
ChatGPTで広告コピーやリサーチはこなせるようになったものの、施策を回すのは結局人手のままだと感じているマーケターは少なくありません。
AIエージェントとは、目標を与えるとタスクを自ら分解し、リサーチから配信・改善までを自律的に実行するAIです。生成AIやMAツールとの違いは記事内で詳しく解説します。
MAツールの自動化との違いを理解しないまま導入すると現場に定着せず、次のAI予算を確保できなくなります。任せる範囲を正しく切り分ければ、人員を増やさずに施策のPDCA速度を引き上げられるでしょう。
本記事では、マーケティング業務での活用10領域、生成AI・MAツールとの違い、企業事例、選び方4軸、導入5ステップを解説しています。
自社のどの業務をどこまで任せるかを判断できるようになるために、ぜひ最後までご覧ください。
目次
マーケティングにおけるAIエージェントとは
AIエージェントとは、与えられた目標に対して自らタスクを分解し、実行まで担うAIです。マーケティング領域では市場調査から配信・改善までの一連の流れを任せられます。以下3つの視点で整理します。
- AIエージェントの定義と自律実行の流れ
- 生成AIとの違い
- MAツールとの違い
この3点を押さえておくと、社内で説明を求められた際にも自分の言葉で答えられます。
AIエージェントの定義と自律実行の流れ
AIエージェントとは、目標を与えられると計画を立て、外部ツールを操作しながらタスクを完了まで進めるAIシステムです。
動作は「目標設定」「タスク分解」「ツール実行」「結果の評価」「再実行」というループで進みます。人が毎回指示を出さなくても、結果を見て次の一手を自ら決められる点が特徴です。
たとえば「今月のCPAを下げる」という目標を与えると、広告管理画面から実績を取得し、成果の低いクリエイティブを特定して差し替え案を作成するところまで進めます。GA4や広告管理画面、CRMといった外部ツールを呼び出して操作できる点が、従来の生成AIとの決定的な違いです。
この仕組みを理解しておくと、自社のどの業務なら任せられるかを判断する軸ができます。
生成AIとの違い
生成AIは指示に応じて出力を返す応答型であるのに対し、AIエージェントは目標に向けて自ら行動する自律型です。
生成AIが「考える力」を担うとすれば、AIエージェントは「考えた結果を行動に移す力」まで備えています。人が毎回プロンプトを入力する必要があるかどうかが、実務上の分かれ目です。
広告運用にあてはめると、「広告文を10案書く」のが生成AI、「CPAを下げるために広告文を差し替え、配信結果を測定して次の案を作る」のがAIエージェントです。同じ言語モデルを使っていても、担う工程の広さが異なります。
この違いがわかると、生成AI導入で止まっている施策のどこにボトルネックがあるかが見えてきます。
MAツールとの違い
MAツールは事前に設計したシナリオどおりに動くルール駆動、AIエージェントは状況に応じて次の行動を判断する目標駆動です。
MAツールは「資料をダウンロードしたら3日後にメールを送る」といった分岐を人が設計します。設計にない事態が起きても、ツール側で判断を変えることはできません。
3者の違いを整理すると以下のとおりです。
| 比較軸 | 生成AI | MAツール | AIエージェント |
|---|---|---|---|
| 動作の原理 | 指示に応じて出力する | 設計したシナリオを実行する | 目標から行動を判断する |
| 人の関与 | 毎回プロンプトを入力する | 初期設計と改修を人が行う | 目標設定と最終確認を人が行う |
| 得意な業務 | 文章・画像の作成 | 定型的な配信とスコアリング | 調査から実行までの一連の処理 |
| 限界 | 実行までは担えない | 想定外の状況に対応できない | 判断の根拠が追いにくい |
MAツールを置き換えるものではなく、MAツールを操作する担当者の役割を一部代替するものだと捉えると、社内説明がしやすくなります。
マーケティングでAIエージェントが注目される背景
生成AIの導入が一巡し、論点が「作る」から「回す」に移ったことが背景にあります。主な要因は以下の3つです。
- マーケティング人材の不足と業務の細分化
- チャネル横断で施策を回す難易度の上昇
- LLMのツール連携機能の進化
背景を押さえておくと、社内提案の際に「なぜ今なのか」を説明できます。
マーケティング人材の不足と業務の細分化
担当者数が変わらないまま業務範囲だけが広がり、定常業務が戦略業務を圧迫している状況が広がっています。
広告、SNS、オウンドメディア、メール、ウェビナーと施策の種類は増え続けています。一方で専任担当を置ける企業は限られ、一人が複数チャネルを兼任する体制が一般的です。
結果として、レポート作成や投稿の予約といった作業に時間を取られ、新規チャネルの開拓や戦略の見直しに手が回らなくなります。人を増やさずに実行量を増やす手段として、AIエージェントに注目が集まっています。
兼任体制のまま成果を伸ばしたい組織ほど、検討する価値があります。
チャネル横断で施策を回す難易度の上昇
顧客接点が分散し、データの統合と施策の同期を人手で行うことが難しくなっています。
広告で獲得したリードをメールで育成し、サイト行動を見て営業に渡すという流れには、複数のツールをまたぐ引き継ぎが発生します。担当者が違えば連携の抜け漏れも起きやすくなります。
セールスフォース・ジャパンは、組織が戦略を定義し、実行はAIエージェントが担う進め方を提唱しています。コンテンツ作成やパーソナライズだけでなく、部門やチャネル間の引き継ぎまで調整する役割を想定した考え方です。
チャネルが増えるほど、横断的に動ける実行主体の価値は高まります。
LLMのツール連携機能の進化
言語モデルが外部ツールを操作できるようになったことで、提案止まりだったAIが実行まで担えるようになりました。
従来のAIは文章を返すだけで、実際に広告管理画面を操作したりデータを取得したりはできませんでした。関数呼び出しや外部連携の仕組みが整ったことで、AI側からツールを動かす経路が確立されています。
この進化により、AIがGA4のデータを取得して分析し、結果をスプレッドシートに書き出すといった処理を一連で実行できるようになりました。技術的な前提が整ったことが、実務での普及を後押ししています。
ツール連携の可否は選定時の重要な確認項目にもなるため、頭に入れておくと役立ちます。
AIエージェントのマーケティング活用10選
マーケティング業務のうち、AIエージェントに任せやすい領域は以下の10個です。
- 市場・競合リサーチ
- ペルソナ設計とセグメント作成
- 記事・コンテンツの制作
- SEOの分析と改善提案
- 広告運用の入札調整
- 広告クリエイティブのABテスト
- リード獲得とナーチャリング
- SNSの投稿運用とコメント対応
- 問い合わせ対応とチャット接客
- 効果測定とレポーティング
それぞれ「提案まで任せるか、実行まで任せるか」で難易度が変わるため、自社の状況と照らして読み進めてみてください。
市場・競合リサーチ
競合サイトやプレスリリース、SNSを定期的に巡回し、変化点だけを要約させる使い方です。
人が検索して読み込む工程は時間がかかるうえ、担当者によって見る範囲が変わります。AIエージェントに巡回先と観点を指定しておけば、同じ基準で継続的に情報を集められます。
たとえば競合5社の新機能発表と価格改定だけを毎週まとめさせ、変化があった場合のみ通知させる運用が可能です。調べる作業をAIに移し、人は「その変化にどう対応するか」の判断に集中できます。
最初に着手する領域としても、リスクが低く成果を実感しやすい業務です。
ペルソナ設計とセグメント作成
購買データや行動ログからクラスタを抽出し、ペルソナ像を言語化させる使い方です。
従来のペルソナ設計は、担当者の経験と定性調査に頼る部分が大きく、根拠を示しにくい課題がありました。データから機械的にクラスタを切り出せば、議論の出発点を客観的な形で用意できます。
NTTデータは、複数のAIバーチャル顧客に議論させてマーケティング施策の示唆を抽出する手法を提供しています。仮想の顧客同士を会話させ、どのような訴求が響くかを検証する進め方です。
ターゲット選定の精度が上がれば、同じ予算でも成果に差が生まれます。
記事・コンテンツの制作
構成案の作成から下書き、社内レギュレーションとの照合までを一連で実行させる使い方です。
生成AIに1本ずつ書かせる場合、指示を出す人の工数が本数に比例して増えます。エージェントに手順を渡せば、キーワードを与えるだけで構成から下書きまで進められます。
ただし公開前のファクトチェックとトーン確認は人が担う前提です。誤情報を含んだまま公開すればブランドを毀損するため、制作工程だけを任せる切り分けが現実的です。
制作本数を増やしながら、担当者は企画と品質管理に時間を割けるようになります。
SEOの分析と改善提案
Google Search ConsoleやGA4のデータを取得し、順位が下がったページと改善案を提示させる使い方です。
SEOの定点観測は、見るべき指標が決まっている一方で工数がかかります。毎週決まった観点でデータを取得して比較する処理は、自動化との相性が良い業務です。
順位下落の検知に加えて、競合ページとの構成比較やリライト案の作成まで任せられます。人は提示された改善案を採用するかどうかを判断するだけで済みます。
施策の打ち手が遅れがちなSEOでも、改善サイクルを短くできます。
広告運用の入札調整
配信実績を監視し、予算配分やターゲット設定の調整までを担わせる使い方です。
広告運用は判断の頻度が高く、確認が遅れるほど無駄な配信が積み上がります。エージェントが実績を常時監視すれば、成果の悪い配信先を早い段階で絞り込めます。
電通デジタルは、メディア選定や予算配分をAIエージェントとの対話で行う機能を提供しています。計画段階の作業を短縮する取り組みとして、広告主側でも参考になる進め方です。
運用工数を抑えつつ、配信の無駄を減らせます。
広告クリエイティブのABテスト
訴求軸ごとにコピーやバナー案を生成し、配信結果から次の案を作る改善ループを任せる使い方です。
クリエイティブの改善は「作る」「配信する」「結果を見る」「次を作る」の繰り返しです。この一連を人が回すと、案の枯渇と検証の遅れが起きやすくなります。
エージェントに任せると、勝ちパターンを学習しながら訴求のバリエーションを広げられます。ただし配信前の表現チェックは人が行い、誤解を招く表現や景品表示法に触れる表現を除く体制が必要です。
検証の回転数が上がるほど、獲得効率の改善は早まります。
リード獲得とナーチャリング
行動履歴からリードの確度をスコアリングし、確度に応じた次のアクションを実行させる使い方です。
MAツールでも同様の処理はできますが、シナリオの設計と改修に人の工数がかかります。エージェントであれば、反応の傾向を踏まえて配信内容やタイミングを調整できます。
CRMの情報更新まで含めて任せれば、営業への引き渡し漏れも防げます。どこまで自動で送信させ、どこから人が確認するかを決めておくことが前提です。
取りこぼしていた見込み顧客を、商談化までつなげやすくなります。
SNSの投稿運用とコメント対応
投稿案の作成と予約に加えて、コメントの分類と一次対応までを任せる使い方です。
SNS運用は投稿頻度が成果に直結する一方、日々の作業負荷が高い業務です。ネタ出しから下書き、予約設定までを任せれば、担当者は方針の設計に集中できます。
ただしコメント対応は炎上リスクを伴います。クレームや誤情報に関する投稿は人にエスカレーションする設計にし、定型的な質問だけを自動応答させる切り分けが安全です。
投稿量を保ちながら、リスクの高い場面だけ人が対応する体制を作れます。
問い合わせ対応とチャット接客
購入履歴を踏まえた個別接客と、24時間365日の一次対応を担わせる使い方です。
従来のチャットボットはシナリオに沿った回答しかできず、想定外の質問には答えられませんでした。AIエージェントであれば、顧客データを参照しながら文脈に沿った応答ができます。
LINEヤフーは、LINE公式アカウント上で購入履歴などをもとにした個別接客を提供する構想を示しています。予約や購入といった行動までチャット内で完結させる方向性です。
営業時間外の離脱を防ぎ、機会損失を減らせます。
効果測定とレポーティング
複数媒体のデータを集約し、異常値の検知と要因の仮説提示までを定期実行させる使い方です。
レポート作成は毎月発生する定型業務でありながら、媒体ごとに管理画面が分かれているため手間がかかります。データ取得から集計、コメント作成までを任せられる代表的な領域です。
数値をまとめるだけでなく、前月比で大きく動いた指標を抽出し、考えられる要因を並べさせることもできます。会議で議論すべき論点が最初から整理された状態になります。
報告資料の作成に追われていた時間を、改善の議論に振り向けられます。
AIエージェントをマーケティングに活用するメリット
生成AIの活用と比べて、AIエージェントで新たに得られるメリットは以下の5つです。
- 施策の実行サイクルが速くなる
- 顧客一人ひとりに合わせた個別対応ができる
- 24時間365日の顧客対応を実現できる
- データにもとづく意思決定の精度が上がる
- マーケターが戦略業務に集中できる
投資対効果を社内で説明する際の材料としても使えます。
施策の実行サイクルが速くなる
分析から制作、配信、検証までの待ち時間が消え、週次だった改善を日次に落とし込めます。
従来のボトルネックは、担当者の稼働時間そのものでした。制作を依頼して待つ、レポートを待つといった工程が積み重なり、改善の反映に数週間かかることも珍しくありません。
実行をAIが担えば、ボトルネックは人の作業時間から意思決定の速さに移ります。同じ人数でも、検証できる施策の数を大きく増やせる点が最大の変化です。
試行回数が増えれば、勝ちパターンに辿り着く確率も高まります。
顧客一人ひとりに合わせた個別対応ができる
セグメントごとの出し分けを、人手では扱いきれなかった規模まで広げられます。
配信内容を細かく分けるほど成果は上がる一方、制作と設定の工数が増えて現実的でなくなります。この制約を外せる点がAIエージェントの価値です。
Vポイントマーケティングは、Agentforce Marketingを導入し、有効会員数1.3億人規模の基盤で個別化した配信を実現しています。年間30億通規模の配信基盤を刷新し、少数の体制で多数のシナリオを運用する形を取っています。
参考:Agentforce Marketing導入に関するプレスリリース(セールスフォース・ジャパン)
24時間365日の顧客対応を実現できる
営業時間外の問い合わせにもその場で応答でき、離脱を防げます。
比較検討中の顧客は、疑問が解消されなければ他社に流れます。夜間や休日に発生した問い合わせを翌営業日まで放置すると、その間に検討が終わっている場合もあります。
AIエージェントであれば、資料請求や予約といった行動までその場で完結させられます。人が対応すべき案件だけを翌日に引き継ぐ運用も可能です。
人員を増やさずに、機会損失を減らせます。
データにもとづく意思決定の精度が上がる
経験則で決めていたターゲット選定を、データから導いた仮説に置き換えられます。
担当者の勘に頼った選定は、当たり外れの再現性が低く、引き継ぎもできません。データから抽出した根拠があれば、施策の良し悪しを検証できます。
JALカードとNTTデータの実証実験では、AIが導き出したターゲットへダイレクトメールを送付した結果、従来ターゲットより購買率が3.0%向上しました。
参考:「AIバーチャル顧客」同士の会話からJALカード会員への効果的なマーケティング施策を導出(NTTデータ)
マーケターが戦略業務に集中できる
定常業務を移管することで、ブランド戦略や新規チャネルの開拓に時間を割けます。
レポート作成や投稿予約といった作業は、成果に直結しにくいにもかかわらず時間を奪います。これらを任せられれば、担当者の役割は実行から設計と監督に移ります。
役割が変わることで、求められるスキルも変わります。何をAIに任せ、出力をどう評価するかを設計できる人材の価値が高まります。
担当者個人のキャリアという観点でも、早く経験を積む意味があります。
AIエージェントをマーケティングに活用した企業事例
公式発表で確認できる国内企業の事例を5つ紹介します。
- Vポイントマーケティング:1.3億会員への個別配信
- 電通デジタル:広告のメディア選定と予算配分を高速化
- JALカードとNTTデータ:AIバーチャル顧客でDM対象を抽出
- LINEヤフー:Agent iで顧客接点を自動化
- ライオン:ビジネス部門主導でエージェントを内製
自社の規模や体制に近い事例から確認してみてください。
Vポイントマーケティング:1.3億会員への個別配信
Vポイントマーケティングは、Agentforce Marketingを導入し、大規模な会員基盤に対する個別化配信を実現しています。
同社が扱うのは有効会員数1.3億人規模の基盤です。従来の一斉配信では、会員一人ひとりの関心に合った情報を届けることが難しい状況にありました。
導入後は、AIが施策案を生成して人が確認する形でシナリオを設計し、パーソナライズしたメール配信とアプリ内表示の最適化を進めています。年間30億通規模の配信基盤を刷新しながら、少数精鋭での内製運用を実現している点が特徴です。
参考:Vポイントマーケティングの導入に関するプレスリリース(セールスフォース・ジャパン、2026年6月19日)
電通デジタル:広告のメディア選定と予算配分を高速化
電通デジタルは、デジタル広告のメディアプランニングをAIエージェントとの対話で行う機能を提供しています。
広告のプランニングは、媒体の選定から予算配分、ターゲット設計まで検討事項が多く、専門知識と時間を要する工程です。属人化しやすい点も課題でした。
同社の「∞AI MC Planning」に実装された「Media Planning Agent」では、メディア選定や予算配分、ターゲットセグメントの推奨、シミュレーションを対話形式で実行できます。広告配信の実績データと専門人材の知見を学習させている点が特徴です。
参考:AIエージェントとの対話でデジタル広告配信のメディア選定と予算配分を高速化(電通デジタル、2026年1月14日)
JALカードとNTTデータ:AIバーチャル顧客でDM対象を抽出
JALカードとNTTデータは、生成AIで作成した仮想の顧客に議論させ、販促施策の示唆を抽出する実証実験を実施しました。
実験では、NTTデータの「LITRON Multi Agent Simulation」を用いて、JALカードの利用傾向から複数の会員ペルソナを作成しています。作成したAIバーチャル顧客同士に、販促対象商品への関心や効果的なDMのタイトルについて議論させました。
導き出されたターゲットにダイレクトメールを送付した結果、従来のターゲットと比較して購買率が3.0%向上しています。人の経験に頼っていたターゲット選定を、検証可能な形に置き換えた事例です。
参考:「AIバーチャル顧客」同士の会話からJALカード会員への効果的なマーケティング施策を導出(NTTデータ、2025年1月23日)
LINEヤフー:Agent iで顧客接点を自動化
LINEヤフーは、AIエージェント「Agent i」を発表し、企業と生活者の接点にAIを組み込む構想を進めています。
企業向けには、LINE公式アカウントのAIモードを通じて、購入履歴などをもとにした個別化接客を提供します。24時間365日の自動対応により、集客と販促を担わせる想定です。
2026年上期中に20以上のエージェントを段階的に展開する計画が示されています。予約や購入、サポートまでをチャット内で完結させる方向性で、消費者接点の自動化が進むと考えられます。
参考:「AIが代わりに動く」時代へ 新エージェント「Agent i」発表(LINEヤフー、2026年4月20日発表)
ライオン:ビジネス部門主導でエージェントを内製
ライオンは、社内生成AI「LION AI Chat」にエージェント機能を実装し、業務部門が自らエージェントを開発する体制を構築しています。
既存のチャット機能に加え、調査業務を支援する共通業務向けのAIエージェントを追加しました。さらに部門固有の課題に合わせたエージェントを、業務部門が主導して開発する方針を打ち出しています。
開発にはノーコードツールのDifyを活用し、2025年内に非エンジニアを含む100名の開発者を育成する計画です。ベンダーに任せきりにせず、現場が自分たちで作る形を選んだ点が参考になります。
参考:AIエージェントでオペレーショナル・エクセレンスを加速(ライオン、2025年6月24日)
マーケティング向けAIエージェントの選び方4軸
ツール名から検討を始めると選定を誤りやすいため、以下4つの軸で絞り込みます。
- 任せる業務範囲と自律レベル
- CRM・MA・GA4との連携性
- セキュリティとデータの取り扱い
- 料金体系と費用対効果
4軸を先に決めておくと、候補が多くても比較の基準がぶれません。
任せる業務範囲と自律レベル
最初に決めるべきは、どの業務をどのレベルまで任せるかという線引きです。
自律レベルは以下の3段階で整理できます。業務ごとに適切なレベルは異なり、同じツールでも設定次第で変わります。
| 自律レベル | AIが担う範囲 | 向いている業務 |
|---|---|---|
| 提案のみ | 分析と改善案の提示まで | SEO改善提案、広告の予算配分案 |
| 承認つき実行 | 実行案を作り、人の承認後に実行 | コンテンツ公開、SNS投稿、メール配信 |
| 全自動 | 判断から実行まで一貫して担当 | データ集計、定期レポート、一次応答 |
外部に公開される成果物ほど承認を挟み、社内で完結する処理は全自動にするという整理が実務的です。この線引きを先に決めておくと、必要な機能が明確になります。
CRM・MA・GA4との連携性
既存のCRMやMAツール、GA4、広告アカウントと連携できるかを必ず確認します。
AIエージェントの提案精度は、参照できるデータの範囲で決まります。データが分断されたままでは、汎用的な提案しか出てこず期待した効果は得られません。
確認すべきは、API連携の対応可否と、連携時に必要な開発工数です。標準連携が用意されているか、個別開発が必要かで導入までの期間が大きく変わります。
既存環境との相性を先に確認しておけば、導入後に使えないという事態を避けられます。
セキュリティとデータの取り扱い
顧客の個人情報を扱うため、入力データの取り扱い方針を確認する必要があります。
マーケティング業務では、購買履歴や行動ログといった個人情報に該当するデータを扱います。情報システム部門の審査を通せないツールを選んでも、導入自体が止まります。
確認項目は、入力データが再学習に使われない設定の有無、ISO27001などの第三者認証、データの保管先リージョンの3点です。選定の初期段階で情報システム部門に確認事項を共有しておくと、後戻りを防げます。
審査を通せる候補だけを比較すれば、検討の手戻りがなくなります。
料金体系と費用対効果
料金体系の違いを理解し、削減できる工数から回収期間を試算します。
マーケティング向けAIエージェントの料金は、利用量に応じた従量課金、ユーザー数課金、エージェント数課金などに分かれます。多くのサービスが個別見積もりを採用しているため、比較には問い合わせが必要です。
試算は「削減できる月間工数×担当者の人件費単価」で年間の削減額を出し、年間費用と比較する形が基本です。レポート作成に月20時間かかっているなら、その工数を金額に換算して比較します。
数値で回収期間を示せれば、稟議も通しやすくなります。
マーケティング向けAIエージェントのおすすめツール8選
マーケティング業務で使えるAIエージェントを、3つのタイプに分けて8つ紹介します。
| タイプ | ツール名 | 主な用途 | 料金 |
|---|---|---|---|
| プラットフォーム型 | Agentforce Marketing | キャンペーン設計・配信・広告最適化 | 要問い合わせ |
| プラットフォーム型 | HubSpot Breeze Agents | コンテンツ生成・リード対応 | 要問い合わせ |
| 特化型 | JAPAN AI Marketing | 日本語のコンテンツ生成・分析 | 要問い合わせ |
| 特化型 | Mazrica Engage | 見込み顧客の育成と行動の可視化 | 要問い合わせ |
| 特化型 | 効果おまかせAI | ディスプレイ広告・動画広告の運用 | 要問い合わせ |
| 自社構築型 | Dify | ノーコードでのエージェント内製 | 無料プランあり |
| 自社構築型 | Claude Code | レポート自動化・データ分析の内製 | 有料プランあり |
| 自社構築型 | Codex | レポート自動化・集計処理の内製 | 有料プランあり |
料金は企業規模や利用範囲で変動するため、詳細は各社への確認が必要です。ここからは各ツールの特徴を紹介します。
【プラットフォーム型】Agentforce Marketing
Agentforce Marketingは、セールスフォース・ジャパンが提供するマーケティング向けAIエージェントです。
同社の顧客データ基盤と統合されており、キャンペーンの設計から配信、広告の最適化までを一貫して担えます。顧客データが一箇所に集約されているため、施策間の連携が取りやすい構造です。
すでにSalesforceを利用している企業であれば、データ連携の工数を抑えて導入できます。前述のVポイントマーケティングのように、大規模な会員基盤を扱う企業での採用事例があります。
顧客データの統合と全体最適を優先する場合の有力な候補です。
【プラットフォーム型】HubSpot Breeze Agents
HubSpot Breeze Agentsは、HubSpotのCRMと一体で動作するAIエージェント群です。
コンテンツの生成やリードへの初期対応を自動化し、CRM上の情報更新まで連動させられます。マーケティングと営業のデータが同じ基盤にあるため、引き継ぎの抜けが起きにくい設計です。
無料プランから段階的に機能を拡張できるため、スタートアップや中小企業でも始めやすい点が特徴です。まず一部業務で試し、成果を見てから範囲を広げられます。
小規模な体制から始めたい企業に向いています。
【特化型】JAPAN AI Marketing
JAPAN AI Marketingは、国内企業向けに提供されているマーケティング特化型のAIエージェントです。
日本語でのコンテンツ生成やデータ分析に対応しており、国内の商習慣に合わせた運用がしやすい点が特徴です。海外製ツールの日本語対応に不安がある場合の選択肢になります。
導入時のサポートを国内で受けられることも、情報システム部門を説得するうえで有利に働きます。運用の相談先が国内にある点は、初めて導入する組織にとって重要です。
日本語での運用と国内サポートを重視する場合に検討したいツールです。
【特化型】Mazrica Engage
Mazrica Engageは、見込み顧客の行動を捉えて育成施策を自動化するツールです。
サイト内の行動や資料閲覧の履歴をもとに、確度の高い見込み顧客を可視化します。営業支援ツールと連携させることで、マーケティングから営業への引き渡しを滑らかにできます。
BtoB企業のように、商談化までの検討期間が長い業態と相性が良いツールです。育成段階の顧客を放置せず、適切なタイミングで接触できます。
リード獲得後の育成に課題がある場合に適しています。
【特化型】効果おまかせAI
効果おまかせAIは、広告配信の運用に特化したAIエージェントです。
Google広告やLINEヤフー広告のディスプレイ広告・動画広告に対応しており、配信設定や予算配分の調整を担います。運用担当者が管理画面に張り付く時間を減らせます。
広告運用の工数が突出して大きい組織であれば、業務を絞った特化型から始めるほうが効果を実感しやすくなります。導入範囲が限定される分、検証もしやすい構成です。
広告運用の負荷を先に解消したい場合の選択肢です。
【自社構築型】Dify
Difyは、ノーコードでAIエージェントを構築できる開発プラットフォームです。
画面上で処理の流れを組み立てられるため、エンジニアでなくても業務に合わせたエージェントを作れます。既製品では対応できない自社固有の業務に合わせられる点が強みです。
前述のライオンは、Difyを活用して業務部門主導の開発体制を構築しています。外部に依頼せず内製できるため、業務が変わるたびに改修を依頼する必要がありません。
自社の業務に合わせて作り込みたい組織に向いています。
【自社構築型】Claude Code
Claude Code(クロードコード)は、Anthropicが提供するAIエージェントです。
ターミナルのほか、デスクトップアプリやWeb、VS Codeなどの開発環境から利用できます。外部ツールと接続する仕組みを備えており、GA4や広告アカウント、スプレッドシートに接続して集計や分析を実行させられます。
マーケティング領域では、広告レポートの集計から所見の作成までを自然言語の指示で自動化する使い方が広がっています。繰り返す作業は手順として保存し、翌月以降も同じ処理を再利用できます。
複数のクライアントや媒体のレポートを抱える組織ほど、削減効果が大きくなります。
【自社構築型】Codex
Codex(コーデックス)は、OpenAIが提供するAIエージェントです。
Claude Codeと同様に、指示を与えるとデータの取得から集計、加工までの処理を組み立てて実行します。定型的な集計処理をスクリプトとして残せるため、毎月同じ作業を繰り返す業務と相性が良いツールです。
ただし自社構築型は、出力の正しさを確認できる人が社内に必要です。処理の内容を理解しないまま結果だけを使うと、誤った集計に気づけないおそれがあります。
既製品では対応できない集計要件がある場合に検討する価値があります。
AIエージェントをマーケティングに導入する5ステップ
導入の失敗はツール選定ではなく、業務の分解不足から起きます。以下5つのステップで進めます。
- 業務を棚卸しして自動化対象を決める
- KPIと任せる自律レベルを設計する
- PoCで小さく検証する
- レビュー体制と運用ルールを整える
- 効果を測定して他業務へ広げる
順番どおりに進めることで、導入後に使われない状態を避けられます。
業務を棚卸しして自動化対象を決める
マーケティング業務を洗い出し、「頻度が高い」「手順が定型」「判断が浅い」の3条件に当てはまる業務を候補にします。
この3条件を満たす業務は、AIに任せても品質が安定しやすく、効果も測りやすくなります。逆に判断の比重が大きい業務から始めると、精度への不満で頓挫しがちです。
担当者へのヒアリングで工数の多い業務の上位5つを特定し、条件と照らして絞り込みます。ツールを選ぶ前に、任せたい業務を具体的な作業単位まで分解しておくことが最も重要です。
ここでの分解の粒度が、導入後の成否を大きく左右します。
KPIと任せる自律レベルを設計する
評価指標を先に決め、業務ごとに提案までか実行までかを定義します。
KPIには、削減工数やリード数、CVRなど、自動化の狙いに合った指標を選びます。指標が曖昧なままでは、効果を説明できず追加投資の判断もできません。
あわせて、前述の自律レベルを業務ごとに割り当てます。外部に公開される成果物は承認つき実行、社内向けの集計は全自動といった形で線を引きます。
「何を、どれだけ改善したいか」を数値で言語化しておくと、次の検証が意味を持ちます。
PoCで小さく検証する
1つの業務、1つのチャネルに絞って2〜3か月検証します。
いきなり全社展開すると、想定外の出力や現場の混乱に対応しきれません。範囲を絞れば、問題が起きても影響を限定できます。
検証では、人が同じ作業を行った場合と品質・工数を比較します。あわせて撤退基準も決めておき、成果が出ない場合に判断を先延ばしにしない仕組みを作ります。
段階的な進め方は、稟議のハードルを下げるうえでも有効です。
レビュー体制と運用ルールを整える
承認フロー、出力ログの保存、エラー時の連絡先を決めておきます。
AIエージェントは自律的に動くため、誰がどの出力に責任を持つかを明文化しないと運用が曖昧になります。とくに外部公開物については、承認者を明確にする必要があります。
出力の履歴を保存しておけば、問題が起きた際に原因を追跡できます。誰が、どの場面で、どこまでAIの判断に任せるかを文書化しておくことが定着の前提です。
ルールが整っていれば、担当者が交代しても運用を継続できます。
効果を測定して他業務へ広げる
PoCの結果を数値で報告し、成功パターンをテンプレート化して隣接業務へ展開します。
削減できた工数や改善した指標を報告できれば、次の予算獲得につながります。感覚的な評価では、追加投資の判断材料になりません。
展開先は、最初に成功した業務と手順が近い領域から選びます。レポート作成で成果が出たなら、次は競合調査というように、必要な準備が少ない順に広げます。
小さな成功を積み重ねることで、組織としての活用範囲が広がります。
マーケティングでAIエージェントを使う際の注意点
導入前に押さえておくべき注意点は以下の4つです。
- 誤情報がそのまま配信されるリスクがある
- 個人情報の取り扱いに制約がある
- 人間の最終確認を外すと事故につながる
- 現場に定着せず形骸化する
いずれも事前の設計で回避できるため、導入前に対策を決めておきます。
誤情報がそのまま配信されるリスクがある
AIが生成した誤情報を含む広告文や投稿が、確認されないまま配信される危険があります。
生成AIは、事実と異なる内容をもっともらしく出力する場合があります。実行まで自動化していると、誤りに気づく機会がないまま外部に公開されます。
価格や機能、実績といった事実に関わる記述は、公開前のチェックを必須にします。ブランドを毀損する事故は、一度起きると信頼の回復に時間がかかります。
公開物のチェック工程だけは、省略しない設計にしてください。
個人情報の取り扱いに制約がある
顧客データを扱う以上、利用目的の範囲と第三者提供の可否を確認する必要があります。
購買履歴や行動ログをAIに渡す行為が、自社のプライバシーポリシーで想定した利用目的の範囲に収まっているかを確認します。範囲を超える場合は、ポリシーの見直しが必要です。
実務上は、個人が特定できる情報をマスキングしたうえで分析させる方法が有効です。あわせて、誰がどのデータにアクセスできるかの権限設計も整えます。
法務や情報システム部門を早い段階で巻き込むと、後の手戻りを防げます。
人間の最終確認を外すと事故につながる
判断を委ねすぎると、AIの挙動を人が把握できなくなります。
自律的に動く範囲が広がるほど、なぜその判断に至ったのかを後から追いにくくなります。問題が起きた際に原因を特定できなければ、再発防止もできません。
現時点では、AIが提案し人が最終判断を下すハイブリッドな運用が現実的です。全自動にする範囲は、影響が社内に限定される業務にとどめます。
任せる範囲を段階的に広げていけば、リスクを抑えながら効果を得られます。
現場に定着せず形骸化する
導入したものの使われないまま契約だけが残る状態は、よく起こる失敗です。
原因の多くは、既存の業務フローに組み込まれていないことにあります。従来のやり方と併存させると、慣れた手順に戻る担当者が出てきます。
対策は、対象業務の手順そのものを置き換え、運用担当者を明確に決めることです。使うかどうかを個人の判断に委ねず、業務プロセスとして定義する必要があります。
定着まで見届けて初めて、投資の効果が数値に表れます。
AIエージェントのマーケティング活用に関するよくある質問
AIエージェントのマーケティング活用に関する質問は以下の4つです。
- 少人数のマーケティングチームでも導入できますか
- 既存のMAツールは不要になりますか
- 効果が出るまでどのくらいの期間がかかりますか
- AIが作成したコンテンツの著作権はどうなりますか
質問に対する回答を確認して、自社での検討の参考にしてみてください。
出典・参考リンク
本記事で引用した企業事例の一次情報は以下のとおりです。
- Vポイントマーケティングの導入に関するプレスリリース(セールスフォース・ジャパン)
- AIエージェントとの対話でデジタル広告配信のメディア選定と予算配分を高速化(電通デジタル)
- 「AIバーチャル顧客」同士の会話からJALカード会員への効果的なマーケティング施策を導出(NTTデータ)
- 「AIが代わりに動く」時代へ 新エージェント「Agent i」発表(LINEヤフー)
- AIエージェントでオペレーショナル・エクセレンスを加速(ライオン)
AIエージェントでマーケティングの実行力を高める
本記事では、AIエージェントのマーケティング活用10領域、生成AI・MAツールとの違い、企業事例5社、選び方4軸、導入5ステップを解説しました。
まずは自社の業務を棚卸しし、頻度が高く定型的な業務を1つ選んでPoCから始めてみてください。任せる自律レベルを先に決めておけば、現場が混乱することなく効果を検証できます。
一方で、「自社にどのタイプが合うか」「どこまで任せてよいか」といった判断は、情報収集だけでは決めきれない部分も残ります。AIエージェントの選定や導入の進め方を体系的に学びたい方は、専門のセミナーや学習機会の活用も検討してみてください。


















