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おざけんです。ICT技術はAI(人工知能)領域にとどまらず、全体で凄まじい技術発展を続けています。ますます生活が便利になっていくと同時に、世界各地と瞬間でつながることができるようになり、Web上の世界ではある意味世界が一体化してきているような気もします。
今回、記事で紹介するのは元Google 米国本社副社長 兼Google Japan 元代表取締役社長を務めてきた村上憲郎氏のご講演です。村上氏はグローバリゼーションが進むなかで重要性が増す「英語能力」「ICTを取り入れた教育」の重要性を語りました。
会場となったのは広島県三原市のとある施設。一般社団法人RoFReCが主催する講演会です。
RoFReCは三原市を中心にプログラミング教育を進めるコミュニティです。三原市や総務省と協力して「MIHARAプログラミング教育推進協議会」を発足させ、三原市内の子どもたちに向けたプログラミング教育を推進するべく活動を続けています。
目玉となるのがシャープが提供する「ロボホン」を取り入れたプログラミング教育。マウス操作で簡単にプログラムを作成できるツールを使い、子どもたちがロボホンの動きをプログラミングする他、実際に動きをプログラミングしたロボホンを三原市内の各所に設置した「ロボット探検ラリー」が開催されています。
この記事では、そんなMIHARAプログラミング推進協議会が主催した村上憲郎氏の特別講演会の様子をレポートします。
2003年4月、元Google 米国本社副社長 兼Google Japan 元代表取締役社長として Google に入社以来、日本における Google の全業務の責任者を務め、2009年1月名誉会長に就任、2011年1月1日付けで退任し、村上憲郎事務所を開設。
Google入社以前には2001年にDocentの日本法人である Docent Japan を設立し、同社の社長としてe-ラーニング業界でリーダーシップを発揮しました。
1997年から1999年の間は、Northern Telecom Japan の社長兼最高経営責任者を務め、Northern Telecomに買収された Bay Networks の子会社である Bay Networks Japanとの合併を成功に導く。後にNortel Networks Japanと改名された同社において、2001年中旬まで社長兼最高経営責任者を務めた。
日立電子株式会社のミニコンピュータシステムのエンジニアとしてキャリアをスタートした後、Digital Equipment Corporation(DEC)Japanのマーケティング担当取締役などを歴任し、マサチューセッツの DEC 本社人工知能技術センターにも5年勤務しました。
京都大学で工学士号を取得。東京工業大学学長アドヴァイザリボード委員。大阪工業大学客員教授。会津大学参与。
目次
グローバル時代を生き抜くために
GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)と呼ばれる巨大な多国籍企業だけでなく、今、多くの企業が国境をまたいで事業を行っています。国内でも、コスト削減のために海外に工場を建設するケースなど、国外へ事業の幅を広げる企業は少なくありません。
AI(人工知能)領域では、2017年3月、株式会社ABEJAがシンガポール法人を設立しています。
村上氏によると、企業が世界に展開していく「グローバリゼーション」には3つの段階があるといいます。
グローバリゼーションの3つの段階
- インターナショナル
- マルチナショナル
- トランスナショナル
「ナショナル」は「国民の」「国家の」という意味の言葉です。その前に「インター」などの言葉がついているこの3つの言葉。
一見似たように見えますが村上氏によるとそれぞれがグローバリゼーションの段階になっているといいます。
グローバリゼーションは、社会経済現象が国家や地域などをの境界を超えて、地球規模化することを言います。それに伴って、社会そのものも変化します。
この3つの段階をどうやって理解するか!?村上氏がそれぞれの段階について解説してくださいました。
インターナショナルな組織 / 人材
会社としての仕事が国内だけでは収まらなくなっている段階の会社がインターナショナルな会社です。
インターナショナルな人材は必要に応じて国境を超える(=パスポートやビザの取得をする)人材で、活動は数カ国に渡ることがあります。
マルチナショナルな組織 / 人材
「多国籍」がマルチナショナルです。現地に法人を作らないとやっていけない段階まで来た会社です。現地に工場を建設して加工してから輸入するほうがコストが安い場合などに現地に法人を設立します。
マルチナショナルな人材は、本国のパスポートを取得し、滞在先国の就労ビザを持つ人材です。
活動は数カ国に渡ります。インターナショナルな人材との違いは日本で勤めているかどうかです。インターナショナルな人材は、本国で雇用されています。
一方で、マルチナショナル人材は厳密な就労ビザが必要になります。つまり現地で給料をもらう、現地で所得税を払うことになります。
トランスナショナルな組織 / 人材
トランスナショナルな会社は、複数の国に拠点を持つ会社です。「本国」という意識が少なくなり、「研究開発はシリコンバレー」「本社機能はヨーロッパ」のように会社の機能ごとに国をまたいでいくスタイルの企業です。
生産や経理など会社の機能ごとに最も効率のよい国で活動し、国のこだわりがなくなっている段階の会社です。
このトランスナショナルな組織が真のグローバル組織といえます。地球をまるでひとつの国のように捉えています。
ではトランスナショナルな人材はどのような人でしょうか。
トランスナショナルな人材は地球を一つの国のように捉えていて、まるで「地球人」のようなニュアンスです。人生の各段階ごとに複数の国に滞在する人材で、自身の人生のそれぞれの段階を効率的に構築できる国で過ごします。
とある企業の社長がグローバル本社をシンガポールに設立した例が印象的です。社長はシンガポールにグローバル本社を設立すると同時に、家族でシンガポールに移住しました。それはシンガポールが幼児教育に優れているからです。シンガポールの幼稚園では英語や中国語が話されていて、トリリンガルに育つ可能性もあります。このように、教育や就労の可能性が世界に広がっているのが今だといえます。
グローバル化した世界の公用語は英語
グローバル化された21世紀の世界を生き抜くためには、公用語は英語になってしまったという現実に向かい合わないといけません。英語運用能力がないと、仕事できないようになります。
ボランティアや慈善活動も何をやるにも英語が必須になります。これから学ぶ子供は英語を学ばないといけなくなるでしょう。
英語を勉強する→英語で学ぶへ
日本は明治維新150周年を迎えました。
明治維新の直後の大学の先生は外国人教師でしたが、明治中頃には母国語(日本語)で、高等教育(大学や大学院)を受けられる国になりました。。
団塊の世代は日本語で高等教育を受けた恩恵を授かった最後の世代です。。高度経済成長期にはそれが適していたかもしれません。しかし、これから21世紀を生きていく人は、世界で1%しか話されていない日本語に縛られると、手かせ足かせになってしまっています。
これからは、英語を勉強するだけでなく、英語で物事をインプット(学ぶ)できるようになる必要があります。
MOOCsを活用して「英語で学ぶ」へ
村上氏は、英語で学べる教材としてMOOCsを紹介してくださいました。MOOCs(ムークス)とはインターネットを通じて、無料で世界各国の有名大学の授業を受講することができる学習サービスの総称です。「大規模公開オンライン講座」と訳され、近年インターネットの普及とともに注目されている学習環境です。
特にアメリカでスタートした以下の3つのサービスが中心となって世界中に拡大しています。これからは大学に通学するための高額な学費を払わなくても、学びを享受できる時代になっています。AI・人工知能に関する知識が学べる講座も多く公開されています。
英語力をマスターした方は、ぜひ受講してみてください。
カーンアカデミー(Khan Academy)
子供向けのコンテンツが豊富なMOOCsサービスです。算数や経済、歴史や美術など幅広い教科を学べ、もちろん無料で受講が可能です。
エデックス(edX)
国内では京都大学が参加表明したことで話題になりました。eDXはテストを受けることで修了証を発行してもらえることが特徴です。iPhoneでもアプリをダウンロードすることで、外出中の合間時間でも手軽に学習することが可能です。
ユダシティ(Udacity)
MOOCsの中でも代表的な学習サービス。プログラミングやコンピュータサイエンスを中心に展開しています。主に社会人向けにオンラインで無料コンテンツを配信していて、累計400万人以上が使用しています。
これからの教育=ICTを利活用した教育
文部科学省は教育を変えるためにICTを活用した教育を推進しています。これからは教育でもICT技術を活用していかなくてはいけません。
そして、これからは考える人、問題そのものを発見する人を育てる必要があります。これからは教室で先生が教えるのではなく、生徒が自分たちで考える教育(=反転学習)が行われるでしょう。これはひいては多様性を認めることになります。それを表現して共有する、そして共に学び合う(=アクティブ・ラーニング)をしていくように変わります。
今後は国際的に評価されるIB(International Baccalaureate)の理想的学習者になることが大事です。文部科学省はまだはっきり明言していませんが、全世界の大学受験資格に到達できるような高校になるように言っています。
国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラム。未来に責任ある行動をとるための態度とスキルを身に着けさせるとともに、国際的に通用する大学入学資格を与え、大学進学へのルートを確保することを目的として設置された。日本では、認定校に対する共通カリキュラムの作成や、世界共通の国際バカロレア試験、国際バカロレア視覚の授与などを実施している。(参考:文部科学省HP)
ICTそのものを学ばせる教育
これからは、計算機械を理解できるように教育に取り組まなければなりません。子どもたちに「人工知能に仕事が奪われる」という意識をもたせてはいけません。システムが自律的に動いているのではなく、人間がプログラミングをして動いていることを理解させなければなりません。
必ずしも全員がプロのプログラマーになれというわけではありません。しかし、計算機械を理解させるような教育はとても重要になってきます。
Raspberry Pi(ラズベリーパイ)で電子工作するなど、簡単な機械を用いて計算機械を理解してもらう工夫が必要になってきます。
これからIoT時代が来て、モノとモノが繋がります。モノがつながる体験ができるラズベリーパイであれば、簡易言語Scratchでプログラミングもすることができ、ICT教育にもってこいでしょう。
カードサイズでありながら、高い可能性を秘めたコンピュータ。プログラミングを行い、電子部品を本体に接続することによってさまざまな機能を実装できる。IoT開発を手軽に体験できるツールとして注目を浴びています。
最後に
「英語の重要性」「 これからの教育のあり方」を中心に語られた講演会でした。AI・人工知能においても論文は英語で書かれるなど、英語力がとても重要になってきます。
英語力をつけて、MOOCsを効率的に利用することができれば、お金をかけずに高度な教育を受けることも可能です。
東京から離れた三原市で、RoFReCを中心に、プログラミング教育が積極的に推進されていることはとても印象的でした。
RoFReCはさまざまな方の支援を得ていくことも魅力です。そのうちの一人でRoFReCの顧問を務めるのが、小説家のさかき漣さんです。この取材のきっかけをくださった彼女は、RoFReCを積極的に応援されています。ご著書の『エクサスケールの少女』はAIに興味をもつきっかけになってくれる素敵な一冊なのでぜひ読んでみてください。
また、三原のプログラミング教育の推進に関して詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
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