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2020.09.01

AI研究におけるダイバーシティの課題 ー女性活躍の課題は高校教育や就活に【人工知能学会誌コラボ】

最終更新日:

人工知能学会が刊行する学会誌『人工知能』2020年9月号が、9月1日に発刊されました。

『人工知能』は編集委員がテーマを決め、AIに関連する有識者が記事を持ち寄って掲載しているもので、2ヶ月に1回発行されます。私たちに身近な分野や話題のAI研究などが扱われていて、AIの現状の課題や最新のAI情報を得ることができる、30年以上の歴史がある学会誌です。

2017年に刊行された『人工知能』の表紙の一覧。こだわり抜かれた各号の表紙のデザインが特徴。

AINOWではこれから各号の特集内容を、研究者の方々へのインタビューを通して紹介していきます。

2020年9月号の特集は「ダイバーシティとAI研究コミュニティ」です。

第1回目となる今回の学会誌紹介インタビューは、AI分野での女性活躍の現状とこれからに関して、お茶の水女子大学の伊藤貴之氏にお話を伺いました。

伊藤 貴之氏 1992年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了,日本アイ・ビー・エム(株)東京基礎研究所研究員。1997年早稲田大学より課程外で博士(工学)。2003年京都大学COE研究員(客員助教授相当)兼職.2005年お茶の水女子大学理学部情報科学科助教授,2011年同大学教授。2011年から2017年まで同大学シミュレーション科学教育研究センター長。2019年から同大学文理融合AI・データサイエンスセンター長。情報可視化,マルチメディア,インタラクションなどの研究に従事。近年では主にソーシャルメディアや機械学習工程の可視化の研究に取り組んでいる。

AI分野での女性活躍の現状

今、機械学習などのAI技術に注目が集まり、多くの企業でその導入が検討されています。同時に、AI研究もハイスピードで進み、毎年世界を驚かせる研究が生まれ、大きな話題になっています。

2010年代後半に入ってから、画像認識の精度で人間を超えたことや、人間最強の囲碁棋士に勝利した「AlphaGo」の存在、自然言語処理(テキスト分析)における汎用的なモデル「BERT」や「GPT-3」の登場など、さまざまな技術革新が起きてきました。多くの研究者がAI研究に勤しんだ成果が現れています。

一方で、活用が進むAIの研究において、ダイバーシティの問題が顕著になっています。膨大なデータを学習し、社会を根本から変革する可能性を持つAIを研究する研究者には、さまざまなバックグラウンドの人材が集まることが求められます。もし、研究者の属性が、極端に偏ってしまった場合、構築するAIが実社会で活用できないものになってしまう可能性が生じる可能性もあります。

16年に渡り、お茶の水女子大学で教鞭をとってきた伊藤氏は現状のAI研究におけるダイバーシティ、特に女性が少ない現状についてどのように考えているのでしょうか。

ーーAIやICT分野といった情報系の分野では女性の研究者はまだ少ないと言われています。伊藤氏の考えをお聞かせください。

伊藤氏:大学では「AI分野に進みたい」など自分の興味範囲を初めから絞る学生は少ないのが現状です。

そのため、IT業界全体に薄く広く、いろんなところに女性が分散して活躍しています。そのためAI分野での女性活躍というところはまだまだ数が足りていません。そのためにはAI分野に限らず大学から供給できる人材を増やさないといけませんが、それもなかなか難しいんです。

他方、理系全体では女性は増えています。しかし、増えているのは薬学部とか農学部、歯学部など情報系とは遠い分野です。実はもともと足りない情報や機械の分野は、まだ女性が十分に増えていないんです。(※1)

(※1)大学(学部)在学者に占める女子学生の割合は平成にはいってから増加傾向で、保健や農学の分野に進学する女子も増加しています。理学や工学に在学する女子学生の割合は低いものの、近年では微増傾向にあります。

引用:文部科学省「令和元年度学校基本調査

ーー理系全体では女性が増えているのに、情報系では女性が少ない理由は何でしょうか?

伊藤氏:1つの背景には、女性が高校生の時点での職業へのビジョンがあります。全国のどこでも触れる機会の多い仕事が今女子学生には人気で、薬剤師や歯科技師など理工系とは違う理系が人気と言われています。

東京にいるとAIに限らずIT系の職業は膨大にあるように感じられますが、地方から見ると、これらの職業があまり実感できないという説もあるようです。そのために、地方の理系の女子学生は別の分野に集中する傾向があると聞いたことがあります。高校生へのPRで負けているのではないのかと思っています。

また、日本はITの普及率が主要国の中でだんとつ低いです。教育面でのIT普及の遅れも、「AIやITはよく分からないもの」というイメージを持たれやすい原因なのではないかと思います。

女性をIT業界で増やすには採用方法の変化が必要

中学生〜高校生への教育過程で、AIやITに触れる機会や、実社会での活用例などを知っていただき、AIなどの情報系の分野に興味を持ってもらう学生を増やしていくことが急務になっています。

一方で、現時点で中学生や高校生に対する教育を変革しても、直近でAI分野のダイバーシティを担保することが難しいでしょう。

これからは、長期的な教育改革にも取り組みながら、短期的な施策も行っていくことが重要です。

ーー他に直近で取り組むことができる解決策はあるのでしょうか。

伊藤氏:現在も加速していると思いますが、ジョブ型マッチングや逆求人などの旧来型の一括採用ではない採用手法を増やす必要があります。AI分野に定めている人など、目的を持って就活している学生を見つけ、正しい仕事とマッチングを行っていくことが必要です。

情報系以外の学科の学生にどのようにアプローチするかという問題があると思います。私の大学でも、「DXを実践する」という題材で開講している科目があり、内容はIT産業の話ですが文系の学生も多く受講しています。

プログラムが書けなくても、AIなどのITの知識をそれなりに勉強している3年生は多いです。AIエンジンを作ることは難しいかもしれませんが、例えばいわゆる機械学習のチューンアップをするとかデータを揃えるなど、文系出身の人にでも多角的にAIに関わることが可能です。しかし、そんな人材の発掘は十分ではなく、大学における教育も改善の余地があると思います。

ただ一方で、これは企業にとっては負荷の高い話です。今大学3年生のインターンシップは競争性が激しく、AIが専門の学生を採用したい企業は、情報系の学生の中でも優秀者から採用する場合が多いと聞いています。情報系の授業を受けてないけれどプログラミングができたりAIに詳しい学生を発掘するのは企業にとっては負荷が高く、それなりに工夫が必要になってくると思います。

幅広い分野に興味を持つ女性こそAIなどのIT分野で活躍する可能性がある

女性にデータサイエンスが人気な理由

ーーIT分野全体を通して男女比率は依然として男性が多いと思います。どのようにお考えですか。

伊藤氏:そうですね、たしかに男性の比率はまだ高いです。企業の研究職でも女性は1割なんてことも珍しくありません。しかし、最近ですといろんな大学でデータサイエンス系の学科も増えてきてて、実は従来の情報系学科と比べて女性の比率が高いんです。

あるアメリカの調査(※2)の内容が大変興味深いです。IT系の学部に所属している学生は女子の方がどちらかといえば、お客さんに近いサービスやアプリケーションに興味を持ち、男子は性能を競うなどの競争に興味を持つ傾向があると言われています。

データサイエンスは実際のビジネスやサービスが見えやすいということからも女性の割合が多い理由と言えるかもしれません。

知識を学ぶことだけでなく、AIが実際に世界に対してどういう影響を与えるのか知ってもらう機会を増やしていくことがAI分野に興味を持つ助成を増やす上で重要です。

(※2)WOMEN IN DATA SCIENCE: THE CURRENT GENDER DIVERSITY OUTLOOKによると、現状でデータサイエンス業界で働く女性は30%程度であり、IT業界全体に比べると女性比率は高くなっています。また、WOMEN IN TECH: THE FACTSの調査のなかでは、IT業界での職種の男女差が大きいことが示されています。

『WOMEN IN TECH: THE FACTS 』(2016)の14ページ

男性はエンジニアやシステム管理者などの技術色の強い職種の人が多いのに対して、女性はプロジェクトマネージャーやビジネス分析者などの現場色の強い職種の人が多いことがわかります。

フィールドに近い問題を扱うことが得意な女性

ーー伊藤氏はお茶の水女子大学に16年勤務していらっしゃるということですが、多くの学生と接する中で彼女たちの素質や可能性はどういうところにあると思いますか。

伊藤氏:まず感じるのは、興味や能力の幅が広い学生が多いことです。

特にお茶の水女子大学の学生は、高校生のときから情報分野一筋で、やりたいことを絞っていた学生は少なく、他の分野も一生懸命勉強していた学生が多いです。

だからこそ、単にITに強いだけでなく、他の専門領域とIT技術をかけ合わせていく分野に強いと思います。研究においても2つのドメインにまたがるような領域に興味を持つ女子学生は多いです。

AIでも単純に正解率や速度、スケールを競うだけでなく、アプリケーションの広がりを競うとか、バイアスをなくすというような、よりフィールドに近い問題設定で研究ができる人も増やしたいと考えています。

バイアスはマイノリティ側からしか気づけないことも

ーーAIを研究する上で、男女比の問題に限らず、さまざまな視点を取り入れる必要があります。男性の研究者が多いという現状を見ると、構築するAIには公平性や中立性が欠けてしまうこともあるのではないかと思います。いかがお考えでしょうか。

伊藤氏:男性が好むようなアニメーションキャラクターを好まない女性もいるということに指摘するまで気づかないという男性エンジニアもいます。また、機械学習のそのものの動作にバイアスが生じていることもマイノリティ側からしかわからないということもあります。

女性がエンジニアリングや研究のところに深く携わっていかなくては社会の問題は消えないのではないかとAI分野ではより強く思いますね。

女性研究者を雇用する企業側の動きも活発に

ーー女子学生が研究者となるための就職支援にはどういったものがあるのでしょう。

伊藤氏:ITを使って具体的に何をやりたいのか決められない女子学生や、男子学生ばかりのインターンに行く勇気がないという女子学生も中にはいます。そういうところに女子大学でIT業界に関係ある説明会や体験イベントを組んでくれる企業が中にはいます。

そんな方々のおかげで順調にIT分野、AI人材に進んでいく学生が増えてきていることに非常に感謝しております。

人工知能学会誌学会誌『人工知能』9月号

9/1に刊行された人工知能学会誌学会誌『人工知能』9月号の特集テーマの一つは、「ダイバーシティとAI研究コミュニティ」です。

ダイバーシティをめぐる「見えない問題」の存在は、日本の研究コミュニティがグローバルで確固たる地位を獲得するためには避けて通れない問題として取り上げられています。

あらゆる属性の人たちが活躍できる社会やコミュニティ作りを広く伝えるための特集となっています。

また、9月号にはこの特集の他に、「COVID-19への対応を支える人工知能技術」「2019年度研究会優秀賞受賞論文紹介」の特集なども掲載されています。

人工知能学会の個人会員であればこちらから無料で閲覧可能です。(非会員でも一部無料で閲覧できます。)

ーー今回発刊された9月号の学会誌でもダイバーシティについて幅広く解説されています。どのような内容になっていますか?

伊藤氏:今回はテーマがダイバーシティということで、このインタビューでも話したような女性活躍や職業選択について書かせていただきました。

高校でITを目指す女子高生が増えない問題や、大学に入ってからどんなことに興味を持ち、どんな学生がAIなどのIT分野を選ぶのかなどを調査した結果について書いています。

特に今回僕が調査していて面白いと感じたのは、就職活動をしているときと入社するときの気持ちの変化についてです。とりわけ女性は、出産や子育てで一旦職を離れるということがあります。復帰のフォローアップの重要性や、一方で成長スピードの早いIT業界に仕事復帰後もついていくことの難しさについても考察しています。

ぜひご覧ください。

編集委員長の清田氏からも今回の9月号に込めた思いをコメントしていただきました。

清田氏:今回の特集「ダイバーシティとAI研究コミュニティ」の企画は、編集委員会内での雑談をきっかけに生まれました。

委員会内でも、育児や介護に関わっている方は多く、中にはこれまでのような研究活動が難しくなったとおっしゃる方も少なくありません。ひとたび育児や介護に忙殺される状況になると、「周りから取り残されている」「自分たちの苦しみが理解されていない」という感覚になってしまったりもします。実は、こうした感覚はマイノリティがふだん直面しているものと本質的には同じものです。

ダイバーシティの問題は、「自分とは関係ない」ものではなく、実際には自分事そのものだと考える必要があると思います。AIの研究や開発に携わっている方々にとっても、ダイバーシティの問題に向き合い、議論することは、心強い仲間を増やし、皆さんの成果が社会に受け入れられる可能性を増やすとともに、自分自身が将来マイノリティの立場におかれたときに、自分自身を助けることにもつながるはずです。

9月号では、「COVID-19への対応を支える人工知能技術」という特集も掲載されています。AI研究が、コロナ禍への対応にも大きな役割を果たしうることがわかる内容です。

ぜひご覧いただき、これからのAI研究や開発に生かしていただきたいと思います。

おわりに

近年、さまざまな企業や団体でダイバーシティを推進する動きは活発化していますが、AIなどIT分野では女性活躍が十分に進んでいるとは言えないのが現状です。高等教育や就職活動時にどのようにアプローチし、促進していくかがこれからの課題となりそうです。

学会誌『人工知能』9月号の特集では、こうしたAI研究における男女の問題だけでなく、ダイバーシティをめぐる日本の研究コミュニティの課題やLGBTを取り巻く問題などさまざまな視点の寄稿が掲載されています。ぜひ手に取ってお読みください。

▼過去の学会誌はこちら

▼人工知能学会に関して詳しくはこちら

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