NVIDIA(エヌビディア)社は、グラフィックス処理装置(GPU)の開発から始まり、現在ではAI・深層学習、データセンター、自動運転など幅広い分野で革新的な技術を提供する世界的な半導体企業です。同社の技術は、ゲーミングからAI研究、産業のデジタル化まで、現代のコンピューティングの中核を担っています。
今回は、NVIDIAの概要や事業内容を紹介しつつ、同社の特徴や最新の動向について解説していきます。
目次
NVIDIA社とは
企業概要
社名 | NVIDIA Corporation |
設立 | 1993年4月 |
所在地 | アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララ |
代表 | ジェンスン・フアン (社長兼CEO) |
従業員数 | 約29,600人(2024年9月時点) |
時価総額 | 2.93兆ドル(2024年9月時点) |
沿革
1993年4月 | ジェンスン・フアン、クリス・マラコウスキー、カーティス・プリエム によって創立 |
1999年 | グラフィックスプロセッシングユニット (GPU)として GeForce 256を発売 |
2006年 | GPUを一般的な計算に利用するためのプラットフォーム CUDAを発表 |
2008年 | ARMベースのシステムオンチップ(SoC)であるTegraを発表し、モバイルデバイス向けの市場に参入 |
2012年 | AlexNetというディープラーニングモデルが大きな成功を収め、 AI業界での存在感を高める |
2018年 | リアルタイム レイ トレーシングが可能な初の GPU、 NVIDIA RTX™ でコンピューター グラフィックスを刷新 |
2019年 | データセンター向けのネットワーキング技術を強化するため、Mellanox Technologiesを70億ドルで買収 |
2020年 | AIとデータセンター向けに最適化された Ampereアーキテクチャを発表 |
2022年 | 仮想コラボレーションとリアルタイムシミュレーションのためのオープン プラットフォーム、NVIDIA Omniverse™を発表 |
2024年 | アメリカ企業として史上3番目の時価総額が2兆ドル突破 |
NVIDIA社の事業内容
NVIDIAは、主に以下の2つの事業セグメントを通じて幅広い市場に製品を提供しています。
1. コンピューティングとネットワーキングセグメント
このセグメントは、データセンター、自動車、AI、ネットワーキングに関連する製品とサービスを提供しています。
- データセンターGPU:NVIDIAのデータセンターGPUは、AIのトレーニングや推論、高性能コンピューティング(HPC)に最適化されています。これにより、データセンターの運用効率を向上させ、クラウドサービスの需要に応えています。
- NVIDIA DGX プラットフォーム:エンタープライズAI向けにゼロから構築された、AI ソフトウェアと特定用途向けのハードウェアを統合した、AI 開発のための包括的ソリューションです。
- NVIDIA DRIVE:自動運転車両向けのプラットフォームで、リアルタイムシミュレーションやデータ処理を可能にします。
- NVIDIA AI Enterprise:企業向けのAIソフトウェアスイートで、AI開発を支援するためのツール群を提供しています。
- Blackwellプラットフォーム:最新のAI向けGPUで、アクセラレーテッド コンピューティングのための 6 つの革新的なテクノロジを備えています。
2. グラフィックスセグメント
このセグメントは、主にゲーミングやプロフェッショナルビジュアライゼーション向けの製品を提供しています。
- NVIDIA RTX:プロフェッショナルなビジュアライゼーション向けの高性能グラフィックスカードで、リアルなグラフィックスを実現します。
- GeForce RTXシリーズ:ゲーマーやクリエイター向けの高性能GPUで、速さが特徴です。
- NVIDIA Omniverse:メタバースアプリケーションを構築し、運用するためのプラットフォームで、仮想コラボレーションやデジタルツインの効率性を提供します.
NVIDIAは、これらの製品を通じて、ゲーム、データセンター、自動車市場など、さまざまな分野において技術革新を推進しています。これにより、同社はAIやクラウドサービスの需要増加に対応し、業界内での地位を強化しています。
AIブームとともに、一気に世界トップ企業へ
NVIDIAの時価総額が急騰した理由
NVIDIAは2024年6月18日、時価総額がMicrosoft(マイクロソフト)を抜いて世界首位となったことで、日本でも一躍話題となりました。では、なぜ世界首位になるまで時価総額が一気に急騰したのか。その理由は「NVIDIA抜きにしては、生成AIを開発できないから」です。これは一体どういうことなのか解説していきます。
NVIDIA抜きにしては、生成AIを開発できないというのは、言い換えると「生成AI開発にGPUが必要」ということです。2012年にNVIDIAのGPUを使って学習をした「AlexNet」が画像認識AIのコンテストで優勝し、「ディープラーニングにGPUが使える」ということが広く知れ渡りました。
プロセッサにはGPUのほかにCPU(中央演算処理装置)があり、CPUは連続的な計算が得意で、幅広いタスクに適しており全体の制御をする役割をしています。一方GPUは特定のタスクのために膨大な量の行列計算を高速で行い、大量のデータを並列処理できるという特徴があります。ディープラーニングには、実装のために大量のデータをインプットする必要があり、大量の行列計算が得意なGPUが向いていたのです。
また、生成AIの基盤となる大規模言語モデルの開発では、大規模のデータを大規模な計算量で学習させればさせるほど性能があがります。現在、各社競い合って大規模言語モデルのアップデートのため開発を進めているので、GPUの需要が急激に高まっているのです。また、NVIDIAのGPUシェア率は約8割と言われています。
NVIDIAのGPUが選ばれるワケ
生成AIの開発にGPUが必須だということはわかりましたが、ではなぜNVIDIAのGPUが選ばれているのでしょうか。その理由は「充実したエコシステムの構築」と「業界をリードする技術の開発」にあります。
NVIDIAは単にハードウェアを提供するだけでなく、ソフトウェア開発キット(SDK)やライブラリ、フレームワークなども提供しています。これにより、開発者やリサーチャーがNVIDIA製品を効率的に活用できる環境を整えています。
主なツール:
- CUDA(並列コンピューティングプラットフォーム)
- TensorRT(深層学習推論の最適化ライブラリ)
- RAPIDS(データサイエンス向けGPUアクセラレーションライブラリ)
CUDAは2006年の発表以来、並列コンピューティングのデファクトスタンダードとなっています。現在、CUDAは300以上のライブラリ、600以上のAIモデル、多数のSDK、3,700以上のGPUアクセラレーションアプリケーションをサポートしており、5,300万回以上ダウンロードされています。
この成功により、500万人以上の開発者、40,000社以上の企業、数千の生成AI企業を含む、活気あるエコシステムが形成されています。
また、AIや機械学習向けに最適化されたTensorコアを搭載するなど、常に業界をリードする技術を生み出しています。最新のBlackwellアーキテクチャは、AIトレーニングとリアルタイムの大規模言語モデル推論において、最大10兆パラメータまでのモデルに対応可能です。これにより、AIの処理能力と効率性が大幅に向上し、企業や研究機関がより高度なAIアプリケーションを開発できるようになりました。
このように、ユーザーが使いやすい環境と常にアップデートし続けている技術がNVIDIAを今の地位に築かせたのです。
NVIDIA社の最新の動向
時価総額世界首位に
2024年6月18日、NVIDIAの時価総額が世界首位に躍り出ました。約11年ぶりに「GAFAM」と呼ばれる巨大テック企業以外が首位に立つ出来事となりました。生成AIへの対応で企業の株価は明暗を分けており、AIが促した首位交代と言え、インターネット以来とも言われるイノベーションが企業の序列に地殻変動を引き起こしています。NVIDIAの時価総額は約3兆3340億ドル(526兆円)に達し、MicrosoftとAppleを超えました。この1年で時価総額が3.1倍に膨らみ、6月には史上3社目となる「時価総額3兆ドルクラブ」入りを果たしています。
8月28日には、2024年5〜7月期決算の発表が行われ、今後の時価総額や株価の争点としては「次世代GPUの出荷遅れ」と「AI投資の熱がいつまで続くか」があげられています。
次世代GPU「Blackwell」はもともと2024年の第3四半期に量産開始を予定していたが、第4四半期にずれ込む見通しであり、ジェンスン・フアンCEOは「(次世代GPUの設計)変更は、すでに完了」しており、第4四半期には数十億ドルの売り上げを期待できると語っています。
また、生成AIサービスの収益化のめどが立っていない中で、AI投資への熱がいつまで続くかに関して、業界アナリストらは「AIが世界経済を刷新するとの見通しが実現されるには程遠く、膨大なバリュエーションを正当化するのは困難だ」や「テクノロジー以外の企業からのAIサービス需要が増加し始めない限り、AIへの支出は正当化されないだろう」という発言をしており、今後の動向が注目されています。
サカナAIに出資&包括連携
NVIDIAは2024年9月4日、日本の生成AI開発スタートアップ「Sakana AI」(サカナAI)に出資することを発表しました。この出資は数十億円規模に及ぶとみられています。
Sakana AIは2023年に設立された新興企業で、グーグルで生成AIの研究開発を行っていたメンバーらが東京で立ち上げました。同社は電力消費が少なく低コストなAIの開発を目指しており、その社名は一つの生き物のように動く魚群に由来しています。今回の提携により、Sakana AIはNVIDIAから資金面での支援を受けるだけでなく、研究開発においても協力関係を築くことになります。調達した資金は、人材獲得や新たなAIモデルの開発に投じられる予定です。
NVIDIA側にとっては、日本発の独自技術を持つSakana AIを囲い込む狙いがあるとみられています。エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、この提携が技術発展だけでなく、日本での活動強化にもつながることへの期待を示しています。
Sakana AIの伊藤錬最高執行責任者は、「NVIDIAと組むことで日本で世界級のAIのリサーチラボを作りたい。日本の特性を生かした研究開発を行っていく」と抱負を語っています。世界的にAI開発競争が激化する中、大手企業による新興企業の囲い込みが活発化しています。この提携は、日本のAI技術の発展と国際競争力の向上につながる可能性があり、今後の展開が注目されます。
さいごに
NVIDIAは、GPUの開発から始まり、現在ではAIと産業革命の中心に位置する企業へと進化を遂げました。同社の技術は、ゲーミングからAI研究、自動運転、ロボティクスまで、幅広い分野で革新をもたらしています。
特に、AIと深層学習の分野におけるNVIDIAの貢献は計り知れません。同社のGPUとソフトウェアプラットフォームは、AI研究と応用の基盤となっており、多くの企業や研究機関がNVIDIAの技術を活用してイノベーションを推進しています。
今後、AIがさらに社会に浸透していく中で、NVIDIAの重要性はますます高まっていくでしょう。同社の動向は、AI業界の未来を占う上で重要な指標となることは間違いありません。
The Playersシリーズでは、AI関連の企業にフォーカスした記事を書いています。さまざまなAI企業を比較することで、成功するAI関連企業の法則が見えてくるかもしれません。引き続き、注目の企業を紹介していきますので、ご期待ください。
大学では広告や広報について学んでいます。
サッカーは見るのもやるのも好きです。
AIの知識を深め、わかりやすい記事をお届けしていきたいと思います!