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2021.05.25

【第2回】AIアクションプラン策定委員会 レポート|日本におけるAIの技術課題・社会課題とは

最終更新日:

AIアクションプラン策定委員会とは?

現在、人工知能(AI)の技術開発は、米中を中心として世界的に積極的な研究開発投資が行われ、各国は最先端の技術力を得るべく進化を続けています。

日本もこうした時代の潮流に対応できるAI技術開発の体制構築が必要です。

また、米中と比べてビッグデータなどを通じたAI技術の利活用においても遅れを取っている感は否めません。

そこで、2021年1月よりNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、「人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン策定及び事業抽出のための調査」を開始しました。

そして、本調査を推進するAIアクションプラン策定員会が、2月から開催されています。

AIアクションプラン策定委員会では、有識者による委員会を組成し、海外の事例や国内外の制度政策をふまえて明確なアクションプランを検討します。

委員会は2021年2月〜2021年6月の間で全6回、以下のような流れで行われます。

第1回 委員の所信(あいさつ)、2016年版の「次世代人工知能技術社会実装ビジョン」を振り返りながら自由討議
第2回〜第3回 具体的にどんな技術課題、社会課題について議論するべきかを決める
第4回〜第5回 2〜3回でまとめた議論すべき点(開発の方向性や社会課題など)についての、具体的なアクションプランを検討する
第6回 4〜5回で策定したアクションプランを承認する

また、委員会は、以下の委員で構成されます。

  • アクションプラン策定委員会 委員長
    ・中島 秀之氏(札幌市立大学 学長)
  • アクションプラン策定委員会 委員(以下五十音順)
    ・稲見 昌彦氏(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)
    ・牛久 祥孝氏(株式会社Ridge-i 取締役 Chief Research Officer/オムロンサイニックエックス株式会社 Principal Investigator)
    ・川上 登福氏(株式会社経営共創基盤 共同経営者 マネージングディレクター)
    ・松尾 豊氏 (東京大学 教授)
    ・丸山 宏氏 (花王株式会社 エグゼクティブフェロー/東京大学 人工物工学研究センター 特任教授/株式会社Preferred Networks PFNフェロー)
    ・村川 正宏氏(産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 人工知能研究センター 副研究センター長 (兼務)人工知能研究戦略部 研究企画室長)

ASCII.jpとAINOWでは、国内のAIの利活用強化に向け、AIアクションプラン策定委員会のメディアパートナーとして発信を行なっていきます。

本記事では、2月26日に行われた第2回のAIアクションプラン策定委員会(人工知能技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン策定及び事業抽出のための調査)での議論を紹介していきます。

本委員会に参加した有識者による「人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン・シンポジウム」が6月15日(火)に開催されます。

第2回AIアクションプラン策定委員会の概要

AIアクションプラン策定委員会では、2021年2月に公益財団法人 未来工学研究所が調査した「国・機関が実施している科学技術による将来予測に関する調査」をベースに、20個の将来の社会的事象をリストアップし、それをもとに議論を進めていきます。

社会事象の部分には、それぞれ関連性の高いAI技術的キーワードを並べています。

第1回では、上記のような委員会の基本方針が議論・承認され、そして第2回AIアクションプラン策定委員会で、並べられたキーワードについて「本当にそのキーワードでいいのか」「他に必要なキーワードはないか」をテーマに議論していきました。

今回は、20ある社会事象の中でも特に議論のポイントとなった部分を4つ紹介します。

ヘルスケアによる健康期間の延長

ヘルスケア領域では、「AIが完全に判断して人間がそれを受容するモデルで良いのか」という話題が議論の焦点となりました。

例えば、今後AIが画像認識で患者の異常を発見した場合、「それが何の異常なのか」「どのように治療するべきか」などの判断をすべてAIに任せるかどうかの懸念点についてです。

これに関して、委員から

小さい主治医(AI)が常に患者をチェックして、なにか異常が起きたら大きい主治医(人間)にエスカレーションする形が良いのではないか

という意見が出ました。

同意見は、小さい主治医にかかるコストや時間、患者が長い時間モニタリングされることの苦痛などの問題が出るため対策が必要になります。

また、最終的な難しいところは「どこまで勝手にAIが判断するのか」ということです。

例えば、病人になにかしらの異常が出たとき(アラートがなったとき)、人間に持っていくのか、シムテムがそのまま治療を行っていくのかとは、議論すべき重要なポイントになります。

今、AIは省電力化、軽量化が進みエッジで処理する技術革新が進んでいますが、かかりつけ医と専門医はどんどんエッジAIとして実装されていくことが予想されます。

その際、エッジ側で取れる情報の進化と、AIの技術力と一般生活の中に入り込む技術の進化が重要になるでしょう。

さらに、別の委員から

エスカレーションしていった際には、カンファレンスのような形で、人間とAI(かかりつけ医)が合議制で決める形が良いのではないか

という意見が出ました。

「AIが患者の異常を医者に教え、それを踏まえて患者の処置方法を医者が判断する」という発想です。

この場合、AIは医者に患者の状態を言語化して説明する必要があります。つまり人間と話せる技術・意見の根拠を説明する技術(自然言語理解の技術開発)が必要になるということです。

また、AIにこちらの要求を伝えるときに必ず出てくる「フレーム問題(※1)」も解決しなければなりません。

フレーム問題を解決するには、「世界のデータをどれだけ取れているか」が鍵になります。

世界モデル(※2)に関して、委員からは「世界モデルを適切にモデル化できると言葉の意味をAIが程度把握できるかもしれない」「人間の欲求を理解するために、世界モデルの中に人間も入れなければならない」という意見が出ました。

ヘルスケア領域では、「エスカレーションのタイミング」「自然言語処理の精度」「フレーム問題の解決(世界モデルの研究)」など、解決しなければならない問題が山積みです。

※1 フレーム問題:限られたの情報処理能力しかないAI(ロボット)は、現実に起こりうる問題のすべてに対処できない問題のことで、AIにおける重要な難問の1つです。
※2 世界モデル:環境からの限られた情報を元に、環境のモデルを学習によって内部的に構築する枠組みのことです。世界モデルを用いることで、直接には観測できない、過去/未来・反実・観測不能な状態の挙動を把握できるようになり、目的に応じた行動選択の性能を高められます。

人間機能の拡張

人間機能の拡張では「AIも人間と同じように思考できるかどうか」という話題が、議論の焦点になりました。

原理的な話をすると、ニューラルネットワークは人間の脳がモデルとなっています。

仮に脳がモジュールでできているとしたら、「さまざまなモジュールを作って接続すれば、AIも人間のように思考できる」という仮説が生まれます。

ここでは、二階建て脳記号推論などと合わせて、議論が進みました。

二階建て脳に関して委員からは、

身体性のところはセンサー入力とデータの出力をつないで、世界モデルで予測しながらという感じだが、言語のところは任意のアルゴリズムが入り、学習べースでインストールされるため、基本的にさまざまな能力を持ちうるような感じになっている。

つまり、身体性と言語の両者で話がだいぶ違うことが、混乱の原因だと分かってきた。

GPTなど自己教師あり(学習)で大規模なニューラルネットワークで学習すると、さまざまなアルゴリズムが内包されているようで、これは言語の二階建て脳の部分に近づいている印象を受ける。

という意見が出ました。

この意見から分かるように、AIの思考を実現するには、二階建て脳の研究を進めていくことが重要になりそうです。

記号推論(処理)に関しては、

システム1(※3)は直感的な判断であるため、基本的に言語や記号処理はあまり関与しないが、システム2(※4)は、統計学や確率論が分かっているということを含めて、記号的な推論という風になっている。

そうだとすると、システム2の方は記号処理、あるいは推論的なことをやっていかなければならない。

という意見が出ました。

※3 システム1:直感的で速い思考モードのことです。自分の意識でコントロールしている感覚は一切なく、発想や連想することが得意で、一貫性や辻褄が合うことを好みます。
※4 システム2:論理的で遅い思考モードのことです。論理的、統計的な思考はシステム2でないとできません。普段は労力をほとんど使わない状態で待機しています。注意力を必要とし、気が散っているとうまく考えられません。

行動経済学でよく聞く「システム1」と「システム2」ですが、その2つをどのようにしてつなぐかが、今後の重要な技術課題になりそうです。

バーチャル空間

バーチャル空間の議論における、委員の意見として一致していたのは「バーチャル空間の実現は多くのニーズがある」ということです。

例えば、

  • 障害で五感が何か備わってない方
  • 人と直接会うには支障のある方
  • 究極の引きこもり状態になりたい若者
  • 理想の自分を作りたい方

など、多くの人にとってバーチャル空間(仮想世界)はポジティブな影響をもたらします。

バーチャル空間の実現に繋がる取り組みとして、「個人の思考が含まれたようなチャットボットの開発」が挙げられました。

このチャットボットは実際に開発が進んでいますが、将来精度が上がっていけば「バーチャル空間で勝手に誰かの思考を持つAI同士がつながって、気が合えば実際に人同士がつながる」ということが可能になるかもしれません。

また、バーチャル上に鮮明な人のデータ(振る舞いなど)を残せると、バーチャル空間の幅が広がります。

例えば、亡くなった人や芸能人など、現実では会えない人とのふれあいをリアルに体感できるようになるかもしれません。

さらに、エネルギーが無くなった未来や、感染症が今後も続いていった場合、バーチャル空間の需要はさらに増すことが考えられます。

そうなった場合、仮想空間上でさまざまなことができる技術が必要です。

例えば、クリエイティブな活動を仮想空間でできるようにサポートするAI技術や、人間の創造的欲求をサポートするような技術が必要になるでしょう。

他にも、

今の生活や自分をバーチャルに持っていくだけでなく、自分が望む理想の自分をバーチャル空間に作るということも需要はある

という意見がありました。

例えば、見た目や声などの身体的な部分や、「足が速い」「絵が書ける」などのスキル、生活空間なども自由に作ることができれば、バーチャル空間の需要はさらに増加するでしょう。

社会の質・価値観の変化(コロナ前後で必要とされる技術・イノベーション)

コロナ前後の変化に関して、まず委員から出たのは、

技術的にテレワークやオンライン〇〇などは昔からできたものだ。つまり、コロナ前後で技術が変わったのではなく、社会の価値観やニーズが変化しただけ

という意見です。

新型コロナウイルスの感染拡大により、社会変化は加速しています。

そこで重要になる技術として、社会の価値観の変化を定量化して可視化できる『価値観ネットワーク』が挙げられました。

もし「社会の価値観ニューラルネット」があれば、そこに自分の価値観を照らし合わせるだけで、自分の価値観が社会と合っているか分かるようになります。

現在は、投票などやマーケットリサーチなどの間接的な方法でしか価値観(社会の意見)を知る術がありません。しかもこの方法は、急な変化やリアルタイムへの対応は困難です。

例えば「ここだけは譲れない」という価値観ネットワークを作れば、認証なども作りやすくなるでしょう。

また、AIがエッジ側に入っていけば、AI間のコミュニケーションが行われるようになるという意見も出ました。

AI同士のコミュニケーションが可能になれば、AI同士で学習結果を共有(分散学習)できるようになり、それはシンギュラリティにもつながるでしょう。

まとめ

今回は、第2回AIアクションプラン策定委員会の中でも、特に議論のポイントとなった4つの話題

  • ヘルスケア
  • 人間機能の拡張
  • バーチャル空間
  • 社会の質・価値観の変化

についての会議内容を紹介してきました。

今後は、技術的な課題だけでなく法整備などを含め、社会にどう実装していくかが議論の鍵になりそうです。

次回は、今回出てきた新たなキーワードを深堀りしつつ、さらに別のキーワードがないか議論していきます。

▼第3回AIアクションプラン策定委員会のレポートはこちら


国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)は、「NEDO人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン・シンポジウム―日本が目指すべきAIの社会実装の方向性―」を下記のとおり開催します。

本シンポジウムでは、「人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン策定及び事業抽出のための調査」の成果を紹介するとともに、アクションプラン策定委員会の有識者委員と、日本が目指すべきAIの社会実装の方向性について議論します。

参加を希望する方は、こちらからお申し込みください。

NEDO人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン・シンポジウム―日本が目指すべきAIの社会実装の方向性―

◼開催概要

  • 日時:2021 年6月15日(火)9時30分 ~ 12時00分
  • 形式:オンライン開催
  • 主催:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
  • 運営委託先:株式会社角川アスキー総合研究所
  • 参加費:無料(事前登録制)

◼関連サイト

6月15日(火)に開催される『人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン・シンポジウム』の申込詳細はこちら

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