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2021.04.27

AI業界のフロントランナーになったピザチェーン「ドミノ・ピザ」

最終更新日:

著者のJacob Bergdahl氏はスウェーデン在住のフルスタックエンジニアとしてさまざまなソリューションを手がけると同時に、ライターとしてビジネス分野の記事と書籍を執筆しています(詳しくは同氏の個人サイトを参照)。同氏がMediumに投稿した記事『AI業界のフロントランナーになったピザチェーン「ドミノ・ピザ」』では、4種類のAI戦略とその戦略を適切に実行した事例としてドミノ・ピザが解説されています。
同氏によると、あらゆるAI戦略は以下のような4種類に分類でき、企業はこうしたAI戦略を業務に適切に適用した場合に競争力を高められます。
  1. 業務を自動化して効率化する効率化戦略
  2. 業務をシームレス化してコミュニケーションを簡単にする有効化戦略
  3. AIが意思決定をサポートするエキスパート戦略
  4. AIと人間が協働してクリエイティブな業務を遂行するイノベーション戦略

ドミノ・ピザは、以上のAI戦略を以下のような業務に対して実行したことにより、競争力を高めることに成功したのでした。

  • 配達業務に自動運転車を導入して、ピザの宅配を自動化した(効率化戦略)
  • 注文の手段としてAIチャットボットを導入して、注文の受付を簡単にした(有効化戦略)
  • 調理したピザの品質をチェックするAIカメラを導入して、ピザの品質を向上させた(エキスパート戦略)

ドミノ・ピザの事例に見られるように、AIの実装によって企業の競争力を強化するためには、業務の特徴を分析したうえで業務の改善に寄与するAI戦略を採用して実行するべき、とBergdahl氏は説いています。

ちなみに、Bergdahl氏は世界各地の100のAI導入事例を集めた著作『This Is Real AI: 100 Real-World Implementations of Artificial Intelligence』を執筆しており、日本のAmazonから購入できます(ただし英語版のみ)。同氏によると、日本でも少数ながら売れている、とのことです。

なお、以下の記事本文はJacob Bergdahl氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならび組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。

この記事に掲載されているイラストはすべてブログ作者によるものです。

ドミノ・ピザはいくつかのAI戦略を採用している

人工知能(AI)と聞いて真っ先に思い浮かぶ企業は何だろうか。DeepMind?OpenAI?ボストン・ダイナミクス?まあ、思い浮かぶ企業が何であれ、それがドミノ・ピザではない可能性が高いだろう。しかし、この国際的なピザチェーンは、AIに関する魅力的なケーススタディなのだ。

ドミノ・ピザにおけるAI採用は驚くべきものがある。そう思われる理由のほとんどは、同社がAIを採用する可能性が最も低い企業のカテゴリーに入っているという事実に起因している。同社は1960年代に設立された多国籍非技術企業であり、合理化されたバリューチェーン(※訳註1)と市場での圧倒的な地位を保持している。読者諸氏はご承知と思われるが、このような特徴を持つ企業は、デジタル化に遅れをとっている傾向がある。

(※訳註1)バリューチェーンとは、企業活動における製品の原材料調達から販売にいたるまでの価値を生み出す一連の活動の連なりを指す。この言葉を提唱したマイケル・ポーターは、バリューチェーンにおける各活動に対して、競合他社との差別化や効率化を図ることで企業の競争力が増強されると説いた。

バリューチェーンを最適化している大企業にとって、AIの採用は大きな挑戦となり得る。というのも、プロセスを根本的に手直しする必要がある場合が多いからだ。そのため、AIソリューションを段階的に導入し、それぞれの活動に適したAI戦略を使用することが重要となる。

先日、AIのビジネス戦略についての記事を投稿した。まだ読んでいない読者はチェックしてみることをお勧めするが、再びAI戦略実行に関する概要を解説する。

AIは、自動化か拡張(automation:オーグメンテーション)のどちらかによって、あらゆる活動を改善できる。自動化とはある活動から人間を取り除くことであり、拡張とはある活動において人間に力を与える(empowering)ことである。自動化と拡張は、4つのAI戦略を分類する際の尺度となる。世界中のすべてのAIソリューションは、これら4つのAI戦略のうちの1つ以上に当てはまる。

  1. 自動化によって活動が最適化される効率化戦略(efficiency strategy)。
  2. 活動をシームレスにすることで、より簡単なコミュニケーションを可能にする有効化戦略(effectiveness strategy)。
  3. AIが意思決定をエンパワーするエキスパート戦略。
  4. AIが創造性を可能にするイノベーション戦略。

以上から分かるように、ドミノ・ピザはこれら4つのAI戦略のうち少なくとも3つを採用している。以下では同社が行った3つのAI実装を説明し、最後に全体像を見てみよう。

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自動運転車でピザを配達

タクシーやバス、トラックの運転手が自動運転車(self-driving car)の影響を受けることはよく知られているが、自律走行車(autonomous vehicles)は他の多くの業界にも影響を与えるだろう。ドミノ・ピザの場合は、ピザの配達方法に影響を与えるかも知れない。

以上のような事情からドミノ・ピザは、2019年に自動運転によるピザ配達のパイロットプログラム(※訳註2)を開始した。同社は自律走行車スタートアップのNuroと提携した。Nuroは、PINコードでロックされたドアを装備した電動自動運転車を提供した。PINコードはピザを注文した人だけに与えられるため、ピザ泥棒になろうとしても自分のものではないピザをつかめなかった。このプログラムはヒューストンで始まったが、ドミノ・ピザは今後数年で全面的に展開していく予定である。

(※訳註2)US版Tech Crunchが2019年6月に公開した記事(日本語翻訳記事もある)によると、ドミノ・ピザは上述のNuroと提携した自動運転配達プログラムに先立つ2017年にも、自動車メーカーのフォードと共同して同種のテストを実施していた。

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AIアシスタントによるピザの注文

読者諸氏はピザをどのようにして注文するだろうか。最近ではピッツェリアと連絡を取りたい場合は、かなり多くの選択肢がある。いくつか挙げるとすれば、以下のようになる。

  1. レストランに電話する。
  2. スマホに専用のフード宅配アプリをダウンロードして、そこから注文する。
  3. Webブラウザでフードデリバリーのウェブサイト(もしあれば、そのピッツェリア自身のウェブサイト)にアクセスする。
  4. 物理的にピッツェリアを訪問し、そこで注文する。
  5. AIを搭載したチャットボットを使う。

以上の5つの選択肢のうち、5番目のものは最近発明されたものだ。加えて、それは最速の選択肢でもある。

すでにダウンロードしている(FacebookやTwitterなどのような)アプリのいずれかを使って企業のチャットボットに「お気に入りを送って」のような一言のメッセージを送ったり、話しかけたりすることで、ピザを注文できる。ユーザは、追加のアプリをダウンロードしなくても、これまで以上に迅速に商品を注文できるのだ。いくつかのチャットボットでは、ユーザの住所やクレジットカードの詳細を記憶できるので、それらの詳細を提供する必要がない。

ドミノ・ピザのチャットボットがどこで使えるかは、おそらく読者諸氏は知っているだろう。実際、同社はピザ注文のためのAIチャットボットを提供している。驚くべきことに、事実上すべてのプラットフォーム向けにAI注文アシスタントを開発した。ユーザは、Google Home、Amazon Alexa、Slack、Twitter、Facebook Messenger、テキストメッセージ、スマートウォッチ、さらにはFord SyncやSamsung Smart TVを介してピザを注文できる(※訳註3)。AIが完全自律的に注文を受けるので、注文するときに人間と対話する必要がない。ユーザはお気に入りの注文を保存できるため、わずか2~3語を口にするだけで注文を完了できるのだ。

(※訳註3)アメリカにおけるドミノ・ピザの注文方法をまとめた公式サイトを見ると、上記の手段のほかにアプリを起動するだけで登録済みの注文が完了するアプリ「ZERO CLICK」も用意されている。

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エキスパートAIでピザの品質を確保

またドミノ・ピザは、AIを使ってシェフの能力を拡張することで一貫して優れたピザを調理するようにしている。顧客はトッピングが不揃いだったり、間違っていたりするために見栄えの悪いピザを写真に撮ってソーシャルメディアで共有していることに同社は気づいた。

こうした事態に対抗するために、DOM Pizza Checkerと呼ばれる機械学習AIの使用を開始した。このAIは、レストランのシェフが調理するすべてのピザの写真を撮影して分析し、さまざまな基準に基づいてピザを格付けする。例えば、DOM Pizza Checkerは、トッピングやチーズが均等に広がっているかどうか、選択した食材がピザの種類に合っているかどうかを調べている。

ピザが基準に達していない場合は、AIがシェフにリメイクを依頼する。満足のいくピザができあがった後、その写真が顧客に送られる。このようにして、ピザが到着したときには顧客が望まないサプライズがないことを保証している。

ドミノ・ピザは、AIの開発でDragontail Systemsとチームを組んだ。最初のバージョンの立ち上げには2年を要したが、現在では毎日スキャンしているピザの画像のすべてから学習して、自己改善している。

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ドミノ・ピザの3つのAI実装をAI戦略フレームワークに適用。

(※訳註4)この記事の著者Jacob Bergdahl氏がMediumに投稿した記事『人工知能を実装するにあたっての4つのビジネス戦略』によると、前述の4つのAI戦略を実行するにあたっては、その戦略が効力を発揮する活動を実行対象として選ぶべき、と説かれている。そうした4つのAI戦略に対応した活動は、データの複雑性と仕事の複雑性という2軸によって分析できる(下のグラフ参照)。この分析にしたがうと、AI戦略とそれを適用すべき活動の対応関係は、以下の表のようにまとめられる。

AI戦略と業務の対応表

活動の特徴

対応するAI戦略

処理するデータが単純で、仕事も単純 活動を自動化する効率化戦略(グラフ下段左)。
処理するデータは複雑だが、仕事は単純 活動をシームレス化する有効化戦略(グラフ上段左)
処理するデータは単純だが、仕事が複雑 活動における意思決定を支援するエキスパート戦略(グラフ下段右)
処理するデータが複雑で、仕事も複雑 人間とAIが協働して創造的活動を遂行するイノベーション戦略(グラフ上段右)


組織を横断するAI

以上の3つの異なるAIの応用事例は、そうした事例にそれぞれ対応したAI戦略を行動に移したものでもある。

効率化戦略:自動運転車でピザを配達することは、バリューチェーンにおけるひとつの活動を完全に自動化した事例である。

有効化戦略:AIアシスタントを使って注文を取ることで、活動をシームレスにする。この施策はコミュニケーションを効率化し、プロセスを自動化する。

エキスパート戦略:画像認識AIによるシェフの能力拡張。ピザを一枚一枚スキャンするAIは、専門知識を活用した完璧な事例だ。

ドミノ・ピザのバリューチェーンにおける3つの異なるプロセスは、3つの異なる戦略を実行する人工知能によって改善された。そうした改善は、バリューチェーンにおける活動をその目的に応じて最適化したものであった。

  1. 顧客がAIアシスタントを通じてピザを注文する。
  2. ピザは人間とAIの連携で調理される。
  3. ついには自律型AI駆動車で配達されるにいたった。

ドミノ・ピザは古いプロセスを完全に置き換えることなく、AIによる取り組みとそのトライアルを展開してきた。同社は、さまざまな地域における異なるビジネス活動にAIを採用しつつ、そうしたAI施策を企業全体で取り組んだ。そして、それぞれのビジネスプロセスに対して正しいAI戦略を選択したことで生じる価値を実現したのだ。

AIを実装するための優れたアプローチとは、まずバリューチェーンのプロセスを調べて、AIが特定の活動をどのように改善できるかを分析する。そして、活動ごとに順次AIを実装していくのだ。

60年の歴史を持つピザチェーンができるなら、読者諸氏にもできるはずだ。

・・・

読んでいただきありがとうございます!もしAI戦略に関するもっと詳しい事例紹介を探しているならば、世界における100の人工知能の実装実例を引用した私のAIに関する非技術的な本をチェックしてください。


原文
『The Pizza Chain That Became an AI Front-Runner』

著者
Jacob Bergdahl

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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