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2020.05.28

スターバックスはコーヒー事業者ではない ― データテック企業なのだ

最終更新日:

著者のWas Rahman氏は、AIによるソリューションを企業に提供するAIスタートアップAI PrescienceのCEOを務めています。同氏がMediumに投稿した記事『スターバックスはコーヒー事業者ではない ― データテック企業なのだ』では、スターバックスにおけるAIとデータ活用の事例が解説されています。
世界的なコーヒーショップブランドであるスターバックスは、毎日大量のデータを処理しているデータテック企業という側面があります。そうした側面は、以下のような5つのAIとデータの活用事例から説明することができます。
  1. AIを使ったレコメンデーションシステム
  2. データにもとづいた商品開発
  3. データを活用した店舗計画
  4. 状況に応じて変化する動的メニュー
  5. AIoTを活用したマシンメンテナンス

以上の事例は、実のところ、珍しいものではありません。個別に見ればありふれたAIとデータの活用方法を適切に既存業務に導入することによって、スターバックスはコーヒーショップチェーンの経営というコアビジネス全体を再構築することに成功しているのです。このような成功は、個々の技術的施策を積み重ねてコアビジネスをレベルアップさせる「AI戦略」を遂行できた、と言い換えることができます。AIによって企業全体を再構築するAI戦略に関しては、すでに以下のようなAINOW翻訳記事で解説しています。

日本では「とりあえずAIの導入を検討してみる」という段階が終わりを迎えつつあり、今後は「AIの導入によって、どのように企業を成長させることができるのか」というAI戦略的な視点が重要となると思われます。そんなAI戦略を立案するに際しては、世界的企業であるスターバックスの事例を報告した本記事は参考になるのではないでしょうか。

なお、以下の記事本文はWas Rahman氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。

スターバックスのビジネスは、競争力を維持するためにデータを戦略的に利用する方法の教科書的な事例だ

画像出典:SOPA Images/Getty Images

スターバックスは、単に世界中で大量のホットドリンクやコールドドリンクを販売しているだけではない。1週間に1億件以上の取引から膨大な量のデータを収集しているのだ。同社はこのデータをどのように利用しているのだろうか?また、AIやモノのインターネット(IoT)は、データ活用においてどのような役割を果たしているのだろうか。

スターバックスが競争優位性のためにデータと最新技術を利用する方法は、事業サイズに関係なく、すべてのビジネスにとって有益なものだ。例えば同社は、ロイヤルティシステム、決済カード、モバイルアプリを組み合わせた先駆者だ。しかし、この事例は表面を引っ掻いているに過ぎない。

この記事では、スターバックスがどのようにデータ、AI、そしてIoTを競争優位性のために利用しているかについて、最も興味深い5つの事例を紹介する。こうした事例が示唆するのは、スターバックスはもはやコーヒービジネスではなく、食品・飲料分野におけるデータテクノロジー企業であるという説得力のある議論かも知れない。

スターバックスは、データ、テクノロジー、ビジネスの関係を他のどの企業よりもよく示している

スターバックスはデータに事欠かない。世界中に30,000以上の店舗を持ち、週に1億件近くの取引を行っている。同社の巨大なデータから、顧客が何を消費し、何を楽しんでいるかを包括的に把握することができる。しかし、驚くべきことに、巨大なデータの価値に焦点を当てるようになったのは、10年ちょっと前からなのだ。

それ以前にデータを利用していなかったわけではない。しかし、企業における大きな変化の多くと同様に、危機が変化の原因となった。スターバックスの場合は、2008年の金融危機とそれに伴う店舗の閉鎖だった。当時のCEOであったHoward Schultz氏が得た教訓は、同社のデータ利用は、とりわけ店舗の立地を決定する際に、より分析的なものにする必要があった、ということであった(※訳註1)。

2008年の経済危機以前は、スターバックスの意思決定は、他の多くの組織と同様に、経験と判断に基づいた人間主導のものだった。データは明らかに重要だが、可能な限り体系化されていなかった。こうした従来の意思決定について書かれていることはほとんどないのだが、データを使って人間の考えや意思決定を検証し、情報を提供するという旧来的なアプローチだったようだ。

スターバックスが非凡なのは、データとテクノロジーを使ってあらゆる種類の新しいアイデアを試し、さらにデータを使ってどのアイデアを進めるべきかを見極めようとしたところだ(本記事後述より引用)。

今日のスターバックスのデータ活用は不動産だけでなく、もちろんマーケティングや製造活動にも及んでいる。さらには、サプライチェーンの管理方法に関する知見にも影響を与えている。そんな知見の中核をなすのが、2008年に始まったスターバックスのポイントプログラム「StarBucks Rewards」である。

あまり知られていないのは、どのようにしてスターバックスのデータ活用がモノのインターネット、とりわけ店舗内のオペレーションにも及んでいるか、ということだ。データ活用の波はコーヒーマシンから始まり、現在ではオーブンのような他の店舗内機器にまで拡大している。

(※訳註1)カナダのビジネスメディア『IT World Canada』が2013年10月に公開した記事『スターバックス、コーヒー店舗に関する新しい位置分析を試行』によると、スターバックスのハワード・シュルツCEOは2011年と2012年にリーマンショックの影響で閉店した店舗を大量に再オープンさせた。しかし、この再オープンは「無規律」だった、と同氏は後に語っている。以降、同社は後述するGIS(Geospatial Information Systems:地理空間情報システム)にもとづいた出店計画を実行するようになる。

スターバックスがデータ、AI、そしてIoTを競争優位性のためにどのように活用しているかを示す5つの事例

スターバックスがどのようにデータとその関連技術を利用しているかについては、他の多くの巨大な現代の企業と同様に、詳細に論じた本を著すこともできるだろう。スターバックスが非凡なのは、データとテクノロジーを使ってあらゆる種類の新しいアイデアを試し、さらにデータを使ってどのアイデアを進めるべきかを見極めようとしたところだ。

数ある素晴らしい事例の中から、私は5つのハイライトを選んだ。これらを選んだのは、AI、IoT、クラウドなどのテクノロジーとともに、データをうまく活用することでスターバックスのビジネスがどのように改善されたかを示しているからだ。

  • パーソナライズされたプロモーションやオファーで顧客をターゲティング
  • チャネル横断を含む洞察駆動型製品開発
  • 洗練された不動産計画
  • 動的なメニュー作成と調整
  • 最適化されたマシンメンテナンス

事例1:パーソナライズされたプロモーション

顧客データの古典的な利用方法は個々の消費者の好みに合わせてオファーをパーソナライズすることであり、スターバックスであっても同様だ。アメリカだけでも1,600万人以上の会員を抱えるスターバックスのロイヤルティプログラムは、同国内の全店舗取引の約半分を占めている。

個々の顧客の注文傾向や購買パターンを知ることで、スターバックスはより関連性の高いパーソナライズされたオファーを提供することができるようになる。このようなキャンペーンを決定するためにAIを使用することは、人工知能の標準的な応用になりつつあり、スターバックスは2017年から「デジタルフライホイール」プログラムでAIを活用している(※訳註2)。

この種の仕事の重要な焦点は、消費者が他に何を注文したかにもとづいて、消費者が喜びそうな新商品を提案することだ。

しかし、スターバックスの試みはパーソナライズされたプロモーションだけではない。その試みの大部分は従来通りのマスキャンペーンではあるが、ターゲットにしたセグメントにおける各消費者に直接提供されている。提供されるものには、暑い日の冷たい飲み物、製品の発売、あるいは季節のメニューなどが含まれるかも知れない。

(※訳註2)ビジネスメディア『Digirupt.io』が2019年4月に公開した記事『スターバックスは4つの技術革新戦略に多額の再投資を行って、ビジネス全体の成長を後押しする』によると、スターバックスのレコメンデーションシステム「デジタルフライホイール」は、同社のモバイルアプリ「Starbucks Rewards」をはじめとして3,000万のデジタル接続から構成されている。そうしたデジタル接続から、顧客の注文商品、注文した時間、地理情報、そして季節といったデータから推奨アイテムを決定している。

事例2:洞察駆動型の商品

パーソナライズされたプロモーションが効果的であることは間違いないが、スターバックスにとって同様に重要なのは、製品ラインアップの開発に顧客データを活用することである。

スターバックスがデータを利用する強力な方法のひとつは、多くの消費者の購買習慣から生まれる。こうして生まれるデータからの洞察によって、既存製品に由来するバリエーションや製品開発が提案される。例えば、15年以上前、ハロウィンにパンプキンフレーバーのドリンクを導入するというかわいいアイデアがあった。今では、そのアイデアはパンプキンにインスパイアされた世界的な製品のラインナップとなっている。そんな製品ラインナップがもたらした結果のひとつとして、秋の数ヶ月間に客足が大きく急増した。

2つ目のタイプは、チャネルをまたいでデータを利用することだ。この利用法に関する最も重要な例は、おそらく2016年に同社が家庭用コーヒーの分野に進出したことだろう。顧客が自宅でコーヒーを淹れるための商品をスーパーマーケットに投入したのだ。店頭のデータは、家庭でコーヒーを飲む人をターゲットとするためにどの商品を投入すべきかを決める強力な基礎となった。インスタントコーヒーのような家庭用商品を正規店に投入するようなテストも実施できた。

また、家庭用商品の無糖バージョンのような商品も追加された。さらに店頭消費データから示唆されたもう一つのバリエーションは、牛乳入りと牛乳なしのバージョンを揃えることであった。

事例3:洗練された不動産プランニング

スターバックスの店舗をどこにオープンするかを計画することは、今ではデータ分析の複雑な部分となっている。こうした分析についてスターバックスがデータを使用する方法は、想定される限りのあらゆる要因をカバーすることだ。そうした要因として、おそらく読者諸氏が考えないようないくつかの要素も考慮されている。

店舗計画をサポートするAIは、立地に関する経済的要因をモデル化している。その要因には、人口、所得水準、トラフィック、競合他社の存在などが含まれる。こうしたモデルを利用して、売上、利益、その他の経済パフォーマンスを予測しているのだ。

このシステムでは、既存のスターバックス店舗の位置も考慮している。提案されている新店舗が近隣地域の既存売上に与える影響も考慮する。

このアプリケーションの中核をなすAI技術は、ロケーションベースの分析だ。これはマッピングやGIS(Geospatial Information Systems:地理空間情報システム)としても知られているものである。

事例4:動的メニュー

以上の事例から導かれる帰結のひとつは、スターバックスは提供するサービスを継続的に洗練させ、調整する能力を持っているということだ。同社がデータを使用する方法は、顧客、場所、時間に基づいて更新可能であることを意味する。こうした方法は、商品、プロモーション、価格に影響を与える。

しかし、カウンターの上にある印刷されたメニューボードに店内で提供しているものを表示すると、継続的に調整する能力とは切り離されてしまう。こうした事情が、黒板のようなローテクなソリューションが小売業者に人気がある理由のひとつとなっている。しかし、スターバックスの場合は、コンピュータでメニューを表示するデジタルサイネージを店舗に導入している。

以上の試みにより、顧客体験に関して起こり得る変化がどこかで生じても、その変化が店舗に反映できるチェーンを実現したのだった。

メニューを動的に管理するスターバックスの姿勢については明らかに多くの疑問が生じ、物事を複雑にしすぎてしまう可能性がある。しかし、2018年半ばの時点でスターバックスは、動的メニュー管理を一握りの店舗で試していた。その試みとは、天候や時間帯などのローカルな状況に基づいて選択された製品をプッシュすることに焦点を当てるというものだった。(※訳註3)

(※訳註3)デジタルサイネージ製品を開発・販売する企業BrightSignは、2016年4月、アメリカ・ペンシルバニア州にあるスターバックスのドライブスルー店舗にデジタルサイネージを導入したことをツイートした(下のツイート参照)。

以上の導入事例に関するBrightSignのプレスリリースによると、デジタルサイネージにはスターバックスのメニューが表示されている。表示されるメニューは時間帯によって変化し、プロモーション商品や季節のおすすめ商品も表示される。

事例5:マシンメンテナンスの最適化

最後の例は、コーヒーマシンをはじめとした店舗内機械全般のメンテナンスだ。

典型的なスターバックスの店内での取引は、比較的低コストかつ短時間で行われる。ゆえに大量の顧客の流入が店舗の成功の鍵を握っている。そのため、機械が故障すると、店舗経営に関する重大な中断が生じる。

スターバックスでは、故障のためにエンジニアを現場に常駐させはしない。その代わりに修理対応はもちろん、計画的なメンテナンスを行うために彼らを派遣している。そのため、エンジニアを故障した機械に迅速に派遣できるどうかが大きな違いを生む。

この問題には伝統的なアプローチがある。そのアプローチではたいてい故障、機械の使用状況、必要な修理などのデータが収集される。定期的なデータ分析は、傾向やパターンを見つけるのに都合がよい。AIはこのアプローチをさらにレベルアップさせ、故障やメンテナンスの必要性を予測するのに役立つのだ(※訳註4)。

スターバックスが一歩前進したのは、新しいコーヒーマシン「Clover X」の開発においてだ。このマシンは、現在旗艦店とコンセプトストアだけで使われている。Clover Xはコーヒーを作る能力について最先端にあることにとどまらず、クラウドに接続されている。クラウド接続によって、より包括的な運用データの収集が可能になるだけでなく、故障のリモート診断や、リモート修理も可能になるのだ。

同様のコンセプトは他の機械にも応用される。例えば、現在、店舗には標準的なオーブンが設置されているが、これらもコンピュータ制御されているので、世界中で統一的に温かい製品を準備することができる。しかし、現在の機械はUSBドライブで更新する必要がある。それゆえ、例えば新製品の投入などで機械の構成に変更があるたびにUSBドライブを使った更新が生じる。将来的には、直接クラウドに接続されるようになることは間違いなく、AIが活躍する機会も増えるだろう。

スターバックスは、現代のグローバルビジネスをリードする企業の典型的な事例となっている。同社のデータ活用法は、素晴らしい効果を得るためにデータとテクノロジーを管理する模範例なのである。データとAIの利用については、ドラマチックなサプライズはまったくない。またAIとAIによる分析についても驚嘆するようなイノベーションはない。

しかし、スターバックスのデータ活用法は、データを戦略的に使い、計画を体系的かつ徹底的に実行するための旅を始める方法についての教科書的な事例なのだ。同社にはイノベーションが見られるのだが、それはコアビジネスのためにAIを使っているから認められるのであって、AIを使っていること自体から導かれるものではない。そして、IoTはクラウドとともに、コアビジネスを自然に延長したものに過ぎない。

スターバックスの事例から得られるもう一つの教訓として、AIの導入過程が同社がデータ活用を学んでいく旅の一部になっているようだ、ということがある。同社のイノベーションはAIを使いたいという強い願望があったから起こったのではなく、時期が来たときにそれぞれの分野で次にやるべきことを行った結果であったのだ。

そうした旅路を検証した結果から最終的に得られたものが、ソリューションをスケールアップする方法である。スターバックスの場合、コンセプトが実証された後に、ソリューションを拡大しただけにはとどまらない。ビジネスのグローバルな特徴が、地域に根ざす複雑性に追加されたのだ。

私たちのほとんどは、自分たちの組織をスターバックスと比較することはないし、あまり共通点もない。しかし、スターバックスがどのようにデータを利用しているかに視点を絞れば、同社は比較対象に変わる。同社の事例は、人工知能の効果的な応用がどのように発展してきたかを見るのに有益なのだ。

私たちのほとんどは、スターバックスのように自分たちのビジネスをAIとデータに関連づけていない。スターバックスのように取り組まないからといって、AIとデータが私たちの企業組織のコアとならないことを意味しない。そして、自分たちのビジネスとAIおよびデータを関連づけようとすると、現実のビジネスに関する問いかけが生じる。その問いかけとは、私たちが売っているものの大部分は何なのか、あるいは売るためにできるベストなこととは何なのか、というシンプルなものである。

この記事は www.aiprescience.comで最初に公開された記事にもとづいている。

(※訳註4)Microsoftが2019年5月に公開したブログ記事『テクノロジを駆使してお客様とのパーソナルなつながりを構築するスターバックス』では、スターバックスがMicrosoftのテクノロジーを導入して業務改善した経緯が解説されている。
スターバックスの店舗で使われるコーヒーマシンは、IoTを可能とするMicrosoftのクラウドサービス「Azure Sphere」が導入されたことによって、各マシンからデータを収集できるようになった。収集されるデータの種類は豆の種類、コーヒーの温度、水質などといった十数以上に及ぶ。こうしたデータがエスプレッソショットを抽出する度に収集されることによって、故障の事前予測が可能となった。
ちなみに、Azure Sphereに接続されたコーヒーマシンには、新しいレシピを送信することができる。レシピの更新は、以前は手作業で行われていた。

原文
『Starbucks Isn’t a Coffee Business — It’s a Data Tech Company』

著者
Was Rahman

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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