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2021.06.14

【JSAI×RSJ】 両学会の学際的な関わりの重要性とは -第5回 人工知能学会誌コラボ

人工知能学会が刊行する学会誌『人工知能』2021年5月号が、5月1日に発刊されました。

人工知能』は編集委員がテーマを決め、AIに関連する有識者が記事を持ち寄って掲載している学会誌で、2ヶ月に1回発行されます。私たちに身近な分野や話題のAI研究などが扱われていて、AIの現状の課題や最新のAI情報を得ることができる、30年以上の歴史がある学会誌です。AINOWでは各号の特集内容を、研究者の方々へのインタビューを通して紹介しています。

前回の学会誌紹介記事はこちらから▼

今回は、「アーティクル 人工知能学会(JSAI)×日本ロボット学会(RSJ)連携企画(両会長対談)」の記事執筆を担当したJSAIとRSJの学生編集委員の3名にインタビューしました。

このJSAI×RSJ連携企画は、JSAI会長・野田 五十樹 氏とRSJ会長(当時)・浅田 稔 氏が2020年11月に行われた対談を様子を伝えるレポートとなっています。

また、JSAI・RSJ学生編集委員会合同企画となっており、RSJ学生編集委員が執筆した記事をJSAI学会誌に、JSAI学生編集委員が執筆した記事をRSJ学会誌にクロスして掲載されています。記事のまとめ方の違いから、両学生編集委員会の観点の相違点や共通点が見られる企画になっています。

ロボットはAIの実践的な活用において重要な役割を果たしており、従来の製造業向けの産業用ロボットだけでなく社会的課題を解決するための様々な分野のロボットも開発が進んでいます。一方でこれまで多くの研究では、AI分野とロボット分野は離れたところに位置付けられ、融合した研究が進められてきていませんでした。

AIとロボットの両分野は今後どのように研究が進められていくのでしょうか。学生として大学の研究会に所属し、幅広い研究しているJSAI学生編集委員の松嶋さん、RSJ学生編集委員の宮本さん、小島さんに伺いました。

上段左:宮本さん、中段左:松嶋さん、中段右:小島さん

JSAI学生編集委員 松嶋 達也 さん

1996年神奈川県生まれ.東京大学大学院工学系研究科博士課程在学中.人間と共生できるような適応的なロボットの開発や,生命性や知能を構成的に理解することに関心がある.現在はロボット学習の研究を行う.

RSJ学生編集委員 宮本 拓 さん
1993年大阪府生まれ.2017 年大阪大学基礎工学部電子物理化学科卒業.2019年同大学院情報科学研究科博士前期課程修了,修士(情報科学).現在,同研究科博士後期課程在学中.2020年日本学術振興会(DC2)に採択.研究分野はヒューマンインタフェースおよび人間拡張,バーチャルリアリティ.学部生のときには半導体に関する研究を行っていたが,人間とロボットの関係に興味をもち,現在は身体拡張インタフェースに対する身体感覚の生起に関する研究を行っている.

RSJ学生編集委員 小島 もも さん
1999年兵庫県生まれ.2018 年大阪大学工学部応用理工学科入学,現在も在学中.人間とコミュニケーションロボットの関係やドローン,認知発達に興味がある.学部では、モノづくりにおける付加価値を生み出すファクターとサステイナブルな製品設計について研究している

AI研究とロボット研究の”距離感”

理論寄りのAI研究、実装寄りのロボット研究

ーー今回の両会長の対談を聞いてどのような感想を持ちましたか。

小島さん(RSJ)

対談を聞いて感じたのは、両学会の研究内容は思っていたよりも離れているということです。会長のお二人がそれぞれ話し合っている中で、AIはAIの研究、ロボットはロボットの研究と独立しているものが多いという話がありました。

たしかに、両分野の融合している論文としてまだ数が少ないと感じていますし、融合が進めば 実世界でも役立つおもしろいロボットが生まれるのではないかと思っています。

ーーロボット学習の研究分野で学んでいらっしゃる松嶋さんはこの両分野の違いをどのように考えていらっしゃいますか。また対談を聞かれてどう感じていらっしゃいますか。

松嶋さん(JSAI)

研究スタイルがかなり違うと思っています。AI研究では最近、「ベンチマークが重要だ」という考えの下で研究が進んでいて、ある条件下でベンチマークのゲームを解いているような風潮が強い気がしています。

一方で、ロボットは動いていることがすごく大事なので、研究者の考え方自体が違うこともありますが、両会長はそれをどっちも大事だとおっしゃっていてお互いの研究分野に対して理解があるように感じました。

ーーAIは実世界で動き出すことが必要条件ではない一方、ロボットの方が実装よりですよね。両分野が一種遠いと思われるのはそういうところにあるのかもしれませんね。

AIマップにおけるロボット分野との関係性

ーー両会長の対談の中ではJSAIがAI分野のさまざまな研究テーマをマッピングした「AIマップβ」の話がでてきています。マップの中でのAIとロボットの関係性についてどのようにお考えですか。

松嶋さん(JSAI)

AIマップの中でロボットの領域は端にちょこっとだけなんですよね。(笑)なので、他の学会がこういうのを作ったらどういうマップになるんだろうと考えました。AI研究が専門でない人がまとまるとまた違ってくると思いますね。

宮本さん(RSJ)

僕はAIマップの真ん中が空いているという2人のお話が一番面白かったです。浅田先生が「中央が空いてるのは当たり前なのではないか」とお話しされていたことにとても共感しました。 

AIっていうのは知能の研究であり、知能はどこから生まれるのかというと人の身体です。つまり、人間の身体があるから人間の持ってる知能が生まれて街のデザインだったり私たちが持つ道具のデザインに反映されているという話が興味深かったですね。

ーーおもしろいですね。ロボットというインターフェースがないと知能は成り立たないという三宅 陽一郎先生がよくおっしゃっているお話と通じますね。ロボットの研究とAIの研究を融合して循環するように進めていくことが大切なんでしょうか。

宮本さん(RSJ)

そうだと思います。人間をベースに作っている知能って、より人間と同じような環境で研究していかないと”真ん中を埋める”っていうことはできないと思います。

AIマップβ 2.0マップD「AI研究は多様フロンティアは広大」(©人工知能学会 AIマップタスクフォース,Licensed under CC-BY 4.0)

▼「AIマップβ」に関するインタビュー記事

ロボット研究の可能性

ーーロボット研究のトレンドや研究される中での発見がありましたらお聞かせください。

宮本さん(RSJ)

実は僕はロボットと人間の融合を研究する分野が専攻で、ロボット研究を人間の視点から見ている人間です。(笑)
例えばロボットアームで言うと、人間の手を再現しようとしているので自由度がとても高いです。ですが、「せっかくロボットなんだからロボットしかできない動きをさせたい」という風に思うのが僕の考えです。ロボットしかできない動きをするロボットアームが実現できたらそれを人間に実装させることで、人ができることが広がるのではないかと思います。

ーーなるほど。それができたら人の知能のあり方も変わってくるような気がしますね。松嶋さんはロボットがこうなってほしいというようなお考えはありますか。

松嶋さん(JSAI)

ロボットアームは工業用によく使われていてさまざまな形状のものがあると思いますが、それでもあれは、本来考えうるロボットとしてはかなり特殊だと思っていて、関節が硬いんです。関節も硬いと手先の動きなどを幾何的に作れるので制御はしやすいです。

ですが、実社会とインタラクションする時には「硬い」という特徴は不利なことが多いんです。
物体を掴むには正しい姿勢からでないとうまくロボットの手になじんでくれないというのがあり、ハードウェアの制約で制御がしにくいということも起こっています。ソフトロボティクスというものが流行ってますが、ああいう柔らかい変形を利用してしっかり制御できるというのも大事だと思っています。

ーー小島さんはいかがでしょう。

小島さん(RSJ)

使用した機械をそのまま廃棄するのではなくて、新しく何かを作るというような事を考えたりしています。新しい材料を未使用な状態から使用しているのが今までのロボットでしたが、あえてリサイクルされた材料を使った制御することをも考えていくと面白いことができるのではないかと思います。

学生編集委員の活動

ーー学生編集委員とはどういった組織でどのような活動をしているのでしょうか。

松嶋さん(JSAI)

JSAIの学生編集委員は主に、学生委員に与えられている学会誌のページに企画を考えて載せています。学生の目線から読んでも興味を持ちそうなことや、私たちもまとめていて楽しいと思うようなことを書き、掲載するということをしています。
これまでは専門家の方にインタビューをすることが多かったです。最近は企画らしくいろんな視点から情報を集め、幅広い人たちにインタビューして、それからテーマを決めてまとめていくということもしています。

宮本さん(RSJ)

RSJの学生編集委員会は設置されたのが2年前なので、やることが明確に決まっているわけではありませんが、JSAIのように学会誌に記事を載せることを主に行っています。
例えば今回のようなRSJ、JSAIの学生同士の企画は今までなかったのでこうした新しい取り組みも今後やっていきたいと思っています。

企画に込めた想い

ーー今回の合同企画の記事はどんな人に読んでもらいたいですか。

小島さん(RSJ)

両学会の人に読んでほしいですね。学生編集委員として今回のクロス掲載以外で企画を考えているので、それに関しては高校や大学の学部生にも興味を持って読んでいただければ嬉しいです。

松嶋さん(JSAI)

人工知能学会の人に向けて、ロボットと実世界の制御や知能を考えるきっかけになればと思います。それから、今回せっかくこういう企画をしたので、今後両学会の学生編集委員で高校生とか学部生を惹きつけるような企画を行っていくきっかけにしたいです。

JSAIはWebメディアがあまりはないんですが、RSJは「ロボ學」というサイトがあって高校生を惹きつけるような内容の記事をたくさん出しています。そういうことをJSAIでもやっていきたいですね。

宮本さん(RSJ)

AIの研究とロボットの研究は学際的(学問分野をまたがって関わる研究)な分野に近いと思います。なので、分野を超えて研究に関わっている方たちに幅広く読んでほしいです。

対談の中でも両会長がおっしゃってましたが、今後JSAIとRSJが一緒になる未来があってもいいと思うんです。そうした横断的な関わりの必要性を感じる記事になっています。

ーーAI研究とロボット研究はお互いの関係性を理解していくことが非常に重要ですね。本日はありがとうございました!

人工知能学会 学会誌 『人工知能』 2021年5月号

2021年5月号では今回紹介した「アーティクル 人工知能学会(JSAI)×ロボット学会(RSJ)連携企画(両会長対談)」 の他に、

  • 特集「ファイナンスにおける人工知能応用」
  • 特集「編集委員からの抱負と提言2021」
  • レクチャーシリーズ「AI哲学マップ」(2)

などが取り上げられています。

金融と情報技術の融合であるフィンテック(FinTech)ブームに見られるようにファイナンス分野のAI活用が現在進展しており、特集「ファイナンスにおける人工知能応用」も注目の内容です。

機械学習やテキストマイニング、投資判断に使われるオルタナティブデータを活用した市場予測や緻密なシュミレーションなど、その技術は非常に高度化してきています。これらの最新研究や資産運用ビジネスにおけるAIの可能性について掲載されています。

人工知能』編集委員長である清田氏に5月号に込めた思いをコメントしていただきました。

清田氏:JSAI・RSJ両会長の対談でも語られているように、学会に求められる役割は大きく変化していて、学会もそれに合わせて自らの在り方を変えていくことが求められています。学会の在り方に正解というものはなく、会員の方々が自由に活動できるよう、どのようなサポートが効果的かを試行錯誤していく必要があります。

5月号では、学会の在り方について皆さまに考えていただくきっかけとするため、エッセイ特集「編集委員からの抱負と提言2021」を4年ぶりに企画しました。査読のやり方、和文論文誌の必要性など、さまざまな視点から24編の記事が寄せられ、SNSなどで大きな反響をいただいています。いただいたご意見を踏まえ、学会誌や論文誌の変革に生かしてまいりたいと思います。

特集「ファイナンスにおける人工知能応用」では、この10年間で大きな変化を遂げた金融分野での最先端の取り組みが紹介されています。人工知能学会では、2008年に金融情報学研究会(SIG-FIN)が設立され、活発な研究活動が行われています。ご関心をお持ちの方、ぜひ参加をご検討ください。

レクチャーシリーズ「AI哲学マップ」第2回は、北大CHAINの田口茂先生(哲学者)、沖縄先端大の谷淳先生(ニューラルネット研究者)のお二人を迎え、科学と哲学の交差点に生まれる新たな価値を語っていただきました。北海道・沖縄・東京の3拠点を結ぶオンライン対談は、コロナ禍下だからこそ実現できたように思います。次回以降も知的好奇心を満たす内容をお届けしますので、引き続きご期待ください。

人工知能学会の個人会員であればこちらから無料で閲覧可能です。▼(非会員でも一部無料で閲覧できます。)

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おわりに

ロボットは現在、製造業や建設現場、家の中など様々な場所で活躍しています。ロボットに搭載されるAIが今後さらに高度化していくことで、あらゆる業界や私たちの生活が変化していくでしょう。

また、こうした機械やロボットに目的を与えるのは常に人間です。与えられた目的に応じてロボットが動き、人ではできないことを実現したりサポートします。このように人とロボット、そしてAIの役割や強みを理解して互いを生かす技術が発展していくことは、これからの社会において重要です。

今回の合同インタビューを通して、ロボットとAIは今後研究が進められていく中で切り離せない分野であることを実感しました。今回のコラボ企画をきっかけに両学会の知識の共有や共同研究が進めば、さらなる発見や日常を変えるようなロボットの誕生につながるかもしれません。

人工知能』2021年5月号、ぜひ手に取ってお読みください。

過去の学会誌はこちら▼

人工知能学会に関して詳しくはこちら▼

 

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