
問い合わせ対応や経費精算、議事録作成といった定型業務に追われ、AIエージェントで業務を自動化できないかと考えている担当者は多いでしょう。
AIエージェントとは、目的を伝えるだけで自ら計画・実行するAIであり、従来のRPAでは対応しきれなかった非定型業務まで自動化の範囲を広げられます。生成AIやRPAとの違い、具体的な使い分け方は本記事で詳しく解説します。
導入の勘所を押さえずに始めると、期待した効果が出ないまま社内での評価を下げてしまいかねません。逆に自社の業務に合った範囲から着手すれば、限られた人員でも生産性を底上げできます。
本記事では、AIエージェントとRPA・生成AIとの違い、自動化できる業務の具体例、企業の導入事例を中心に解説します。
読み進めることで、自社のどの業務から着手すべきかを判断できるようになります。
目次
AIエージェントによる業務自動化とは
AIエージェントとは、与えられた目標に対して自ら計画を立て、情報収集や作業を実行するAIシステムです。理解を深めるために、生成AIとチャットボットとの違いを整理します。
- 生成AIとの違い
- チャットボットとの違い
違いを押さえると、自社のどの業務にAIエージェントを使うべきかが判断しやすくなります。
生成AIとの違い
生成AIは指示に対して都度回答を生成するのに対し、AIエージェントは目標達成までの一連のタスクを自ら計画して実行する点が異なります。
ChatGPTのような生成AIは1回の対話で完結する一問一答型です。一方でAIエージェントは、複数の生成AI呼び出しやツール操作を連鎖させ、人の介在なしにタスクを完了まで進められます。
たとえば「今月の経費データを集計してレポートを作成して」と指示すると、生成AIは書き方の例を提示するだけです。AIエージェントはデータ抽出・集計・レポート作成までを一貫して実行します。
この違いを理解すると、単純な質問応答で十分な業務と、一連の作業ごと任せたい業務を切り分けて自動化の対象を選べるようになります。
チャットボットとの違い
チャットボットが用意されたシナリオに沿って応答するのに対し、AIエージェントは状況に応じて対応方法自体を判断します。
従来型チャットボットは分岐ルールやFAQデータベースの範囲でしか回答できず、想定外の質問には対応できません。AIエージェントは文脈を理解し、必要に応じて外部システムを呼び出して回答を組み立てます。
問い合わせ対応で例えると、チャットボットは登録済みのQ&Aから最も近い回答を返すだけです。AIエージェントは注文システムを照会したうえで、状況に応じた個別の回答を生成します。
この違いを踏まえると、シナリオ化できる定型的な問い合わせにはチャットボット、判断が絡む問い合わせにはAIエージェントという使い分けの基準を持てます。
AIエージェントで自動化できる業務
AIエージェントは部門を問わず幅広い業務を自動化できます。代表的な業務は次の5つです。
- カスタマーサポートの問い合わせ対応
- 営業のメール作成や企業リサーチ
- バックオフィスの経費精算や請求書処理
- 議事録作成やタスク抽出
- データ分析やレポート作成
自社の業務と照らし合わせながら確認すると、着手しやすい業務が見えてきます。
カスタマーサポートの問い合わせ対応
AIエージェントは、顧客からの問い合わせに対して過去の対応履歴やナレッジベースを参照し、一次対応を完結できます。
単純なFAQ回答だけでなく、顧客情報や注文状況を照会したうえで個別性の高い回答を組み立てられるため、有人対応が必要な件数を大きく減らせます。
実際にLINEヤフーは、Salesforceの自律型AIエージェント「Agentforce」の導入により月間30万件超の問い合わせ対応が可能になることをPoCで確認しています。
参考:Salesforceの自律型AIエージェント「Agentforce」がLINEヤフーのカスタマーサポートに採用(セールスフォース・ジャパン)
一次対応の多くをAIエージェントに任せられれば、オペレーターは複雑な案件や顧客との関係構築に集中できます。
営業のメール作成や企業リサーチ
営業活動では、見込み顧客への提案メール作成や商談前の企業リサーチをAIエージェントに任せられます。
企業の公開情報や過去のやり取りを自動で収集・要約できるため、担当者が資料を探し回る時間を削減できます。
商談前に企業名を入力するだけで、事業内容や直近のニュースをまとめたリサーチメモを自動生成する使い方が代表的です。
リサーチや文面作成にかかる時間を圧縮できれば、営業担当者は商談そのものに時間を割けるようになります。
バックオフィスの経費精算や請求書処理
経費精算や請求書処理といった定型的な経理業務も、AIエージェントによる自動化に向いています。
領収書や請求書のデータを読み取り、勘定科目の判定や既存データとの照合まで一連の処理を任せられるためです。
請求書の金額や取引先を自動で読み取り、会計システムへの入力までを自動処理する使い方が広がっています。
手作業での入力・照合が減れば、経理担当者は月次決算などより優先度の高い業務に注力できます。
議事録作成やタスク抽出
会議の音声データから議事録を作成し、決定事項やタスクを抽出する作業もAIエージェントで自動化できます。
録音データの文字起こしに加え、発言の要点整理やタスクの担当者・期限の抽出までを一括で処理できるためです。
会議終了後に議事録と担当者別のタスクリストが自動生成され、そのままチャットツールへ共有される運用が可能です。
議事録作成の手間がなくなれば、参加者は会議中の議論そのものに集中できます。
データ分析やレポート作成
蓄積された業務データを分析し、定例レポートを作成する業務もAIエージェントに任せられます。
複数のデータソースから必要な数値を抽出し、グラフ化や要点のまとめまでを自動で実行できるためです。
週次の売上データを自動集計し、前週比や異常値のコメントを添えたレポートを毎週自動作成する使い方があります。
レポート作成が自動化されれば、担当者は数値の分析結果をもとにした意思決定に時間を使えます。
AIエージェントとRPAの違いと使い分け方
AIエージェントとRPAは、どちらも業務を自動化する技術ですが、得意分野や仕組みが異なります。違いを次の3つの観点で整理します。
- 定型業務と非定型業務で異なる得意分野
- 導入・運用コストの違い
- AIエージェントとRPAの併用
違いを理解すれば、既存のRPAを置き換えるべきか、組み合わせるべきかを判断できます。
定型業務と非定型業務で異なる得意分野
RPAは事前に定義したルールどおりの定型業務を得意とし、AIエージェントはルール化しにくい非定型業務まで対応できます。両者の違いは次の表のとおりです。
| 観点 | RPA | AIエージェント |
|---|---|---|
| 得意な業務 | ルールが決まった定型業務 | 判断が必要な非定型業務 |
| 仕組み | 事前定義した画面操作の自動実行 | 目標に応じて自ら計画・実行 |
| 例外対応 | 想定外の入力に弱い | 状況に応じて対応方法を変えられる |
表のとおり、業務の性質によって適したツールが異なるため、既存のRPAをすべて置き換える必要はありません。
導入・運用コストの違い
RPAは開発ツールとライセンス費用が中心で比較的低コストに始められますが、AIエージェントはシナリオ設計や精度検証の工数が加わり導入コストが高くなりやすい傾向があります。
AIエージェントは自律的に判断するための学習データ整備やプロンプト設計、誤動作時の検証作業が必要になるためです。
前述のダイキン工業と日立製作所の事例でも、実用化に向けて数か月単位の試験運用期間を設けています。
参考:ダイキンと日立が協創、工場の設備故障診断を支援するAIエージェントの実用化に向けた試験運用を開始(ダイキン工業)
コスト構造の違いを把握しておけば、投資対効果を見込みやすい業務から優先的に導入できます。
AIエージェントとRPAの併用
AIエージェントとRPAは対立する技術ではなく、組み合わせて使うことでそれぞれの弱点を補えます。
AIエージェントに判断させた結果をRPAに実行させれば、判断と実行操作を役割分担できるためです。
問い合わせ内容の分類や対応方針の決定をAIエージェントが担い、実際のシステム入力作業をRPAが担う構成が代表的です。
既存のRPA資産を活かしながらAIエージェントを組み合わせれば、自動化できる業務範囲を無理なく広げられます。
AIエージェントの業務自動化事例
AIエージェントによる業務自動化は、すでに複数の企業で実用化が進んでいます。代表的な3つの事例を紹介します。
- 製造業の故障診断エージェント活用事例
- 航空会社の生成AIプラットフォーム活用事例
- カスタマーサポート特化エージェントの活用事例
事例を知ることで、自社の業種でも応用できる場面をイメージしやすくなります。
製造業の故障診断エージェント活用事例
ダイキン工業と日立製作所は、工場設備の故障診断を支援するAIエージェントの試験運用を進めています。
熟練の保全技術者に頼っていた故障原因の特定作業を、蓄積した設備図面や保全記録をもとにAIエージェントが代替できるかを検証するためです。
2025年4月から堺製作所臨海工場で試験運用を開始し、事前の実証実験では10秒以内に90%以上の精度で故障の原因と対策を回答できることを確認しています。
参考:ダイキンと日立が協創、工場の設備故障診断を支援するAIエージェントの実用化に向けた試験運用を開始(ダイキン工業)
属人化しがちな設備保全のノウハウを組織の知として蓄積できれば、拠点間で品質を平準化しやすくなります。
航空会社の生成AIプラットフォーム活用事例
日本航空は、独自の生成AIプラットフォーム「JAL-AI」を全社に展開しています。
問い合わせ対応やレポート作成など間接部門の幅広い業務を対象に据え、現場ごとに機能を拡張してきたためです。
2023年8月の展開開始以降、2024年度時点で全社員の8割が利用する規模まで普及したと報じられています。空港業務向けには「空港JAL-AI」としてアクセンチュアが開発したAIエージェントを全国56空港に導入しています。
参考:全社員の8割が利用するJALの生成AI基盤、整備や空港特化の機能で使い勝手向上(日経クロステック)
部門ごとの利用状況に合わせて機能を拡張していく進め方は、全社展開を目指す企業にとって参考になります。
カスタマーサポート特化エージェントの活用事例
LINEヤフーは、Salesforceの自律型AIエージェント「Agentforce」をカスタマーサポートに採用しています。
年間数百万件規模で発生する問い合わせのうち、人でなければ対応できない件数を絞り込み、対応可能な範囲をAIエージェントに任せるためです。
2025年9月の発表によると、PoCの結果として月間30万件超の問い合わせ対応が可能であることを確認しており、メール自動返信では月間約9,000件の問い合わせの8割以上に初回回答で的確に対応できています。
参考:Salesforceの自律型AIエージェント「Agentforce」がLINEヤフーのカスタマーサポートに採用(セールスフォース・ジャパン)
問い合わせ対応の多くを自動化できれば、限られた人員でも問い合わせ件数の増加に対応できるようになります。
AIエージェントを業務自動化に導入する手順
AIエージェントを業務自動化に導入する際は、次の3つのステップで進めると失敗を避けやすくなります。
- 自動化する業務を洗い出す
- 小さな範囲でPoCを実施する
- 効果を検証し対象業務を拡大する
手順を踏まえて進めることで、大きな投資をする前に効果を見極められます。
ステップ1:自動化する業務を洗い出す
最初に、自社のどの業務がAIエージェントによる自動化に向いているかを洗い出します。
業務量が多く判断基準が明確な業務ほど自動化の効果が出やすく、優先順位をつけずに着手すると効果測定が難しくなるためです。
問い合わせ対応や請求書処理など、対応件数や処理時間を数値で把握できる業務から候補を挙げると絞り込みやすくなります。
対象業務を明確にしておけば、後の効果検証で成果を数値で示せます。
ステップ2:小さな範囲でPoCを実施する
洗い出した業務のうち1〜2件に絞り、小さな範囲でPoCを実施します。
いきなり全社展開すると、誤作動や想定外の対応が発生した際の影響範囲が大きくなるためです。
前述のダイキン工業と日立製作所の事例も、単一の工場から試験運用を始めています。
小さく始めることで、リスクを抑えながら自社に合った運用方法を見極められます。
ステップ3:効果を検証し対象業務を拡大する
PoCの結果を検証し、効果が確認できた範囲から対象業務を段階的に拡大します。
処理件数や対応時間といった数値で効果を確認することで、社内での投資判断がしやすくなるためです。
前述のLINEヤフーの事例のように、PoCで対応可能な件数を確認したうえで本格運用へ移行する進め方が代表的です。
段階的に拡大していけば、失敗した場合の手戻りを最小限に抑えながら自動化の範囲を広げられます。
AIエージェントで業務自動化する際の注意点
AIエージェントによる業務自動化を進める際は、次の3つの注意点を押さえておく必要があります。
- 誤作動や誤判断に備えて人の確認体制を残す
- セキュリティと情報漏洩対策を徹底する
- 導入自体を目的化しない
注意点を押さえずに進めると、せっかくの取り組みが社内で定着しない結果になりかねません。
誤作動や誤判断に備えて人の確認体制を残す
AIエージェントに業務を任せきりにすると、誤った判断に気づけないおそれがあります。
AIエージェントは自律的に次の行動を判断するため、想定外のデータや例外的な状況では誤った処理を実行する可能性があるためです。
顧客対応であれば、返金や契約変更など影響が大きい処理には人の最終確認を挟む運用にすると安全です。
確認体制を残しておけば、自動化のメリットを享受しながら重大なミスを防げます。
セキュリティと情報漏洩対策を徹底する
業務システムと連携させるAIエージェントは、アクセス権限の設計を誤ると情報漏洩につながるおそれがあります。
AIエージェントは複数のシステムを横断して情報を取得するため、権限範囲が広すぎると本来アクセスすべきでないデータまで参照してしまうためです。
日本航空が生成AI導入にあたり情報漏洩リスクを懸念して独自基盤を構築したように、外部への情報流出経路を事前に整理しておく対応が必要です。
参考:全社員の8割が利用するJALの生成AI基盤、整備や空港特化の機能で使い勝手向上(日経クロステック)
アクセス権限や情報の取り扱いを事前に設計しておけば、安心して自動化の範囲を広げられます。
導入自体を目的化しない
AIエージェントを導入すること自体が目的になると、業務改善の効果が出ないまま形骸化するおそれがあります。
現場の業務フローに接続されないまま導入すると、実際の処理は従来どおり人が行い、AIエージェントが使われなくなるためです。
現場の担当者を巻き込まずにシステム部門主導だけで導入を進めると、運用開始後に使われなくなるケースが少なくありません。
現場の業務フローに組み込んだ形で導入すれば、AIエージェントが日常業務の一部として定着します。
AIエージェントによる業務自動化に関するよくある質問
AIエージェントによる業務自動化に関する質問は以下の3つです。
- AIエージェントの導入費用はどれくらいかかりますか
- 中小企業でもAIエージェントを導入できますか
- AIエージェントとエージェンティックAIは同じ意味ですか
質問に対する回答を確認して、導入検討の参考にしてみてください。
AIエージェントで業務自動化を進めて生産性を高めよう
AIエージェントは、生成AIやRPAでは対応しきれなかった非定型業務まで含めて自動化できるAIです。カスタマーサポートやバックオフィスなど幅広い業務で活用が進んでおり、既存のRPAと組み合わせることで自動化できる範囲をさらに広げられます。
自社での活用を検討する際は、対象業務を絞ったうえで小さな範囲のPoCから始め、効果を確認しながら段階的に拡大する進め方が有効です。
自動化の範囲が広がるほど、どの業務をAIエージェントに任せ、どこに人の判断を残すかという役割分担の設計がより重要になります。
自社の業務フローに合わせた役割分担を整理しながら、無理のない範囲からAIエージェントの導入を検討してみてください。

















