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「新しい技術はこれから確実に大きなビジネスになる」
そう断言するのはXintelligent株式会社の中畑さん。
2019年2月23日(土)東京都五反田で開催された「JAWS DAYS 2019」のひとつのセッションをご紹介します。
「商業空間や家庭などの設備がAIやIoTによって制御される未来に関係する技術」と題されたこのセッションでは、設備がAIやIoT技術によって新たな意味を持ち、新たな価値を生み出す新たな時代になると強調されました。
目次
どこにでもある照明、すでに多くのお金が動いているビジネス
膨大な費用のかかる設備
会社、居酒屋、大学…あらゆる場所に施設があふれるこの時代。設備機器代や設置工事代、メンテナンス代など設備には膨大な費用がかかっています。
それが高層ビルなど大規模な施設になれば、さらに費用は膨らみます。照明だけに限ると、セッション会場では、30もの照明があり、それだけでも膨大な費用がかかってることは容易に想像できます。
実はこの「設備」という領域は、AIやIoTによる発展が進みづらい領域です。日本国内では独自の規格でしか動かない設備がほとんどで、オープンに開発が進まないという現状もあるようです。
設備が生まれ変わる「時代」がきている
中畑さんは、そんな設備を取り巻く状況に対して新しい技術と設備をつなげたビジネスを進めています。
その理由として…
「時代」を掲げた中畑さん。具体的には以下のような3つの時代がきているそうです。
- 設備が新たな意味と価値を持ち始めた
- 内閣府のSociety5.0という科学技術政策
- オープンでグローバルな設備制御プロトコル
新たな意味を持ち始めた設備
「LEDに仕事を奪われた」中畑さん
AIの台頭と同時に「AIに仕事を奪われる」と言われることも多くなってきました。新たな技術によって従来の仕事が必要なくなってしまうことはよくあることですが…
中畑さんは、LEDによる照明の長寿命化で、ランプのセールスの仕事が奪われてしまったそうです。影響を受けたのはもちろん中畑さんだけではなく、交換ランプのビジネスは急速に収束していきました。
しかし、実はそれ以上に大きな変化がありました。
LEDにより照明がデジタル化したことで従来のように「明るくする」機能だった照明に新たな意味・価値が生まれるようになったのです。仕事を奪われたはずの中畑さんは、新たな設備の可能性に気づいて活動を続けています。
「明るくする」だけでなく「伝える」照明に
以下はPHILIPSが提供する「Hue」という照明器具。APIを通じて色や明るさを
制御することができます。
もともと照明の役割は部屋を明るくするということでした。また信号機や灯台など、「伝える」という役割もあります。しかし、これまで「明るくする」照明と「伝える」照明は別々でした。
しかし、「Hue」のような照明の登場で、「明るくする」照明と「伝える」照明が一つになることが可能になりました。これこそ「制御できる照明」の新たな価値です。
「制御できる照明」の凄さとはなんでしょうか!?
例えば、左から右にむかって順番に照明が点灯すると・・・
方向を伝えることができます。
また、一箇所だけを明るくすると、その場所を注目させることもできます。
このように照明は空間にいる不特定多数の人対して、意識や方向、注目をコントロールすることができます。
これを活用すれば、例えば通勤ラッシュの駅のホームで、混んでいない車両の場所まで人を誘導することができるようになるかもしれません。
そしてそれを実現するためには、照明設備だけでなく、乗車数などのデータが必要になったり、AIを使った画像認識が活用できるかもしれません。
このように照明はIoTやAIなどの先端技術と組み合わさることで、新たな意味と価値を持ち始めたと言えます。
価格競争が強まる設備業界
制御できる照明の新しい意味と価値はなかなか理解が難しいと中畑さんは言います。
しかし、新たな技術の可能性を理解できていないと価格競争しか生まれないと中畑さんは警鐘を鳴らします。
照明をはじめとした設備業界全体では、技術の成熟とともに価格競争が激しくなっています。型番がある製品は特にWeb上での価格の比較が簡単になっていて、価格競争がさらに激化しています。
例えば、価格.comには業務用法人向けのカテゴリが用意されています。
Webの発展で人々が情報を簡単に入手できる情報化社会は、とても便利ですが、どうじに価格競争を激化させる側面もあるようです。
だからこそ、価格競争を脱して、どのようにしたら新たな価値をうみだすことができるのかを考え、そこにAIなどの先端技術の可能性を応用していくことが大切です。
設備の基準をオープンな国際基準に!
Society5.0でも設備の重要性が強調されている
内閣府が掲げる「Siciety5.0」という政策があります。日本政府は今、テクノロジーに政府の方針として力を入れています。
Society5.0とは「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と定義づけられています。
このサイバーとフィジカルをつなげるのは、まさに設備の役割です。ビッグデータの解析結果やAIの予測など、Web上に蓄積された価値が設備を通して人間にフィードバックされる時代がもうすぐやってきます。
AI業界においてもロボット(ハードデバイス)の重要性が語られる場面が多くなってきました。Web上ではグロースハックが進みユーザ体験が飛躍的に進歩しています。そんな今、Web上だけでなくロボットや設備を通して、現実社会にもIoTやAIの力が還元される時代が近いうちにくるでしょう。
では、その成功の鍵なんなのでしょうか?中畑さんは、オープンでグローバルなプロトコルが重要だと語りました。
オープン&グローバルなプロトコルの重要性
サービス開発では「オープン」という言葉がよく使われるようになりました。APIを介してさまざまなサービスと連携できたり、データの自由に活用できるプラットフォームや、企業間連携も増えてきました。
設備制御はゲートウェイから設備制御用のプロトコルを介して行います。AIやIoTの技術を設備に応用しようとしても、既存のゲートウェイでは対応できず、対応するものに変える必要があります。
だからこそ、新規施設の開発や、設備改修のタイミングで、設備が持つ新たな意味や価値について理解しておくことが必要です。
国内ではほとんどがメーカー独自の方式
プロトコルにはメーカー独自の方式と国際基準方式がありますが、日本の設備制御はメーカー独自方式がほとんど。責任の所在がはっきりするからという理由だそうですが、メーカー指定の製品しか使うことができず、AIやIoTの活用の可能性を縮めてしまいます。
だからこそ、オープンな国際基準方式の活用を進めることが大切です。IoT・AI時代にふさわしい設備制御の国際基準方式は2つあります。
それが「DALI」と「KNX」です。
DALIはオープンな照明の設備制御プロトコル。KNXは設備全般の一般的なプロトコルです。国内でも納入された実績があるので、ご紹介していきます。
DALIは2017年11月に石狩データセンターに納入されています。照明をDALIで制御することで、フリーアドレスに対応させたり、省エネにもつながっています。
KNXは2018年12月に吉祥寺にある映画館「アップリンク吉祥寺」に納入されています。活用方法は照明シーンの切り替え。
メディアサーバーにプロジェクターだけでなく、KNXを介した照明をつなぐことで、客入退場、予告編、本編などのシーンに対応した照明の制御が可能になったそうです。
このようにオープンな国際基準方式が意識されつつある今、世界ではさまざまな設備が販売されています。スイッチだけでも数え切れない商品の数があり、一社に依存することなく、さまざまな設備制御を組み合わせ、新たな価値創出を目指すことが大切でしょう。
これからの設備制御には「Global」「Open」「Connected」が求められます。オープンでグローバルな設備制御プロトコルで、AI / IoTをリアル世界とつないでいきましょう。
さいごに
JAWS DAYSはJAWS-UGが主催するイベントです。JAWS-UGは日本全国に70以上の支部を持つ Amazon Web Services(以下AWS)のユーザーグループです。
当日は2000人近くの来場者が訪れ、どのセッションも人で埋まっていました。ブース会場も人で溢れ、100以上のセッションが行われました。
興味のある人はJAWS-UGにぜひ参加してみてくださいね。
■AI専門メディア AINOW編集長 ■カメラマン ■Twitterでも発信しています。@ozaken_AI ■AINOWのTwitterもぜひ! @ainow_AI ┃
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