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データサイエンティストは「21世紀で最もセクシーな仕事」と言われて久しいですが、現実には新しい職場を熱心に探している職種であることがアンケート調査で判明しています。離職したいと考えているデータサイエンティストが少なくないのは、仕事を辞めてしまいたくなる状況にしばしば陥るからです。
Sroka氏によると、データサイエンティストが仕事を辞めたくなるのは、以下のような3つの状況に陥った時です。
- 理想と現実のギャップ:データサイエンティストの仕事とはSNS等で語られているようなクールなものはほんの一部に過ぎず、実際には非技術的で退屈な業務に多くの時間が割かれてしまう。こうしたギャップを小さくするには、面接段階で現場の体制を確認するのが有効策となる。
- 社内政治による挫折:データサイエンスをよく理解していない経営陣による社会政治のせいで、データサイエンスチームが台無しになってしまう。こうした状況を解決するには、経営陣と良好な関係を築いたうえで改善策を訴える。経営陣に認めてもらうためには、彼らが抱える雑務を自動化してあげるとよい。
- 何でも屋への転化:「データサイエンティストとは何でも解決する何でも屋」と思い込んでいる上司や同僚から、データサイエンスとはあまり関係のない仕事を頼まれてしまう。こんな時は、上司に適切な役割分担をしてもらうように相談しよう。
以上のようにデータサイエンティストが陥りがちな苦境をまとめたうえで、この職業で成功するには過度な期待を抱かずに職場を多少なりとも改善する労力を惜しまないこと、とSroka氏は述べています。
なお、以下の記事本文はAdam Sroka氏に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。また、翻訳記事の内容は同氏の見解であり、特定の国や地域ならび組織や団体を代表するものではなく、翻訳者およびAINOW編集部の主義主張を表明したものでもありません。
21世紀の最もセクシーな仕事が魅力を失った理由を考察する
夢の仕事?
データサイエンスがキャリアとしていかに人気があるかは、よく耳にする。データサイエンスが「21世紀で最もセクシーな仕事」であるとか、経験年数を重ねるごとにより高い給料が期待できるといった記事もよく目にする。
データサイエンスには多くの魅力がある。やりがいのある仕事で、学ぶことが多く、飽きることがない。他の多くの職種と比較してデータサイエンティストには、興味深い問題を探求し解決するための多くの自主性が与えられる。また、多くの場合、さまざまな分野の才能あるヴェテランと一緒に仕事をする機会を得られる。
にもかかわらず、Kaggleの調査によると、多くのデータサイエンティストが週に数時間を費やして新しい仕事を探している。実際、機械学習に携わる人たちは、新しい仕事を探している開発者のリストの上位に常にランクインしており、Stack Overflowが行った2020年の開発者調査(※訳註1)では20.5%と、学術研究者に次いで2番目に多かった。
データサイエンスが夢のような仕事であるならば、以上の調査結果には疑問が生じてしまう..。
なぜ、多くのデータサイエンティストが別の仕事を探しているのか。
データサイエンティストである私も別の仕事を探す経験をしているで、私の経験をシェアすることでこの状況を少しでも改善することを願って記事を書こうと思う。
私は、数年間データサイエンティストとして活躍した後、スタートアップ企業のディレクターに昇進した。現在は、より管理的・指導的な役割を担っている。データサイエンティストとしての経験とデータサイエンティストのチーム(さらには幅広い職種の開発者やデータチーム)を管理してきた経験から、私はどちらの立場からもユニークな視点を持っている。
私もデータサイエンティストとして働いていた時代、離職したいと思ってしまうほどの痛みを感じていた。主にスタートアップ企業で働いていたが、キャリアの初期に何度か船を乗り換えた。その理由はいくつかの要素が組み合わさったものだったが、他の企業でも耳にしたことのある要素が多く含まれていた。
この記事では、データサイエンティストが離職したいと思うより一般的な理由と、その状況を改善するためのアドバイスをご紹介したい。このアドバイスは以下のような人に役立つ。
- 現在不満があり、離職するかどうか迷っているデータサイエンティスト
- 優秀なデータサイエンスの人材を確保できない経営者や組織
- あまり知らない役割に踏み込もうと考えている意欲的なプロフェッショナル(これらのうちのどれかがあなたに対して赤信号のように灯っていれば、その状況は大きな投資につながる)
最初に断っておくが、私は今でもデータサイエンスという仕事が大好きである。データサイエンスは、それを最大限に活用する方法を知っていれば、非常にやりがいのある仕事になる。
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現実と期待の違い
最先端のテクノロジーを駆使して、難しい問題を面白い方法で解決し、新しいアルゴリズムを使用して、組織に大きな影響を与える機械学習ソリューションを開発する – そんなことを可能とするデータサイエンスは素晴らしい。
しかし、以上のような事態は多くの場合、真実よりも良すぎている。
私は実際にデータサイエンスを経験し、業界の多くの人からも話を聞きたが、現実と期待が一致しないことがあまりにも多い。この不一致が、データサイエンティストが挫折して辞めてしまう一番の理由だと言ってもいいだろう。
さて、このような状況になる理由はいろいろある。データサイエンスには両面性があることも忘れてはならない。
現実離れした期待
キャリアの浅いデータサイエンティストの多くは、実際の組織で働いた経験がない。ソーシャルメディアが他人の生活を非現実的に映し出すのと同じように、データサイエンスに関する刺激的な話ばかりに接して、それが普通だと思い込んでしまいがちだ。
以上のような誤解は、大学を卒業したばかりの人や学界の研究職からデータサイエンス業界に参入した人によく見られる。彼らは、タイムスケールは無制限であり予算も無限にあるという考え方に陥りやすいのだ。仕事の終了時期に関するタイムラインを作ることなどできないが、仕事には必要なだけ時間がかかる、と言ってデータサイエンティストが抗議するのを私はよく耳にしてきた。こうした不満は真実に即していないし、多くの組織の文化にも適合しない。
(データサイエンスの仕事で必要なのは)達成しようとしていることの範囲を固定し、それに合わせてタイムスケールを変えるか、タイムスケールを固定して解決する範囲を変えるか、そのどちらかなのだ。
もう1つの大きな要因は、仕事の大部分はそれほど刺激的ではないと痛感することだ。ほとんどの組織では、技術的な仕事と、それ以外のあまり面白くない仕事とのあいだで時間をやりくりしなければならない。報告書の作成やプレゼンテーションの実施、モデルやアプローチの基本的な説明の繰り返し、プロジェクト管理や事務的な作業、組織内の他の部署からの賛同を得ることなどが苦手な場合、これらは厄介ごとになる(※訳註2)。
厳しい現実
また、あると期待していたインフラやデータ処理のほとんどがないこともよくある。
私は以前、あるスタートアップ企業で二番手のデータサイエンティストとして働いていた。(私より先輩の)入社して1年半の同僚たちは、業務時間を基礎的なデータパイプラインの構築に費やしていた。私にとって幸運だったのは、彼らが関係者を説得して予算を承認させたり、新しいクラウド技術の導入に伴うセキュリティやITの悩みを解決したり、セキュリティやITがどんな意味を持っているのを何千回も説明したりして、あらゆる苦痛を私に代わってやってくれたことだ。
データサイエンティストは、場合によっては、アバウトな要求にもうまく対応して物事を進められる賢い技術者として使われることもあるだろう。こんな時は、データサイエンスができるかどうかは二の次になるかも知れないのが実情だ。
こうした問題は、チーム内に経験豊富なデータサイエンティストがいなかったり、組織のマネジメント層にデータサイエンティストのマネジメント経験がなかったりすると、さらに悪化する。もしあなたが社内唯一のデータサイエンティストであれば、自分の主張に共鳴してもらえるように伝えるのは難しいだろう。
以上のような孤立無援な状況がしばしば不幸な職場環境を生み出して、データサイエンティストの期待が裏切られることになる。
データサイエンティストとして入社すると、スマートなモデルを構築し、データからできるだけ多くの価値を引き出すことが目的だと考えてしまうかも知れない。だが最初の数ヶ月は、データを取得するために必要なインフラやパイプラインを構築しなければならないので、大変な思いをすることになる。
会社のシニアステークホルダーには、結果が出ないまま多くの時間が過ぎていくように感じられる。しかし実際には、彼らは定例の取締役会のために簡単なチャートを作成するだけで満足してしまう。それから、高価なリソースがすぐには価値を生まないことに気付き始める。
データサイエンティストとマネジメント層のあいだにある思惑の断絶は、結果的に双方の不満となる。
機会があれば、以上のような断絶の火種となる得る以下の点について面接の段階で質問してみよう。
- 組織の最上級レベルでデータサイエンスに取り組んでいるのは誰か。
- マネジメント層はデータサイエンスの経験があるのか、それとも誇大広告を見てデータサイエンティストを採用しているのか。
- データチームには他に何人いるのか。
- データエンジニア/アナリスト/DevOpsエンジニアがいるのか、それともすべて一人でやることを期待されているのか。
ともあれ、期待と現実のギャップは悲観的なことのように思われるかも知れないが、そうでもない。多くの組織ではこのギャップは小さいので、過度に期待はしないで、適切な支援があって成功がお膳立てされているようなポジションに着任することが重要なのだ。
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素晴らしき政治の世界
オフィスでの政治。これは困った。
私は、優れたマネジメント力のある有能なチームが、政治的な理由で完全にやせ細り、衰退し、死んでしまうという話を何度も聞いてきた。データサイエンスに熱心な組織内で唯一のシニアリーダーが追い出され、彼が率いていたチームがスキルを生かせない平凡な仕事にすぐに再利用されてしまうという話も直接聞いたことがある。
残念ながら、多くのキャリアに政治はつきものだ。とは言え、いわば「ゲームをする」必要はない。データサイエンティストには希少で需要のあるスキルセットがあるのだから、いつでも他の場所に行ける。
「離脱、発言、忠誠、無視」(※訳註3)という意思決定モデルに馴染みがなければ、ぜひ一読をおすすめする。これは、アルバート・ハーシュマンの研究から生まれたもので、個人が受け入れられない状況にどのように対応するかを示す抽象的なモデルを説明したものだ。1970年に出版されたこの本は、長らく議論され、拡張されてきた(※訳註4)。
仕事がうまくいかないとき、対応策は4つの選択肢に要約できる。
- 離脱 – その仕事を辞めて別の仕事を探す。離脱した会社では問題が継続し、離職者のスキルや経験が失われるため、さらに悪い状態になる。
- 忍耐 – その場はしのいで、良くなるかどうかを確かめる。堪忍袋の緒が切れる前に事態が好転しなければ、やがて他の選択肢のいずれかにつながることが多い。
- 怠慢 – 起こっていることに反発して責任を怠り、その結果、しばらくの間、閑職に置かれるか、あるいは解雇されてしまう。
- 発言 – 立ち上がって、変化を起こそうとする。
4つの選択肢のうち、積極的に物事を改善しようとするのは「発言」だけだ。この場合、それは職場の政治的な問題の解決を意味する。
多くの場合、組織内の政治的状況は、自分の職務上の等級をはるかに超えているように思えるかも知れない。このような状況では、大幅な予算削減や大規模な変革に影響を与えることなどできないと感じ、非常に居心地が悪くなることがある。こうした時こそ自分の選択肢を検討する良い機会なのだが、きちんとした文章でリーダーである誰かにメッセージを送れば、実際に真の変化をもたらすきっかけとなるかも知れない。
もしあなたが意思決定者とすぐ接触できる小さな組織にいるのなら、彼らと関係を築くことを強くすすめる。多くの人が考えているのとは逆に、一般的に人間は組織とそこにいる人々のために正しいことをしたいと思っているものだ。本当に悪人で(組織を良くしようとする)あなたを苦しめようとする人間を雇う会社はめったにない。
多くの場合、シニアステークホルダーは、データサイエンスチームのニーズを理解する機会に恵まれていないかも知れない。時間をかけて、あなたがどのように価値を付加できるかを示し、彼らと強い関係を築ければ、あなたのスキルから最大限の価値を引き出せるだろう。また、マネジメント層との良好な関係があれば、最高の職位にいる彼らが考えるビジネスの真の関心事が何であるかをよりよく理解するのに役立つことだろう。
キャリアの浅いデータサイエンティストを対象とした講演で、私は冗談めかして「転職したらできるだけ早い段階で、CFOやファイナンスディレクターのワークフローの一部を自動化しましょう」とアドバイスしている。そうすれば、予算担当者に自分の価値を直接示すことができ、味方を作れるからだ。この話は半分冗談だが、正直なところ、彼らは企業の中でも最も多忙で、エクセル地獄に陥っていることが多い。
ビジネスに影響力を持つ人々が、あなたに良い評価を下すように仕向けなければならない。彼らの多くは、あなたがアルゴリズムや統計についてどれだけ知っていようと、少しも気にかけない。あなたが彼らのためにありふれた仕事や基本的なデータ検索、自動化、レポート作成などを行えば、好感を持ってもらえるだろう。これらを笑顔でこなして高い評価を得られれば、長い目で見れば状況は好転するだろう。
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データサイエンス == データエブリシング
社内政治をうまく切り抜けられると、良い評価を得られる可能性が高い。しかし、高評価は諸刃の剣でもある。
多くの人は、データサイエンティストが何を意味しているのかを理解していない(または気にしていない)だろう。前述のように、あなたは何かを成し遂げられる賢い技術者だと思われている。すべてのデータにアクセスし、幅広い技術的ツールで武装していれば、問題を解決する頼りになる人にすぐになれるだろう。
もしあなたがさまざまな問題をそつなく解決できれば、それは素晴らしいことだ。しかし、周りの人々があなたを頼り始めてプレッシャーをかけてくるようになると、そんな状況が重荷となって居心地が悪くなる。気がつけば、新米データベース管理者がやるべき仕事に、業務時間の80%を費やしているかも知れない。
私はよく企業経営陣に、データサイエンティストは何でもできるが、たいていは他の人よりも仕事が遅くコストもかかる、と話している。そして、どんな仕事もストレスになるものだ。
幅広いスキルセットと緩やかに定義された役割を担うことは楽しいことだが、組織が気づいていないからといって、他の職種のほうが適している仕事を担当してしまうという罠に陥ってはならない。そんな罠に陥った時は上級のステークホルダーに連絡を取り、あなたが本当にしたい仕事から遠ざかっていて、今している仕事を喜んでするデータベース管理者またはBI担当者を雇うように助けを求めよう。
データサイエンティスト本来の仕事をできるようにするのは、孤立の問題を解決するのにも役立つ。少人数のデータサイエンティストから成る他の部署から孤立したチームに所属している場合、データ全般に関する専門知識を持っているがゆえに孤立してしまうことがある。データがあなたの専門領域になってしまい、人々はデータの管理・利用者であることを止めてしまう。データが原因で孤立してしまった時には、組織の構造を改善してデータの役割を拡大すれば、あなたはより広いチームに統合されてよい結果が得られるだろう。
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最後に
残念ながら、最新のツールやアルゴリズムをすべて知っているだけでは、大半のデータサイエンスの仕事から最大限の成果を得られない。ある程度の期待を抱いつつ、組織を多少なりとも教育する必要があることを理解したうえで入社すれば、成功する可能性は高いだろう。
この記事が、データサイエンティスト、データサイエンティストを雇用している企業、またはデータサイエンスに参入しようとしている人の役に立てば幸いです。
また、アドバイスが必要な場合は、お気軽にご連絡ください。
さらに読む
以下の記事は、Robert Chang(※訳註5)による新米データサイエンティストのための素晴らしい記事です。
また、Samson Hu(※訳註6)による以下の連載記事は、分析チームの構築に関する経験談を聞きたい方には一読の価値があります。
Elizabeth Dawberに感謝の意を表する。
原文
『Why So Many Data Scientists Quit Good Jobs at Great Companies』
著者
Adam Sroka
翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)
編集
おざけん