「実態のないAIを娯楽で伝えたい」AIが浸透した2030年の日本を描いた映画「AI 崩壊」入江監督の想い

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AINOW編集部作成

ここ数年、多くのメディアの注目となった「AI・人工知能」がついにサスペンス大作のテーマになりました。2020年1月31日、映画「AI崩壊」が公開されます。

監督を務めるのは2017年に『22年目の告白 -私が殺人犯です-』などを手がけた入江悠監督。自らが人工知能学会に入り、多くのAI系企業の取材を積み重ねた彼が0から脚本を考え、AIが浸透した日本の未来がリアルに描かれた作品です。

画像、音声、テキストなどあらゆる領域で技術革新をもたらすAIが社会にどのように浸透していくのか。普段AIに関わらない人も、今後どのようにAIと付き合っていくべきかを考えさせられる奥深い映画です。

この記事では映画「AI崩壊」の完成報告会見の様子だけでなく、入江監督の単独インタビューの様子をお届けします。

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映画「AI崩壊」のあらすじを紹介

2030年 ー 今からたった10年後の未来。

働ける人間は国民の50%、未来を担う子どもは10%未満、残りは老人と生活保護者という状況の日本。そんな崩壊寸前の日本において、医療AI「のぞみ」と呼ばれる、人工知能は全国民の個人情報、健康を完全に管理し、人々の生活に欠かせないライフラインとなっていた。

だがそんな“人に寄り添う”はずのAIが突如暴走。年齢、年収、家族構成、病歴、犯罪歴等から人間の生きる価値を選別し、AIが殺戮を始め、国中は未曾有の大混乱に陥る!

AIを暴走させたテロリストとして、警察の捜査線上に浮かび上がったのは、AIのぞみの開発者である天才科学者・桐生浩介(大沢たかお)だった。彼は自身の開発したAIに対する国の認可が間に合わず妻・桐生望(松嶋菜々子)を亡くした過去を持っていた。

逮捕される寸前に逃亡を図る桐生。追うは最新のAI監視・捜査システムを駆使する警視庁のサイバー犯罪対策課。AIはなぜ暴走したのか。決死の逃亡劇は予想もしない方向へと進んでいく!

AI崩壊完成報告会 ー AIは無視できない

2019年12月17日、「AI崩壊」の完成報告会見が開催されました。

左から入江悠監督、三浦友和さん、賀来賢人さん、大沢たかおさん、岩田剛典さん、広瀬アリスさん

完成報告会見には入江監督、主演を務めた大沢たかおさん、三浦友和さん、賀来賢人さん、岩田剛典さん、広瀬アリスさんが登壇しました。

それぞれが映画撮影のエピソードを語る一方で、AIに関して、以下のようなコメントも残していて印象的でした。

賀来賢人さん:AI崩壊で描かれた世界は5年後でも10年後でもあり得るのではないかと思います。

今実際にAIが医療の現場に使われている場面もありますし、AIはいい部分も悪い部分もあるなと感じました。

「AI崩壊」はただのエンターテイメントとして終わらず、映画を見終わった後に「自分だったら将来どうしよう」と考えさせられるような作品になっています。

岩田剛典さん:ある国ではAIが個人情報を管理し、受けられるサービスに差が出るような社会がすでに始まっています。

今後、日本もどうなるかわかりません。もう私たちもAIを無視できない状況になっています。

入江監督単独インタビュー

「AI崩壊」の完成報告会見後、AINOW編集部はAI崩壊の入江悠監督に単独インタビューを行いました。

入江監督は、自らが人工知能学会に入るだけでなく、多くのAI企業の取材を重ね、0から脚本を執筆して「AI崩壊」の世界観を作り上げました。

その過程では東京大学大学院工学系研究科教授の松尾豊氏や、筑波大学システム情報系助教の大澤博隆氏などの助言も参考にし、リアルな「AI」の姿が映画内で描かれています。

入江監督は映画監督としてAIの何を感じ、何を伝えるために「AI崩壊」を制作したのでしょうか。

「AI 崩壊」を手掛けた入江監督

「実態がつかめないAIを表現する苦労」制作前のエピソード

ーーこの映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

入江監督:もともとSF映画が好きでした。そして今回、SF映画を作る話をいただいた際に、特にホットなAIをテーマとして扱うことにしました。

AIに関しては、「一般ユーザーの見える世界」と「研究者の見える世界」に落差があると感じていて、それを映画の中でどのように描くのかを意識して作りました。

また、AIの映画を制作する上で心がけたのは「私たちの生活の延長線上でストーリーを描く」ということです。

シンギュラリティ問題で有名な2045年以降では、私たちの生活とかけ離れ、リアリティが感じにくくなるため、2030年という設定にしました。

ーーAIというとロボットのようなイメージがある一方で、今現在活用が進んでいるAIはロボットのように実在するものではありません。映画を作る際にAIを描く苦労はあったのでしょうか?

入江監督:AIって実態が掴みにくいのでAIの専門書を読みまくりましたね(笑)

制作をはじめた2017年は、AI関連の本が一斉に本屋に並びだした時期で、「AIが今どの段階にあるのか」「どうやって活用されているのか」といった観点で情報を集めました。

AIは研究者の脳内から生まれ、コンピュータ内に存在しているので、実態がなく、表現するのがとても難しかったです。

情報収集のために人工知能学会や東大の松尾教授をはじめ、多くの方に話を伺ったのですが、とても興味深く、まるで授業を聞いている感じでした。何度も脚本を読んでもらい、部分部分の整合性や、どこまでフィクションとしていいのかについても確認してもらいました。

ーー映画内では、RNNやCNN、LSTM(ディープラーニングのモデルの種類)といったワードが飛び交っているのに驚きました。

入江監督:あれは専門家しかわからないと思いますね(笑)

大沢たかおさんも監修の先生にシーンごとに「これはどいう意味か」と緻密に質問されていました。

私自身、先ほども述べたようにAIの研究にとても興味あるんです。今第一線で活躍されている研究者の多くがAIの冬の時代という挫折を乗り越えてきたんだなって思うと、感慨深いなと思っています。

映画への想いを語る入江監督

映画内のセリフに込められた監督の想い

映画内ではいくつかの印象的なセリフがありました。例えば、「人間にできることは責任を取ることだ」というセリフは、AIが浸透しても変わらない人間の役割について考えさせられました。

ーー入江監督は映画全体を通して、何を伝えるために「AI崩壊」を制作したのでしょうか。

入江監督:AIの責任問題はトロッコ問題として有名な話ですが、一般の人には馴染みのない難しい問題です。私としてはトロッコ問題の答えは「選択した先にくる結末に責任を取ること」と解釈しています。

AIはあくまで人間がプログラミングしたものをベースに動いています。そのAIが暴走した時に、どう責任をとっていくのか。

AIが中心のシステムが事故を起こした時に、責任の主体はどこにあるのかが、まだまだ曖昧で、みなさんにぜひ意識して欲しいと考え、「人間にできることは責任を取ることだ」というメッセージを入れました。

ーー映画を作るということは社会を描くことでもあると思います。「AI崩壊」では、AI技術以外にも人々の姿や街並みなど社会全体の2030年の姿を予想する大変さがあったと思いますが、いかがでしたか?

入江監督:AIの活用が進んだ2030年の社会を描くことはとても大変でした。

特に参考にしたのは、東大の松尾教授の「研究自体は進んでいるものの、それを適用する社会側のインフラがまだまだ」というコメントです。

それが印象的だったこともあり、映画内でも田舎と都会のインフラ格差は意識しました。今日も自動運転車の研究は進んでいますが、実装がうまくいっていないのは法整備の問題のほかに、日本のインフラの問題でもあると聞いたことがあります。

確かに映画内では、ほとんど2020年現在と変わらない街の風景が描かれていました。

特に「自動車」という観点では、2019年時点、日本国内で6000万台※を超える乗用車が使用されています。その全てが10年程度の短期間で自動運転車に切り替わる可能性は低いと言えるでしょう。※一般社団法人自動車検査登録協会のデータより

他にも建物や道路など、社会を構成する膨大なインフラがガラッと変化する未来がすぐにやってくるとは考えられません。

「AI崩壊」は、AIの技術発展だけでなく、人口動態の推移や、貧困の格差の問題など、今の日本にとって避けることが難しい社会課題に、うまくAIを組み合わせて社会が描かれていたことが印象的な作品でした。

制作を終えて

ーー警察のAIが民間の監視カメラやスマートフォンのカメラ映像を通して容疑者 桐生(主人公)の居場所をすぐに見つけてしまうなど、見た人が思わずAIを「怖い」と意識してしまうような「AI崩壊」ですが、この映画はどんな人におすすめですか?

入江監督:普段からAIに関わっている方にもぜひ見て欲しいです。

以前、とある電機メーカーに訪問した時、「年収の高い中国企業に日本の人材は流れている。うちには全然来ない。」という話を聞きました。

これから10年はAI業界が今後成長する上で勝負となる期間だと思うんです。

その点では、AIに関わる方に見ていただくだけでなく、この映画をみた人が将来AIを発展させる側に立ち、日本のAI業界を成長させる基盤を作ってくれることを期待しています。

ーーこれからもAIの魅力伝えていきたいという考えはありますか?

入江監督:伝えていきたいですね。今回、「AI崩壊」を制作してみて、専門家のお話を聞くのが、本当に面白かったんですよ。

AIのような難しいものって娯楽で伝えられることができる部分もあると思っています。

これからの生活にAIは不可分で、今後は必ず私たちの生活の中に入って来て、一般の方も避けられないと思います。

人の代替という観点なら、映画制作の仕事も部分的にはAIが担っていくと思っています。AIに小説を書かせる取り組みもあるくらいなので、映画の脚本の一部をAIで作成することも可能になると思っています。

今後10年でAIが映画監督業をはじめ、多数の分野を大きく変える可能性がある。その時、AIと人間の役割分担、棲み分けをどうしていくのか考える必要があるということは映画を通して感じましたし、一般の方にも、そういったことを感じて欲しいです。

AIに携わる人たちに向けて

ーー最後にAIに関わる人やAIに興味を持っている人たちに対してのメッセージがあればお願いします。

入江監督:AIに携わっている方々は社会をよりよくするためのものとしてAIを研究していると思います。

その一方で、「AIの怖いことは何か?」を考え、緊迫感を持って見てもらうのが映画なので、AIを研究している、もしくはAIの世界に進もうと考えている人は、ぜひこの映画を見てほしいです。

そういった方が「自分ならこの問題をこう解決できる」と意見をSNSなどで発信してくださると、こちらとしても参考になりますし、AIに関する議論もより発展していくと思います。

ぜひ映画館に足を運んでいただければと思います。

さいごに

AI・人工知能というと「賢そう」だとか「怖い」という曖昧なイメージを抱いてしまう方も多いかもしれません。

しかし、映画内で描かれていたAIは、スマートフォンやウェアラブルデバイスなど、あらゆる機器が接続して生み出された膨大なデータを処理するAIです。街の風景は2020年現在とあまり変化がなく、スマートフォンなどのデバイスを中心に、日本社会が描かれていました。

映画内では入江監督がインタビューを重ねて描いたリアルなAIが人々の生活を支える大事なインフラになっています。

一方でAIは諸刃の剣で、使い方を間違えれば大きな危険につながります。

そんなAIの可能性と怖さの二面性について非常に考えさせられる映画でした。

ぜひ、みなさんも劇場に足を運び、AIについて、ご自身の視点から考えてみてください。

2020年1月22日 2020年3月18日更新

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