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2019.09.10

ブラックホールの可視化にも使われた「スパースモデリング」とは / ディープラーニングは唯一の選択肢なのか!?

ディープラーニングの技術は2010年代の初頭にAIブームの火付け役となりました。

今まで、人類が成し遂げきれなかった画像を認識する技術が、ディープラーニングにより急発展し、多くの投資が行われています。

一方で、高性能なディープラーニングの技術を維持するためには、膨大な計算コストがかかり、学習用の大量のデータを準備する必要があり、適用領域は製造業をはじめとしたいくつかの分野に限定的になっているとも言えます。

今後は、コストがかからず、少ないデータから、高精度な認識ができる技術改善が求められています。

今回は、「ディープラーニングは唯一の選択肢なのか!?」という疑問をもとに、「スパースモデリング」という技術に注目して、わかりやすくお伝えしたいと思います。

ディープラーニングは唯一の選択肢なのか!?

ディープラーニングのメリット

ディープラーニングは人間のニューロンを模したシステムであるニューラルネットワークがベースとなっている技術です。

多層構造のこのネットワークに大量の画像や音声データなどを入力することでデータに含まれる特徴を各レイヤーで自動的に学習することができます。この手法がディープラーニング特有であり、これによってディープラーニングのモデルは高い精度を誇り、人間の認識精度を上回ることもあります。

▼参考記事

ディープラーニングのデメリット

ディープラーニングでは学習データを用いることでパラメータを自動的に調整していきます。

言い換えると、パラメータの数が多くなるとその分だけ大量の学習データが必要となります。

例えば医療分野において、症例数が少ない病気に対して AI を適用しようとするとこの学習データが準備できないという問題に直面します。また、大量のパラメータを自動的に調整してくれる反面、計算過程を全て追従することが難しくなり、意思決定の過程がブラックボックス化しやすいというデメリットもあります。

これにより、「なぜ目の前の患者を手術するべきか」といった理由が説明ができないと現場導入ができないこともあり得ます。

また、産業分野においても、例えばFA(ファクトリーオートメーション)の現場で品質保証のために必要な外観検査ではAIが導入されることがありますが、日本のモノづくりは非常に優秀で、そもそも不良品の発生率が低いために、不良品のデータを AI の学習のために相当数準備することが難しいといったケースがあることも事実です。

スパースモデリングとは

スパースモデリングの概要

「スパース」とは「すかすか」とか「少ない」を意味しており、情報量としては大規模なものであっても、その中にある意味のある情報はごく一部しかないという仮定を置いて、その少ない情報から全体像を的確に復元する科学的モデリングのことを「スパースモデリング 」と呼びます。

スパースモデリング技術の優位性

全ての要素が結果に絡んでいるのではなく一部の要因のみ結果に関係していると仮定して、多くの要因は結果との関連度がゼロだと推定します。この推定がスパースモデリングでは可能となり、且つ、少ない要因のみで結果を説明できるので、人間が解釈しやすい AI の構築が期待できます。

スパースモデリングの課題

一部アカデミアの分野での実用例はあるものの、まだまだ参考にできる事例が多くありません。個々のプロジェクトに対して探索的にアプローチするケースが多くなりがちです。また、スパースモデリングを事業に取り入れている会社は多くありません。後述の事例にも挙げているような医療機器や宇宙科学の分野では一部使われているものの、スパースモデリング を中核技術として事業展開をしている例として、ハカルスが挙げられます。ハカルスのように中核技術としてスパースモデリングを使用している事業会社は稀だと思います。

スパースモデリングの事例

事例1:MRIへの導入事例

MRIでは、磁石を用いて体内のデータを収集し、画像を生成していますが、鮮明な画像を生成するためには多量の画像データを取得する必要がありその分だけ長い時間を費やすことになります。この長時間の検査は患者にとっては大きな負担になるため、検査時間を短縮したいというモチベーションがあります。

ただし、検査時間を短くするために撮影量を少なくすると画像の鮮明さが失われます。そこでMRIでは画像のスパース性を利用することで、少なくなったデータからでも鮮明なデータを復元することができ、私たちが普段診察で見ているような画像が生成されています。

事例2:ブラックホールの可視化

2019年4月10日、国際プロジェクトである「イベント・ホライズン・テレスコープ」がブラックホールシャドウを撮影することに、世界で初めて成功したと発表されました。撮影されたのは、おとめ座銀河団の楕円銀河 M87 の中心に位置するもので、地球からは5,500万光年の距離にあります。

世界中に設置された電波望遠鏡から撮影された観測データを画像化する手法として日本チームが取り入れたのがスパースモデリングです。

ブラックホールの画像 Credit: EHT Collaboration

スパースモデリングが向いているドメインやタスク

例えば産業分野でニーズが高まっている「外観検査」のように、良品・不良品を判定する際、ディープラーニングだとその判定のために大量のデータが必要になりがちです。ただ、そのデータを用意できない、用意するのに時間がかかるようなユーザーも多く、PoC の段階で実現困難だと判定される事例もあります。

スパースモデリングでは少量のデータから結論を導き出すことが可能なため、このような問題を抱えているユーザーには有効だと考えています。

ハカルスとは

ハカルスは京都に本社を置く AI カンパニーです。医療分野と産業分野を中心に AI を活用したソリューションを展開しているスタートアップになります。当社では、『Hacarus-X』という人工知能を開発しており、現在の主流であるディープラーニングとは異なる、「スパースモデリング」を中核技術として採用しています。これにより「少ないデータで」「人間が解釈可能な」AI による課題解決をしています。

また、最近では、日本最大の政府研究開発組織である NEDO (新エネルギー・産業技術総合開発機構)に、エッジ AI についての研究開発助成対象として採択されました。ディープラーニングを採用するエッジ AI は、エッジ側での推論のみが可能で学習についてはクラウド上で行う必要があり、センシティブな情報を含む教師データもクラウド上にアップロードしなければいけません。

近年、プライバシー保護やセキュリティの観点から、個人情報や生産状況に関わる情報などを、インターネットを通じてクラウドにアップロードすることは、現実的に難しいケースが出ています。一方で、ハカルスが開発するエッジ AI はエッジ環境での学習と推論が可能で、オフライン環境でも利用可能なものです。ハカルスでは、このようなエッジ AI を「True Edge AI」と表現しています。

今回採択された NEDO プロジェクトから得られる成果物は、Xilinx / Altera / ARM などのプラットフォーム向けに今後パートナー企業を通じて提供を行う予定です。

著者

宇佐見一平、データサイエンティスト
京都大学情報学科を卒業後、新卒でメーカーに入社。
R&D部門に所属し、DeepLearningを用いた新規プロジェクトに携わる。プロジェクトを通じて機械学習に魅せられ、より深く広く機械学習やデータ分析を用いた課題解決に取り組みたいと思い,2019年3月にハカルスにジョイン。日本では稀有なアメフト経験者データサイエンティストとして日々修行中。
宮﨑裕士、チーフマネージャー
大手企業での会計・税務業務を経験した後、ブラウザやアプリ開発のITベンチャーへ転職。
事業急拡大の中、初めてのHR担当として採用・労務を担当。
その後、別のIT企業で管理部責任者を経験した後、Adminチームマネージャーとして2019年3月にハカルスへ参画。HRシステムの構築をし、HR側から事業をスケールさせるミッションを担っている。

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