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2017.11.02

海馬をモデルに組み込み汎用AI実現への一歩を。第3回全脳アーキテクチャ・ハッカソン「目覚めよ海馬!」レポート

最終更新日:

おざけんです。

全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(WBAI)は、人類社会と調和する汎用人工知能の実現を長期的にわたって支えるために設立された非営利活動法人だ。

毎年秋に全脳アーキテクチャ・ハッカソンを開催している。

3回目となる今回は「脳型の認知アーキテクチャ」がテーマ。2015年に「複合機械学習」をテーマとして第1回が始まり、2016年の第2回は「認知アーキテクチャ」をテーマとして開催された。

イベント概要

具体的には「海馬の計算モデルを全脳アーキテクチャに組み込む」ことがゴールとして設定された。今回のハッカソンの参加者は、主催者が提供する新皮質+基底核モジュールと連携するように海馬モデルを提案・改良・実装することなどで、さまざまな迷路のタスクを実行できる脳型の認知アーキテクチャの開発を目指す。

深層強化学習は、新皮質に対応する深層学習と大脳基底核に対応する強化学習を組み合わせること(新皮質+基底核)で、従来の技術と比べて汎用性が高い認知アーキテクチャを実現しているが、ここに海馬体の計算モデルを組み入れることができれば、「脳型」の認知アーキテクチャの最初のプロトタイプを実装できることを目指した。

銅谷教授による基調講演のスライド。今回のハッカソンでは、このアーキテクチャに「海馬」をどのように組み込むのかがテーマになっている。

海馬体は新皮質全体の情報を統合し、エピソード記憶、自己位置推定、長期記憶の形成など、主観的な「いま、ここ」を作り出すという重要な機能を持っている。新皮質系と基底核系の連携が脳の実行系のコアであるとすれば、新皮質系と海馬の連携は脳の認識系のコアであるとみることができる。

ハッカソンの様子をまとめた動画も公開されている。

全脳アーキテクチャ若手の会:門前氏編集

基調講演:目覚めよ海馬!開会宣言

講演者:銅谷 賢治教授 沖縄科学技術大学院大学

基調講演映像はこちら

全脳アーキテクチャは、脳全体のアーキテクチャに学び人間のような汎用的な人工知能を創る工学だ。

銅谷教授によると、人工的に知能を実現するためには、脳の仕組みにとらわれる必要はないという考え方と、脳のような高度の知能の実現例があるのだからそれに学ばない手はないという考え方がある。歴史的には両者の間を往復しながら発展してきた。

例えば、視覚においては脳科学における「特徴抽出細胞」が人工知能における「パーセプトロン」に応用された。また経験に応じて形成されることがわかった視覚も、多層教師あり学習やネオコグニトロンなどに応用されている。また脳科学における条件付けの学習などを参考に、1980年代に報酬の予測をもとにした強化学習(TD学習)が有効に働くことが示された。

Deep Q-Networkは2015年に発表された。画面と報酬を入力として学習するものである。それ以前は、強化学習にディープネットワークをつなげると学習が不安定になると言われていたが、Deep Q-Networkではexperience replayとtarget Q networkを導入することで改善したという。とくにexperience replayは相間の強い経験データをバッファーに蓄え、定期的にランダムにサンプリングすることによって安定した学習をしようとするものである。Deep Q-Networkを発表したDeepmindのハサビス氏は海馬の研究をしていた人で、こういった工夫にも脳科学の知見が活かされている

海馬は何をしているかはまだ一言では言えないが、聴覚や視覚などの感覚情報の統合、経験したことの再現が考えられる。さらに先読みに関わる可能性もあり、報酬と罰信号の統合することで強化学習にも関わる可能性があるかもしれないと締めくくった。

プロジェクト一覧

表記: チーム名【プロジェクト名】

小山内チーム【wbai hachathon 2017】

【発表内容】海馬のエピソード記憶や自己位置推定を行う。また、コードに対する予測を実装。

Brain-inspired【Brain-inspired A3C】

【発表内容】Brain-inspiredとA3Cを二軸に掲げて、DQNでいいのかという問題をA3Cで検証。

加藤チーム【セルアセンブリ構築を目指して】

【発表内容】工学的な見地と神経科学の見地を合わせて、海馬に準じた長期記憶のセルアセンブリの動きを再現したものを作っていく。

EK-Kaiba【DQNへのLSTMの適用】

【発表内容】LTP/LTDに依存した空間記憶モデルをニューラルネットワークにより再現し、また、交互に依存しない絶対座標を表す場所細胞を再現する。

戸田チーム【わかったの瞬間】

【発表内容】海馬の中で、主に位置情報の記憶保持を行動の予測と欲求の関係で実装します。また、右と左で脳を分けて真ん中で連携するような機構を作る。

tiss【preplayを利用した検索の補助】

【発表内容】プリプレイ現象のモデル化や実装に取り組み、海馬が記憶を形成する様子を再現。

麻生チーム【Engram】

【発表内容】場所細胞やビット細胞がゲームエンジンに使えると考え、その下地を勉強しようと挑戦。

HM-SYS【エピソード記憶と価値に基づく行動選択】

【発表内容】エピソードの特徴ベクトルに価値を含めてモデル化することで、エピソードからの未来の予測と行動の意思決定までを可能とする海馬系のモデル化にチャレンジ。

結果発表

審査員(左から)市瀬 龍太郎 准教授(国立情報学研究所)高橋 恒一 さん(理化学研究所)今井 倫太 教授(慶應義塾大学)佐藤 直行 教授(公立はこだて未来大学教授)

最優秀賞

Brain-inspired A3C

優秀賞

エピソード記憶と価値に基づく行動選択

奨励賞

セルアセンブリの構築を目指して

preplayを利用した検索の補助

編集後記

脳に学んで人間のような汎用人工知能をつくる全脳アーキテクチャ。今回は「海馬」に焦点を当てた取り組みだった。

汎用人工知能をつくるには必ずしも人間の脳の構造を真似する必要はないが、すでに実現されている事例として参考にしない理由はない。海馬だけでなくそれぞれの脳機能の仕組みをうまくで模倣していけば、実現もそう遠くはないかもしれない。

関連してこの記事も詳しくハッカソンの様子をお伝えしている。ぜひご覧ください。

脳型の認知アーキテクチャによる人工知能は、どのぐらいヒトに近づいたのか

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