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2019.06.08

ディープラーニングは儲けてなんぼ! エンドユーザの付加価値を考えろ!松尾豊氏

最終更新日:

2019年6月8日、MicrosoftとPreferred Networksが協同で運営するディープラーニングのコミュニティ「DEEP LEARNING LAB(DLLAB)」が2周年記念のイベントを開催しました。

今回は東京大学大学院 教授で日本ディープラーニング協会理事長の松尾豊氏による基調講演の内容をお伝えします。

松尾氏は、ディープラーニングのビジネス活用において「儲かること」はとても重要で、そのためにユーザにしっかり付加価値を与えていかなければいけないと強調しました。

ビジネスになっていないディープラーニング

松尾教授は、まずはディープラーニングの技術が、事例が増える勢いに対してビジネスになっていないとディープラーニングの現状を振り返ります。

そこで、インターネットが誕生した当時と振り返りながら、ディープラーニングの活用が進んでいないことは、単に悪いことではなく、可能性を理解し、長期的に取り組んでいく必要性を強調しました。

松尾氏:ディープラーニングの技術がすごい勢いで進んでいて、ビジネス化の横で技術革新も進んでいます。2018年はBERTがLottery Ticket Hypothesis(宝くじ仮説)などの技術が進み、事例が増えている割にはビジネスとして大きくなっているかというとまだまだこれからという感じです。

ただ、短期的に捉えないほうがいいと思っています。ディープラーニングの技術自体は数十年に一度の大きなイノベーションです。

インターネットによって企業の時価総額ランキングは大きく変わりましたが、これもディープラーニングによって大きく変わるだろうと思っています。

松尾教授の登壇スライド

松尾氏:この変化は10年から20年かけて起こると感じていて、わたしたちはその初期段階にいると感じています。

インターネットのように、ビジネス化には平均して20年ほど遅れる傾向があります。

松尾氏:AmazonやGoogleができたのは、90年代の半ばから後半です。

この時点では全くビジネスになっていませんでした。ポータルサイトに集客するのがビジネスとして一番優れていると言われていました。

2000年代になって検索連動型広告と結びつき、検索エンジンが収益性の高いものとわかり、Web広告が広がりました。

技術だけでなく、ビジネスモデルと上手く組み合わさることで大きなものになりません。

松尾氏:2006年にヒントン先生が「DeepBelief Net」を実現、2010年代前半に音声認識や画像認識が注目され、今の段階はさまざまなベンチャーやプロジェクトが立ち上がっているという段階です。

ただ、これがビジネスになっていません。今の段階で大きなビジネスが起こっていないのは当たり前で、もっと長期的に考えたほうがいいと思っています。

1990年代後半の時点で2019年の世界を思い描いていたら動き方は違っていたはずです。インターネットのマッチングの可能性に気づいていれば、いろんな動き方ができました。

ディープラーニングによってマーケティングが重要に

ディープラーニングの技術発展は、熟練の暗黙知の形式化や自動化などを可能にし、これからもさまざまな産業にインパクトを与えると考えられます。

これにより、熟練のスキルを誰もが使えるようになったり、今までにない規模での自動化が進み、さまざまな産業のコストも変化します。

松尾氏は、そんな時代においてマーケティングが重要になってくると強調しました。

松尾氏:ディープラーニングとは一体何なのか。私なりに考えていることをご紹介します。まず、ディープラーニングの入り口は『熟練の眼のスコア化』か『中心的な作業の自動化』しかありません。

より現場に近い非IT産業のほうがギャップが大きいのでビジネスの可能性も大きいと思います。

『熟練の眼のスコア化』と『中心的な作業の自動化』ができると、横展開できるようになります。人がやっていて横展開が難しかった業務が横展開可能になりました。

それによってコストが落ちる業種がたくさんあります。価格競争になってコストが落ちると、最終的には人は感性やストーリーにお金を出します。自動化が進むとマーケティングが重要になります。

自動化と感性に訴えるマーケティングの両面が大事だと思います。

急成長するディープラーニングビジネスの要件

長期的にディープラーニングの可能性を捉え、取り組むべきだと述べる松尾氏。

そんなディープラーニングビジネスの要件を産業革命時にできたエレベーターに例えて紹介しました。

松尾氏:いろいろなファンドのアドバイザーを努めたり松尾研究室関連のベンチャーも増えてきて、いろいろな案件を見てきたのですが、すごいビジネスプランはほとんどありません。100件に1件くらいです。でも少しずつ出始めています。

例えば、産業革命時代に動力ができ、1階から2階に上がるエレベーターができましたが、多くの人は「階段で上がればいいでしょ」と思っていました。

しかし、10年後、高層ビルが立ち始めた頃からは必須のアイテムとして重宝されるようになったのです。つまり、エレベーターの発明は、高層ビルの建設を可能にしたということだったんです。

これを現在のディープラーニングのプロジェクトで例えると、1階から2階に自動で上がってみました系のケースが多く、「人がやったらいいじゃん」で終わってしまいます。

自動化によって今までできなかった付加価値をどのように生み出すかが重要です。

これからは自動化だけではなく、自動化によってフローを妨げていたものを解消し、大きな手数料を得るのが一つのモデルになると思います。

人間の勘や経験で行なっていた部分をディープラーニングで実現し、現在障害となっている部分にそれを適用します。大きなトランザクションを作り出したところをビジネス化させるのが重要です。

自動化することで流れを妨げていたものを解消してより大きなフローを作り出し、ここが大きなビジネスチャンスであると捉えることができます。

プロダクションの例が少ないディープラーニング

松尾氏:インターネットに例えると、インターネットができた当時は、ホームページを作るだけでビジネスになっていました。そんな時代は終わりました。

当然、技術を身につける人が増えてくればくるほど優位性がなくなり、ビジネスとの掛け算が重要になってきます。

今でも、技術力が高くてもビジネス面が弱いベンチャーはありますし、ビジネスがわかっていても技術が追いついていない大企業もたくさんいます。掛け算の面積が大きくなるのが重要です。

また、何を狙っているのかがわからないケースも多いです。やってみても、「本当にコスト削減になるのか」など目的が検討されないままプロジェクトが進む場合が多いです。

はっきり言って「儲かってなんぼ」なので、そこを明確に意識することが大事です。そして、最終顧客(エンドユーザ)の付加価値に寄与するのも意識する必要があります。

結局、顧客の最終的な付加価値に結びつかないと長続きしません。クライアントがどうやって儲けて、その先の最終顧客がどのように満足しているのかを意識することが重要かなと思います。

スタートアップの立場から見ると受託で成り立ちますが、そんな時代は長くありません。基本的には産業領域ごとに特化していき、その中で必殺技を作っていかないと、戦いが厳しくなると思っています。

これも普通に考えると、インターネットでも細分化しています。その中での競争力が重要になってくるんだと思います。

AIバブルは1回崩壊する?

松尾氏は、合間でAIバブルに触れる一面がありました。

松尾氏:今の状況を見ると、なんでもかんでも「AI」というだけで、技術の詳細やビジネスの状況を見ずにやたらと評価が高いケースが多いです。

2000年前後にインターネットでは、1回バブルが崩壊し、ついていけない人は振り落とされました。こういうことがAIでも多分起こると思います。

激しいものなのか、早い時期なのかはわかりませんが、調整の局面が来るはずで、来ないとおかしいと思っています。

企業におけるAI活用の5つのメソッド

最近は『AI Transformation Playbook』(企業における段階的なAI活用のための脚本)という文書を作ったAndrew先生のことをよく紹介しているという松尾氏。

松尾氏は『AI Transformation Playbook』を引用しながらAIへのトランスフォーメーションについて語りました。

小さな成功体験をすること

パイロット事業というのは、新しい技術の導入のために行うことです。

企業の中でAI技術を導入していくためには、事業の中で小さな成功をしていくことが重要です。

松尾氏:Andrew先生はGoogleの中でディープラーニングがいかに重要であるか2010年くらいに説得することに非常に苦労したという話がありました。

今となっては信じられないですが、Speech Recognition(音声認識)の中でAIを使って大成功を収め、そこから他の部署に広がっていきました。検索はGoogleの事業にとって大きな軸となっていたので、もう少し端の事業から始めていったということです。

ですから、事業の中心では無いけれども、めちゃくちゃ端のところではない事業のところで小さな成功体験を早くすることが必要です。

インハウスのAIチームを作る

現時点でのAIプロジェクトは外部との連携が多く見られますが、今後はインハウス(自社内の人材の運営)のAIチームを作ること必要になっていきます。

松尾氏:外部のパートナーさん(スタートアップやITベンダ)は、非常に重要ですが、最終的にはインハウスのAIチームを作る必要があります。

AIチームをCTO、CIO、CDOなどの下に置いて、各プロジェクトに対してAIを提供していくことが重要です。

このチームのミッションは、企業全体のAIの能力の向上、プロジェクトのサポート、人材のリクルーティング、プラットフォームの提供などです。

AIのトレーニングを提供する

会社の組織全体でAI技術・活用方法を理解することが必要になっていきます。

松尾氏:全社的にAI、ディープラーニングの知識レベルをあげることが非常に重要です。CLO(Chief Learning Officer)を置くことの必要性も挙げられます。

部署によって提供するトレーニングのレベルが違っていて、エグゼクティブレベルは少なくとも4時間以上のトレーニングが必要です。そこで『AIやディープラーニングってなんだ?』といったことや、それが企業の戦略にどういう影響をもたらすのか学ぶことが必要です。

AIプロジェクトを遂行する部門のリーダーでは12時間以上のトレーニングそし、AIプロジェクトのワークフローやプロセスを理解することが必要です。

AIエンジニアは100時間以上のトレーニングをし、実際に学習してモデルをデプロイできるようになるということ必要です。よって、立場によって違うレベルの教育を受けることが必要なってきます。

AI戦略を作る

松尾氏:ここで「AI戦略を作る」は4番目です。

1〜3をやってから4をやれと『AI Transformation Playbook』には書いています。

多くの企業ではAIのプロジェクトも教育も受けていない、そしてチームも無いのにAI戦略だけを作ろうとする傾向があります。

AIを分かっていないと戦略を立てることはできません。また、好循環のループを作ることが重要で、たくさんのデータがあるから良い製品になり、たくさんのユーザーが買ってくれる。そして、さらにデータが集まります。このように好循環のループを作ることが必要です。

しかし、ただデータを集めればいいわけではなく、データにある付加価値を見極めることが必要です。

内部・外部のコミュニケーションを作る

松尾氏:5番目には内部・外部のコミュニケーションを作るということで、IR・GR・顧客の教育・人材・コミュニケーションの全てが重要です。

AIによってさまざまな変化があるので、そこに関してはコミュニケーションが重要だということが書かれています。

日本における差異

ここまでは中国・アメリカを指摘している話でしたが、日本の場合では、年功序列が産む弊害を指摘しています。年功序列社会によって意思決定の遅さが近年指摘されていますが、さらに序列の高い層であるほど技術の理解度の低いことが問題となっています。

松尾氏:日本では年功序列が強すぎて、大企業であればあるほど、企業トップの理解度レベルが低いことが考えられます。つまり、上への説明コストが高すぎるということです。

よって、これからは全社的な教育、特にトップレベルの教育が非常に重要になっていくと考えています。

それから、ITや機械学習で大きな事業を生み出した会社は基本的には日本に無いので、AIやディープラーニングがビジネスに結びつく「勘所」を持った人が非常に少ないという課題もあります。

さらに人材の育成が遅れています。たくさんの人が集まってコミュニケーションをすることは非常に良いことだと思っていますが、日本にはこういったコミュニケーションを行える場が少ないという状況になっています。

米中争いの土台に乗らない日本

AIにおける中国と米国に関して、松尾氏は「AI SUPER-POWERS」という本を紹介し、日本の現状を指摘しています。

松尾氏:この本は中国対米国の視点の話が中心となっています。

李開復氏は中国が米国に勝つためのAIとして4つのAIに分けて比較し、今後は中国が米国を逆転していくだろうと予想しています。

日本の場合はインターネットAIとビジネスAIは非常に弱いといった現状にですが、知覚AIや自律AIは今後の可能性があると考えていて、今後頑張っていかなければいけない領域です。

さいごに

「儲かってなんぼ」

ユーザに付加価値を与え、さらに事業が成長すれば、保持するデータも増え、ディープラーニングなどの機械学習技術の開発にも好循環になります。

「ディープラーニングをビジネスとして成り立たせる」そのために、数十年に一度の革新期の初期にいる私達は、ディープラーニングの真の可能性を見つめ、活用が進むように取り組んでいかなければなりません。

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松尾豊氏が理事長を務める日本ディープラーニング協会について詳しくはこちら

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