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2020.01.21

2020年にForecast Techは普及する ―予測の活用事例と課題感を、注目企業が語る(後編)

最終更新日:

2019年12月5日、テクノロジーを用いて予測分析を行う「Forecast Tech」(フォーキャストテック)の最前線を担う企業が登壇した初めてのカンファレンス「Forecast Tech Conference 2019」が開催されました。

本記事では、イベント後半の模様をご紹介します。(前編の記事はこちら

パネルディスカッション「注目スタートアップ3社が語る、最前線のForecast Techと導入現場のリアルとは」

パネルディスカッションでは、ファッションなど人の感性を解析し販売予測などを行うSENSY株式会社の渡辺氏、為替や金利などの価格を予測し金融機関を中心に導入されるAlpacaJapan株式会社の北山氏、排泄タイミングを予測し介護などのシーンで活用されるトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社の中西氏と、それぞれ違う分野で予測サービスを展開するスタートアップ3社にお集まりいただき、各社が予測を実現している強みや課題について語っていただきました。

モデレーターは投資信託のデジタルトランスフォーメーションを進めるロボット投信株式会社の野口氏に、会場からの質問を随時受け付けながら進行していただきました。

各社の技術的な強みとは?

野口:最初のテーマは、「各社の予測技術は何が画期的なのか」。技術的な観点から、それぞれお答えいただけますか?

渡辺:弊社が取り組んでいるのは、「お客様一人ひとりの行動予測を積み上げる」という予測方法です。

渡辺: 明日売れる商品を予測するのに、「どういうタイミングで来店し、どういう商品を買いたいか」というお客様の行動分析を経て、商品の販売予測を行います。

単純に膨大な計算量が必要になるので、行動分析を効率的に積み上げる工夫をしておりまして、その点が技術的優位性になるかと思います。 もう一つは、購買データの蓄積量です。お客様一人ひとりの分析をやろうとしても、小売企業の方々はデータを蓄積していないことが多い。

弊社は、全国の商品の1%に相当するパブリックな購買データを集めておりますので、お力になれることも多いと思います。

野口:会場から質問が来ています。渡辺さんがAIで予測分析に取り組もうとしたきっかけは何でしょうか?


野口 哲氏
ロボット投信株式会社 代表取締役社長

「金融を変える。ロボットが変える。」をミッションに投資信託のデジタルトランスフォーメーションを進めるロボット投信を2016年に創業。2007年にSBIホールディングスへ入社し、決済・暗号・Webマーケティングを担当。2011年からピクテ投信投資顧問にて、公募株式投信のデータ解析・マーケット分析業務に従事。

紙を前提にした複雑な投資信託バリューチェーンの変革に挑む。

※野口氏のインタビュー記事はこちら

渡辺:2008年くらいにコンサルタントとしてアパレル企業を訪問した際、倉庫に膨大な在庫の山があったのですが、その半分くらいが廃棄処分されるということを目の当たりにしたのが直接のきっかけですね。

大学時代はAIを研究していたので、こういう業界の課題をAIで解決できないか、お客様と商品のミスマッチを解決できないかと考えました。

野口:続いてAlpacaの北山さん。先月、新商品のAlpaca Forecast Cloudをリリースされましたね。おめでとうございます。

北山:ありがとうございます!さて、弊社の強みですが、あえていうなら「サイエンスの強さ」となるでしょうか。Alpacaは基本的にサイエンスの会社でして、誰もが匙を投げるような難しい課題にあえて取り組む、そういうチャレンジを事業にしています。

たとえばAlpaca Forecast Cloudの場合、私達が注目したのが、ティック、ミリ秒単位で発生する為替の細かい値動きです。為替は人間の需給や思惑など、あらゆる情報が集まってパターンが形成されている。人間にはもう予測できない領域ですが、私達は深層学習のエンジンを用いて予測モデルを作り、この分野にアプローチしています。

野口:最後にトリプル・ダブリュー・ジャパンの中西さん。ヘルスケア分野での予測分析を手掛けていらっしゃいます。

中西:排泄予測デバイスの「DFree」を販売しております。排泄はここにいらっしゃる皆さん全員に関係する問題ですね。画期的な点を一言でいえば、超音波技術をウェアラブルデバイスに落とし込んだ、という点になります。


野口:蓄積したデータを解析している点と、超音波技術の2つを合わせて使っている点、他社さんが真似できない強みですね。

予測分析サービスの課題感

野口:続いて、「将来予測の現場にいるからこそわかる、予測サービス導入の課題」。まずSENSYさんですが、会場から「分析はオンライン限定なのか、それともリアルな店舗も分析できるのか」と質問が来ています。

渡辺:両方やっていますが、販売のボリュームはやはりリアルなチャネルが8割、9割ということが世の中の小売の現状かなと思っていますので、メインはリアルです。オンラインのデータは補完的に使っています。

野口:ありがとうございます。ちなみに、非定型データは扱われているのでしょうか?

渡辺:扱えます。アパレル業界では、AI的に言えば商品の特徴量は、シーズンごとに変わります。今年投入するこの商品が、過去のどの商品と売れ行きパターンが近くなるかを予測するには、画像や文章などの非定型データの分析にも取り組まざるを得ません。

渡辺 祐樹氏
SENSY株式会社 代表取締役CEO

慶應義塾大学理工学部システム工学専攻、人工知能アルゴリズム研究に従事。株式会社フォーバルを経て、IBMビジネスコンサルティングサービスにて戦略コンサルタントとして製造業・サービス業の事業戦略策定、組織再編、業務変革などに従事しながら、公認会計士資格を1年で取得。

2011年カラフル・ボード株式会社(現SENSY)を創業。

野口:アパレル以外の小売業でも展開可能なんでしょうか?

渡辺:はい。今年の夏からスーパーやドラッグストアで需要予測のプロジェクトが始まっています。アパレルと同じように、あるお客さんのスーパーへの来店タイミングなどの行動予測を積み上げていくと、明日用意しておくべき豆腐の数などが予想できる。これまでどんぶり勘定で行っていたプロセスが変わります。

野口:続いてAlpacaさんにお伺いしたいのですが、これまで金融機関に導入する際に課題はありましたか?

北山:収益貢献についての、お客様との認識の擦り合わせですね。 たとえば製造業の需給予測の場合は、人間でもある程度予想できる領域をAIでサポートして精度向上を図る、というイメージになるかと思います。

しかし、マーケット予測の場合、当たるも八卦当たらぬも八卦の世界で、50%の予測精度を少し上げて60%にする、という取り組みになる。

なので、導入した時に「60%の精度にして、どれくらい利益が出るのか?」という点をお客様にご理解いただかなければなりません。

北山 朝也氏
AlpacaJapan株式会社 CPO/Head of R&D

10年間ソニーに在籍し、PlayStationのサポートチームのマネージャーとしてゲームタイトル開発者とPlayStation開発チームの橋渡しを行う。2015年よりAlpacaに参画し、金融機関との様々なプロジェクトを企画・実施、金融 X AIでビジネスをつくることに日々もがく。

現在はChief Product OfficerとしてAlpacaのプロダクトを統括。慶應義塾大学・慶應義塾大学大学院卒、2008年度IPA未踏スーパークリエイター。

※北山氏のインタビュー記事はこちら

野口:続いてトリプルダブリューさん。排泄予測は、今どのような場所で活用が広がっているでしょうか?

中西 敦士氏

トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役

慶應義塾大学商学部卒。大手企業向けのヘルスケアを含む新規事業立ち上げのコンサルティング業務に従事。その後、青年海外協力隊でフィリピンに派遣。2013年よりUC Berkeleyに留学し、2014年に米国にてTriple Wを設立。2015年に当社設立。

著書:「10分後にうんこが出ます-排泄予知デバイス開発物語-」 2016年・新潮社

中西:BtoB領域で言うと、リハビリ病院や介護施設といった施設での導入が中心ですね。ですね。排泄は人間に絶対必要なイベントですが、これを予測できると、ライフスタイルにも大きな影響が出ると思います。

野口:会場から、「大きい方」は予測できますかという質問が来ています。

中西:はい。目下開発中です。

Forecast Techスタートアップの将来構想

野口:それでは最後の質問に移ります。「各社の将来ビジョン」ということで、SENSYさんから順番にお願いします。

渡辺:元々、企業の活動と生活者のミスマッチを解決したい、と言う思いでSENSYを創業しました。企業が良かれと思って開発した新商品を、お客様が購入したことを後悔したりとか。これをデータという観点から解決していきたい。 SENSYでは現在、多くのPOSデータをお預かりしています。各企業様の消費者の皆さまをペルソナ化して、データベース化、それを企業内のAIにフィードバックしていく。こうした仕組みが出来始めている段階なので、データ量をさらに増やし、活用の場を広げたいです。

中西:我々の強みは生体センシングと、そこからデータを取ってくる技術です。例えばお腹が減るとか、我々が日常で自分の体から受け取る感覚は非常に多くあります。そこで「どのくらい食べればいいか」といった答えをしっかり数値化するサービスを作りたい。そういったサービスを家庭の中に広げていくことで、家庭のヘルスケアサービスを総合的に底上げしていくことを目指していきたいと考えています。

北山:弊社の場合、パートナーの方と寄り添ってビジョンを達成する会社。なにか難しいことにチャレンジしたいという時に一番力になれる会社になれるように技術を磨いているというところですね。

野口:ちなみに皆さん、プライバシーの観点からデータ収集の際に気をつけている点はありますか?

渡辺:個人情報は外した形でデータを扱っていますが、それでもセンシティブな情報ですので、ISMSを取得するなど、データ管理には細心の注意を払っています。

北山:プライバシーデータは扱っていないのですが、ひとつ気を付けていることがあります。金融データは全てのデータに値段がついておりまして、そうすると、インプットのデータにかかるコストがアウトプットのデータの収益を超過することがあります。

野口:それは分かりますね…。この点、金融の方も共感いただけるんじゃないでしょうか。

北山:なので費用対効果には気をつけていますね。

中西:弊社はプライバシーのデータを使っていますが、逆にそれを気にしすぎると、今度は利便性が落ちてしまいます。そこは、実際ご導入いただく施設に合わせて、完全匿名にするのか、あるいは実名で使うかを選択するようにしています。

野口:最後に総括ということで。3社とも違う領域ですが、データのインプットをもとにして社会にインパクトを与えるビジネスを展開されています。参加者の皆さまは、是非、学びを自社に持ち帰って、「自社ならこんな事ができるんじゃないか」と提案していただければと思います。本日は、ありがとうございました。

パネル登壇各社の主要サービス

SENSYMD:お客様一人ひとりの嗜好性や購買タイミングなどを感性としてパーソナル人工知能に学習させ、商品需要予測の精緻化を通じて、追加発注やマークダウンを最適化。

Alpaca Forecast Cloud:機械学習によりリアルタイムティックデータから値動きの短期予測シグナルを生成。

DFree:超音波技術により膀胱内の尿のたまり具合をリアルタイムで計測する、世界初のウェアラブルデバイス。

ファンド・アナリティクス:販売会社の販売員向けに基準価額変動要因分析を提供するASPサービス。日次信託報酬額、日次資金流出入額も併せて提供

まとめ

Forecast Tech研究所による、第一回目のForecast Tech Conference は、様々な分野におけるForecast Techサービスを広く取り上げ、業界の高い可能性を示唆するものとなりました。

懇親会の場では、登壇各社がブースを設置して実際のサービスを直接紹介し、意見交換の場としても盛り上がりを見せました。

今後も最新の予測サービスや技術を広める場としてForecast Tech Conferenceを定期開催していきたいと思います。

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