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2020.10.20

事業に結びつく研究が少ない – 東大とソフトバンクが組むBeyond AI 研究推進機構が目指すAI研究の事業化

国立大学法人東京大学、ソフトバンク株式会社、ソフトバンクグループ株式会社、ヤフー株式会社は、世界最高レベルのAI(人工知能)研究機関を目指す『Beyond AI 研究推進機構』を設立して、2020年7月から共同研究を開始しています。

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今回は、ソフトバンク株式会社の松田氏と國枝氏に、Beyond AI 研究推進機構を通してどのようにAI研究を盛り上げていくのかについて伺いました。

(右)松田 慎一: ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット 技術戦略統括 AI戦略室 室長 早稲田大学大学院 理工学研究科 情報科学専攻修了。 2013年ソフトバンク入社後はAI技術を用いたソリューション開発に従事し、IoT&AI技術本部副本部長を経て2020年4月から現職。東京大学とソフトバンクの産学連携事業であるBeyond AI 研究推進機構を推進。  (左)國枝 良: ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット 技術戦略統括 AI戦略室 企画室 室長 1975年生まれ。電力系通信会社を経て、ソフトバンクに入社。通信機能搭載のデジタルフォトフレーム『フォトビジョン(PhotoVision)』の企画を担当。その後、法人向けケータイカスタマイズサービス『Bizフェイス』や個人宅の屋根を借り受け実施する太陽光発電事業『おうち発電プロジェクト』など、個人法人問わず、数多くの新規サービス・事業立ち上げのプロジェクトリーダーとして携わる。夢は、次世代のソフトバンク作りに貢献すること。

東大の“学術”とソフトバンクの“事業化力”を融合するBeyond AI 研究推進機構

ーー「Beyond AI 研究推進機構」の概要を詳しく教えてください。

松田氏:Beyond AI 研究推進機構では、東京大学とソフトバンクがAI特化の研究を実施します。

今回は研究に留まるだけではなく、研究成果の事業化を念頭に置いています。

事業化できた際には、双方でリターンを共有して、持続的に研究しながら成長していくという取り組みです。

この取り組みでは「日本のAI研究やAIビジネスの発展に貢献し、AI革命を進めていく」という一つの大きなミッションを掲げています。

「Beyond AI 研究推進機構」は、東京大学の世界最高レベルの学術と、ソフトバンクの強みである事業化力を融合して、日本のAI研究を進めるとともに、研究の初期段階から社会実装を視野に入れ、課題解決に貢献することを目的として設立されました。

また、「Beyond AI 研究推進機構」は、東京大学や海外の有名大学の研究者によるAI発展の研究を行う“中長期研究”と、研究成果を基に、社会実装・事業化を目指す“ハイサイクル研究”の2つの方針で研究を進めていきます。

そして、事業化で得たリターンをその後の研究活動やAI人材育成の費用に充て、エコシステムの構築を目指しています。

引用:https://beyondai.jp/

ーー日本のAI研究の課題はなんでしょうか?

松田氏:世界の中で日本のAI研究は、事業に結びついているものが少ないのではないかと思います。

研究予算においても、グローバルで比較すると日本は十分ではないという状況があります。

そのような課題を解決するために孫(孫正義氏)と五神総長(東大総長)が協力することになりました。

研究費用をソフトバンクが拠出して、研究成果を事業に結びつけることにより、リターンを出し、それをまた研究に還元するという仕組みを作りました。

さらに、事業化で生まれたリターンをさらなる研究開発や、AI人材の育成などに充てて、AIの研究者や人材を拡充することで、グローバルトップを目指していきます。

ーーこの研究機関は、いつ頃から構想を練られていたんですか?

國枝氏:2018年9月ごろからですね。

孫と五神総長は以前から繋がりがありました。

2人の間の「AIをもっと日本に広めていくために何ができるのか」という話から「Beyond AI 研究推進機構」の構想が始まっています。

日本の大学、特に国立大学は国の税金で研究をするため、海外の研究機関のように、潤沢な研究資金を確保していくことが難しく、研究活動にも影響が出てしまう状況があります。

研究資金に加え、AIの研究成果を事業につなげて社会に活かすための環境も足りていません。

そこで、東京大学とソフトバンクが組むことにより、研究成果を事業化するための環境を整え、AIを社会に活かす研究ができるのではないかと考えました。

またソフトバンクは、孫を中心にAI群戦略を進めていますので、AIの知見や最新の研究を常に必要としていました。

そのため、国内最高峰の東京大学と連携することで、AIの取り組みを加速できると考えました。

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研究室の学生も参加し、次世代のAI人材の育成も担う

ーーこの研究には、研究室の学生も参加するのですか。

國枝氏:この研究機関は、東京大学とソフトバンクの双方において、今後のAI業界を生きる技術者の人材育成にも貢献したいと考えています。

そのために、東京大学側とソフトバンク側それぞれに、事業化する私たちだけではなく、学生のためにも拠点を構えて、充実した環境を提供したいです。

従来の制度では、大学の研究機関は事業に直接出資することができなかったため、研究成果の事業化によって得られるリターンは限定的でした。

Beyond AI 研究推進機構は、経済産業省が策定したCIP制度を活用することで、大学側も事業への貢献度に応じたリターンを得ることが可能になります。

また、Beyond AI 研究推進機構は、研究成果の事業化により生まれるリターンを東京大学とソフトバンクの双方に還元し、さらなる研究・人材育成に充てることで、高度な研究とその後の事業化AI人材の育成を目指しています。

2軸からなる研究システム – 事業化を考え研究テーマを選定

ーー発表された中長期研究の10個のテーマはどのようにして選定されたのですか。

松田氏:中長期研究のテーマは、東京大学側でまず選考を行った上で、選定されました。

「中長期研究」は、基礎研究とも言うことができますが、難易度が高く、非常に時間のかかる研究です。

しかし、成功した時に大きな社会的インパクトをもたらすことができます。

研究成果が社会に与えるインパクトは、ソフトバンクも一緒に分析しますが、学術的な研究の意義の評価という点では、まず東京大学側で、適切な選考プロセスを経て、選ばれています。

引用:https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2020/20200806_01/

ーーハイサイクル研究はどのようにテーマを選定されるのですか。

國枝氏:これは、ソフトバンク側である程度基準を決めて選考していきます。

我々の事業課題の多くは、社会課題とも呼べるような大きなテーマです。このテーマにご協力いただける研究者と相談しながら、ハイサイクル研究のテーマを決めていきます。

事業化を推進するハイサイクル研究は、大命題として、リターンを生むことが必要です。

一方で、「ハイサイクル」ですから、早く結果を出す必要もあります。研究として興味深いという基準だけで選ぶわけにもいかないため、ここがなかなか難しいところですね。

ハイサイクル研究では、多数の研究テーマの中から、我々の部署でフィージビリティスタディ(実行可能性調査)を行った上でいくつかのテーマに絞り込み、最終的には、東京大学と会議をして研究をするか否かの判断をします。

通常の共同研究なら、ここの段階で終わってしまいます。

しかし、Beyond AI 研究推進機構には事業化するために必要なチームがあります。

この中にはデータ分析のチームもあるため、そのような面でもサポートすることができます。

研究成果の社会実装を目指す研究

ーー事業化推進チームが設置されていますよね。事業化推進チームは具体的にどのようなチームなのですか。

松田氏:従来の大学の研究機関のように、論文を発表しただけでは事業まで繋げられません。

私たちは、それをソリューション化して確実に事業につなげるために、開発体制をしっかりと敷いています。

事業化推進チームは、現時点ではソフトバンクで構成されています。7割、8割はAIエンジニアで、東京大学と連携してソリューション開発を行います。

その他、事業化を推進する事業開発メンバーや、研究所を運営するスタッフを含め、現在は約50人でチームが構成されています。

事業化推進チームは、東京大学で行われる研究と協調しながら、コアであるAI開発を一緒に行っていきます。

共同研究者という立ち位置でやることもあれば、東京大学側で得られた研究成果をソフトバンク側で実装する、という役割分担もあるかもしれません。

國枝氏:Beyond AI 研究推進機構の強みは、事業化推進チームがいる点だと考えています。

私のような企画メンバーだけ揃えていても、絵は描けますが、具体化はできません。

開発部隊を揃えることで、バランスの良いチームになっています。

Beyond AI 研究推進機構は“事業化”ということに旗を立ててやっていますが、これは“学術”と、“事業化力”によって支えられています。

これがないと、紙で終わっちゃいますから。

事業化の実現に向けた目標設定

ーーKPI/KGIなども設定されていますが、どのように事業化を見据えて設定しているのですか。

國枝氏:KPI、KGIは各ポイントで設定しています。

例えば、10年間で10件の事業化や、10年間で3件の新学術分野創出などを目標に置いています。

それを達成するために、細かなKPIをいくつか設けています。

事業化に必要なものや、新規事業領域を立ち上げるために必要なことなど事細かな項目が存在しますが、その中でも、Beyond AI 研究推進機構全体のKGIの達成に何かしらの形で紐づくようなKPIを設定することにこだわっています。

ーー研究者とKPIなど目標をすり合わせていく上で大変だったことはありましたか?

國枝氏:各研究の中だけで、KPI・KGIが設定されていても、それがBeyond AI 研究推進機構が設定するKPI・KGIと連携していなければ、成果が出なくなってしまうので、そこの紐付けには注意していますね。

それに併せて、研究者の方々に研究テーマを理解してもらうことに注力しました。

我々は、事業に対する思いはもちろんありますが、CIP制度を使ってソフトバンクだけではなく、大学にもリターンを還元することを大切にしています。

事業化に関する研究テーマも、研究者の方々に共感・理解していただき、全体のKGIに貢献してもらえるよう工夫しています。

松田氏:Beyond AI 研究推進機構には、ソフトバンクグループ株式会社やヤフー株式会社も協力しており、それぞれ本業となる分野が異なります。そのため、共通のメリットの創出にこだわりました。

具体的にいうと、ソフトバンクグループ全体の色々な事業ドメインとうまくシナジーを出せるような仕組みを作ったということです。

各グループ会社の事業ドメインにおける課題の解決につながるような研究テーマを持ち込める体制にしています。

國枝氏:これまでも産学連携の取り組みはありましたが、会社としてここまで包括的に取り組むのは、今回が初めてです。

さまざまな苦労もありましたが、規模が大きい分、しっかりと成果を出したいと考えています。

情報を発信して研究を拡大させる

ーーこれから研究を始めるにあたり、どのように機関を展開させていきたいですか。

松田氏:Beyond AI 研究推進機構は研究機構ですので、情報発信していきながら仲間を作っていきたいです。

もし、一緒に共同研究をやりたいという企業や大学がいれば、さまざまなパートナーシップを組み、研究の発展と事業化の取り組みをどんどん広げたいと思っています。

ーー新しい企業を巻き込んで機関を拡大する可能性もあるということですか。

國枝氏:あり得ますね。

我々と東京大学だけでできることもあるかもしれないですが、限りがあります。

例えば、ある事業領域において特定の技術との組み合わせが面白いと思った場合、その技術を持っている企業をお誘いすることは往々にしてあると思っています。

東京大学の研究者がメインになりますが、それ以外の研究機関でも、Beyond AI 研究推進機構に参画してほしい研究者がいる場合は、依頼する可能性も十分あります。

さまざまな企業や研究者に協力していただき、研究の輪を拡げられたらと思います。

さいごに

AI(人工知能)やデータサイエンスを研究する学部・学科が設立されていますが、企業とコラボして事業化する例はあまり見られません。

ソフトバンクと東京大学は、Beyond AI 研究推進機構を立ち上げ、CIP制度を活用しながら研究成果のスムーズな事業化に向けた取り組みを開始しました。

Beyond AI 研究推進機構は、事業化で得たリターンを次の研究や人材育成に充てるという“エコシステムの構築”も目指しています。

組織拡大も視野に入れているため、他の学術機関や事業会社の参画により、研究の発展が期待できます。

これにより、参画した組織の大きな成長につながることでしょう。

中長期研究の成果を基にした事業化が楽しみです。また、これから発表されるハイサイクル研究のテーマ発表にも注目が集まります。

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