こんにちは、AINOW編集部のゆーどーです。
新型コロナウイルス感染拡大により、外出自粛の中で、自宅でオンライン講座に励む方も多いのではないでしょうか。
UdemyやSchooというオンライン講座では、マーケティングなどのビジネス全般的なことや、デザイン、経済のことを学習できるコンテンツが充実しています。
AI・ビッグデータ・IoT・先端技術についても習得できるオンラインコンテンツが増えてきています。
また、新型コロナウイルスの影響により、これまで対面で行っていた研修やセミナーがオンライン化され、ニューノーマル時代へ向かう新たな研修・セミナーのカタチも浸透してきています。
今回は、オンラインを中心にAIなどの先端技術の教育を展開しているzero to oneのCEO竹川氏に、日米を比較したオンライン教育の実態と、オンラインでのAI人材の育成についてお聞きしました。
目次
新型コロナウイルスの影響で拡大するオンライン教育
アメリカでは無償提供も進むオンライン教育
新型コロナウイルスが流行したことにより、日本だけではなく他国でもオンライン教育が実施されています。
導入が進んだオンライン教育はスキルアップにつながり、今後の失業対策につながるのではないかと注目を集めています。
例えば「Coursera」というスタンフォード大学の教授によって設立されたMOOCsは、コロナの影響で失業者が増え始めた2020年4月末から「Workforce Recovery Initiative」という失業対策プログラムを実施しています。
政府の援助で失業者に無償でオンライン講座へのアクセスを提供し、2020年7月末までに既に20万人以上が受講しています。
▼参考記事はこちら
ーーオンライン教育を早急に導入したアメリカでは、どのようなオンライン教育が実施されているのでしょうか。
竹川氏:アメリカの教育におけるオンライン活用は、20年以上前から本格化し、2010年代には既に「日常」になっています。
私が米国の教育スタートアップで社長をやっていた2010年代前半頃には、大学では先生も生徒もLMS(Learning Management System)を用いて授業の準備や復習から、レポート提出、成績の確認までオンライン上で行っていました。
また、社会人はCourseraやUdacityなどのオンライン講座を自腹で受講し、自らのスキルアップや転職など目的意識を持って学習を続けていました。
オンライン活用が日常的になった背景として、そもそもLMSの普及やMOOCsの裾野の広さなど、日米のオンライン教育のインフラそのものに差があると思います。
しかし、その根本的な要因は、単純なものから歴史的なものまで、さまざまな要因があると思います。
例えば、前者は地理的な要因ですが、アメリカはそもそも国土が大きいため、移動の負担を考えるとオンラインが普及するインセンティブは高く、教育でもそれは同様です。
また、日米で高等教育を受け、日米のEdTech業界に身をおいた経験から、教育における「平等」の捉え方の違いも、オンライン教育の必然性の違いに繋がっていると思います。
特にアメリカで重視されるのは、「機会の平等」(日本は「結果の平等」の意識が強いと思います)です。
教育の文脈では、地理的な制約や障害の有無などにかかわらず平等に機会を設ける意味で、アメリカではオンライン教育の推進が必然だったのだろうと思います(例えば、アメリカではオンライン教材への字幕の表示は「義務」になっています)。
現在のコロナ禍における感染予防対策として、キャンパスでの授業やリアルな研修が不可能になっても、既にオンライン教育が「日常」の一部になっていたため、すべてオンラインに移行することに大きな問題はなかったと思います。
(例えば、2011年の文科省発表料で、日本でのLMS普及率40%に対し、アメリカは93%となっています。)*1
さらに「教育におけるテクノロジーの活用」として、1900年代前半からテレビを教育現場で活用しようとした研究や実践が重ねられており、日本と比較した際には活用の歴史に大きな差があります。
▼参考記事*1はこちら
ーーなぜ、日本はアメリカなどの他国に比べてオンライン教育の導入に時間がかかったのでしょうか。
竹川氏:最も大きな要因は、オンライン教育に関わる教育理論の積み重ねの差と、そこから生まれる体制の違いにあると思います。
アメリカでは教育におけるオンライン活用を推進するにあたり、「インストラクショナルデザイン」に関する研究が進んでおり、学習効果を最大化するための方法論などもある程度確立されています。
また、中規模以上の大学には必ずと言って良いほど「インストラクショナルデザイナー」と呼ばれる専門職員が採用されており、オンライン教育を推進する際には先生方に寄り添って授業設計から、時にはLMSの活用サポートまで行っています。
例えば、2016年のレポート*2では、アメリカには13,000人ほどの「インストラクショナルデザイナー」がおり、うち約9割が修士以上となっています。
いわば「オンライン教育推進の専門家」が日本にはほぼその職種すら存在しないことも、オンライン教育普及の差につながっていると思っています。
▼参考記事*2
アメリカでのオンライン教材の事例
ーーAT&Tの事例について教えてください。
竹川氏:2016年に出たハーバード・ビジネスレビューの記事を参考に整理してご紹介します。
AT&Tは、2013年にCEOのRandall Stephensonにより「Workforce 2020」なるプログラムを開始しました。
この背景は、電話やインターネット接続といったAT&Tのビジネスが、VerizonやSprintなど既存の競合他社ばかりではなく、GoogleやAmazonなど他分野からの新規プレイヤーとの競争にさらされる中で、それまでの人材育成や人事制度では立ち行かないとの危機感から始まりました。
具体的には、職種を整理し、250あった職種を80へ削減しました。
それと同時に報酬体系も成果・スキルベースに見直し、その成果を計る管理システムを導入しました。
空きポジションと求められるスキルなども明示できるように整備し、その上で、社員が自らスキルをつけるための教育制度を導入したのです。
その目玉の一つがオンラインコースの提供とその際の産学連携です。
ジョージア工科大、Udacityと3者連携で独自のオンライン修士プログラムを立ち上げました。
また、働きながら学習できるようUdacityの25のオンラインコースの中から社員が選択して受講し、受講料は修了したら会社から支給される仕組みを導入しています。
その後のキャリアにつながることも明示した上で、社員の自主学習を推進したのです。
結果、2016年前半の技術部門のマネージャー募集の半数以上を社内人材で充当した、18カ月間で前者の開発サイクルを4割削減した、などの効果がありました。
何よりトップのコミットメントが印象的で、CEO自身「週に最低5〜10時間オンライン学習に費やさない人間は、あっという間にスキルも知識も時代遅れになる」と言って、社員を鼓舞していました。
私なりにポイントを整理すると、
- 未来を見据えた職種(ポジション)の明確化、
- 各職種に必要なスキルセットの明確化、
- そのスキルを習得するための手段の提供、
の3点セットにトップの強いコミットメントが重なり、「Workforce 2020」は効果的に機能したのだと感じています。
オンライン教育の「同期型」と「非同期型」とは
ーーアメリカのオンライン教育は日本と比べてどのような特徴があるのでしょうか。
竹川氏:日本では同じ「オンライン」で括られてしまうことが多いのですが、アメリカではオンライン教育を語る際に、「同期型」(Synchronous)と「非同期型」(Asynchronous)を明確に区別しています。
これらはそれぞれに特徴があれば、教授法も異なり、目的によっても使い分けられています。
「同期型」(Synchronous)とは、設定されている授業の時間に、オンラインで教員と受講生が出会い、授業を進める方法のことです。
この場合、教員と受講生が同時にオンライン上にいる必要があります。
「非同期型」(Asynchronous)とは、受講生がオンライン上の資料やビデオにアクセスし、それを基に学びを進めていく方法のことです。
こちらは教員と受講生が同時にオンライン上にいる必要はありません。
「同期型」は必要なタイミングでのみ授業を行えば済む一方で、「非同期型」は設計から開発まで工数もかかるため、一般的にはより開発の難易度が高いとされています。
コロナ禍のアメリカでオンライン教育への移行がスムーズだった要因は、この「非同期型」の質の高いオンライン教材が整っていた、ということも大きかったと思います。
日本でのオンライン教育の動向
ーー日本のAI人材育成にはどのような課題があると感じていますか。また、どのように転換させる必要があるのでしょうか。
竹川氏:日本ディープラーニング協会のG検定、E資格は、世界で唯一、この分野の人材要件をある程度明確に定義し、学習者にとっての良い「目標」として広がってきています。
また、今後も更なる広がりを期待しています。
一方、その2つの検定・資格が広がってきたからこそ、その周辺分野の学習教材やプログラムはまだ少ないように感じます。
例えば、AI活用に決定権があるマネジメント向けのプログラム、E資格を取得した方々向けにディープラーニングの実践ができるプログラムなどです。
また、AI人材育成の現場に、AIの専門家のみならず、教育分野の専門家の関わりが増えると、より教育効果の高い教材やプログラムが増えるものと期待しています。
理想的には、前述の「インストラクショナルデザイナー」のような専門家の関わりを増やすのも一案かと思います。
裾野の拡大も重要です。
例えば、高校生や中学生くらいの世代から、AI(人工知能)に関心を持ち、それ故に数学をしっかり頑張って学習するような人を増やす取り組みも、中長期的には大切であると思います。
ITスキルに特化した教育プログラムを提供するzero to one
zero to oneでは、AIなどの先端ITスキルに特化したオンライン講座を提供しています。NECや野村総合研究所など、大手企業や研究所も採用している教育プログラムです。
ーーzero to oneはどのような教育で差別化を図っているのですか?実績も交えて教えてください。
竹川氏:zero to oneは、2017年4月にオンライン教材をリリースして以来、AI分野の人材育成に取り組んでおります。
これまでに大手製造業、通信会社、システム開発会社など上場企業を中心にのべ300社、5,000名以上に教材提供を行なってまいりました。
日本ディープラーニング協会「E資格」の認定プログラム提供事業者としても、最古参の1社として教育プログラム提供を続け、「第四次産業革命スキル習得講座」にも認定されています。*3
同時に、経産省が主導する課題解決型AI人材育成に向けた「AI Quest」の昨年度調査事業*4に教材開発事業者の1社として参画したり、AIビジネス推進コンソーシアムにて高校向けのプログラム共同開発を推進するなど、前述の課題解決にも取り組んでおります。
大きな特徴としては、主に3つあります。
1つ目は、産学連携によるコンテンツ開発をしていることです。
東京大学大学院松尾豊教授、東北大学大学院岡谷貴之教授など、AI分野の有識者の先生方に、「機械学習」「ディープラーニング」など、各教材の監修を担っていただいています。
コンテンツ開発にとどまらず、その後の更新についても定期的にミーティングを重ね、随時アップデートに反映させています。
2つ目は、非同期型オンライン教材へ特化していることです。
学習から演習による実践まで、全てオンライン上で「非同期」で可能になるよう、教材開発からシステム開発まで独自で行なっています。
また、アメリカでは当たり前となっている字幕表示等も実現し、「機会の平等」も実現しています。
3つ目は、最先端の教育理論を踏まえたコース設計をしていることです。
京都大学高等教育研究開発推進センター長・飯吉透教授を顧問に迎え、最先端の教育理論も踏まえて学習効果最大化のためのコース設計を行なっています。
さらにその結果についても定期的に調査・研究を行い、独自のリサーチ結果として学会論文として発表しています。*5
▼参考記事*3
▼参考記事*4
▼参考記事*5
zero to oneのオンライン講座で取得できる資格とは
zero to oneのオンライン講座では、日本ディープラーニング協会(JDLA)の資格・検定に対応しています。
エンジニア向けのE資格と、ジェネラリスト向けのG検定です。
zero to oneの教材は、JDLA認定のプログラムですので、指定されているコースを受講・修了することで、E資格を受験することができます。
また、G検定の対策講座も用意されているので、AI(人工知能)を網羅的に学習し、試験に臨むことができます。
▼AI(人工知能)に関する資格や検定について詳しい記事はこちら
さいごに
オンライン教育は世界各国でさまざまなプログラムが実施されています。
アメリカでは、コロナ禍になる前からオンライン教育が実施されていて、各々の目標に向けて学習が進められてきました。
みなさんの周りでも、オンライン教育を受けてスキルアップに励んでいる人もいると思います。
以前のように教育を受ける際の「場所の制限」がなくなり、地方の学習者が抱えていた地域格差が減ってきています。
AI(人工知能)やRPAの導入に遅れを取らないために、オンライン教育で高度なITスキルを学習してみてはいかがでしょうか。
駒澤大学仏教学部に所属。YouTubeとK-POPにハマっています。
AIがこれから宗教とどのように関わり、仏教徒の生活に影響するのかについて興味があります。