最終更新日:
2017年10月11日,12日。「人工知能と社会」をテーマにしたシンポジウム「AI and SOCIETY」が東京・虎ノ門にて開催された。
国内外からAIの有識者を招待した大規模なイベントで、会場は多くの人で埋め尽くされた。
今回はそんな「AI and SOCIETY」のセッション内容をみなさんにお届けする。
目次
【Day 1-1】キーノート レクチャー
講演者 北野 宏明(ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長兼所長)
生物学的な研究から発見まで20年くらいかかることもある。そこで、北野氏は体系的にAIを使っていきたいという。測定に関しては現代化しているが、そのデータを活用するレベルはまだ低い。ディープラーニングを使うことで、人間が今まで気づきえなかった発見をすることができるとして、今後のAIと人間とAIのハイブリッドシステムが必要と述べた。
また、AIは創造性を有するかという点では、「今、AIには曲を作曲することができている。音楽という大きな集合の中に、音の響きでビートルズ的に聞こえるものがある。AIはビートルズが発見していないビートルズ的に聞こえる曲を発見している」とも述べた。
講演者 Oren Etzioni(アレン人工知能研究所所長)
イーロン・マスクはAIで悪魔を呼び起こしていると言っている。繰り返しこのようなことが言われている。
ではAIがなんなのか。なんとなくではなく特定の側面を見ると、まずAIと言えばAlphaGOだ。しかし、自然言語などのニュアンスがないものだから、彼はあまりびっくりしなかったという。AlphaGOは特定のことしかできない。囲碁以外のゲームはできない。なぜ、その行動をしたのかを説明することができず、自分が勝ったことですら認識できない。
10代の人間は知性が低いが自立性はある。AlphaGOは知性が高いが自立性が低い。そんな違いがある。
AIを考えると、結局はツールを使っているのは人間。自動走行車など限定的な決定しかできない。どこにいくかなどの意思決定は人間がしている。
6歳の息子がいるが、彼のほうが自立性があるという。
兵器に関して。暗殺に使われるのか? 本当に注意しないといけないのは自立性だ。兵器が知性を持っているのが逆に間違いを防止することができる。兵器の自律的な能力のほうが怖い。
では仕事はどうなのか。AIシステムはかなりの仕事を奪う。アメリカでは高校を卒業してない人も多く、そういう人はトラックの運転手など定常的な仕事をしている。そういう人たちは困ることになる。このような人に対しては介護はどうか?と提案したい。人が合っているもの人のつながりがあるところに投資をしていくことが大事だと考えている。
AIはどう使うか。社会課題の解決のために使うのか。潜在的に危険な兵器に使うのか。AIは単なる技術なので、使う私達が大事で、責任あるAIの使い方が大事なのだ。
【Day 1-2】 最先端の人工知能の応用:ビジネスでの事例1
司会 堀川 優紀子(ATR 知能ロボティクス研究所
講演者 相原 寛史(株式会社三菱UFJフィナンシャルグループデジタル企画部 部長)
内容非公開
講演者 松橋 正明(株式会社セブン銀行 常務執行役員 セブン・ラボ)
内容非公開
【Day 1-3】最先端の人工知能の応用:クリエイティブAI
司会 池上 高志(東京大学教授)
講演者 Alex Champandard(creative.ai共同創業者)
将来において社会は技術において何をするのかを考える。
技術から社会ではなく社会が何を求めているかを考えて技術について考えるべきだ。
ビッグデータはクリエイティビティを阻害しかねない。差別化のためには少数の個別のデータも重要になる。
Luba Elliott(創造的人工知能研究者 iambic.ai)
Google,DeepDreamやMemo Akten Daniel Ambrosi やConstant Dullaart。
Style transfer,Gene Kogan,Char-rnn,Beyond the Fence,Sunspring,Autoencoding Blade Runner,Geomancer,Mario Klingemann,Anna Ridlerなど多くのクリエイティブAIの事例を紹介した。
Kenneth O. Stanley(セントラルフロリダ大学准教授・Uber AI Labs)
最も想像力のあるものは、自然だ。進化というアルゴリズムに基づいており、生物は現在もそれをもとに進化を続けている。このアルゴリズムの実行はまだ終わっておらず、これは地球全体で起こっている。オープンエンドな進化とも言われている。
分岐を続ける進化は目的がないからなのか。AIも分岐させなければいけない。そして、枝分かれした枝を保全していかないといけないとKenneth氏は述べた。
【Day 1-4】キーノート レクチャー
司会 金井 良太(アラヤ 創業者・代表取締役)
講演者 榊原 彰(日本マイクロソフト執行役員 最高技術責任者)
散らばった研究者を統合して2016年にAI and Reserchを設立したMicrosoft。
AIの民主化を謳ってAI機能を導入。いろいろな産業に貢献していきたいとしている。
マイクロソフトは人間を置き換えるためではなく、人間の可能性を拡張するためにAIを作っているとMicrosoft最高経営責任者(CEO)のサティア・ナデラ氏は述べている。
Marek Rosa (GoodAI 創業者・CEO・CTO)
インテリジェンスは問題の解決策を探すツールだ。インテリジェンスには終わりがなく常に改善を続けていく。しかし、インテリジェンスはリソースに拘束される。限りある資源の中で活用しなければならない。知能は再帰的に自己改善を行う。
特化型AIは一つの特定の問題のみを解決するものだ。そのスキルを他の領域に転用することはできない。汎用人工知能は人間レベルのスキルを目的としている。まだ誰も汎用人工知能を実現させていない。
汎用人工知能は、自己を特化させ、さらに特定の領域を解決する人工知能を生成する。
ではどうやったら実現するのか。
スキルを特定してそれをプログラミングによって特定しようとしている。
そのスキルは2つある。ハードコード(ソフトウェア開発の際に、特定の動作環境を決め打ちして、その環境を前提とした処理やデータをソースコードの中に直に記述すること 引用:IT用語辞典)されるスキルと学習するスキルだ。
内在的な汎用人工知能のスキルは2つある。
1つは段階的な学習だ。人間の発達からインスピレーションを受けて、単純なスキルを最初に達成したあと、より難しいスキルを習得する。
もう1つは誘導型の学習だ。知識のある教師は、どの瞬間にどの問題が学習者にとって最も有用かを判断することができる。
今後は、内部で研究開発を進め、またGeneral AI Challengeを催している。
汎用人工知能のメリットは、非常に高いROIだ。費用対効果が高い。そして私達人間の最後の発明になり得る。私達すべてが人工知能の恩恵を受けることもできる。
AIはさらに賢いAIを作ることができ、人間が限界に達した仕事もこなすことができる。生物的、空間的な制限もなく、感情によるコストも少ない。
汎用人工知能が達成したあとは、世界的にベーシックインカムが導入されるかもしれない。AIの進化に寄与した人の自由を増やし、暗黙知を明らかにして知能に活かせる。
では汎用人工知能の実現のために何ができるのか。AIの研究開発に投資をしようと締めくくった。
【Day 1-5】最先端の人工知能の応用:ビジネスでの事例2
司会 堀川 優紀子(ATR 知能ロボティクス研究所 )
講演者 山中 正雄(トヨタIT開発センター 研究部 エンジニアリング・ビッグデータ・グループ シニア・リサーチャー)
今後数年間で完全な自動運転は実現しない。運転手が、車内で物を食べたり化粧をしたりできるようになるが、それをモニタリングする必要がある。車内のデータ処理が自動車業界の差別化要因になる。
例えば、車外に出る行動を予測できれば、後ろから車が来ているときだけドアをロックするなどできる。
講演者 森 正弥(楽天株式会社 執行役員・楽天技術研究所代表・楽天生命技術ラボ所長 )
ECの特徴としてロングテール問題があげられる。似たような商品のうち、1回でも買われた商品は再度レコメンドされ、販売数を伸ばしていくが、運悪く買われなかった商品はレコメンドされずどんどん買われなくなっていく。
売れた商品はどんどん売れ、売れなかった商品はいつまでたっても消費者に届かないのである。楽天はAIを活用することで、この問題を解決するという。今となってはコンピュータは発達し、大量のデータを処理できるようになった。
楽天はR&Dを積極的に行っている。今後ロングデールは進行していく。4万5000店以上の店舗があり多様化が推し進められている。こうなってしまうとユーザの理解は人手でできず、ビッグデータを解析する基盤が必要になってくる。
講演者 原 裕貴(富士通株式会社 執行役員)
道路陥没を防ぐための路面下の空洞探査やCT検査における類似症例検索技術、橋梁の内部損傷の推定などの事例を紹介。他にもフィンテックやIoT、セキュリティの領域でもさまざまな効果を実証しているという。また、ブラックボックスと言われていた結果の「理由部分」を明らかにする説明可能なAIを今後開発していくとしている。
また、量子コンピューティングへの取り組みとして、デジタルアニーラを紹介。量子現象に着想を得たデジタル回路で、組み合わせ最適解を高速に算出できるとしている。
従来のコンピューティングでは解けない最適化問題を瞬時に解く新たなあー=きてくちゃで、安定動作と現実社会の実問題へ適用可能だと原氏は太鼓判を押した。
富士通大きな目的は「Human Centric AI」の実現だという。人が幸せになるAI、自律成長と人の協調による課題解決として、理研AIP-富士通連携センターを設立し、重要な社会ニーズに対応する次世代のコア技術を創出していくと息込んだ。
具体的には、社会インフラやヘルスケア、ものづくりへの活用を椅子得て、想定外を想定するAIを研究開発していくとしている。ロバストな機械学習、シュミレーション・AI融合、大規模な知識の構造化を進める。
【Day 1-6】特別セッション:人工知能ベンチャーへの投資
パネルディスカッション: 投資家としての倫理観
(画像左から)
モデレータ 上前田 直樹(グローバルブレイン AI・サイバーセキュリティ パートナー)
パネリスト Yoav Tzruya(イェルサレム・ベンチャー・パートナーズ パートナー)
Phil Chen(ホライゾンベンチャーズ アドバイザー)
Tak Lo(ゼロスドットAI マネージングパートナー)
Manish Kothari(SRIベンチャーズ 社長)
上前田 直樹氏: どういったAIスタートアップ企業が人気ですか? 例えば日本はディープラーニングやテクノロジー、デバイスが人気あります。
Yoav Tzruya氏: 少なくともイスラエルではここ数年でシフトしています。我々はディープラーニング領域では、数年前であればスゴイ科学者がいる会社に投資していました。しかし、そういった会社が買収されてコモディティ化してくるとコア技術の革新が減り、データが多い会社に投資を強めています。また、サイバーセキュリティでディープラーニングを使っている企業には投資を進めています。あとは保険ですね。
Phil Chen氏: 我々はグローバルな投資家です。5年前に投資を始め、ビッグデータを扱う会社に投資をしました。また、私たちはプラットフォーム企業に投資をして成功しました。特にクリエイティビティを重視しています。また、垂直統合型のAI企業も見ており、この数年間でシリーズA,Bに対して大きな投資を行ってきました。。AIはアプリケーションが垂直型のものが多くなってきて、頭打ちになっているのが多くなっていると思います。
Tak Lo氏: 90%がバーティカルです。限られた人しかホリゾンタルはできないと思います。
バーティカルを見て、機械学習でマーケットにフィットするかということを重視しています。つまり、テクノロジーとマーケットフィットですね。
Manish Kothari氏: 新しい投資段階に入っています。数年間“診断”に注視してきた。しかし、メディカルテクノロジーのほうが1000倍診断よりも価値があります。診断問題は解決し始めていて、治療分野へのシフトしています。
上前田 直樹氏:まとめてみると、AIが広く適用しているのでテクノロジーとマーケットフィットが大事になってきたということですね。
AIスタートアップを見るとときに苦労するのはドゥーテリジェンス(不動産投資やM&Aの際に、企業の資産価値を適正に評価する手続き。企業の収益性やリスクなどを総合的かつ詳細に調査してその価値を査定する。引用:コトバンク)ですが、どうしていますか?
Yoav Tzruya氏: アーリーステージでテクノロジーに投資していてもテクノロジーだけでは判断していません。ここ数年コアの発明はありません。テクノロジーが浸透してくると、知的な話をするのは難しくなります。
また、必要な場合には学術機関にはお世話になっています。
Phil Chen氏: AIでおもしろいことは、何に価値があるかということです。
何がおもしろいのかはっきりわからないのが問題点。誰向けなのかが重要です。プロダクトサイドの人がAI業界には少ないと思います。
またサービスかデータかレコメンドなのか、何に価値があるのかがはっきりしていない。
そういう意味でAIは面白いと思います。「ここに価値がある」とはっきりわからない。AIが重要な役割をはたすだろうというのは誰もが一致しているが、誰が顧客なのかがはっきりわかっていません。
アルゴリズムとデータ、どっちにインテリジェンスがあるのかが曖昧な会社が多いです。スタートアップ企業とAI分野の話をすると、製品化が難しいところがあります。勝負の要因がわかっていない会社が多いからですね。
Tak Lo氏: 見ているものはデータです、初期の段階のスタートアップにデータについてどのように考えているのか、データ収集についてどう考えているのか、またそれをどのように顧客に価値を提供するのかをわかっているか聞くようにしています。
Manish Kothari氏: 確かにその通りです。
私達が、何に注目しているかというと新しいセンサーです。まれにアルゴリズムで有利なときはあるが、新しいセンサーは面白いと思います。数量が多く高速度なセンサーが楽しみです。
最後にこの1年ほどで、スタートアップとしてはじめて、より後期段階のディストリビューションモデルを作りました。
Phil Chen氏: 誰もが同じデータを持ってるとしても、それで何を探して良いのかわかっていない。ハイパーデータを集める。誰もアートを3Dプリントしようとは考えていませんでした。AIでそういうデータの捉え方をやっていなかったからです。
上前田 直樹氏: AIスタートアップ企業はどんな問題に直面しますか?また人は足りているのでしょうか。
Yoav Tzruya氏: 人材は課題ですが思っているほどではないのはないでしょうか。大学院でコンピュータなどをしてそれなりにAIに触れている人なら、OJTで教育も出来ます。応用AIみたいなカリキュラムみたいなものがあれば理想ですが。。。
データオペレーションはすべてのスタートアップの課題です。ROIを説明できるかが肝心です。
Phil Chen氏: 人材不足はないと思いますが、多様性は欠けていると思います。プロダクト側の人間が少ない。AIの分野では脳科学などで進捗がありました。Googleなどの企業はそれぞれ企業文化がありAIをある程度特定しています。BaiduなどはAIの捉え方が一枚岩です。
Tak Lo氏: バイアス(偏見)だと思っています。AIの分野ではバイアスは危険です。
また、人材よりも多様性だと思います。
Phil Chen氏: ルネッサンス型の人材が欠けています。
上前田 直樹氏: 将来についてお聞きします。シンギュラリティはあると思いますか? またその時、倫理はどれくらい大事になるでしょうか?
Yoav Tzruya氏: 個人的にはまだシンギュラリティは遠いと思います。
まだAI倫理でもすることはたくさんあります。一部の国が不公平になあることにおいて、見方としては100年前の石油みたいではないでしょうか。AIは効率化に使われますが、AIを使えるところは有利になります。必ずしもフェアじゃないことが始まるのではないかと思っています。
それに伴って格差が広がる可能性があります。コアな技術はオープンソースにならないので、数10年は苦しむ国は苦しみますね。競争は激しくなると思います。
【Day 1-7】次世代のAIテクノロジー
講演者 三宅 陽一郎(スクエアエニックス リードAIリサーチャー)
AINOWでもおなじみの三宅陽一郎氏の講演。ゲームに使われるAIとしてメタAI、キャラクターAI、ナビゲーションAIについてそれぞれ講演した。
詳しくはAINOWでのインタビュー記事を参考にしてほしい。
【CEDEC 2017】 [前編] ルイージ要素で感情を揺さぶるメタAIの仕組みとは? -SQUARE ENIX 人工知能(メタAI)を用いたゲームデザインの変革-
講演者 Jeffrey Kephart(IBMトーマスワトソン研究所 名誉研究科学者)
身体化されたAIについてのセッション。
AIは人間の知能を拡張するべきだと考えているというJeff氏。
人間の認知は三次元の空間の中で影響を受けているという。
講演者 甘利 俊一(東京大学名誉教授)
「ロボットは意識があるのか」「人間とはなんなのか」について述べた。
今のAIは3年後には普通のテクノロジーになるという。
脳は進化によるランダムサーチで、ごたごたの設計の中で精妙な構造になっていて超複雑。
では、人工知能はどう実現するか。
人間の脳の材料はアミノ酸なため制約を受ける。
また、歴史的な制約があり、前の遺伝子を騙して進化してきた。
AIは脳の一端を捕まえて技術的に実現した。
ディープラーニングの人間との1番の違いは意識や心の有無である。ロボットは合理的で使命感があるが、人間は不合理で芸術や喜び、愛などを感じる。
編集後記
2日間を通して、このイベントに参加させていただいた。滅多に集まらないであろう有識者たちが虎ノ門に集結。個人的には国際的な知見をつかめたことが非常に有意義で、また、ほとんどの有識者が似たような意見を持っていたのも特徴的であった。
例えば、人工知能のコアテクノロジーはしばらくはブレークスルーがないため、データ量などを投資で重視していくというところが最も心に残った部分である。
国内でもこれからも多くのAIベンチャーが誕生していくが、このイベントのテーマ「AI and SOCIETY」のように、社会実装を進めていく、そんなサービスが国内からも生まれることを期待したい。
■AI専門メディア AINOW編集長 ■カメラマン ■Twitterでも発信しています。@ozaken_AI ■AINOWのTwitterもぜひ! @ainow_AI ┃
AIが人間と共存していく社会を作りたい。活用の視点でAIの情報を発信します。