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2021.05.31

DXで変動するAI人材の役割|国内のDXを加速させる人材育成を目指すSIGNATE

最終更新日:

DXへの注目が高まり、データやデジタル技術の活用がさらに加速しています。一方で、DXを担える人材はまだまだ多くなく、早急かつ大規模な人材育成が求められています。

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このような中、注目される「AI人材」に対する需要や求められる役割はどのように変化しているのでしょうか。

今回は、データサイエンスコンペのプラットフォームを運営しながら、優秀なデータサイエンティストの育成に取り組む株式会社SIGNATEの代表取締役社長である齊藤秀氏に、DX時代にAI人材が担うべき役割とSIGNATEの取り組みについてインタビューしました。

DXが推進される環境下でのAI人材

ーーDXの取り組みが行われている中で、AI人材はどのような役割を担う必要があるとお考えですか。

齊藤氏:AI人材が担うべき役割は「実装」です。SIGNATEで取り組んでいる「SIGNATE Quest」でも実装のスキルが身につくようなプログラムを組み込んでいます。

DXにおいて業務効率化のみならず、ビジネスモデルの変革を狙う中、誰が手を動かすかと言われると、社内に担い手となる人材はなかなかいないのが実情です。この人材不足は長期的なスパンで見た時に、数十万規模で足りないと言われています。

また、実装ができるAI人材の中でも、テクニカルな部分だけではなく、ビジネスに活用できる人材が必要とされるでしょう。ビジネスサイドのステークホルダーとうまくコミュニケーションしながら、価値創出を実現していく必要があるので、AI人材やデータサイエンティストと言っても技術だけではなく、社会一般の基本的なスキルと応用力が求められます。

経済産業省の調べによると、現状のままIT人材の需要が増していく場合、2030年には約79万人のIT人材が不足すると予測されています。社内のDXを進めるためには、企業のビジネスモデルに関わる知識だけではなく、ITやAIに関しても精通した人材が必要になります。

ーーAI人材に求められる要件はデータサイエンスのスキルだけではなく、コミュニケーションや社内の調整力も含まれるように変化していきたということでしょうか。

齊藤氏:統計学や機械学習の技術は、今でも必要とされる技術的なスキルです。機械学習(ディープラーニングなど)領域はトレンドが変わりやすいので、情報のキャッチアップは必要であるものの、技術をマクロで捉えるとそこまで大きな変化は見られません。

ビジネスサイドのスキルでは、AI人材が、AIを構築するフェーズだけではなく、AIで解決できるビジネス課題を発掘して要件を設計したり、企画のフェーズから携わるというように、専門領域以外にも手を伸ばすことが重要になります。

ビジネスにデジタル技術やデータをどんどん活用しようという潮流になっているので、ビジネスサイドのスキルを求められるシーンも多くなると思います。

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ーーAI人材は、DXの取り組みの中で専門領域以外にも手を伸ばす必要があるということですね。

齊藤氏:そうですね。私は、技術サイドに関しては日本が海外に対して後れを取っているとは思いません。最近は論文の数も増えていますし、実際のコーディングや開発のレベルには差がないと思います。

私が危惧していることは、事業サイドの中でAI人材の能力を活用する土壌が整備されていないことです。DXの話にも繋がってくると思いますが、データを活用する事業モデルになっていないため、今後もAI活用の面では中国や北米に後れを取ることになります。

IT(Web)の分野ではAIを活用する機会がまだ比較的ありますが、そうではない産業における大企業や研究開発組織などでは、専門スキルを活かし切れていないAI人材も多くいるため、社会の受け皿が足りない状況だと言えます。

この状況を変えるためには、経営トップがDXに取り組み、AI人材が活躍する機会創出を待つだけでは足りません。現場の小さな課題に対して、ソリューションの開発や導入を進めるボトムアップ型で、実績を積んでいくことがDX成功への近道だと信じています。

もちろんトップダウンも否定はしませんが、社長が取り組むぞと声をあげても、それだけですぐに環境が変わるわけでもないので、ボトムアップ型を推奨しています。

次世代を支えるAI人材を育成するSIGNATE

AI人材としてのファーストキャリアでぶつかる障壁とは

ーー「SIGNATE」の参加者の方々の属性に変化はありますか。

齊藤氏:「SIGNATE」では、サービス内でのコンペティションの成績だけではなく、Kaggleなど他の活動も評価しています。おかげでさまざまなデータが溜まってきています。

参加者の分布を見てみると、SIGNATEのトップランカーにはKaggleのグランドマスターレベルも多数いますし、もちろん初心者の方々も多くいます。AIに興味がある人や、実務に近いタスクに挑戦したい方々が増えていますね。

ジュニア層のAI人材は、AIやデータサイエンスに関する知識はありますが、実際の仕事に取り組んだことがないという悩みを抱えています。この悩みは「鶏と卵」で、スキルがないと仕事の実践の場が得られないし、実践経験がないと本当のスキルが得られないという状況になっていて、AI人材として最初のキャリアを歩む上で、大きな壁になっています。

ーージュニア層の方々は、最初の仕事を獲得するのが大変ですよね。

齊藤氏:エンジニアのスクール界隈でも、「真面目に勉強してきました」と言っても、実践の経験がないから採用できないというケースを聞くことがあるのでとても残念です。

ですので、SIGNATEではできるだけ実務的なスキルにリンクするようなサービスにしています。「SIGNATE Quest」では、実際の企業の課題に取り組むこともできるので、即戦力と認められるような教育成果を出せるのではないかと思っています。

AIやDXに興味を持ち、この領域で社会にインパクトを与えたいと思っている人材がSIGNATE Questで活動することにより、企業から評価されて次の仕事につながるようなサービスにしていきたいです。

ーークライアントの反応に変化はありましたか。

齊藤氏:クライアントからは、大変ありがたいことに高い評価をいただいています。SIGNATEのクライアントとは、一緒に課題を解決していこうというスタンスで仕事に取り組んでいます。

大企業だと既存事業の制約があるため、知的好奇心で新しいことへのチャレンジが難しいケースが多いですよね。SIGNATEのサービスではオープンイノベーションを活用した刺激的なチャレンジができるので、その点も評価していただいているのかと思います。

また、SIGNATEのコンペティションという性質上、多くの人に影響を与えたり、参加を促したりなど企業が露出する機会も多くあるので、メディア的な効果もあるんですよね。

AIを学ぶ学生の増加と乱立するAI育成機関

ーーSIGNATE Questの学生の参加率に変化はありましたか。

齊藤氏:学生の数も増えてきています。全体の比率としては30%に満たないくらいですが、今後注力していきたい分野です。

学生を対象にした大会などを見ていても高い能力を持つ学生が多くいます。5年前、10年前は世界的に見てもデータサイエンティストはアラフォーが主戦力と言われていたんですが、最近は優秀な学生も育っていますね。

特にディープラーニングの分野では、論文やリポジトリの公開、手を動かす時間などあらゆる条件で学生の方が有利な状況です。

今は就職活動のスタイルも変化しつつあります。弊社としては、専門職に進みたい人材に対して新しいUXを提供したいので、これからは学生向けのサービスにも注力していきます。それに伴い、学生ユーザーがさらに増えてくれると嬉しいですね。

ーーアカデミア側の改革に取り組んでいる方々もいますが、なかなか難しいですよね。

齊藤氏:私も評価委員をさせていただいておりますが、文部科学省が推進する大学におけるデータサイエンス教育の改革も着々と進んでいます。また、私学においても武蔵野大学のデータサイエンス学部や日本大学の文理学部など、思い切った挑戦ができる大学の今後の変化に期待しています。

ただ、私がカンファレンスに参加した際、「自分の大学でAI人材を育成できるような機関ができたが、胡散臭い」と言っている学生がいました。昨今、AIやDXが流行しているため、そのような機関が乱立しているのかもしれません。

そのような機関はこれから選別されていくと思いますが、学生が勇気を出して専門的な領域に触れる時に、中身が伴っているかどうかが重要ですね。

ーー今後、大学とのコラボは考えられていますか。

齊藤氏:SIGNATEはコロナ禍に、SIGNATE Questや、Competitionを大学に無償で提供していました。新型コロナウイルスの感染拡大の第一波が見られた当初は、大学に登校できない期間が続いていたので、広島県のある大学では1,000名以上の1年生にサービスを利用していただけました。大学内での評価も高く、すでに教育効果が定量的に証明される段階まできました。現在は、大学向けのアカデミックライセンス販売も進めています。

今後はSIGNATE Questの強みである「PBL」をさらに活かしていきます。データサイエンス教育の難しさの1つに、リアルなテーマ・データを使った教材の設計があります。そのためには産業界との連携が必要になってきますが、大学側もうまく連携できずに悩んでいます。そこで、私たちがそのブリッジとしての役割を果たすことで、学生が学習する機会を増やしていきたいです。

PBL:Project Based Learning の略称で、自ら課題を設定してそれに対する解決策を考案、実行するという学習方法のことである。実行する過程で多くの知識を得ることができる。

SIGNATEの今後の展望

ーー今後の展望を教えてください。

齊藤氏:昨今の日本全体におけるDXの取り組みを見ると、DX人材だけではなく、事業も仕組みも足りていないように思います。

SIGNATEは、AI/DX人材を育成する事例として非常に手応えはありますが、会員数は約5万人ですので、まずはこの規模を大きくしていきたいです。日本のDXを推進するためには、国内のあらゆる産業の需要を受け止められるくらいの人材の規模が必要になるので、さまざまな分野のプロジェクトに関わり、育成を推進しようと思います。

今の状態が続くと、企業がDXに取り組みたいと言っても、供給が足りていないので、人材や仕事の奪い合いになってくるでしょう。そうなると、多くの機会損失を生むことになります。

そのような事態を防ぐために、1人で1社のプロジェクトではなく、1人で複数社のプロジェクトを担えるDX人材の育成を目指していきます。そのような人材を育成するためには、社会全体での取り組みが必要だと捉えているので、アカデミアや国、自治体との向き合い方が大切になると思っていますし、課題解決に向けて私たちの知見を提供していきたいです。

さいごに

数年前に新しく認知された「AI人材」は、今や社会のDXを担う重要なポジションとして再注目されています。今まで特定の領域で実務を経験されている方は、もう少し背伸びをして業務範囲を広げることで、新しいプロジェクトに参画できるチャンスを得ることができるでしょう。企業に対して大きなインパクトを与えられるチャンスを逃さずに、挑戦してみてはいかがでしょうか。

SIGNATEは今後、国内のDXを加速させるためにサービスの規模の拡大に取り組んでいきます。次世代を担う学生がどのような成果を出すのか、その影響はどこまで波及するのか、今後のSIGNATEの動きに注目が集まります。

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