現在「広告」は私たちの身近にあり、広告を目にしない日はありません。
TVやラジオをつければ一定時間単位で15秒〜30秒のCMが流れ、新聞には広告枠があり、チラシも挟まっています。携帯を開くと、各種のアプリから広告の通知が表示され、SNSにも一定の割合で広告が挟まれ、リスティング広告もでてきます。
このように「当たり前の存在」としている広告は、時代の流れに合わせて常にそのかたちを変えているのです。古くは新聞やテレビから、現在では、インターネットを軸とした「デジタル」が主要の地位を獲得しつつあります。
この記事では、広告の歴史から広告の変化を説明し、実際広告業が直面している課題および対策を紹介します。
目次
広告の歴史
広告分野の企業はたくさんのアイデアと挑戦を積み重ねてきました。
ここでは、現在の広告の起源はいつ頃から始まったのか、さらに世界と日本の広告の歴史を比較し、広告が日本社会に浸透した背景なども紹介していきます。
オフラインのマス広告
もともと「広告」という言葉は日本で使われていませんでしたが、明治維新後に日本に入ってきた英単語「Advertisement」を訳して、「広く告げる」となり、今の「広告」という言葉が生まれました。
日本の広告業界の歴史は意外にも古く、江戸時代にあった「引札」と呼ばれる独自の広告ビラが広告の起源です。「引札」とはいわゆるチラシのことで、カラー印刷を用いた色鮮やかな媒体を指します。
1872年に、日本初の鉄道が開通となり、広告掲載が許可され、「鉄道広告」が登場しました。また、新聞が発展するとともに雑誌も進化してきたため、雑誌内広告も増えてきました。
その後、ラジオやテレビといったニューメディアの出現で「マス広告」が飛躍的に成長してきました。しかし、あくまでアナログ、オフラインの場で広告枠の売買が行われていたことから、原初的なビジネス形態であったと言えます。
インターネット広告
1990年代からバブル経済が崩壊を迎え、経済状況の悪化と伴い、「マス広告」も徐々に縮小してきました。それと同時に、2000年代前半からインターネットとスマートフォンの普及により、人々の可処分時間の投下対象がマスメディア一極集中から複数メディアへ分散されました。
従来型の新聞、雑誌、テレビといったマスメディアも依然として影響力がありましたが、新聞や雑誌が電子書籍になり、テレビがインターネットに結線されてスマートデバイスになり、ラジオのアプリ化も進む現代においては、昔と比べて純粋なオフラインの広告ビジネスがほとんどなくなってきています。
さらに、人々の生活がインターネットと密接に繋がり、ユーザーの目に入る広告も急速にデジタル化してきました。
この時代の広告を知る上で重要なポイントが2つあります。
- 素材のデジタル化
広告を配信する際に使われるメディアおよびその上で流通する広告素材がデジタル化になりました。 - データの可測化
いつ、どの広告が、いくらで、どの媒体に何回表示され、そのうち何人が反応を示したかということがデータとして計測可能になりました。
このように、広告の表示回数やクリック率などが可視化され、効果検証ができるようになり、目に見える成果が求められるようになったことがこの時代のポイントです。
広告の自動化
オフライン広告の取引がインターネット広告の時代を迎え、広告がデータ化・可測化されました。そして、2010年以降はWeb広告がさらに高度化し、広告枠をリアルタイムで売買できるようになりました。
また、アドネットワークの普及により、広告を出稿する側の広告主は、広告素材の内容やサイズ、入札価格などの諸条件を決めさえすれば、広告代理店を介さずに直接広告を配信、管理することも可能になりました。
アドネットワークとは
2008年頃から登場した、多数のWebサイト上で広告を配信する広告配信手法です。広告媒体のWebサイトを多数集めて「広告配信ネットワーク」を形成した上、多くのWebサイトを媒体とすることで、多くのトラフィック量を確保することが可能となります。
また、広告出稿の自動化が急速に進んでおり、広告運用にも自動化の波が押し寄せています。その中で一番注目されているのはリスティング広告(検索連動広告)です。しかし、広告を出稿するには一定のノウハウが必要にもなり、求められる運用技術の高度化も同時に進んでいます。
リスティング広告とは、検索エンジンの検索結果に連動して表示される広告ことで、Web広告の中で最も大きな役割を持っています。
リスティング広告は、ある特定のキーワードに対して広告を表示させ、そのキーワードをユーザーが検索している関心が高いときに広告が表示されるため、コンバージョン率が高くなりやすいのが特徴です。
現時点のリスティング広告での自動化は、「入札調整」「レポート作成(数値の集計)」「ターゲット選定」が対象となっています。
広告運用の自動化で成果を出すためには、データの蓄積が必要となるため、今後はより一層データのフル活用を推進していくべきでしょう。
広告分野の現状
インターネット広告が好調
日本の大手広告代理店である「株式会社電通」が発表した「2019年日本の広告費」によると、2019年の日本の総広告費は6.9兆円でした。2018年は6.6兆円であり、前年比は101.9%です。2019年の結果も含め、日本の広告市場は8年連続プラス成長を見せています。
電通は日本の広告媒体を「マスコミ4媒体(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)」「インターネット」「プロモーションメディア」の3つに分けています。
その中で「マスコミ4媒体」は5年連続の減少となり、広告費は2兆6,094億円でした。一方で、インターネット広告費は6年連続で2桁成長しており、市場をけん引している状況です。。また、2019年にインターネット広告費(2.1兆円)が初めてテレビメディア広告費(1.8兆円)を超えました。
デジタルトランスフォーメーションがさらに進み、デジタルを起点にした既存メディアとの統合ソリューションも進化、広告業界の転換点となったかもしれません。
製品優位の時代から消費者優位
広告は、企業にとってブランドビルディングや業績を伸ばすための核心だと言われています。しかし、時代の流れやテクノロジーが進化してきたことにより、メデイア媒体が多様化されただけではなく、消費者のニーズも多様化してきました。
ダイバーシティーの浸透により、消費行動や金銭的な価値観が大きく変わり、今は製品優位の時代から消費者優位の時代へと移り変わりつつあります。。
1970年代は製品中心の広告が主流だったため、企業は製品のイメージを作り、消費者に選択してもらう時代でした。そのために、企業は製品のロゴ、CMのキャッチフレーズを繰り返して消費者に訴えるといった広告活動を行なっていました。
一方で現在は、デジタルメディア、スマートフォン、ECショッピング、そしてSNSの急速な普及により、消費者が商品とのタッチポイントが激増しています。。また、時代の移り変わりとともに「集団」「組織」から「個」の時代へと変化しています。顧客の自己実現欲求ができ、消費者優位の広告の需要が高まってきました。
この時代においては、いかに消費者と向き合い、対話して、そして共存を実現できる広告戦略を考える必要があります。
さまざまなインターネット広告
インターネット広告とは、ウェブサイト、メール、スマートフォンのアプリなどに広告を記載し、製品やサービスのマーケティングを行う宣伝活動のことです。
インターネット広告にはさまざまな種類がありますが、ここではよく使われる6つの手法を紹介します。
バナー広告(純広告)
Yahoo!JapanやExciteのような大手ポータルサイトや新聞社、雑誌社といった集客力のあるサイトの枠を買い取る形で掲載する広告です。
メール広告
メール広告とは電子メールを利用して消費者へ直接広告宣伝をするダイレクトマーケティングの一種です。消費者が事前に登録した情報に基づいて配信するため、ターゲティングが可能な広告手法の一つです。
動画広告
動画広告に多く利用されているのが「インストリーム配信広告」です。インストリーム広告は、YouTubeやGyaoなどの動画の再生前に表示される広告です。一方で、動画広告をSNSやポータルサイト等の外部メディアに配信するタイプの動画広告は「アウトストリーム配信広告」と呼ばれます。
ネイティブ広告
ネイティブ広告とは、「記事(コンテンツ)と広告が自然に融合している広告」のことです。ネイティブ広告の目的は、ユーザーの興味関心を踏まえた上で、他コンテンツと同じように広告を消費してもらう点にあります。
アフィリエイト広告
アフィリエイトとは、インターネットにおける「成果報酬型の広告」です。例えばWebサイトやメルマガなどで広告主の広告を掲載したリンクから経由により、広告主のサイト上で実際に成果(商品の購入や、会員登録など)にいたった時点で、一定の比率の報酬が支払われる形式のことを指します。
リスティング広告(テキスト広告)
リスティング広告とは、ユーザーの検索キーワードに連動して広告が表示されることから「検索連動型広告」とも呼ばれます。広告がクリックされると費用が発生し、リスティング広告を使えば、パソコンやスマートフォンで検索して、探し物している人を広告主のWebサイトへ誘導することが可能です。
インターネット広告のメリット
- 手頃の予算から始められる
インターネット広告の料金体系には、広告が表示された回数によって課金されます。1クリックされたときの単価や広告費の上限を設定することもできるため、比較的少ない予算で始められます。 - ターゲットを絞りやすい
インターネット広告は、狙った相手にピンポイントで広告を表示させやすくなっています。具体的には、ユーザーの居住地、年齢、性別などの属性情報や、WEB行動履歴をもとに、商品やサービスに興味を持ちそうなユーザーにだけ広告を配信することが可能です。 - 費用対効果の測定ができる
広告のインプレッション数(表示回数)、クリック数、クリックした後の成果数(CV)などが計測できるため、費用対効果を可視化できます。
インターネット広告への信頼感・好感度が低い
Googleは2018年に、詐欺や不正行為、マルウェアなどの問題を阻止する取り組みの一環として23億件の広告をブロックしました。
それは、インターネット広告業界に対する信頼の低下を阻止するために、広告が悪意を持った低品質なコンテンツの配信を減少し、「持続可能な広告」を目指すことでした。
このように、インターネット広告は信頼性の面で未だ課題が残っています。
Integral Ad Science(IAS)は、2019年11月12日に「Web広告が表示されるコンテンツ環境が広告やブランドの認知に与える影響に関する調査レポート」を発表しました。
調査の結果、低品質なコンテンツに表示された広告を鬱陶しく感じると回答した消費者はおよそ9割に上りました。また、Web広告が低品質なコンテンツ環境に表示された場合、34%の消費者が好感度が下がる、65%の消費者がそのブランドの使用を取り止める可能性があると回答したことが分かりました。
インターネット広告に対する広告主の不信感は高まっているなかで、信頼関係の構築はインターネット広告に携わる全ての関係者の重要課題となっています。
ユーザーの被害
近年ユーザーの被害に関するニュースをよく見るようになりました。
2018年にフェイスブックは、利用者8700万分のデータが選挙コンサルティング会社の英ケンブリッジ・アナリティカにより不適切に共有されただろうと発表しました。
これがきっかけで、海外ではWeb上の個人を特定する情報(IPアドレスやCookieなど)に関しても問題注目されはじめました。そのような流れを受け、2018年5月25日からEU域内に在住している市民の個人情報を保護する一般データ保護規則のGDPR(General Data Protection Regulation)が発効されました。
一般データ保護規則GDPRは、Cookieなど今まで個人情報とみなされていなかったデータも個人情報とみなされるようになり、取得する際にはユーザーの同意が必要になるということです。日本でも個人情報保護法が改定されましたが、まだWeb上のデータに関しては海外ほど重視されていません。
JIAAは2019年に「インターネット広告に関するユーザー意識調査結果」を発表しました。結果を見ると、ユーザーの 85%がインターネット広告への情報活用に不安を感じています。また、6割のユーザーは個人に関する情報が取得されていることを認識しており、プライバシー性の高いデータの取得・活用に対して抵抗感を感じているようです。
今後の展望
リアルとデジタルの融合
企業が生活者や顧客とコミュニケーションを図るには、デジタルとリアルの大きく分けて2つの方法があります。今、この両者を融合させた顧客コミュニケーションが注目されています。
例えば、顧客が購入した商品に基づいてコーディネートを提案するパーソナルカタログを送付することはその一例です。
カタログやECサイトの購入履歴のデータ分析によって顧客消費行動を掴み、最適なプロモーションするタイミングを捉まえると共に、カタログが持つ情報量・デザイン性・エンタメ性に富むというリアル媒体のメリットを活かし、顧客とのパーソナルコミュニケーションを図ります。
デジタル面だけではなくリアルにまで範囲を広げ、それぞれが持つ特性を活かすことで、より効果的なマーケティングが行えます。
ユーザーエクスペリエンス
デジタル時代では、「すべての取り組みが顧客体験価値向上のため」と言ってもいいほど顧客体験を重視しなければなりません。。
ここでは、ユーザーエクスペリエンス(顧客体験価値)を高める有効な手段として3つの施策を挙げます。
消費者により寄り添った広告
消費者視点から見ると、よりパーソナライズされた広告や見たい広告という、適した広告だけがほしい傾向があります。そのほかに、広告の情報価値の向上するために、消費者にとって「文脈に沿う広告」を提供するのも重要です。「こういう情報に基づいて、こういう広告を出しています」とユーザーに対して説明を尽くし、広告主にとってもより高い効果を生み出せます。
最適な形で振り分けられる広告
現在はさまざまな広告の形があり、有効な広告の形がわからないことが広告主の悩みです。さまざまなコンタクトポイントでの体験がつながる形で実現できているか、最適な形でユーザーに広告が振り分けられているか、これらを調査して改善することは企業側としても重要になってきます。
ユーザーに選択肢を与えた上での広告
これからメディア会社は多種多様な広告を配信するだけではなく、受け取る側のユーザーにもっと選択肢を与えていくべきです。「ユーザーにどの経由で広告届いているのか」と、「ユーザーがその広告が欲しいかどうか」、もしくは「ユーザーにとって自分のデータを使っていいかどうか」の選択肢をユーザーに与えることが重要です。
データの透明化
インターネット広告市場の透明性と公正性は、まだ整っていません。
日本新聞協会は2020年7月、デジタル広告市場に関する意見書を政府に提出しました。意見書ではインターネット広告市場が透明性を欠き、媒体社、広告主とともに納得感を得られていない現状だと指摘されました。
媒体社が落札価格などに適切にアクセスしているかどうか、適正な収益を得られているかどうかを確認する環境の整備が必要です。
広告主だけではなく、ユーザー側にもデータを取得する理由を明確されていないため、データの透明化が課題となっています。
例えば、「データ取得はサービス改善のために行うので、結果的に皆さんのためになります」とユーザーに説明して、「何のためにデータを取得するのか」という目的を見失わないようにしなければなりません。
成功事例
「花王」:インスタグラム広告による若年層から認知の向上
若者から50代でも大人気のインスタグラムは、写真や動画の共有ができ、さまざまなコンテンツが揃えているからこそ、幅広いユーザーをターゲットとして広告を配信できるSNSになっています。
花王は、若年層がメインターゲットであるの発売にあたって、ターゲットとの親和性が高いInstagram広告を主軸に、デジタルコミュニケーション戦略を展開したいと考えました。
若い世代では注視時間が短くなっているという調査結果から、短時間でも印象に残りやすいクリエイティブな作成だけではなく、GIF動画やカルーセル動画広告、ストーリーズ広告を活用しました。
また、購入したユーザーがInstagramへ投稿することで商品への反応を見ることができるので、ユーザーの声を取り入れたブランド戦略の実施にも力を入れています。その結果ブランド認知は10ポイント、購入意欲は3ポイントの上昇、そして店頭金額シェアが150%という成果を出しています。
SNS広告は、特定のジャンルに関心や興味を持つ層を狙うことができるだけではなく、自社商品のことは知らないという潜在顧客層の認知拡大にも向いています。
ドミノ・ピザ:ドミノ“世界のチーズをめぐる旅”AR
AR(拡張現実)は、企業が広告宣伝の一環や、eコマースの購買促進に活用されており、とWeb界隈では新たな技術として注目を集めています。
2020年8月大手宅配ピザチェーン店「ドミノ・ピザ」が、新商品「ワールド10チーズ・クワトロ」の発売に合わせてプロモーションARアプリをリリースしました。
世界中から厳選した10種のプレミアムチーズが1枚のピザで楽しめる「ワールド10チーズ・クワトロ」販売に際し、プロモーションとしてリリースされたテーマは、「ARによる世界のチーズをめぐる旅」でした。
広告内容は、ドミノ・ピザの新商品ピザ4種類に使われている、世界各国の10種類のプレミアムチーズに関する理解を深められるARでした。同じ「チーズ」と言われても、その種類は国や地域によって味がさまざまです。
見た目・味・製法、そして歴史も異なるので、国ごとに異なるチーズの詳細情報を、ARで現れる地球儀を回して世界を旅しながら学べるコンテンツとなっています。
広告にARを取り入れる目的は、消費者の満足度の向上です。楽しみながら、新商品「ワールド10チーズ・クワトロ」で使用しているチーズを知ってもらったり、お酒とのペアリングを学んでもらったり、ただピザを頼むだけでなく、ピザを頼む過程で「チーズに関する理解を深める」という付加価値を生み出してくれます。
ピザを頼む前はもちろん、ピザが届くまでの時間に読み物として楽しめそうです。このようにテクノロジーを取り入れることで、広告だと思わせないように、消費者がワクワクしながら楽しめます。
ヘアケアブランドApotek:電車通るたびに髪がなびく
スウェーデンのヘアケアブランドApotekの広告は、地下鉄が通るたびに広告パネルの中の人の髪が突風でなびくという驚くべき広告です。
パネルには超音波センサーが埋め込まれており、地下鉄が近づく振動を感知すると、画面の中にいる女性の髪が風向きに合わせて絶妙なタイミングで吹き上がります。そして、地下鉄が到着して電車の風が収まると、ポスターの女性は手で髪をかき上げてニッコリします。
Apoteckのキャッチコピーは「あなたの髪を生き返らせる」となり、Apotekの製品を使用すれば、風で乱れてもなお美しい、健やかで弾むような髪を手に入れられ、すぐに髪がまとまるということをユニークな手法でアピールしています。
テクノロジーを活用したアイキャッチな広告として、ネット上でも話題になりました。今後テクノロジーとリアルを融合することにより斬新な広告へと進化するケースがどんどん増えてきそうです。
まとめ
これからますますデジタルが進む中で、デジタルと広告の親和性はとても高いことが分かりました。
しかし、どうやってユーザーがインターネット広告に良い印象を持ってくれるようになるか、またインターネット広告がデータを健全に発展していくためにどうすべきかはまだ大きいな課題として残っています。
広告は社会環境に対する影響には責任があり、常にユーザー目線から、ユーザーエクスペリエンスを重視した広告への着目が大事になって来るでしょう。