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2019.04.22

データサイエンス職への職務経歴書について誰も教えてくれないこと

最終更新日:

著者のEdouard Harris氏は、AINOW翻訳記事「なぜデータサイエンスのゼネラリストになるべきではないのか」の著者Jeremie Harris氏とともにデータサイエンティスト志望者が職に就くまで助言を行うメンターシップ・サービスを提供するスタートアップSharpestMindsを創業した起業家で、メンターも務めています。同氏が長文英文記事メディアMediumに投稿した記事では、データサイエンス職志望者から寄せられるよくある質問に対する回答が一般公開されています。

同氏には、データサイエンス職に願書を出してもなかなか面接までこぎ着けないという悩みがよく寄せられます。こうした悩みに対して、多くの志願者が面接までたどり着かないふたつの理由が解説されます。ひとつめの理由は、Indeedのようなよく知られた求職サイトを活用するとあまり注目されない、ということです。そして、もうひとつの理由が、往々にして求人情報を出稿する採用チームが有能な新人エンジニアを見抜く能力がないことです。というのも、採用チームが現場のエンジニアと接点がないということが少なくないからです。

以上の理由をふまえたうえで、同氏が提案する解決策は現場のエンジニアが人材をさがすような交流会に参加することです。そして、こうした交流会でコネを作るのです。また、交流会に参加することは面接がうまくなる近道であることも指摘されます。

なお、記事は悩みを抱えているデータサイエンス職の志望者からのメールに対して回答する、という体裁がとられています。そのメールからはアメリカでも学歴や職歴がモノをいうこと、またデータサイエンス職は狭き門であることがうかがい知れます。

日本とアメリカではデータサイエンス職をめぐる求職事情は異なりますが、メジャーな求職サイトを頼らずに言わば「搦め手(からめて)から攻める」べきという提案は、日本でも通用する内容ではないでしょうか。

なお、以下の記事本文はEdouard Harris氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。

わたしは、Yコンビネータの支援を受けたスタートアップで働いている物理学者である。データサイエンティスト志望者のメンターを務めるというわたしたちの会社の業務のせいで、データサイエンスに関するキャリアについてアドバイスして欲しいと頼むEメールをたくさん受け取っている。

わたしが仕事で受け取るEメールの多くは、とても似た質問を尋ねてくる。そんなわけで、いつしかよく受ける質問に対する答えを作っておいて、そのうちいくつかをストックするようになった。

数日前、わたしはよく見る質問のほとんどを1通のEメールでまとめて尋ねてきたものを受け取った。わたしは回答を書いて返信したのだが、この回答を膨らませて一般公開するいい機会が訪れたのではないか、ということに気づいたのだ。この回答は、データサイエンス職を探すのに苦労しているが、どうして苦労しているか理解していないすべてのヒトのために書いたものである。

あることに疑問があり、その疑問について尋ねるヒトが1人いれば、同じ疑問を抱きながらも尋ねるまでには及んでいないヒトが10人はいるものだ。もしあなたがデータサイエンス職の求職に関する疑問について尋ねてはいない10人のうちの1人ならば、私の投稿はまさにあなたのためのものである。この投稿が、あなたにとって役立つものであることを願うばかりである。

以下がわたしが受け取ったメールである。なお、メールの長さは編集して短くしている。

Eメールの内容

送信者:Lonnie(名前は変更している)

タイトル:データサイエンスの仕事を得たいと思っています。

わたしは大学を中退した者です(理論物理学の博士号と15年のデータサイエンティストとしての経歴のあるあなたにはわからないでしょうが、わたしは生まれた時から何かとうまく行かないという状況が続いています)。[中略]マーケティング部門を渡り歩いているあいだに、データというモノがいちばん好きなことに気づきました。Googleが運営するGoogle AnalyticsとOptimizely(※訳註1)を独学で勉強して、これらに関する資格も取得してスキルを磨きました。それからPythonやSQL、その他の開発言語も勉強しました。[アメリカで有名なデータサイエンスの初級講座]も修了しているのですが、面接にこぎ着けるまでに悪戦苦闘しています。今まで100通以上の願書を送っているのですが(送り先には様々な都市が含まれます)、ほとんどは面接までは行きません。

「スキルアップ」を継続するために、Udacity(※訳註2)のナノ学位コースとDataquest.io(※訳註3)を受講しています。

以下がわたしのLinkedInのデータです。よろしければチェックしてください[個人情報のため中略]。

[…]

わたしは、自分の学歴が不足していることがまさにわたし自身を殺していると考えています。殺しているのは、断じてわたしのスキル不足ではありません(身に付けたスキルの習得には多大な労力が必要でしたし、必要とされた労力を払いました)。面接で自分のスキルを披露するところまで行っていないので、こうしたメールを送っているのです。

大企業が主催するイベントに参加したことがあり、そのイベントで初めて人前でホワイトボードを使ってコーディングについて話したのですが、うまく行きませんでした。
ある有名なスタートアップが出題した生存分析(※訳注4)に関する問題を自宅で取り組んだのですが、生存分析の勉強を全くしていなかったのでうまく行きませんでした。
イベントにも参加した大企業が出題する問題に取り組みましたが、わたしの学歴のせいで回答を無視されました(わたしの回答をまとめたレジュメがあるのに無視するなんて、とても愚かなことです)。

その他の特記事項:なし

(※原註1)以上のメールの内容を補足すれば、Lonnieは受講した初級講座が自分が求職でうまく行かない原因とは感じておらず、うまくいかない原因は正式な教育を受けていないことにある、とわたしに伝えた。
(※訳註1)Optimizely(オプティマイズリー)とは、Optimizely社が開発・提供するABテストやユーザのターゲティングを実行できる分析ツール。同ツール活用に関する資格認定業務も行っている。日本では、株式会社ギャプライズが正規代理店となっている。
(※訳註2)Udacityとは、Googleの自律自動車プロジェクトに関わったことのあるセバスチアン・スランが創設したオンラインの職業訓練講座。同講座で取得できる学位「ナノ学位(Nanodegree)」は、大学の学位に準ずるものとして就職活動でアピールできる材料となる。
(※訳註3)Dataquest.ioとは、データサイエンス職に特化したオンライン講座。通常のビデオ講義スタイルの授業とは異なり、実際にコーディングしながらプロジェクトを解決することによってスキルを習得するPBL(Project Based Learning)を採用している。また、プロジェクトに活用されるデータは実在のものを使っている。
(※訳注4)「生存分析(survival analysis)」とは、あるイベントが起こるまでの時間とイベントのあいだにある関係を分析すること。日本では「生存時間分析」という訳語が定着している。例えば、工業製品が出荷されてから故障が発生するまでの時間、ある細菌に感染して何らかの症状が現れるまでの時間の分析が該当する。生存分析を機械学習の問題ととらえる場合には、教師あり学習としてアプローチすることが考えられる。具体的には、工業製品の出荷後経過時間を入力データ、経過時間に応じた故障発生頻度を出力データとして扱うことができる。

わたしの回答

こんにちは、Lonnie。問い合わせてくれてありがとう。

あなたが直面している問題は、多くのヒトにとっても真実なのです。データサイエンス職に願書を出しているのなら、出願先がどこであっても面接にこぎ着ける割合は2~3%なのはむしろ普通です。面接にこぎ着ける割合が極めて低い理由はふたつあるのですが、どちらの理由もあなたは知る由もないことなのです。

大勢のなかに埋没する

ひとつめの理由は、ほとんどの採用チームが願書追跡システムとでも呼ばれるものを使っていることが挙げられます。このシステムは、採用チームに最良の採用候補者はどこから来るか教えてくれるものです。もしあなたが応募したチャネルが過去に採用チームに芳しくない結果しかもたらしていないものであったならば、彼らはあなたの願書を見るのにあまり時間をかけないでしょう(※原註2)。

あなたの願書は、以上のような願書追跡システムによって処理されるのがほとんどである。

(※原註2)願書追跡システムを使えば、キーワードにもとづいて履歴書を自動的にふるい分けることができる。このことに関して、ほとんどの志望者が適切なキーワードを履歴書に含めることを知っているであろうから、この観点についてはこの記事ではこれ以上論じない。

例えば、もしあなたがIndeedを使って技術職に応募したとしたら、箸にも棒にも掛からないでしょう。Indeedはみんな知っているもので、応募するのも簡単です。このことはIndeedを使って願書を出すようなヒトを平均すると、ほとんどのヒトがまさに平均的なヒトであることを意味しています。それゆえ、採用チームのマネージャーはIndeedから送られてきた履歴書を見るのに少ししか時間をかけません。というのも、そうした志望者は月並みなヒトだと予想できるからです。

ほとんどのヒトがまだ知らないウェブサイトから応募すれば、こうした問題を回避することができます。Key ValuesやYコンビネータが運営するWork At A Startupの求人ページが求職を始めるのにむいています(※原註3)。ほとんどのヒトがまだ知らないウェブサイトを使うことによって、求職者であることを意図的に印象づけることになるのです。まだ知られていないウェブサイトを使って願書を出すようなヒトを平均すると、そのほとんどが平均以上であることでしょう。こうしたことが、企業があまり知られていないチャネルを使って応募してくる志望者により多くの注意をはらう理由なのです。

(※原註3)この記事でよく知られていない求職サイト名を挙げたことによって、より多くのヒトがこうしたサイトを知るようになることは承知している。しかし、わたしが名前を挙げたことによってこれらの求職サイトが近い将来にIndeedなみにメジャーになることはまずないだろう。

オフィスの政治事情

一般的な求職サイトに願書を出すとうまく行かない理由は、もうひとつあります。あなたにはにわかに信じられないかも知れませんが、求職サイトに求人を出している多くの企業(とりわけ大企業)は、実際には雇いたいヒトを探すために求人情報を出稿しているわけではないのです(※原註4)。

もしIndeedで技術職を探しているならば、あなたはうまく行かないだろう。ゴメンね、Indeed。

(※原註4)もちろん本当に雇いたいヒトを探すために求人情報を投稿する企業もあるものも、そうした企業が偶然にもよい採用候補者を見つけることはほとんどない。そうは言っても、もしあなたが求職中の身であるならば、本当に雇いたいヒトを探している企業との出会いは喜ぶべきサプライズととらえるべきだろう。

以上のことは、とても馬鹿げています。それにしても、なぜこんな馬鹿げたことを行うのでしょうか。あなたが知るべきことは、大企業においては採用チームと現場のエンジニアのあいだに鋭い区分があることです。そして、採用チームはたいていIndeedに求人情報を投稿します。

残念なことに採用チームは現場のエンジニアといっしょに働いていないので、彼らは採用候補者のうち誰が本当に有能であるのか、あるいは有能でないのか見分けることができません。こうした採用チームは成績証明書にもとづいて候補者をふるいにかける方法しか知りません。彼らがチェックすることはいい学校に行ったか(あなたがそう思うのであればスタンフォード大学(※訳註5)に行ったか)とか、いい企業で働いていたか(そう思うのであればGoogleで働いていたか)、ということなのです。

(※訳注5)スタンフォード大学は、アメリカ・カリフォルニア州にある名門私立大学。有名テクノロジー系企業のCEOには同大学の卒業生が多く、例えばGoogleの創業者セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジは同大学の修士号を取得している。また、アメリカで最も入学の難しい大学としても知られている。

以上が、あなたの願書の2~3%しか面接にまでこぎ着けないという暗い真実の理由となります。すなわち、採用チームは有能な新人と無能な新人の違いを見抜くことができません。それゆえ、彼らは採用に関して基本的に「ノー」と言わざるを得ないのです。なぜなら、有能でないかも知れない初級講座の卒業生を雇ってしまい、その卒業生の面倒を見ることでエンジニアチームが時間を無駄にしてしまうことを望んでいないからです。わたしは、こうした状況を何百回と見てきました。

幸運なことに良い知らせもあります。ほとんどのエンジニアチームは、採用チームが才能を見抜くことができないことを理解しています。そのため最良のエンジニアチームは、メジャーな求職サイトではなく自分たちのネットワークや裏のチャネルを使ってヒトを雇おうとします。以上をふまえて、わたしがあなたにできるアドバイスは次のようになります。機械学習エンジニアが集まるような交流会(オフ会)に潜り込むことから始めましょう。このアドバイスを実行するのに、別段魔法のようなものはいりません。Meetup.com(※訳註6)にアクセスしましょう、そして自分に関係のありそうな交流会を見つけて行ってみることから始めるのです。

Meetup.comのような交流会サイトを見れば、どの交流会があなたにとって価値があったりなかったりすることはすぐにわかるでしょう。交流会におけるネットワーキングからは、色々なメリットが得られます。スマートな質問をしてみて、実りの多い会話をしてみましょう。そして、お互いの自己紹介の時には思わず「雇いたいヒトを探している」と言ってしまうものなので、相手の発言をよく聞いておきましょう。

(※訳注6)Meetup.comとは、2002年から提供されているコミュニティを立ち上げ運営することを支援するプラットフォーム・サービスのこと。同サービスの創設者Scott Heifermanは、アメリカ同時多発テロ事件後に団結するニューヨーク市民の姿を見て、同サービスを思い付いたと話している。2015年より日本語でのサービス提供が始まった。

面接

採用面接に関してわたしが手短に言うとすれば、次のようになります。採用面接はダークで、ミステリアスな儀式である、と。そして、すべての企業がそれぞれ異なった仕方で面接を進めており、どの企業も自分たちの採用面接こそが真実にして唯一のものだと考えています。

採用面接がうまくなる方法は多数ありますが、最良の方法はたくさん経験することです。交流会に行くべきというアドバイスは、あなたが採用面接に慣れる助けにもなります。面接をたくさん経験すれば、それだけ面接からより多くのものを得るでしょう。たとえ初めは大失敗したとしても、ほかのスキルの習得と同じようにやり続ければいずれうまくなるでしょう。

最後に伝えたいことは、残念ながら現状のデータサイエンス職に関する雇用体制は非常によくないということです。とりわけ、機械学習の初級者には難しいものでしょう。初級者に難しいのは公平とは言えませんが、トンネルの先には光があります。機械学習キャリアを1~2年積めば、企業のほうがあなたを追いかけ始めるでしょう。努力こそが報酬に相応しいのです。

もしわたしが答えていないことに関して質問がありましたら、いつでもツイッターアカウント: @neutronsNeuronsに問い合わせてください。DMも受け付けています。問い合わせることに怖じけることはないのです!


原文
『What no one will tell you about data science job applications』

著者
Edouard Harris

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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