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おざけんです。
ディープラーニングなどの機械学習技術にスポットライトが当たり、再びAI・人工知能にブームが訪れたのが2010年代に入った頃です。第三次AIブームと呼ばれ、今までにないスピードで技術開発が進み、各社がしのぎを削って研究開発にあたっています。
一般社団法人 人工知能学会は、機械学習が脚光を浴びる約25年前、1986年に設立された団体です。AI・人工知能に関する研究を進めたり、正しい知識を広げるなど産業の発展に寄与するために設立されました。
今回は、そんな人工知能学会が出版する学会誌『人工知能』の表紙に注目してみたいと思います。実はこの表紙、とてもこだわって作られているんです。
人工知能学会誌の表紙を編集委員として手がけてきたお二人にインタビューさせていただきました。ゲームAI発展の立役者でもある三宅陽一郎さんと人間とAI(エージェント)との関係性を研究する筑波大学の大澤博隆さんです。
目次
30年の歴史がある人工知能学会誌『人工知能』
人工知能学会誌は人工知能学会の創設から隔月で出版されてきた伝統のある会誌です。1986年の創刊以降なんと30年間の歴史があります。AmazonでKindle版の購入が可能のほか、人工知能学会に入会することで購読することもできます。
2014年には『人工知能学会誌』から『人工知能』にネーミングが改められ、内容も刷新されました。
人工知能学会の中で編集委員会が設けられ、各編集委員がテーマを決め、AIに関連する多岐にわたる有識者が記事を持ち寄っています。
30年と長い歴史を持つ『人工知能』ですが、なんといっても特徴的なのは、その表紙です。実は2014年の誌名の刷新と同時にこの表紙も大幅にブラッシュアップされました。
生まれ変わった『人工知能』
2014年に刷新された『人工知能』。その表紙を一覧にしてみました。どんな表紙があるのか、まずはご覧ください。
『人工知能』Vol.29〜Vol.33
Vol.29 (2014年)
Vol.30(2015年 大澤さん担当)
Vol.31(2016年 大澤さん担当)
Vol.32(2017年 三宅さん担当)
Vol.33(2018年三宅さん担当)
表紙を強化したのはなぜ!?
『人工知能』はその表紙のユニークさが、他の学会誌とは一風変わっています。テーマごとに、手の込んだ表紙が作られ、つい手にとってみたくなりますよね。
大澤さんと三宅さんに人工知能学会の学会誌について伺ってみました。
ーー人工知能学会誌の創刊当初から表紙に力を入れていたんですか?
大澤さん:2014年までは地味な表紙だったのですが、「学会は閉じているだけじゃいけないよね」という意見があり、当時編集委員長だった松尾豊先生(東京大学准教授)が、一般に開けた学会にしようということで、学会誌を見直したそうです。
それまでは、「人工知能学会誌」という名前だったんですが、それだと学会員のための学会誌になってしまうので、『人工知能』という名前に改めました。それと同時に見直したのが表紙だったんです。
ーーなぜ表紙のデザインを変更しようと思ったのでしょうか?
大澤さん:書店で販売を始める際に今までのような表紙では手にとってもらうことが難しく、中身を知ってもらうことも難しいと考えたようです。そこで2014年当時はまず、クラウドソーシングを使って表紙を集めていたんです!
クラウドソーシングで表紙をさまざまな人に描いていただき、主に編集委員の中で議論して決めていました。それからはデザイナーさんやアニメとのタイアップなど『人工知能』に親しんでもらえるように、工夫を繰り返しています。
ーー表紙のこだわりはありますか?
三宅さん:実は人工知能の研究者は子供の頃に鉄腕アトムやガンダムを見て研究者になったっていう人が多いんです。ビジュアルから入ってきているんですよ。
少し上の世代は鉄腕アトムで、少し下になるとマクロスとかガンダムとか、2000年以降だとエヴァンゲリオンとか攻殻機動隊。もっと若い人だと別のアニメかもしれません。だからこそ、人工知能に興味を持ってくれるきっかけになってくれればいいなと思っています。
大澤さん:2015年から私がメインとなって表紙を担当した際、「親の本棚から子供がうっかり手にとるような表紙」という目標を立てました。人工知能に触れていただくまでの敷居を下げたいです。しかし、親しみやすさだけでなく、表紙を通して未来のビジョンを感じてもらえたら嬉しいです。
『人工知能』の中の記事はちょっと硬い内容の物が多いですが、知能の研究は本当に多様で魅力的なものです。せめて表紙からも、その魅力が伝わるものであると嬉しいなと思っています。人工知能は勢いがあるので、それを象徴するような表紙にしたいですね。
また、『人工知能』は大学の研究室に届くのですが、数ある学会誌の中でも目立って読んでもらいたいという思いもあります。
2017年からは毎号ごとにイラストを描いて頂く作家さんを変えていますし、文字を含めた表紙デザインもデザイナーさんに入って頂いて毎号デザインして頂いています。(※末尾のクレジット参照)毎回大変なんですけどね(笑)
ーー表紙を変えてから販売数の変化はありましたか?
三宅さん:『FINAL FANTASY XV』を用いた2017年のNo2が歴代の販売数で1位でした。Amazonでも紙媒体はもう手に入らずKindle版しか手に入らないんです。『FINAL FANTASY XV』のアートディレクター、直良有祐氏さんに書いて頂いたのですが、予想を超える人気でした。
大澤さん:直接販売数を見ているわけではないんですが、ただAmazonで売り切れていたりするのを見ると、注目は集まっているのかなと思います。
人工知能学会の会員であれば、毎号自宅に届くんですが、会員数は2014年以降増加しており、AIブームのおかげもあるかとは思いますが、表紙の影響もあったのかなと思っています。
記念すべき人工知能学会の会誌の最初の表紙は?
1986年に設立された人工知能学会初の学会誌『人工知能学会誌』の表紙を見てみましょう。
今とはがらっと変わったシンプルなデザインや、「人工知能学会誌」という誌名、第二次AIブームの立役者となった「エキスパートシステム」が並ぶ目次など、今とはデザインも内容も一風変わっています。
現在の表紙と比べるとその違いは一目瞭然です。
2人の思い出の表紙は!?
『人工知能』の表紙を手がけてきた大澤さんと三宅さん。思い出の表紙を聞いてみました。
猫AIを見事に表現したVol.30 No1(大澤さん)
大澤さん:私の思い出の表紙は2015年1月に出したVol.30 No1ですね。ディープラーニングをテーマにした猫の表紙で、漫画家の石黒正数先生に頂いております。石黒先生には、ここから2016年11月号まで担当いただきました。
この表紙はいろんな議論を重ねて作りました。ディープラーニングって、学習の層ごとにだんだん特徴が整備されていくのですが、この表紙ではちょうど下から上の方にだんだん特徴が展開されるようになっていて、かなり考えて作成した表紙です。
編集長の栗原先生(当時・電気通信大学教授,現・慶応義塾大学教授)も一緒に相当議論重ねて作ったんですが、おかげでAIに詳しい人が見れば、これはディープラーニングの猫をモチーフにした絵かなってわかるし、パッと見たときのインパクトも大きい表紙になりました。
2017年からは謎解きも取り入れたユニークな表紙づくりも(三宅さん)
三宅さん:Vol.32からは毎回違ったテイストで表紙を作ることにチャレンジしました。これに伴って、文字デザインも専門の業者に頼むようになり、表紙のグラフィックデザインと文字デザインの二重の工程になってしまって大変でしたね(笑)
それと同時に取り入れたのが「謎解き」です。当時の編集委員長だった山川先生(ドワンゴ人工知能研究所 所長)が新しいことを始めたいということではじめました。
表紙の中に謎が埋め込んであり、緑色のマークがあったり、絵の中のいろんなところにヒントが隠されています。ディスプレイの中や足元に書いてあるのわかりますか!?
2017年は毎号解き方の違う謎を、2018年はさまざまな暗号の謎を、ARG専門会社のラ・シタデールさんと一緒に制作して出題しています。
▼表紙に隠された謎解きの一部
三宅さん:この暗号を解くとわかるURLにアクセスすると、謎解きが始まって、未来から来た人のメッセージがそこに埋め込まれています。最後まで謎を解いていくと、学会誌アンケートが出てきたり、特典として過去の学会誌を読むことができたりします。
特典は、例えば創刊号に載っている記事をダウンロードできるようにして、30年の長い歴史を感じ取ってもらえる工夫をしたり、Twitterで盛り上がりながら暗号を解く取り組みをしたりしています。
取材を終えて
人工知能という捉えづらいテーマにもかかわらず、表紙での訴求に力を入れてきた人工知能学会。学会が閉じたコミュニティではなく、開けたコミュニティにしたいからこその、表紙の刷新だったことがわかりました。
この素敵な表紙からAI・人工知能に興味を持ってくれる人が、今後さらに増えたら嬉しいなと思います。
Vol.33
No.5 ©2018 MAGES./KADOKAWA/ 未来ガジェット研究所
No.4 表紙イラスト:©Microsoft/ りんな
No.3 ©安倍吉俊
No.2 ©2017 Sony Corporation All Rights Reserved.
No.1 うめ(小沢高広・妹尾朝子)Vol.32
No.6 越島はぐ
No.5 柏原晋平
No.4 © 手塚プロダクション・ゆうきまさみ・カサハラテツロー・HERO’S/アトム ザ・ビギニング製作委員会
No.3 株式会社ムームー 森川幸人
No.2 IZM designworks 直良有祐 © 2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. MAIN CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
No.1 東映アニメーション株式会社,©本郷あきよし・アプモンプロジェクト・テレビ東京表紙デザイン: 武藤祥生 MadMANIA©,瀧澤聡一郎 SunGraph
表紙謎作成:竹内ゆうすけ
■AI専門メディア AINOW編集長 ■カメラマン ■Twitterでも発信しています。@ozaken_AI ■AINOWのTwitterもぜひ! @ainow_AI ┃
AIが人間と共存していく社会を作りたい。活用の視点でAIの情報を発信します。