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2019.12.04

シンギュラリティを待つなんて止めよう。それは200年前から始まっていたのだから【前編】

最終更新日:

著者のDavid Mattin氏は、イギリス・ロンドンに拠点をもち世界180ヶ国に顧客をもつコンサルティング会社TrendWatchingでトレンド&インサイト部門のグローバルヘッドを務めています。同氏がMediumに投稿した記事「シンギュラリティを待つなんて止めよう。それは200年前から始まっていたのだから」では、シンギュラリティを産業革命のひとつの段階として捉えたうえで、現在の世界が取り組むべき課題が論じられています。

 

未来学者のレイ・カーツワイルが自著でシンギュラリティを論じて以来、このアイデアは「技術革新によって世界が一変してしまうイベント」という意味を共通項として、様々な論者によって論じられてきました。シンギュラリティの共通項に着目したうえで、同氏はこのイベントは2045年のような未来に起こるのではなく、約200年前に起こり今も続いている産業革命こそがシンギュラリティにほかならない、と主張します。

産業革命をシンギュラリティと捉えると、現在進行形の人類と世界の変化に関してふたつの着眼点から考察することができます。ひとつめの着眼点は人類は直近の200年において人類史上類を見ない進歩を成し遂げたこと、そしてもうひとつはそうした進歩の代償としてヒトビトを結び付ける絆が喪われたことです。

産業革命以前の人類は、神話や宗教、あるいは呪術的思考によって互いを労われるような精神的文化を築いていました。しかし、自然科学の誕生とそれに続く産業革命と啓蒙運動を経て、人類はかつての精

神的文化を喪ってしまいました。産業革命に端を発する空前絶後の進化―つまりはシンギュラリティ―はその開始当初において喪失体験が伴っていた、というわけなのです。それゆえ、同氏は現在進行形の進歩を「トラウマ的」と呼びます。

進歩に伴うトラウマから回復する方途として同氏が唱えるのが、「労わり」の復権です。この労わりの必要性はAIと自動化の普及によって伝統的な労働が不要となった時、ヒトだけが行えるもっとも重要な労働とは「他人を気遣うこと」になる、という労働論的な観点から主張されます。そして、労わりの精神はベーシックインカムのような具体的な経済政策として実現できるものなのです。

カーツワイルが唱えるようなシンギュラリティが到来するかどうかは定かではありませんが、AIの社会実装が世界を決定的に変えてしまうことは疑い得ません。こうしたAIによる世界変革にどのように対処するかは、AI業界関係者だけではなく社会全体かつ地球規模で議論されるべきなのでしょう。

以下の前編にあたる記事本文では、シンギュラリティというアイデアを再検討したうえで産業革命こそがシンギュラリティにほかならないことを論じていきます。

なお、以下の記事本文はDavid Mattin氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。

産業革命は人類史におけるもっとも変革的なイベントである。これこそが真のシンギュラリティなのだ。- そして、あなたはそのなかを生きている。

近年、多数のテクノロジストがかつては周辺的だったアイデアをメインストリームに押し上げた。そのアイデアとはシンギュラリティである。

シリコンバレーの大多数、さらにはその地を超えて多くのヒトビトにとって、シンギュラリティとは次のようなひとつの意味を持つに至った。シンギュラリティとは人類と人工的なスーパーインテリジェンスが融合する未来のイベントであり、このイベントはわれわれ人類という種にとって過去のどの時代とも決定的に異なる新たな時代の呼び水となるのだ。

未来学者のレイ・カーツワイルは、シンギュラリティは2045年には起こるだろうと考えた。

カーツワイルとは他のヒトたちはシンギュラリティとはAIによって活気づけられた機械とヒトの融合ではなく、未知の技術的進化に関する異なったイベントだと考えている。ナノテクノロジーと新しい遺伝子工学はともにそうした技術的進化の候補だ(※訳註1)。

実のところ、シンギュラリティの様々なバージョンのすべては、このイベントが人類史上特異なものであるという基礎的な定義の解釈に過ぎない。つまり、シンギュラリティはあまりに革新的なのですべてを一変させ、人類の生存条件に関するルールを書き換え、種としての人類の物語における決定的なブレイクポイントになるのだ。

しかし、もし以上のような現行のシンギュラリティ解釈のすべてが間違いだったとしたら?もしわれわれはすでにシンギュラリティを生きているとしたら?シンギュラリティ解釈の変更はどのようにわれわれ自身の見方を変え、21世紀における選択がまとめて為されるのであろうか。

(※訳註1)遺伝子工学によるヒトの知性を超えるスーパーインテリジェンス的な存在の誕生に関しては、イギリスの哲学者ニック・ボストロムがその著作『スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運』でその可能性を検討している。
同書の第2章「スーパーインテリジェンスへの道程」では、スーパーインテリジェンスが誕生する5つのシナリオが検討されている。3つめのシナリオ「生物学的認知」では、遺伝子工学を応用して遺伝的に優秀な人類を誕生させることによってスーパーインテリジェンスが誕生する可能性が論じられている。
ちなみに、同書で検討されているスーパーインテリジェンス誕生までの5つのシナリオは、以下の通り。
  1. 強いAI」の開発
  2. 全脳コンピュータの開発
  3. 遺伝子工学によるヒトの知能の増幅
  4. ブレイン・コンピュータ・インタフェースの開発
  5. 巨大ネットワークの構築

3つのチャート

以下に示すチャートは、Our World in Data(※訳註2)に所属する素晴らしいヒトビトによって制作されたものだ。

(※訳註2)Our World in Dataとは、貧困や気候変動のような地球規模で取り組むべき問題に関するデータを整理し公表する活動に従事している非営利団体。オックスフォード大学の研究チームとイギリスに拠点のある慈善団体Global Change Data Labが共同で運営している。
同団体の理念とは、地球規模の問題が解決されないのは「既存の研究とデータを十分に活用していないこと」にあるので、データを公表することで解決を促進する、というものである。

極度の貧困のなかで生きるているヒトの世界人口(赤い領域が貧困人口)

ほかのチャートもある。

世界における識字(Literate)人口と文盲(illiterate)人口(15歳以上を対象)

さらにほかにも。

世界における乳幼児死亡率(5歳までの乳幼児が対象) ※赤い領域が乳幼児死亡率

以上の驚くべきチャートはわれわれに何を語っているのか。まず初めに、以上のチャートが1800年頃より以前のヒトの生活の性質について暗黙裡に示していることから始めよう。

われわれの種はおよそ20万年前に現れた。人類史全体の非常に多くの期間、われわれの存在に関してあるひとつの真実が厳然と存在していた。1800年以前、人類のほとんどはいわゆる赤貧のなかを生きていたのだ。初期の人類にとって読み書きは利用可能な技術ではなく、読み書きが発明されてからも、ほとんどのヒトが利用できる技術ではなかった。およそ半数の子供が ―あるいはそれ以上が― 幼いうちに死んでいた。

以上の事実をしばし考えてみよう。1800年以前の事実は人類史のほとんどすべて、言ってみれば99.9%に当てはまる。以上のチャートは過去に向かって拡張することができ、拡張された時間軸に沿って何百年あるいは何千年と過去を遡ることができる。

そして1800年頃、何かが起こったのだ。

すべてが変わった

1800年頃に起こった何かとは、産業革命だ。

1770年代、ジェームス・カーペンターと呼ばれるひとりのイギリスの織工がジェニー紡績機を発明した。これは布を織る機械だ。もし産業革命を引き起こした火花としてひとつの瞬間を選ばなければならないとしたら、カーペンターの発明は強力な候補だ。

ジェニー紡績機とそのほかのイノベーションは急速な産業化のプロセスの開始を形成し、まずはイギリスで始まってその後早くもヨーロッパの大部分で広がった。産業革命の効果が定着するには時間がかかった。しかし、19世紀に入ってたった数十年で産業革命はもはや不可避的なものとなった。それは技術的な革命だったが、すべてを一変させたのだ。

さらにもうひとつのグラフを見てみよう。このグラフは、イギリスのGDPに対する産業革命の影響を示している。イギリスは、13世紀まで遡ってGDPの調整値を推定できる経済データに関する記録を持っているほとんど唯一の国だ。

1270年からのイングランドおよび大英帝国における一人当たりのGDPの推移

以上のグラフにはあるひとつの物語が隠されており、それは読者諸氏がよく知っているものだ。その物語とは、20世紀になって人類が生存する物質的条件に前代未聞の変革が起こった、というものである。そして、この変革はどのようにしてすべてを変えてしまったのか。変革によって寿命が劇的に延長し、工場労働者階級が台頭し、大衆が教育され、核がある世界となり、ポップカルチャーと1960年代の社会革命が現れ、ジェンダー的関係が変革され、そして地球はひとつの村となった(※訳註3)。

以上が直近100年に起こった物語の全容だ。それは物質的な変革をその基盤としている。

(※訳註3)「地球がひとつの村となった」という表現は、アメリカの文明批評家マーシャル・マクルーハンが広めた「地球村」を援用している。マクルーハンは通信手段がヒトの思考様式を制約するというメディア論にもとづいた文明批評を展開した。
話し言葉以外の通信手段がなかった時代においては、ヒトの声が届く範囲で文化が形成される「村社会」であった。その後、文字が誕生したことによってコミュニケーションの範囲が地理的・物理的に拡張されたことによって、村を統合する「国家」さらには「帝国」が誕生した(世界四大文明では例外なく文字が発明された)。20世紀に入りラジオやテレビが普及すると、かつての村社会において重要であった声によるコミュニケーションが復権した。そのため、電子通信手段が普及した世界は文字によって体制が築かれた「地球帝国」というよりは声によって連帯する「地球村」と化した、とマクルーハンは論じた。

産業革命こそ真のシンギュラリティ

通説によると、産業革命は1840年あたりには終わる。そして第二次産業革命 ―大量生産と電機化の出現によって性格づけられる― は1870年あたりに始まる。それからコンピュータが登場して第三次産業革命が到来した。そして現在、AI、自動化、そして新しい遺伝子技術によって活性化された第四次産業革命をわれわれは生きている、と多くのヒトが考えている。

産業革命のそれぞれの段階は、われわれの技術的かつ工業的発展に間違いなく有意義に呼応している。しかし、歴史をのぞくレンズを後ろに引いて20万年にわたる人類史を眺める観点から4つの産業革命を見ると、これらをひとつのイベントの4つの段階と見る方が有意義となる。つまり、1800年頃に始まり現在進行形である産業革命の4つの段階と見るのだ。

そして、4段階の産業革命を複数の世紀をまたぐ単一な変革的イベントとして見た場合、今まで見えなかったある別のことが明らかになる。それは、産業革命とはシンギュラリティである、ということだ。少なくとも、あまりに変革的ですべてを一変させてしまうイベント、あるいは人類という種の歴史における根本的なブレイクポイントというすでに確立されているシンギュラリティの定義に固執するならば、まさに産業革命こそシンギュラリティに他ならない。

われわれはシンギュラリティを待つことなど止めるべきであり、代わりにそれを生きていることに気づくべきなのだ。われわれの種を根底から変革し、人類史において決定的に空前絶後なイベントはまさに今われわれのまわりで起きている。

進歩は真実

多くの読者は、以上のような考えはスティーブン・ピンカー(※訳註4)の新しい著作『今こそ啓蒙を』(邦訳本『21世紀の啓蒙』)に部分的に刺激されているとすでに気づいているだろう。この著作を見れば、人類の生存条件が全体的に非常に改善されたというピンカーの議論を ―数多くのチャートを論拠として― 確かめられる。決定的なことに、ピンカーはこうした改善は偶然ではないと考えている。この改善は理性、自然科学、そして啓蒙運動とともに始まった人類を繁栄させるという価値観が適用された結果なのだ。

スティーブン・ピンカー氏

(※訳註4)スティーブン・ピンカーはアメリカの実験心理学者。ヒトの言語能力に関する研究からキャリアをスタートさせ、その研究は『言語を生み出す本能』『人間の本姓を考える』といった著作に結実する。
2011年に発表した著作『暴力の人類史』(邦訳は2015年出版)からは人類史に関する言論を活発化させ、2018年に発表した『21世紀の啓蒙』では「人類は進化している」という歴史観を展開している。

人類史において進歩があったことは素晴らしいことなのか、そしてそれはわれわれ自身の長い歴史から帰結したものなのか、という疑問が生じる。ピンカーは、この疑問に対して明白にイエスと答える。現在は以前より幼くして死ぬ子供が少ない。もしこの事実が進歩でないとしたら、何が進歩だと言うのだ。イギリスの哲学者ジョン・グレイ(※訳註5)を含む何人かは、ピンカーがあまりに素朴な楽観主義者であると非難する。われわれは確かに技術的進歩を実現したが、倫理的欠陥が残っていて過去の過ちを繰り返すような人類の非理性的な性質により没落している、とグレイは考えている。彼によれば、歴史は周期的前進あるいは退行よりはましなものとして書かれるが、決して進歩などしていない。

ピンカーとグレイのあいだで起こった激しいディベート(※訳註6)は部分的には彼らが進歩を異なって定義していたという単純な事実によって支えられており、一方が語ったことに対して発言するようにして進められていた。

そうは言っても、われわれ人類は進歩できるのであり、直近2世紀にわたって実際に進歩したというピンカーの議論によって―さらには進歩という言葉のあらゆる健全な定義によって―、心を動かさないことなど難しいだろう。もし自分が人類史のどの時点にも生きることを選べるとしたら、世界中の何十億というヒトが理性的に今を選ぶと言うだろう。こうした事態は理性と自然科学によって活気づけられた産業革命のおかげなのだ。

それでは産業革命をシンギュラリティとして捉える見方は、どんな役に立つのだろうか。その答えはおそらく次のように簡単である。産業革命をシンギュラリティとして捉えると、われわれに起こっていることに対して新しいパースペクティブで眺めることができるようになる。そしてこの新しいパースペクティブに立てば、われわれが21世紀において直面している挑戦に対してどのように対応すべきか考えることを助けてくれるのだ。

(※訳註5)ジョン・グレイはイギリスの政治哲学者。グローバリズムに反対の立場を表明した著作で有名。シニカルな人間観をもっており、人類を他の生命形態を一掃する貪欲な種として捉えている。「人間は…地球を破壊することはできないが、自分たちを支える環境を簡単に破壊することができる」とも書いている。
(※訳註6)グレイはイギリスの政治誌『NewStateman』電子版にピンカーの著作を批判する「啓蒙されていない思考:スティーブン・ピンカーのいらいらする新著は、ガタガタうるさいリベラル主義者のための貧弱な説教である」という記事を投稿した。グレイはピンカーを「自然科学の伝道師」と見なしたうえで、啓蒙を絶対視し過ぎていると批判している。

▼後編はこちら


原文
『Stop Waiting for the Singularity. It Started 200 Years Ago.』

著者
David Mattin

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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