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2017.07.18

その実態は?採用にWatsonを導入したソフトバンクの人事担当者を突撃してきた。

最終更新日:

みなさんこんばんは。AINOW編集部のおざけんです。

2017年5月29日ソフトバンクが自社の新卒採用にWatsonを採用すると発表しました。

採用にWatsonを導入!

プレスリリース
ソフトバンク株式会社は、応募者をより客観的に、また適正に評価することを目的に、2017年5月29日より新卒採用選考のエントリーシート※評価にIBM Watson日本語版(以下「IBM Watson」)を活用します。

過去のデータを学習させたIBM Watsonに応募者のエントリーシートデータを読み込ませると、IBM WatsonのAPIの一つであるNLC(Natural Language Classifier、自然言語分類)により、エントリーシートの内容が認識され、項目ごとに評価が提示されます。合格基準を満たす評価が提示された項目については、選考通過とし、それ以外の項目については人事担当者が内容を確認し、合否の最終判断を行います。IBM Watsonによる評価をエントリーシート選考の合否判断に活用することで、統一された評価軸でのより公平な選考を目指します。 以後略…

引用:https://www.softbank.jp/corp/group/sbm/news/press/2017/20170529_01/

このソフトバンクの試みは他に例を見ないもので、大変注目を集めました。今回は汐留にあるソフトバンク株式会社を取材し、詳しく話を伺ってきました。

出迎えてくださったのは人事本部の源田さんと安藤さんです。

ソフトバンク. 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長 源田 泰之
1998年入社。営業を経験後、2008年より現職。新卒および中途採用全体の責任者。ソフトバンクグループ社員向けの研修期間であるソフトバンクユニバーシティ、後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア、新規事業提案制度(ソフトバンクイノベンチャー)の事務局責任者。ソフトバンクユニバーシティでは、経営理念の実現に向けて社員への研修を企画し、社内認定講師制度などのユニークな人材育成の制度を運用。また、大学でのキャリア講義や人材育成に関する講演実績など多数。

ソフトバンク 人事本部 採用・人材開発統括部 人材採用部 採用企画課 安藤 公美
2003年入社。技術部門でYahoo! BBの展開、その後モバイル端末を活用したヘルスケアビジネスの設立に携わる。2010年に人事部門へ異動。中途採用担当を経て、現在は新卒採用を担当。

採用にWatsonを活用する仕組み

まず、新卒採用にWatsonを活用する仕組みをご紹介します。

ソフトバンクが導入したWatsonは採用フローの中では前半部分にあるエントリーシートの審査に使用されます。
具体的にはWatsonのAPIの一つであるNLC(Natural Language Classifier、自然言語分類)を使用することで、エントリーシートを効率的に評価するというものです。

▼NLC(Natural Language Classifier)
https://www.ibm.com/watson/jp-ja/developercloud/nl-classifier.html

また、合否判定はその全てがWatsonによるものではなく、Watsonが不合格と判断したものは、必ず人の目でチェックする体制が整えられています。

安藤さん

どのような基準でエントリーシートを評価しているかが明示されていないので、どのようにすればWatsonをうまく使いこなせるのかを考えるためにも、不合格の場合には人間が見て最終判定するようにしました。

【Watsonを使う流れ】

STEP1 過去に社内で評価済みのエントリーシートをWatsonに学習させる

STEP2 評価前のエントリーシートをWatsonに投入する

STEP3 Watsonが合否案を判断

STEP4 不合格のエントリーシートのみ人の目でチェック

これにより、何か不備があって不合格になっているエントリーシートでも抜け漏れることがないように工夫されています。

Watsonを採用に導入するメリットって?

業務時間の時間が圧倒的に短くなる

現在は、エントリーシート2項目のうち1項目の評価にWatsonを導入していますが、これにより年間に人事の方の500時間分くらいの工数を削減することができるそうです。
これは、Watsonが不合格と判断したエントリーシートをチェックする時間を含めての計算です。

人事担当者が評価をする場合、エントリーシートの一つの項目を5人分見るのに約5分程の時間がかかるといいます。しかし、以前トライアルでワトソンによる評価の時間を計ってみたところ18秒程度だったそうです。
これにより従来よりもエントリーシートを読むためにかける時間を約75%削減することができ、その分を面談などの対面でのコミュニケーションに充てることができます。

2017年は特に売り手市場だと言われています。
対人コミュニケーションを増やすことができれば、自社の仕事について話す機会が増え、自社にマッチする人を探す時間が増えます。今までエントリーシートを見ていた時間をそのような時間に割くことができれば、会社にとってより良い人材探しをすることが可能になります。

源田さん

採用市場って、売り手市場と言われていて、これまでみたいな一括採用に近い状態から、個人が会社を選ぶ時代になりつつありますよね。
そのため、企業側も自社にマッチする人を探しに行かないといけなくなっています。つまり実際に学生と直接会って、自社がどういう会社なのかを伝えないといけません。
ソフトバンク自体もいろいろな事業に進出していて、学生にとってはどんな会社かわかりにくくなっています。自社への学生のイメージと働くことのリアルをすりあわせていかないといけません。そうすると採用の本質的な仕事は「自社にマッチする人に、自社の働き方を伝えること」なんです。でも、たくさんの応募が来るとたくさんのエントリーシートを見ることや、面接に工数がかかってしまって、本当にソフトバンクにマッチする人と直接話すことに工数を割くことが難しくなります。そのため、この構造を変えないといけないなと思いました。

公平な採用が可能に

エントリーシートの評価に自然言語処理を活用することで、人の主観にとらわれにくい公平な採用を実現することが可能です。

これまでも人事担当者が統一された評価基準を共有し、エントリーシートを評価していたそうですが、やはり人間なので好みや主観などが評価に反映されていた可能性もゼロではないといいます。

しかし、Watsonを採用に活用することで純粋に内容だけを評価することができるので、公平にエントリーシートを評価することができます。

Watsonを採用に導入するデメリットって?

Watsonを採用に導入するデメリットはなにがあるでしょうか?

私は、取材前から「学生からしたら人の目でエントリーシートを見てくれないから、冷たい印象を抱いてしまいがちなのではないか」と考えていました。

そこで、この疑問をぶつけてみると、実際にはそうでもないようです。

源田さん

正直、学生目線からすると、人事がちゃんと見てないの?という反応があるのではないかという懸念がありました。
しかし、当社を受けている学生には否定的な意見はあまりありません。

しかし、ソフトバンクのような大企業では何万ものエントリーがあります。
それをすべて人の目で判断することは至難の業。
Watsonを用いた公平な評価システムを導入することはむしろ学生にとって好感触なものかもしれません。

おざけん

本当にデメリットって何もないんですか?

源田さん

本当にデメリットは皆無ですね笑

日本の採用は変わるのか

おざけん

今後3年以内くらいには自然言語処理でエントリーシートを選別することがメジャーになるのではないかと思うのですがいかがですか?

源田さん

採用、人事からするとやらない意味がないと思っています。リスクがほどんどないし、導入コストも高くありません。
採用の一部を外注している会社もありますが、外注に出すと1件のエントリーシートを読むのに非常にコストがかかることがあるんですよね。それって、すごい無駄だと思っています。また、採用が多様化しているので、採用担当が足を使ってちゃんと会社を知ってもらえる努力をしないといけなくなっています。

同じ人数で、今までと同じようなスキルの学生を採ろうとするのは絶対ムリな話になってきていて、そのために何かを効率化していかないといけません。
やらない理由はないといえると思います

編集後記

自然言語処理を用いてエントリーシートを評価することに対して、一見、「冷たい」などマイナスな印象を持ってしまう人もいるかもしれません。
しかし、自然言語処理を導入した真の目的が「直接学生に会う時間を増やす」ことであるとすればその印象はガラッと変わります。

また、人が評価するということは、必ず主観が入り込みます。一見公平にしているように見えても
「文字の綺麗さ」「写真の雰囲気」などに必ず影響を受けますし、調子が悪くテンションが上がらないときと良い出来事があってテンションが上がっているときでは、同じエントリーシートでも評価が変わるかもしれません。

自然言語処理を代表としたAIが、こういった会社の仕組みの部分部分に適正に導入されることで、ある程度の公平性、客観性が担保されるはずです。
このエントリーシートの評価システムにとどまらず、今後も社会に広く浸透していくことを心から願いつつ、この記事はここで終わりです。

おざけん

都内の大学ではメディアを専攻。3年次から某オンライン学習サービスでディレクターとして生放送授業の企画や現場のディレクションに携わり、2017年4月よりdip.AI Labにジョイン。AINOWのディレクターを務める。

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