特異点」と訳されます。アメリカの未来学者レイ・カーツワイル氏が2005年に提唱したことで広く知られるようになりました。

シンギュラリティの到来は、「仕事を奪われる」「AIに支配される」というマイナスイメージが定着しつつあることから、近年大きな注目を集めています。

シンギュラリティはいつ起こるのか

シンギュラリティがいつ起こるのかについては、日々激論が繰り広げられています。

現在、一般的にシンギュラリティは1. 2年後に起きるというのは考えにくいとされています。

それは、人間の知能を超えた人工知能を作るのは非常に難しいからです。

では、いつ非常に高度な技術が必要とされるシンギュラリティが起こるのでしょうか。

当然、予測なので当たるかはわかりません。しかし、とても注目されているため、様々な考察や憶測が飛んでいます。

そこで、ここではシンギュラリティに深くかかわる「レイ・カーツワイルの説」と「ヴァーナー・ヴィンジ氏」を紹介します。

レイ・カーツワイルの説

レイ・カーツワイルの説は、シンギュラリティが2045年に来るというものです。この説は、2005年に提唱されました。

レイ・カーツワイル氏は、シンギュラリティを世界的に有名な言葉にした未来科学者です。

シンギュラリティという言葉が広まり、仕事がなくなるのではないかという不安と、AIによりどのような世界になるのかという期待が世界中に広まりました。

2045年問題とは何か?理論・根拠・反論まで>>

ヴァーナー・ヴィンジ

ヴァーナー・ヴィンジ氏は、数学者で、1993年に著書「The Coming Technological Singularity」で、「30年以内に技術的に人間を超える知能が作られる」という文言を記していました。

この文言が、シンギュラリティという概念が最初に定義された時だといわれています。

彼も、また、シンギュラリティは近い将来確実ではないが、起こりうると考えています。

シンギュラリティ到来の根拠

一般的に、シンギュラリティは、確実ではないが、高確率で来るといわれています。

しかし、どうして、そのようなことが言えるのか疑問に思いませんか?

人間の知能を超えるということは、AIが人間のように感情をもち、人間のようにコミュニケーションを取ることです。

上記のように全く想像できないような未来を根拠なしに納得するのは、少し無理があるように感じます。

そこで、ここでは、シンギュラリティの根拠とされている「ムーアの法則」と「収穫加速の法則」を紹介します。

ムーアの法則

ムーアの法則は、18か月で集積度が2倍になるという法則です。

集積度が2倍になるというのは、半導体の面積あたりにおけるトランジスタの量が2倍になることです。

また、大雑把に説明すると、トランジスタは電気の流れをコントロールする部品です。これの数が増えると、より精密に電気の流れをコントロールできます。

簡単にいうと、ムーアの法則は18か月で半導体の性能が2倍上がるという法則であると言えます。

このムーアの法則はもともと予測でした。しかし、実際にこの説に沿って、半導体の生産量と性能が2倍になっていたことから法則と呼ばれるようになりました。

そのため、ムーアの法則に従えば年々半導体の性能が上がるため、シンギュラリティが近いのではないかという結論が出せるわけです。

ちなみに、ムーアの法則の終焉という話も最近出ているので、興味があったら調べてみるのもいいかもしれません。

収穫加速の法則

収穫加速の法則とは、技術の進化スピードがどんどん速くなっていくため、人類の進歩にかかる時間が徐々に減っていくという法則です。

この法則が成り立つ理由は、進化したものをまた次の進化のために使うからです。

少し、わかりにくいかもしれませんが、木造の家の建築を想像してください。

現在は、木を斧で切るのではなくチェーンソーで切るため、以前より早く切れます。

それにより、家を建てるペースが上がるので、新しいアイデアの家が、斧を使っていた時より早くなります。

これはつまり、進化が以前よりスピードアップしたということです。

このように、進化がまた新たな進化のスピードが上がるので、シンギュラリティも近いのではと言われています。

AINOW編集部作成

シンギュラリティに対する識者の意見

シンギュラリティが起こると主張する人物

孫正義

ソフトバンク創業者の孫正義氏はSoftBank World 2018基調講演で、シンギュラリティの到来について以下のように主張しました。

シンギュラリティはもう一つのビッグバンです。一言で言うと、人工知能の叡智が人間の叡智を超えます。人工知能=超知性が生まれることで、さらゆる産業が再定義されるようになります。まさにシンギュラリティは人類史上最大の革命です。

▼関連記事

スティーヴン・ホーキング

イギリスの宇宙物理学者スティーヴン・ホーキング氏も、シンギュラリティの到来を主張した人物の一人です。2017年に開催された「G-Summit Tokyo 2017」にて、彼は以下のように語っています。

文明によって得られるものはすべて人間の知能の産物ですが、「生物学的な脳によって達成できること」「コンピューターによって達成できること」との間には大きな違いはないと私は考えています。

したがって理論上コンピューターは人間の知能を模倣し、凌駕できるということになります。

イーロン・マスク

テスラ社やSpace X社の共同設立者・CEOとして知られるイーロンマスク氏は、シンギュラリティについて強い危機感を抱く人物で、「AIは核兵器よりも危険かもしれない」とツイートしています。

また彼は、2019年に上海で開催された「World Artificial Intelligence Conference」にて以下のように語りました。

AIによって、仕事はやや無意味なものになるだろう。おそらく、最後に残る仕事はAIソフトウェアの開発で、いずれはAIが自らのソフトウェアを開発するようになるだろう。

シンギュラリティが起こらないと主張する人物

三宅陽一郎

哲学やゲームAIの専門家である三宅陽一郎氏は、AINOWの取材で以下のような理由により、シンギュラリティの理論は崩れていると主張しています。

今われわれは自分の目で世界を認識しているから、たかだか100メートルぐらいしかわからないけれど、将来的には地球全体をいつでも見れるようになるかもしれません。シンギュラリティの意味は、人の拡張によって薄れていきます。

そうすると、人工知能の見え方も変わってくると思います。生身の人間と人工知能を比較したら、やはり脅威でしかありません。でも人間はヒューマンオーグメンテーションによって進化すると考えれば、テクノロジーが宿るのは人工知能側だけでなく、身体側(人間側)にもくるということですね。

▼参考記事

新井紀子

数学者の新井紀子氏もAIが人間を超えることには懐疑的です。

「真の意味でのAI」が人間と同等の知能を得るためには、私たちの脳が、意識無意識を問わず認識していることをすべて計算可能な数式に置き換えることができる、ということを意味します。しかし、今のところ、数字で数式に置き換えることができるのは、論理的に言えること、統計的に言えること、確率的に言えることの3つだけです。

出典:新井紀子.『AIvs教科書が読めないこどもたち』東洋経済新報社.2018.p164

シンギュラリティが起こるとどうなるのか

限界費用ゼロ社会の到来

シンギュラリティが到来すると、限界費用ゼロ社会が実現するかもしれません。

限界費用ゼロ社会とは、文字通り限界費用がゼロの社会のことを指すのですが、そもそも限界費用とは何なのでしょうか。

限界費用とは、「生産1単位あたりにかかる費用のこと」です。ここからは、パン屋を例にして詳しく限界費用を説明します。

例えば、パン屋を開くのに賃料が100万円かかるとします。また、パンを1つを作る材料費が50円かかるとしましょう。

お店を開いて、パンを2個作った場合の総費用は、

「賃料100万円+(材料費50円×2)=100万100円」です。

この後、パンを10個作ろうが100個作ろうが、賃料は固定費用なので変わりません。変わるのは材料費だけです。

では、ここでもう1つパンを作るとしましょう。プラスで50円かかりますよね。

その50円が限界費用です。

50円=生産1単位あたりにかかる費用」だからです。

限界費用がどんなものか分かったでしょうか?

多くの場合、これに人件費、運送費、売り手の利益などの費用が上乗せされます。その結果、本来50円のパンが100円で売られるということになるのです。

ところが、シンギュラリティが起こり、以下の条件が揃ったらどうなるでしょう。

  • 小麦粉が機械によって自動生産される
  • ロボットが自動でパンを製造する
  • 自動運転トラックで材料を運搬する
  • レジや接客をロボットが行う

この場合、人間が何もしなくてもパンの材料の小麦粉が手に入るため、パン屋の限界費用がゼロになることはもちろん、運送費や人件費、売り手の利益などの費用もゼロになります。

かかるのは、家賃や光熱費などの固定費のみです。

つまりシンギュラリティが起こった場合、パンは限りなくゼロに近い価格で販売されるかもしれません。

また、今回例に出したパン以外にも、野菜や洋服、食器などさまざまな物の限界費用がゼロになり得るため、それらの商品も無料に近い価格で提供される可能性があります。

ストレスが少ない社会の到来

またシンギュラリティが起こると、人々の悩みや不安が減り、ストレスの溜まりにくい社会が到来するかもしれません。

例えば、掃除を全て行ってくれる全自動片付けロボットができれば、家事の手間が省けますし、高精度の自動運転が普及すれば、渋滞にハマることなくスムーズに目的地まで行けるようになります。

家事や渋滞は人々のストレスになり得ることですが、シンギュラリティの到来によって、これらの問題は解決されるでしょう。

また、先ほど述べたように様々なものが無料に近い価格で提供されることで、ほとんど働かなくても食べ物に困らない生活が送れるようになる可能性があります。

そうなった場合、人々の貧富格差が無くなったり、エンタメを楽しむ時間が増えたりするため、人々は将来に不安を抱きにくくなり、楽でストレスのない生活を送れるようになるかもしれません。

科学技術の無限発展

どんなことでもこなせる汎用人工知能ができれば、AIが自ら仮説を設定し、それを検証するというプロセスを高速で回せることになります。

つまり、全て汎用人工知能に任せてしまえば、人間が手を加えずともAIが勝手に科学を発展させてくれるということです。

もはやAIの計算能力が早すぎるあまり、あっという間に科学技術が発展してしまうという仮説が立てられています。

引用:AIは人間最後の発明になる? 「シンギュラリティ」が現実になる日は来るのか?

シンギュラリティは本当に起こるのか

シンギュラリティが起こる可能性

シンギュラリティは本当に起こるのでしょうか。まずはシンギュラリティが起きる可能性を考えてみましょう。

進化の速度は無限大

前述の通り、収穫獲得の法則でAIは指数関数的に進化するという仮説があります。

AIの進化が指数関数的に進むと仮定すると、ある点でその進化の速度は無限大に達します。その場合、少なくとも2045年にはAIが人類の知能を上回り、もはや人間が予測できない域に達する可能性も十分にあるでしょう。

すでに一部の分野でシンギュリティは起こっている

一般的にシンギュラリティは、「AIが人間の知能を超える転換点」のことを指します。

シンギュラリティは2045年に起こると予測されていますが、すでに一部分でAIは人間の知能を超えているとも言えるでしょう。

例えば、囲碁や将棋などのボードゲームでは、AIがトップクラスのプロ棋士に勝利しました。また、医療分野のガンなどの画像診断では、AIが医師の精度を上回った事例もあります。

しかし、これらのAIは全て決まった作業をするためのAI(特化型AI)で、人間そのものを超えているわけではありません。

もし今後、なんでもこなせる汎用人工知能が登場すれば、シンギュラリティ到来の可能性はさらに高まるでしょう。

シンギュラリティが起こらない可能性

ここまでシンギュラリティが起こる可能性に着目してきました。ここからは、シンギュラリティが起こらない可能性も考察してみましょう。

性能の限界

そもそも、汎用的で万能なAIの原理がわかっていません。

人間の知能は部分的に見るとディープラーニングなどのAI技術と比べて劣っています。しかし、人間はあらゆる事象に臨機応変に対応することが可能です。

一方で、人工知能のように、1つの知能で何もかも、全てを圧倒的なレベルでこなすには、大量の記憶容量や膨大な計算パワーが必要になります。

あらゆることに柔軟な知能を実現するためには、逆にひとつひとつの性能を下げるしかないという考えもあります。このような性能の限界があるため、人工知能が無限に進化していくのは考えづらくなっています。

メタファーの力があまりにも弱い

人間は、経験が少なくても過去の経験から未知のことを想像して行動することが可能です。物事を抽象的に捉えて行動するメタファー(比喩・たとえ)の能力が人間にはあります。

今、進化が進んでいるAIは大量の経験(データ)を基にして、帰納的に物事を判断しています。そのため、AIは少ない経験(データ)から物事を想像する能力がありません。

人間は1を知って10を知ることができますが、AIは100のデータから1つのことを抽出します。つまり、人とAIは知能の方向が逆というわけです。

コラム:なぜAIのメタファーの力は弱いのか

AIには身体がありません。人間は身体(感覚器官)を通して常に現実世界を認識し、無意識でも常に予測と判断を繰り返しています。

しかし、AIには身体がないため、自分の体の規模感がわからず現実世界を主体的に捉えることが難しくなってしまいます。そうするとメタファーの力を発揮することができません。

生物固有のあり方を押し通すからこそ、万能な知能が生まれると捉えることができます。AIは世界を構成できず、メタファーの力を使うことができないのです。

そのため、人間は人工知能の身体を持たない認識の世界を確定できないのです。AIの世界をうまく把握できなくなってしまいます。

シンギュラリティを想起させる世界の実例

現在、人間より優れた能力を持っている機械が増えつづけています。当然、これまでも人間より優れた能力をもった機械はありました。

例えば、人間より重いものが持てる機械や、速く走れる機械、長く走れる機械、空を飛べる機械、休まず働ける機械などがあります。

これらの機械は、人間の肉体的な能力より、優れています。

しかし、最近は肉体的な能力だけでなく、知能的な能力と並びかけているもの、さらには上回っているものも登場してきています。

この事実は、シンギュラリティが近づいていることを示唆しているのかもしれません。

そんな機械の中で、有名なものを紹介します。

今回は、以下の3つを紹介したいと思います。

AlphaGO

最初に紹介するのは、AlphaGOです。AlphaGOは、Google傘下のDeepMind社によって開発された囲碁プログラムです。

そして、AlphaGOは、2015年にプロの囲碁棋士に勝利し、2019年には、世界最強と言われている棋士に勝利しました。

現在、人間は囲碁でAIに勝つことは不可能と言われています。

頭を使った能力でも人間を超えるという例として、AlphaGOは世界を驚かせました。

AI同士の会話

次に紹介するのは、AI同士の会話です。

皆さんは、AI同士で会話が成立したら、凄いと思いませんか?この、AI同士の会話が可能であるかを試す実験がコロンビア大学でなされました。

結果としては、少しちぐはぐではありますが、話はかみ合っていました。

また、コロンビア大学の実験では、片方のAIが最後に「体が欲しいです」と言って、終わりました。このことも含め、AIが意思をもっているのではないかという、疑念が生まれるようなシーンがありました。

Alexa(アレクサ)

最後は、皆さんにとって身近な機械、Alexaです。Alexaは、Amazonが開発した、AI音声認識サービスです。

amzonprimeに入っている方は、持っていると思われるAlexaですが、皆さんも知っている通り、十数年前では、考えられないような機能が備わっています。

たった十数年で、Alexaのような機械が家庭に普及しました。

これは、人間に近い知能をもったAIが家庭に普及するのも、すぐ近い未来かもしれません。

シンギュラリティが起こったとき、私たちはどうすれば良いのか

シンギュラリティは、人類に大きな影響を与えると予測されています。そのため、シンギュラリティが起こった場合、私たちはどうすればいいか分からず不安になるかもしれません。

しかし、人間は適応能力に長けています。たとえシンギュラリティで世の中が大きく変化しても、人間がその変化に対応できる可能性は十分あります。

つまり、「何もしなくていい」ということです。

例えば、10年前には誰もスマートフォンなど持っていませんでしたが、今や国民の8割がスマートフォンを所持し、それを当たり前のように使いこなしています。

参考:総務省|令和元年版 情報通信機器の保有状況

また、新型コロナウイルスの影響で一気に在宅勤務や、オンライン授業が始まりましたが、比較的早い段階でリモート生活に慣れた方も多いはずです。

このように、人間は意識して努力しなくても自然と状況に適応していくことができます。シンギュラリティの到来もこれらと同様、変化に自然と適応して、何もかもAIに頼るのが当たり前の時代が来るかもしれません。

まとめ

今回は、「シンギュラリティ」について解説しました。

シンギュラリティの到来は、「仕事を奪われる」「AIに支配される」というマイナスイメージが定着しつつあります。しかし、シンギュラリティの到来で人間の生活が豊かになる可能性が高いのも事実です。

今後、私たちがもっとAIに関心を向け、AIの知識をキャッチアップしていけば、シンギュラリティが起こったとき、よりスムーズに変化に適応できるかもしれません。

また、偏った報道や議論内容を鵜呑みにすることなく、AIのポテンシャルと、その限界に関する情報を認識し続けることが大切です。

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