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2020.01.13

AI研究ランキング2019:世界を主導するAIカンファレンスであるNeurIPSとICMLの考察から【前編】

最終更新日:

著者のGleb Chuvpilo氏はAIとロボットのスタートアップに投資するベンチャーキャピタルThundermarkCapitalでマネージングパートナーを務めており、MITのコンピュータサイエンスと人工知能ラボで修士号を取得しています。

 

同氏がMediumに投稿した記事「AI研究ランキング2019:世界を主導するAIカンファレンスであるNeurIPSとICMLの考察から」では、AIに関する世界的カンファレンスであるNeurIPSとICMLで採択された論文にもとづいて、AI研究の動向がランキング形式で考察されています。

同氏はNeurIPSとICMLにおける2,200本の採択論文を、科学論文の動向を考察する際に用いられる指標Nature Indexをヒントにして発案した独自指標「パブリケーション・インデックス」にもとづいて考察しました。その考察結果は、以下のようにまとめることができます。

  • AI研究をリードしているのはアメリカであり、アメリカの大学と企業が発表した論文が数多く採択されている。
  • Googleは、AIを研究する組織として世界各国の有名大学を大きく凌駕している。
  • 国別で見ると1位がアメリカ、次いで中国、イギリスとなり、日本は8位にランクインする。
  • 日本の大学はトップ20にランクインしていないものも、日本企業はトップ20に2社ランクインしている。

同氏は、今後のAI研究におけるアメリカと中国の覇権争いについても考察しています。AI研究の覇権争いにおいて重要となる要因は、アルゴリズムとハードウェアと学習データの3つです。アメリカはアルゴリズムとハードウェアで中国に対して優位に立っているので、学習データのみでリードしている中国に勝利するだろう、と結論づけられています。

以上のような考察から世界のAI研究における日本の立ち位置を見ると、世界の上位国から大きな後れをとっていないものも、特に大学におけるAI研究で世界に存在感を示せていない、ということが言えます。

こうしたなか、先日発表された東京大学とソフトバンクによる「Beyond AI 研究所」の共同設立のような取り組みは、日本のAI研究が世界にアピールできるようになる契機となるのではないでしょうか。

以下の前編にあたる記事本文では、パブリケーション・インデックスの解説とこの指標にもとづいた基礎的なデータ分析について論じます。

なお、以下の記事本文はGleb Chuvpilo氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。

前書き

待望の年間AI研究ランキングの最新2019年度版にようこそ(昨年公開した最初の試作版ランキングはこちら)。今回は最も有名な2つのAI研究カンファレンスであるNeural Information Processing Systems(略して「NeurIPS」または「NIPS」:神経情報処理システム学会)とInternational Conference on Machine Learning(略して「ICML」:機械学習に関する国際会議)における刊行物を分析した。具体的には(NeurIPS 2019およびICML 2019の)カンファレンス議事録を使って2,200の採択論文のそれぞれを調べ、著者とその所属組織のリストを編纂し、各組織のパブリケーション・インデックス(Publication Index:刊行物指標)を計算したのだ(以下の「方法論」セクションを参照)。

パブリケーション・インデックスを理解する最も直観的な方法は、指標を論文全体と等価なものとして捉えることである。すなわち、Googleに付された167.3というパブリケーション・インデックスは、Googleが2019年の2つの主要なAIカンファレンスで167.3本の論文を発表したかのように解釈できる。

以下の本文では方法論の詳細を解説することから分析を開始し、次いで2019年のAI研究ランキングに進み、さらに興味深い記述統計を示し、最後に誰がAIの未来を担うかについて論じる。

方法論

今回の考察で採用したパブリケーション・インデックスを付ける方法論は、Nature Indexに触発されている。

・・・

(※訳註1)以下の引用文は、Nature誌電子版で公開されている記事「Nature Indexのガイド」から引用されている。

国、地域、または組織の記事への貢献を収集し、それらが複数回カウントされないようにするために、Nature Indexはfractional count (FC)を使用する。これは各記事におけるオーサーシップの割合を考慮する指標である。記事ごとに利用可能なFCの合計は1であり、各著者が均等に貢献すると仮定すると、すべての著者間で共有される。例えば10人の著者がいる記事は、各著者が0.1のFCを受け取ることを意味する。複数の組織に所属している著者の場合、著者のFCは各組織間で均等に分割される。組織の合計FCは、その組織に所属する個々の著者のFCを合計して計算される。国/地域ごとのFCについても組織のそれの算出プロセスに似ているが、組織のなかには海外ラボを持っているという複雑な事情を鑑みて、ある組織の海外ラボに付されたFCは研究を主導した国/地域に加算される。

パブリケーション・インデックスとNature Indexの唯一の違いは、海外のラボが(研究を主導した国/地域ではなく)本社の国/地域にカウントされることだ。これは議論の余地があるのだが、知的財産権と研究から生じる実際の利益の割り当てを本社に反映させるこうしたアプローチは、研究が行われたローカルなラボに帰するより望ましいと信じている。

パブリケーション・インデックスの計算例を次に示す。論文に5人の著者がいる場合―例えばMITから3人、オックスフォード大学から1人、Googleから1人のような場合―各著者は1/5のポイント、つまり0.2のパブリケーション・インデックスを獲得する。

その結果、この論文のみからMITはパブリケーション・インデックスを3 * 0.2 = 0.6ポイント増やし、オックスフォード大学はインデックスを0.2増やし、Googleには0.2が追加される。MITはアメリカに本拠を置いているため、同大学がアメリカに帰属していることによって、同国のパブリケーション・インデックスが0.6増加する。同様に、オックスフォード大学はイギリスに本拠を置いているため、EEA(European Economic Area:欧州経済領域)+スイスのカテゴリ(※訳註2)は0.2増加する。最後に、Googleはアメリカに本社を置く多国籍企業であるため、アメリカのパブリケーション・インデックスにさらに0.2が追加され、合計で0.8に増える。著者が複数の所属先を持っている場合、その所属機関ごとにパブリケーション・インデックスを分割する。

例えば上記のケースで、最後の著者がGoogleと(Googleだけでなく)スタンフォード大学の2つに所属していた場合、Googleとスタンフォード大学の両方がさらに0.2 /2 = 0.1ポイントを獲得する。

最後にNeurIPSとICMLの刊行物を同じデータセットに結合することが適切であると考えた理由は、このふたつのカンファレンスがトップAI研究者のあいだで同じくらい権威があると捉えられ、同じような参加制度、そして同じような論文採択率(NeurIPSで21.2%、 ICMLで22.6%)だからである。

(※訳註2)EEAにカテゴライズされるヨーロッパ諸国については、後述の原註1を参照

AI研究ランキング2019

(※訳註3)以下の各種ランキングにおいて、日本が関係する項目は太字とする(原文では太字ではない)

2019年におけるAI研究をリードするトップ40の(産業界および学界における)グローバル組織(パブリケーション・インデックス付き):

AI研究ランキング2019―AI研究をリードするトップ40の(産業界および学界における)グローバル組織

1.Google(アメリカ)— 167.3
2.スタンフォード大学(アメリカ)— 82.3
3.MIT(アメリカ)— 69.8
4.カーネギーメロン大学(アメリカ)— 67.7
5.UCバークレー(アメリカ)— 54.0
6.マイクロソフト(アメリカ) — 51.9
7.オックスフォード大学(イギリス)— 37.7
8.Facebook(アメリカ)— 33.1
9.プリンストン大学(アメリカ)— 31.5
10.コーネル大学(アメリカ)— 30.9
11.ジョージア工科大学(アメリカ)— 30.1
12.UTオースティン(アメリカ)— 29.9
13.イリノイ大学(アメリカ)— 29.4
14.コロンビア大学(アメリカ)— 29.2
15.清華大学(中国)— 28.4
16 UCLA(アメリカ)— 27.2
17.ETH(スイス)— 27.0
18.IBM(アメリカ)— 25.8
19.ワシントン大学(アメリカ)— 24.0
20.INRIA(フランス)— 23.2
21.EPFL(スイス)— 22.3
22.北京大学(中国)— 21.6
23.トロント大学(カナダ)— 21.4
24.ハーバード大学(アメリカ)— 19.2
25.デューク大学(アメリカ) )— 18.7
26.ニューヨーク大学(アメリカ)— 17.7
27.ケンブリッジ大学(イギリス)— 15.1
28.KAIST(韓国)— 14.8
29.テクニオン(イスラエル)— 14.6
30.UCサンディエゴ(アメリカ)— 14.6
31.ウィスコンシン大学マディソン(アメリカ)— 14.4
32.アマゾン(アメリカ)— 14.3
33.UMass Amherst(アメリカ)— 13.8
34.ユニバーシティカレッジロンドン(イギリス)— 13.7
35.MILA(カナダ)— 13.5
36.大学南カリフォルニア(アメリカ)— 13.5
37.ペンシルバニア大学(アメリカ)— 13.3
38.ソウル国立大学(韓国)— 12.7
39.ジョンズホプキンス大学(アメリカ)— 12.6
40.理研(日本)— 12.3

(※訳註4)上記のAI研究をリードするトップ40の世界的な組織を国籍で分類した場合、以下のようなグラフを作成できる。

2019年におけるAI研究をリードするトップ20の地域(パブリケーション・インデックス付き):

AI研究ランキング2019―AI研究をリードするトップ20の地域

1.アメリカ— 1260.2
2.EEA (※原註1)+スイス— 431.5
3.中国— 184.5
4.カナダ— 80.3
5.日本— 49.4
6.韓国— 46.8
7.イスラエル— 43.3
8.オーストラリア— 27.0
9.インド— 17.1
10.シンガポール— 13.2
11.ロシア— 10.6
12.台湾— 5.3
13.サウジアラビア— 5.0
14.アラブ首長国連邦— 2.3
15.イラン— 2.2
16.南アフリカ— 1.0
17.チリ— 1.0
18.マレーシア— 0.7
19.トルコ— 0.6
20.ニュージーランド— 0.5

(※原註1)EEAに属する国には、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス共和国、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダが含まれます、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、イギリス、アイスランド、リヒテンシュタイン、およびノルウェー(出典)。

2019年におけるAI研究をリードするトップ20ヶ国(パブリケーション・インデックス付き):

AI研究ランキング2019―AI研究をリードするトップ20ヶ国

1.アメリカ— 1260.2
2.中国— 184.5
3.イギリス— 126.1
4.フランス— 94.3
5.カナダ— 80.3
6.ドイツ— 64.5
7.スイス— 59.3
8.日本— 49.4
9.韓国— 46.8
10.イスラエル— 43.3
11.オーストラリア— 27.0
12.インド— 17.1
13.オランダ— 15.3
14.シンガポール— 13.2
15.デンマーク— 12.2
16.イタリア— 11.5
17.スウェーデン— 11.3
18.ロシア— 10.6
19.フィンランド— 9.6
20.オーストリア— 7.4

2019年にAI研究をリードするトップ20のアメリカの大学(パブリケーション・インデックス付き):

AI研究ランキング2019―AI研究をリードするトップ20のアメリカの大学

1.スタンフォード大学— 82.3
2.MIT — 69.8
3.カーネギーメロン大学— 67.7
4.UCバークレー— 54.0
5.プリンストン大学— 31.5
6.コーネル大学— 30.9
7.ジョージア工科大学— 30.1
8.UTオースティン— 29.9
9.イリノイ大学— 29.4
10.コロンビア大学— 29.2
11.UCLA — 27.2
12.ワシントン大学— 24
13.ハーバード大学— 19.2
14.デューク大学— 18.7
15.ニューヨーク大学— 17.7
16.UCサンディエゴ— 14.6
17.ウィスコンシン大学マディソン— 14.4
18.UMass Amherst — 13.8
19.南カリフォルニア大学— 13.5
20.ペンシルベニア大学— 13.3

2019年におけるAI研究をリードする世界のトップ20の大学(パブリケーション・インデックス付き):

AI研究ランキング2019―AI研究をリードする世界のトップ20の大学

1.スタンフォード大学(アメリカ)— 82.3
2.MIT(アメリカ)— 69.8
3.カーネギーメロン大学(アメリカ)— 67.7
4.UCバークレー(アメリカ)— 54.0
5.オックスフォード大学(アメリカ)— 37.7
6.プリンストン大学(アメリカ)— 31.5
7.コーネル大学(アメリカ)— 30.9
8.ジョージア工科大学(アメリカ)— 30.1
9.UTオースティン(アメリカ)— 29.9
10.イリノイ大学(アメリカ)— 29.4
11.コロンビア大学(アメリカ)— 29.2
12.清華大学(中国)— 28.4
13.UCLA(アメリカ)— 27.2
14.ETH(スイス)— 27.0
15.ワシントン大学(アメリカ)— 24.0
16.INRIA(フランス)— 23.2
17.EPFL(スイス) — 22.3
18.北京大学(中国)— 21.6
19.トロント大学(カナダ)— 21.4
20.ハーバード大学(アメリカ)— 19.2

(※訳註5)上記のAI研究をリードするトップ20の大学を国籍で分類した場合、以下のようなグラフを作成できる。

2019年におけるAI研究をリードするトップ20社(パブリケーション・インデックス付き):

AI研究ランキング2019―AI研究をリードするトップ20社

1.Google(アメリカ)— 167.3
2.Microsoft(アメリカ)— 51.9
3.Facebook(アメリカ)— 33.1
4.IBM(アメリカ)— 25.8
5.Amazon(アメリカ)— 14.3
6.Tencent(中国)— 8.8
7.アリババ(中国)— 7.5
8.ボッシュ(ドイツ)— 7.2
9. Uber(アメリカ)— 7.1
10.Intel(アメリカ)— 6.9
11.トヨタ(日本)— 6.0
12.Yandex(ロシア)— 5.8
13.Baidu(中国)— 5.5
14.Nvidia(アメリカ)— 5.2
15.Apple(アメリカ)— 4.6
16.Salesforce(アメリカ)— 4.2
17.PROWLER.io(イギリス)— 4.2
18.Criteo(フランス)— 3.9
19.Huawei(中国)— 3.7
20.NEC(日本)— 3.5

(※訳註6)上記のAI研究をリードするトップ20社を国籍で分類した場合、以下のようなグラフを作成できる。

▼後編はこちら


原文
『AI Research Rankings 2019: Insights from NeurIPS and ICML, Leading AI Conferences』

著者
Gleb Chuvpilo

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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