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2020.09.08

AIのブームは終焉へ。でもAIの発展は終わらない。

最終更新日:

2020年、今まで大きな注目を集めていたAIのブームが終焉を迎え始めています。同時に、企業全体のデジタル変革がDX(デジタルトランスフォーメーション)として注目を浴びています。

これからの事業運営では、AIだけに固執するのではなく、総合的にICT技術を活用し、社内の業務や事業をアップデートしていく必要があります。

また、ビジネスではAIのブームが終わりながらも、AIの各要素技術の可能性は広がり続けます。

この記事では、AIブームの終焉について述べながら、これからAIの各要素技術がどのように発展していくかについて考察していきます。

バズワードとなったAIへの期待

AIが大きく注目を集めるきっかけとなった裏には、AIの要素技術とも言えるディープラーニング技術の精度向上があります。2010年代初頭にディープラーニング技術によって画像認識の技術が大きく発展しました。

データから特徴を自律的に学習し、認識力を向上させるディープラーニングのモデルは、特に自動運転分野、小売や製造などの分野で活用が進んでいます。

AIを売ることの難しさ

まず、ディープラーニングを活用する上で、大きな前提があります。それは、整備されたデータが揃い、明確な課題があり、それをディープラーニングのモデルで解決できることです。

まず、課題の選定に大きな壁が存在します。ディープラーニングでは、データを整備し、膨大な計算リソースを投下して学習を行います。たた、従来のような開発と異なり、開発を終えた後も精度の調整が必要なディープラーニングは、100%の精度が保証されません。課題をしっかり把握した上で、どのようにビジネス的な価値を生み出していくのかを考えることが重要です。

ディープラーニング関連で大きく企業価値を伸ばしている受託企業は、クライアントの課題を高解像度で抽出し、その課題を的確に解決できるプロダクトを納品し、納品後も精度を維持していくことが求められます。

データの整備や計算リソース、注目の高まりによって高騰する人件費などを考慮した上で、十分な投資対効果を生み出すことができる課題には限りがあります。また、ディープラーニングの活用においてはクライアントの課題を細かく把握し、解決するビジネス的な視点が求められます。

上記の理由から、ディープラーニングの技術は部分的な活用に留まるケースも多く、ディープラーニングを売る難しさが垣間見えます。

株式会社アラヤの代表取締役CEOで、神経科学者の金井良太氏にAIブームの現状について伺いました。

金井氏:何でも解けるAIはありません。クライアントごとにデータを取得する作業が毎回発生します。それを減らすために、プロダクトとしてAIが提供されることも増えています。しかし、実際には個別性はなくならず、AIを売るというより、毎回丁寧にAIを作る作業が発生します。

個別開発ではないタイプのAIのプロダクトはあります。それはレイヤーが1つ低いフレームワークなど汎用的にみんなが使うものです。

エンジニアは楽しくやってくれる場合もありますが、会社のスケーラビリティの観点でいうと、人月仕事になってしまいます。

AIのスタートアップは資金調達はしやすい状況ではありましたが、PFN(Preferred Networks)などの企業価値が上がってしまい、機関投資家の目線で考えれば、ちゃんとSaaSとして成り立っていないと初期のバリエーションが高く、その後の企業価値の向上が難しい現状があります。

AIは、10倍などのレベル感の成長が期待されている分野なので、AIでスケールするビジネスモデルが実現されておらず、高すぎる期待がそのうち止まって、そんなに投資するべきじゃないんじゃないかと逆流してくると考えています。

AIブームについては、技術的な観点とビジネス的な観点が混ざっている印象です。AI人材が足りないという文脈でも、企業の人がAIをやりたい場合にAIの研究の実績がある人を雇ってもあまり意味がありません。必ずしも一流の研究者を連れてきたらいいということではないんです。

ディープラーニングの限界が見えた

アメリカの大手航空会社サウスウエスト航空のビジネスコンサルタントを務め、SQLやRxJavaに関する入門書をオライリーから出版しているThomas Nield氏は、以下の記事にて、第3次AIブームとも祝えるディープラーニングの流行に関して警鐘を鳴らしています。

AIにはかつて、2回の大きなブームを迎えています。しかし、そのどちらのブームも同じ理由で終焉し、冬の時代を迎えています。それは「AIに対する過度な期待とその期待に便乗したAIの誇張」です。

現状のAIは、人間のような汎用人工知能と対比して特化型人工知能とも呼ばれ、処理できるタスクが限定的です。展示会や各AI関連企業の売り文句では、現状のAIで実現可能なことを実態に比べて大きく見せることでお期待を煽っていますが、かつてのAIブームはその期待に応じられず、収束してきました。

現在のAIブームに煽動と誇張を感じる同氏は、ディープラーニングの流行は2019年から2020年にかけて収束すると主張しています。

その論点は大きく分けて以下です。

  • ディープラーニングの進化を加速させる学習データが不足していること
  • ディープラーニングでも解決困難な問題は依然と残り、解決が難しい

その上で、ディープラーニングの活用を正しく進めて行くには、ディープラーニングをはじめとしたAI技術を過信せず、個々の問題に合わせて適材適所で技術の活用を進めていくことが求められます。

特に画像認識の領域で大きく成果をあげてきたディープラーニングの技術は、なにかの物を見て、単純な判断を行う職種で活用が拡大している傾向があります。製造業における異常検知、小売業界ではレジ打ち業務の代替、交通機関では運転士の代替など、人間のかんたんな視覚的認知は伴いながらも、ある程度決まったタスクで構成される職種においては、AIの活用が大きく進んでいると言えるでしょう。

一方で、弁護士や営業、広報や経営企画などの職種は、その業務の多くは文章を処理してなにかを生み出すことが中心となっています。弁護士や営業、広報の業務を支援するAI分析ツールなどの活用は大きく進んでいますが、AIを活用した産業構造の変革はまだ起きていないと言えるでしょう。

言い換えるのであれば、現状のディープラーニング技術は、画像認識に特に特化し、それ以外の音声認識やテキスト分析などでは、実用に至りきっていないと言えます。

その上で、これからのAI技術をビジネスで活用を進める上で、以下の点が重要になるでしょう。

  1. 既存の業務フローをRPAやSaaSなどのソフトウェアで徐々に代替していく
  2. 各ツールを連携した上で、データをAIが学習できる形で正しく蓄積する
  3. 機械学習などのアプローチでリアルタイムに分析できる基盤を整える
  4. ディープラーニングAI技術や周辺のロボティクス技術やソフトウェア技術と組み合わせて業務を代替する

特に④が目先に来ている企業は、AIを活用する目的と、実在する課題が一致しておらず、その場限りのAI活用になってしまうことも多い傾向です。

かつてのAIブームが過度な期待とその期待に便乗した誇張が理由で衰退した理由は、まさに④ばかりを見て、予算を拠出し、喜んでいる企業の存在によるものといえるでしょう。

合わせて、過去のブームの終焉から学び、各種メディア、政府、AI開発企業も、それを理解して発信し、真に身のあるAI活用に繋げていく必要があります。

ーーこれからはAIの汎用性きちんと見極めた上で特化させた使い方を推進していく必要がありますね。

金井氏:汎用性という意味では、AIのサービスをSaaSで提供したいというのは、スタートアップとしての目指すところです。

AIではないtoBモデルで成功しているSaaSスタートアップが多く、そのイメージで、将来的な企業価値が見えやすくするためにSaaS的なサービスの提供が求められています。

しかし、それがなかなか難しい現状です。汎用性という意味で、そのままデータを渡したら使えるAIサービスを作るのは難しいんです。また、伝統的な業界はSaaSを商習慣として、なかなか受け入れてくれません。

機能としては特定の目的に特化しているけれど、それが違う場面でもいきなり使えるということが重要です。AI自体が使われていないのではなく、むしろあらゆるところで使える場面と、使えない場面の精査が行われていて、ある程度の結論を各企業が出しているようにも見えます。

AIブームが終わるといっても、AIの活用自体がなくなるわけではありません。むしろ、普通のものとして、よりAI技術についての知識などは必要になっていくと考えます。ただ、AIがちやほやされる時代は終わります。

AIを売りにしている企業(我々アラヤも含めて)は、今後しっかりと顧客にとって価値のあるサービスやプロダクトを提供していかないといけません。

この部分について、純粋にAIの研究に興味のある人は、十分に興味がもてないかもしれません。しかし、そこは粛々とやっていくべきです。

終わらないAI研究

1957年にはじめて生まれた言葉「AI」は、その歴史が実に60年以上にも及びます。その過程で多くの研究者がAIの研究開発に勤しみ、現在のディープラーニング技術の礎を築いて来ました。

過去2回のブームの終焉をしても、AI研究は留まらず、いまに至るまで本当に多くの研究者がAI分野の研究開発に取り組んできました。

▼関連記事:AIの歴史に名を残したAI研究者24人を紹介しています。

いままでもAI研究が続いてきたように、研究者の人間のような知能を実現したいという欲望は底をつきず、これからもAI研究は進んでいくでしょう。

これからも発展が続くAI分野

主に以下のような分野でこれからも大きくAI研究が進んでいくと予想されます。

  • 深層強化学習
    人間最強の囲碁棋士に勝利したAlphaGoでも活用されていたことで著名な技術です。一般的な強化学習では、一つひとつの行動に報酬が与えられ、その報酬が最大化するような行動を、幾千のシミュレーションを通してAIが学習し、今までにない行動パターンを生み出すことが可能です。その強化学習が試行錯誤を繰り返す過程で、ディープラーニング(深層学習)の知見を取り入れたものが深層強化学習です。深層強化学習は、まさに人間のように少ないデータからも試行錯誤を繰り返し、限られた環境下で最大限の価値を発揮するタスクに向いており、現在のAI技術をさらに発展させると期待できます。
  • 自然言語処理
    前章で述べたように、現在の多くのビジネスはテキストを介して行われています。現在の自然言語処理技術は、データの偏りや、データへの意味づけの難しさ、文化による言葉の定義の違いなど多くの課題を背景にその進展が画像認識の分野に比べて遅れています。2020年にはアメリカの非営利団体OpenAIによる「GPT-3」という自然言語処理のモデルが、その精度で大きく注目を集めました。「GPT-3」は1750億ものパラメータを有し、文章の生成までを可能にした、AI史上最大の自然言語処理の革新ともいえるでしょう。一方で、膨大なデータを学習することで、人間の差別的な表現を学習してしまったり、人間にとっては簡単な文章でも、その概念を理解せず、正当だとして表現してしまうなど未だに課題は山積しています。人間が言葉を覚えてから学校教育の過程で文法を学んでいくように、これからの自然言語処理分野では、膨大なデータから学習するだけでなく、独自にルールを有し、社会で適用されるような技術発展が求められています。
  • HAI(心理学や神経科学、認知科学などの分野の知見の融合)
    AIの社会実装を考える上で重要になるのがこのHAIの技術です。現在のAIはAI技術そのものの研究開発ばかりが進んでおり、AI(が内蔵された)エージェントと人間との関係性に関する研究開発が積極的に行われているとは言えません。HAIでは、人間とエージェントを含めたネットワーク全体を研究対象として、どのようにすれば人間とエージェントが良好な関係性を築けるのか、AIの技術だけでなく、人間の内的アプローチ(心理学や神経科学、認知科学など)も通して複合的な研究開発を行います。特にAIが搭載されたロボットの社会実装が求められるこれからの未来、人間とAIがどのように共存できるのかを考えていく上で、HAIは不可欠な研究分野ともいえるでしょう。
  • エッジAI
    現状のAIの活用を進める上で、「省力化」が大きなカギになります。現在のAI技術の発展の裏には、計算リソースが大幅に進化したことが挙げられます。しかし、依然とディープラーニングをはじめとしたAI技術の計算には、大きな計算リソースが必要になります。これから社会のさまざまな箇所でAIを活用するのであれば、より小型で、電力を必要とせず、安価なデバイスでAIを運用していくことが求められます。エッジAI領域を中心に事業拡大を行うベンチャー企業も多く、これからのエッジAIの発展は、AIの発展において大きな鍵となっていくでしょう。
  • ディープラーニング自体の進化
    前述の深層強化学習やエッジAIに代表されるように、現状のディープラーニング技術の課題である、必要な学習データ数や計算コストなどの問題解決が必要となります。現在、ディープラーニング領域では、事前に大規模な学習を終えたモデルを、各分野でチューニングして使う転移学習など少ないデータでも精度を出していく研究開発が盛んに行われています。深層強化学習やエッジAI、データの少数化などと合わせてディープラーニング自体の技術革新が進んでいくことで、これからのAI活用の可能性を大きく広げてくれることが期待されます。
  • 汎用人工知能
    多くのAI研究者が目指しているのが、人間同様に汎用的にさまざまなタスクに対応することができる汎用人工知能です。現在は、脳型アーキテクチャという、人間の脳の神経回路を電子回路上で再現し、人間同等の仕組みづくりを目指す動きが盛んです。またその他にも、幾多の特化型人工知能を搭載したネットワークが、状況に合わせて必要なAIを選択して活用するシンギュラリティネットなどの技術開発も行われています。汎用人工知能はまだその実現が見えてきているわけではありません。一方で、汎用人工知能を目指すアプローチの中で、ディープラーニングなどを始めとした技術が枝分かれ的に発展する可能性もあります。長期的な視点が求められますが、汎用人工知能を目指す研究開発は、これからのAI発展にとって不可欠だといえるでしょう。

ーーこれからのAI研究はどうなっていくと考えていますか?

金井氏:また、今の研究ではディープラーニングは当たり前になっており、これからさらに発展していくと考えています。

特に、動くものにAIがもっと搭載されるようになっていくと考えています。重機や機械の自動化などが進んでいき、深層強化学習などは、4〜5年前のディープラーニングみたいにこれから盛り上がっていくと考えています。

汎用人工知能の領域では、メタラーニングの領域で新しいものが出てくるのではないかと考えています。汎用人工知能は新しい問題を早く解けるかどうかで定義することができますが、それは転移学習やメタラーニングの研究で実現するかもしれません。

また、ディープラーニングの枠から抜けた学習方法を考えている人も多いです。ニューロ・モーフィックなど、チップでの計算を考えている人もいます。Alife系の考えもあります。

ニューロ・モーフィック(脳型コンピュータ):脳の神経細胞であるニューロンを模した電子回路によって構成されるコンピュータ

ーーこれからのAI研究者はどのように振る舞っていけばよいのでしょうか。

金井氏:AIの研究者は、AIブームがどうこうなんて気にせずに、突き進んで欲しいと考えています。

今後、AIブームが終わったという言い方が、いたる場面ででてくるかもしれません。

しかし、それはAIの素晴らしい研究が止まったわけではありません。むしろ、最近のブームの勢いで、面白いものがたくさん出てきています。

ブームというのは社会的な現象で、個人はいろいろな巻き込まれ方をしてしまい完全に無関心でいるのは難しいですが、AIは非常に興味深い研究分野で、これからも面白いものがたくさん出てきます。研究がさらに続いて欲しいと考えています。

これから注目する分野は研究としては、汎用人工知能が特に可能性があると思います。ただ、それなりに時間はかかります。みんなそれぞれ、自分が魅力を感じるところを突き進むべきです。

今後、AIは見えないところで浸透しき、開発者もそれぞれの企業の中にある程度いる状態になります。そうなると、研究開発プラットフォームを制するのが良さそうですが、そこが一番強い企業が既にいる状態です。そこを突破することも課題かと考えています。

さいごに

AIへの過度な期待は収束し、着実に活用が進んでいきます。それと同時に、世界の多くの研究者がAIの発展を志し、研究に取り組んでいます。

「AIブームの終焉」は決してネガティブな側面ばかりではありません。

実態に伴った活用が進みながらも、今後もさらにAIの研究が発展していくように、AINOWも発信を続けてまいります。

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